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11話

 ある日、『そろそろ良いでしょう。セイ、冒険者ギルド迄行って指名依頼を受けてきなさい』、とお告げが下る。承知、とだけ答えてギルドへ向かう。突然の神託にももう慣れたものだ。

 頬杖をついていた体を瞬時に起こし、孤児院の方へと方へと向かう。

「マチルダ、神託があったからギルドに行ってくる。留守を頼む」

 お茶を飲みながら寛いで居る所で悪いが、神殿を無人には出来ない。

「分かりました。御武運を」

「ああ、ありがとう」


 都市の中心部近くにある|ジルタル(迷宮都市)のギルドへと向かう。

ギルドが近づいて行くと、扉の向こうから怒号が飛び交っている事に気がついた。

 これは只事ではないと思いながら扉を開けてギルドに入る。

 すると、一歩踏み出す度に、波紋が広がる様にそして水を打ったように静かになっていく。

 これは確実に大事だな、と内心で思う。

 カウンターへと歩いていくと人波が分かれる様に左右に避けてくれる。

「神託があっって来たんですが、何事ですか?」

 開口一番にそう訊ねた。

「は、はい。実は、この都市に千人規模の盗賊が向かていることが分かりまして。ランクC以上の皆さんには指名依頼として依頼を出しています。セイさんはランクSですので、是が非でも参加していただきたく、人を派遣しようとしていた所でした」

 成程。盗賊千人か、それは大事だな。

「その情報は精確ですか? 間違い無いのですか?」

 一応聞いておくことにした。確度の低い情報ではなさそうだが。

「ギルド子飼いの召喚魔法使いやテイマーたちからの情報です。北東から真っ直ぐに進行してきており、猶予は残り僅か、少なくともあと3日程度しか無いとの報告です」

「3日か・・・・・・短いな。飛竜隊も間に合うかどうか、って所ですね。こちらの戦力はどの程度集まりそうですか?」

 受付嬢は逡巡しながら、おっかなびっくりといった感じで声をひそめた。

「集まっても400人に届くかどうか、という所です。騎士団の支部や門衛さんたちを含めてもその位が限界かと」

 声をひそめてはいるのだが、周りがシンと静まり返っているのであまり意味がなかった。周囲で400人って盗賊共の半分にも足りてねえのか、という声が聞こえる。

「セイさんには活躍に応じて国から特別報酬が出る事にもなっていますのでどうか受諾していただきたいのですが。如何でしょうか?」

 若干、不安そうにしている受付嬢は、俺が断るかもしれないと思っているのか表情にかげりがある。受けなかったら都市滅びるのに受けない訳が無いだろうに。

「受けます。提案なんですが、盗賊共と対峙した時に私が大規模殲滅魔法で機先を制したいのですが宜しいでしょうか? 100人単位で削れますよ」

「そ、それは頼もしいですね。ギルド長にも話を伝えておきますのでよろしくお願いします」

「では私はこれで」

 踵を返してギルドを出る。

「100人単位だとよ、随分なはったりかましてやがったな」

 そんな台詞が聞こえたが、実際には盗賊全員を屠るつもりだ。度肝を抜いてやろう。




 3日後、俺は正門から外に出て都市ジルタルの北東へ向かった。そのあたりは草原になっており、起伏も無いのでかなり遠くまで見渡せる。

 その草原には既に200人近い数の冒険者たちが居た。

 盗賊たちの現在地はここから約1時間のあたりまで来ているそうだ。

「今日は頼むぜ大将、盗賊共に一発デカイのをドーンとぶつけてくれや」

 背中を叩き激励してくる者も少なくなかった。その度に、「ええ」とか「お任せ下さい」などと返していると、冒険者ギルドの職員に呼ばれた。

 あと1時間もしないうちに盗賊の姿が見えてくる筈なので、そこを狙って魔法を使ってほしいと言うことだったが、射程や効率の面から引き付けてから放つことにしてもらった。

 点呼をとっていた職員から全員集まったむねを聞いた。


 そして、いよいよ盗賊団の姿が草原の向こう側からあらわれ始めた。

 情報としては、まず投石器とバリスタが3つずつ、それに騎兵が100騎。

 その騎兵が早速北側から奇襲を仕掛けてくる。が、そんなことはさせない。

魔法障壁マジックシールド

 ジルタル全域と、俺の後ろに居る兵たちもすっぽり入るサイズの魔法障壁マジックシールドを展開した。騎兵隊は仕方なしと俺を狙ってくる。が、そんなもん屁でもない。

「シャインブラスター」

 あと10mまで迫ってきていた100人の騎兵隊を塵も残さずに消滅させた。

 本隊の方も、まずいと思ったのだろう、勢いを付ける為に投石器やバリスタなどの攻城兵器を惜しみなく使っている。全て魔法障壁マジックシールドの前には全く効果は無いが。

 俺は、あと200m程まで来ていた盗賊たちに向かって魔法を使う事にした。

 俺はアイテムボックスから取り出した(はたから見たら忽然こつぜんと現れたように見える)ダウソキングの角剣を掲げる。

 魔力を練り上げ、気と混ぜ合わせ、循環させる。ダウソキングの角剣か発光し、紫電が迸っている。まあ、この位の魔力量で良いかな。

 俺は掲げていたダウソキングの角剣を目線まで振り下ろす。同時に、発現する猛威。

「ライトニングサーペント」

 それは、暴虐ぼうぎゃくの顕現だった。

 体高20m、体長100mはある雷で出来た大蛇、それが3体、ダウソキングの角剣から飛び出し、盗賊たちを蹂躙する。

 その長い体で逃げ道を塞ぎ、人を一飲みに出来る口で食われた挙句に炭と化す。

 ものの1、2分の出来事だった。1000人からなる大盗賊団があっさりと壊滅した。




「それでは、こちらがセイさんの報酬となります」

 ドシっと重そうな音を立てて革袋がカウンターに置かれる。

「金貨一千枚。一千万ルピーでございます」

「どうも」

 周りがざわついた。が、いつもの事だ。

 俺は併設されている酒場のカウンターに金貨を十枚置いて叫んだ。

「今日の酒は私のおごりです! 好きなだけ飲んで下さい!」

 「「「「「うおおおおぉぉぉぉぉおお」」」」」

 一度やってみたかった事の一つが出来た。今日は「俺の奢りだ」ってヤツ。

 すると、マスターがテーブルの上の金貨を五枚こちらに寄せた。

「五枚で充分だ。半分はとっとけ」

 良心的なマスターである。黙ってりゃ分からないのにな。

「席からあぶれた方々はついてきて下さい。他の酒場に行きましょう、そこでも私の奢りです」

「うおお、マジか!」「俺たちもただ酒飲めるのか!」「話せる使徒様だぜ」

 そのあともう一軒でただ酒を振る舞い帰途についた。

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