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8話

 ドラゴンのエメと時々喧嘩したり、孤児院の子供たちとたわむれたり。

 色々とありながらも特に問題無く過ごしていた。そんな、ある日。


『セイ、今夜7時頃、冒険者ギルドでイリーナを探して彼女と話しなさい。』


 我が愛しの女神様からの御告げが下った。勿論否やは無い。二つ返事だ。

(分かりました、今日の7時頃ですね)

『そうです。悩みを訊き出し、相談にのるのです』

御意ぎょいにございます)

「セイ様? どうかなさいましたか?」

 マチルダの声に我をとり戻す。実は、今は丁度お昼の炊き出しの最中なのだ。

「いや、今、急に神託がおりてきたんだよ」

「えっ、神託がですか!? でしたら、ここはお任せいただいて構いませんので、直ぐに神託の通りになさってください!!」

マチルダが使命感に満ちた表情で言ってくれている。のだが――

「いや、神託の内容は今夜に関することだから、今は問題ないよ」

――苦笑気味に返した。

「そうでしたか。早とちりでしたね、申し訳ありません」

 丁寧に謝ってくれたのだが、ここが何処かを忘れているようだ。

「マチルダ。取りあえず配給を続けよう。待ってくれているよ」

 並びの列から文句は聞こえてこないが、待ち侘びているのは一目で分かる。

「あ」

 マチルダも直ぐに気が付き、「おまたせしました」と言いながら配給に戻っていく。

 さて、今夜何が起こるんだろうか。




 夜の7時頃、冒険者ギルドに向かった俺は、ギルドに併設された酒場の一席に座るイリーナを見つけた。

「相席、いいかな?」

 声を掛けつつ向かいの席に座る。

「お断りしま・・・・・・セイさん!? お久しぶりですっ」

 最初は断ろうとしていたイリーナだったが、俺の姿を確認すると慌てて頭を下げて来た。今日も今日とて全身鎧が名刺代わりだ。取りあえず兜を脱ごう。

 ――ん? こちらに視線が集まっているな。まあ、俺が人前で兜を脱ぐことは滅多に無いしな。宿に居た時は食堂では鎧は着てなかったし。物珍しさの視線だろう。

「久しぶりだな。息災なようで何よりだよ」

「・・・・・・・・・・・・」

 あれ? 返事が無い。こちらをじっと見つめているのだが何の返答も無しだ。仕方ないから、もう一度声を声を掛けてみた。

「イリーナ?」

「あ、は、はい。すみません失礼しました」

 今度は気付いてくれた。しかし。

「そんな、まじまじと見られるような顔ではないと思うんだがな」

「いえ、思ってた以上に若かったもので。声も、兜でくぐもっていたので、それなりのお年だと思っていました。まさかそんな若さでランクS冒険者にまで上り詰めたなんて・・・・・・

いくら神の使徒といえども想像だにしていませんでした」

「そうかな? 俺にはよく分からないけれど」

 そんなに大した顔でもないと思うんだけどな。周囲の冒険者達は食い入るように見ている。何だろうか。

「実際のところ、おいくつ何ですか?」

「16、いや、この間17になったか。イリーナとは4歳違いだな」

 イリーナは軽く驚いた顔をすると「鑑定持ちなんですね」と呟いた。

 実際は看破という別の魔眼スキルなんだが、細かい事はいいだろう。

「え、イリーナちゃん未成年なの!?」「俺も初めて聞いた」「俺も」「あの身体で13歳とかありえねーよ」「俺18歳くらいだと思ってた」

 周囲が騒がしいが、とりあえず――

「エールとモツの煮込みを頼む」

 近くまで来ていた従業員(男性)に注文を告げた。何も頼まないのも悪い気がして、酒とつまみを注文する。

「で、だ。今日俺は神託を受けてここに来た。お前の悩みを聞いてやれ、という内容のな」

 改めてそう言うと、イリーナの顔が喜びにほころぶ。やはり美麗な印象を受ける。何というか、勘違いしてしまいそうだ。気があるんじゃないかとか。

「実は・・・・・・」

 イリーナいわく、13歳とは思えない肢体をしているため夜這いが後を絶たないらしく、泊まっている宿の部屋の鍵を破壊して侵入する輩が続出。全て撃退したが、宿に迷惑がかかるからと自主的に宿を出るも当てがなく。今日の宿に困っていた所に俺が現れた、と言うことらしい。

「なら話は簡単だ。神殿うちに来るといい。部屋は余っているし何の問題も無い」

 ザワリ。と、周囲がざわつく。が、それを黙殺して返答をまった。

 イリーナは頭を下げながら嬉しそうに答えを告げた。

「ありがとうございます、お言葉に甘えさせていただきます」



 共に神殿まで歩き、神殿の神像の左右から後ろにつながる道から奥へと繋がる扉へ行き、イリーナに説明した。

「イリーナ、君は年頃の少年には刺激が強すぎるスタイルをしている。なので、神殿の方で生活してもらう。今空いてる部屋は左が2部屋、右が1部屋だ。好きな部屋を選んでくれ。奥にある扉の先は正面が調理場で右がトイレで左が風呂場になっている」

