10話
ウロトベリス・ギンナム侯爵の計らいで、屋敷に宿泊していくこととなった。期待しろと言われた昼食は実に素晴らしかった。
まあ、毒盛られたんだけどね。
正直、清女の腕輪による状態異常完全無効化能力が凄すぎて何とも言えない。
ワインやソースの類に混ぜ込まれていたのだが、美味しくいただけた。
毒の風味も案外良いアクセントになってるのかもしれない。
・・・・・・いや、無いか。毒は毒。まあ使いようによっては薬にもなるのが毒というものだし、一概に言えないのかも知れない。でも現状毒は毒だ。
それにしても一代限りの名誉の爵位だというのに、伯爵という肩書きは俺が思っているよりも重いようだ。
領土も税収も無い、本当に只の名誉職だというのに。
「どうしたもんかなぁ・・・・・・」
「キュー?」
「いや、しつこいな、と思って」
言いながら頭を出したコアを撫でる。
さっきから30分毎に刺客が送られてきていて、げんなりする。
刺客の連中は、ボルトスネークで無力化して部屋の隅に無造作に積んである。その数なんと、既に九人である。
まだまだ来そうで困る。夕食まではまだ後数時間はある、困ったもんだ。
その時、ノックの音と共にギンナム家近衛兵士のラッドさんが部屋に入ってきた。
「セイ殿、少々付き合っていただきたく――」
直ぐに、部屋の隅に積み上げられている刺客を見て凍りつく。
「――セイ殿、彼らはいったい?」
「見ての通り刺客ですね。問い詰めるにしても、情報源は多い方がいいと思って雷魔法で痺れてもらってます」
「しばしお待ちを! 誰かある! 誰か!」
焦った様に声を上げるラッドさん。その声に数人の使用人が集まってくる。
「セイ殿が刺客に襲われた。各自速やかに捕縛しろ。毒でも飲んで死にかねん、猿ぐつわをしておくように」
最初は疑問符を浮かべながら部屋に入ってきた使用人たちだが、山と積まれた刺客たちに驚愕し、直ぐにロープをとりに行き、充分な量のロープと猿ぐつわを持ってきて、縛り、噛ませている。
九人全員を縛りあげたあと、ギンナム侯爵が駆けつけて来た。
「セイ殿! 大変申し訳ない! 必ずや裏で糸を引いている者の正体を暴いて見せる。ラッド、真偽判定ギルドに連絡を。それと家臣団をホールへ集めろ」
うわぁ、えらいことになりそう。
その一時間後、真偽判定官なる者たちが家臣団と九人の刺客に尋問している。どうやら嘘をついているかどうかが判別できるらしい。
十八人いる家臣団たちは十三人までは白だと判明したが、残りの五人はひっかかった。俺に対して殺意を持っていることが判明した。
始めは、全員の首を刎ねるつもりだったウロトベリス・ギンナム侯爵だったが、俺のとりなしで奴隷落ち――元大臣などは知的財産奴隷として奴隷にしては破格の待遇を約束されていいる――になって改めてこの屋敷に買い戻すらしい。要職だったものはその領主の隠しておきたい事を話させないために元の職場に復帰するのは珍しい事じゃあないらしい。
ただ、一人だけは終始こちらを睨み付けている者も居た。
メバイル、と呼ばれていた男だ。
「メバイル。反省の色が見えないが?」
ギンナム侯爵が指摘するも改善する様子はない。
「仕方ない。お前だけは首を刎ねよう。刺客を送り込んでいた張本人でもあるしな」
やれやれ、と、ため息をつきながら物を見るような目でメバイルを見た。
「馬鹿な! 私がこれまで、どれだけの働きをしてきたのかは侯爵様が一番お判りでしょう!」
「だからこそだよメバイル。お前は大して有用な人間というわけでもない。だというのに大きな顔をしては高圧的な態度が目立つ。これでさようならだ。やれ」
ラッドが素早くメバイルの首を刎ねた。
その顔は最後まで「信じられない」という表情をしていた。
翌日。快晴な空を見上げて洗濯しないとな、という思いに駆られた。
「ギンナム侯爵、昨晩の御もてなし感謝します。素晴らしい時間を過ごせました」
「いやいや、滅相も無い。こちらこそ、の様な事件の後でも寛容に受け止めていただき感謝いたします」
ここは屋敷の正門前。昨日の事もあって忙しいだろうに、見送りに出てきてくれた侯爵の顔をよく見ると、クマが出来ているし。
「では、お世話になりました」
「またそのうちに呼び出すので、今度は一杯ひっかけましょうね」
「それもいいですね。その時は是非」
「ええ、それではまた」
簡単に別れの言葉をかけあい、俺は正門から出ていく。
朝の気持ちいい空気が心地良い。人々は行き交い、まだ早朝と言ってもいい時間であるにもかかわらず威勢のいい声が飛び交っている。
俺はバルノツ都市の東門から外へ出て、脇にそれる。そこからはワープポータルを設置して一気にジルタルにある神殿の自分の部屋に転移した。
「ただいま、おはよう皆」
孤児院の食堂に行くと、次々に挨拶の言葉をかけてくれる。
「セイ様、朝食はお済ですか?」
「いや、まだだよ。でも、子ども達の食事が終ってからでいいよ」
エミリアに訊かれるも、まだまだ我慢できるのでそう答える。
「それでは30分ほど待っていただけますか?」
「ああ、構わない。むしろ、何か手伝おうか?」
「いえ、後はコリントさんたちと、バルトさんたちの分で一区切りつくので大丈夫です。それが終わったら改めて朝食を作りますので、30分ぐらいかな、と」
成程、一家の団欒を邪魔するのも無粋だな。
「分かった。皿洗いしながら待ってる」
百人余りもの分の数の食器だ、いまから洗っても30分で終わるかどうか・・・・・・
「え、セイ様!? って、もう鎧脱いでるっ! そんな、使徒様がそんなことなさらないで下さい!」
「構わないさ、ここに居る者たちは皆、家族だと思っている。レミリアにもマチルダにも常日頃から世話になってる。この位大したことないさ」
「セイ様・・・・・・」
レミリアが熱っぽい眼差しを送ってくる。丁度その時。
「レミリアさん、御馳走様にゃ!」
ユーノが調理場に食器を重ねて持ってきた。
「はい、お粗末様でした」
ごく自然な様子で皿を受け取るレミリア。一瞬前の表情は何だったんだというくらい普通にしている。
いや、きっと見間違えだな。雑念を捨て食器を洗うのに専念することにした。
「ユーノ、食器はここに置いてくれるか?」
「にゃっ、院長先生! お帰りにゃさいにゃっ」
「ああ、ただいま。良い子にしてたか?」
「もちろんにゃ。昨日は部屋のお掃除を手伝ったにゃ」
そういえば、使ってない部屋に風を通すって言ってたっけな。
「そうかそうか、ユーノはいい子だな」
「にゃ! 院長先生に褒められたにゃ!!」
嬉しそうに身をよじるユーノ。するとその後ろからユーノの父親のゴルバス・バルト氏が厨房に入ってきた。
「どうしたんだユーノ、そんなにはしゃいで――」
「おはよう、ゴルバスさん。今日もいい天気だね」
何故かフリーズするゴルバスに挨拶する。
「何をやっているんですかセイ様! そんな、皿洗いなんて仕事、俺がやりますよ!」
何をそんなに焦っているのだろう? 大したことでもないのに。
その後、強制的に皿洗いを中断させられた。納得いかない。