「でしたら左の真ん中を使わせていただきます」

 そう言って左側の部屋に入る。荷物を置いたらすぐ孤児院の方に行って夕飯といこうと言ってあるので、直ぐに出てくる。

「いい部屋ですね。大事に使わせていただきます」

「気に入ってくれたなら何よりだよ。さあ、孤児院の食堂にいこう」

「はい」



 食堂に行くと気がついたべリアが空いてる席へと案内してくれる。

何も訊かず、何も言わないままで。

 さすがは、自身が違法奴隷狩りに襲われた過去を持つ女性だ。何かを察し、余計なことは何も言わず。

 だがレミリアとマチルダには、イリーナに関する詰問を受けたのだが、訳を話すと皆納得してくれた。

 質問では無かった。あれは詰問だった・・・・・・

 何か悪いことをした気がして、後ろめたいものは何もないというのに胸に何かが刺さった気分だった。

 「まあ、イリーナさん。このジルタルで半年とかからずランクB冒険者になったのですか!?」

「セイさん程の早さではありません。二ヶ月でランクSまで上り詰めた人ですから」

 イリーナが言う。そうなんだよな。こっちに来て、半年くらい経っている。だが始めの2ヶ月は本当に忙しかった。けれど、それからの四ヶ月は平和なものだった。

 手足の落ちた来訪者の部位欠損を癒したり、ティア様と操練魔闘法の修行をしながら一日中会話してたり。時々、何かを勘違いして俺に勝って名を挙げようという、道場破り的な輩まで出没したりもしたなぁ・・・・・・

 まあ、概ね平和だった。偶にエメと戦ったり(現在全戦全勝)時々迷宮に入って最深到達階層を更新したり。うちの子たちに勉強を教えたり、冒険者志望の子たちと訓練なんかもした。

 ほのぼのとした四ヶ月だった。うちの子たちが攫われそうになっても、ティア様に教えてもらって直ぐに助けられるし。大した問題は無い。

 人生太平楽。世は事も無し。

 だった・・・



 イリーナが神殿に来てから三日後。事件が起きた。

「おらぁ! イリーナを出せやごるぁっ」

「ひっく、ぐす、院長先生助けてー!」

「このガキがどうなってもいいのか! ああ?」

 だみ声で怒鳴る男の声と子供の泣きわめく声。

「おとなしく出てきやがれ!」

 人相の悪い5人の男たちの一人が子どもを羽交い絞めにしてがなりたてている。

 近くを通り過ぎていく人々は野次馬に早変わりする。

 神殿から慌てて飛び出したイリーナやマチルダたちが神殿の門の前で経ち尽くしている。マチルダやレミリアを見た男達は嬉しそうに「お前らも着いてこいやぁ!」と、叫んでいる。

 だが、そこまでだ。

 背後から近付き全員にボルトスネークで気絶してもらった。

「テオ、怪我は無いか?」

「うえ~ん、院長先生ーー」

 ボルトスネークが上手く男たちの意識のみを奪ってくれた様である。

 泣きながらしがみ付いてくるテオは8歳という年齢通り、素直に恐怖を感じていた。そう、まだ8歳なのだ。幼子の心に傷をつけたかもしれない。それでも、今回の一件はテオが奴らに捕まった後の方が効果的に処理できるとの御達しだ。

 ティア様がテオの心の傷に関しては大丈夫、と言ったからこそこの方法をとった。

 さてまだ野次馬が残っているうちに始めようか。


 先ずは全員をロープで縛る。その後、5人を1人ずつ丁寧に殴り、骨を折り、気絶したら顔に水をぶっかけて覚醒させ、神聖魔法で回復した後でもう一回丁寧にリンチしていく。

 1人十回ずつ、丹念にボコったあとで、最終的には数珠じゅずつなぎにして衛兵に引き渡した。うちの子たちに手を出せばどうなるか、野次馬していた者の口から伝わって行くはずだ。

 鎧に包まれた拳は痛くない、が、心は痛い。何であんなのが居るんだろう。全員少しは名の通った冒険者パーティーだったらしいが普段から素行が良くないらしい。

 今回なんて誘拐と恐喝は重罪だ。しっかり罪を償ってほしい。

 その後、自分のせいで子どもを危険な目に遭わせたと、イリーナが神殿から出ていこうとするのを全員で止めたのだった。

 後日、裁判で奴隷落ちが確定した5人組だったのだが、1人二千ルピーの計一万ルピーを冒険者ギルド経由で受け取った。案外安いなと思った。

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