4話
シャドウウルフの肉と食用の花で腹を満たした俺は、喉を潤そうとミネラルの呪文を唱えた。
と、そこで気づいた。そのまま浮遊しているミネラルの魔法で生み出した水は、ある程度なら自由に操作可能だ。
試しに密度を上げようとしてみる。すると集束するようなイメージで圧縮出来た。そのまま高圧の水流として射出してみたら、森の木をあっさり貫通。人の胴くらいの木を一本丸々切断出来た。
「・・・・・・むやみに使うのはやめておこう」
危険すぎる。出力には要注意、だ。気軽には使えないな。
次に高密度状態を保った水で丸い盾を作りだした。アイテムボックスから出した剣で斬りつけても、水分の少ない糠や油粘土みたいに斬りにくかった。充分に盾としての役割を果たしてくれそうだ。
盾にも矛にもなる。汎用魔法の完成だ! 一応、それぞれ、ウォーターカッターとウォーターシールドと名付けた。
因みにアイテムボックスは目に見えない不思議空間になっている。詳しくは分からない。一覧とかも無いから、入れたまま忘れたら二度と取り出せない可能性がある。
それはさておき。
魔法を作るのが段々面白くなってきた。ステータスの魔法表示を詳しく見てみる。と、なにやら魔法適正に影魔法が追加されていた。更に各魔法の適正度合いも表示されるようになっていたが、こちらは看破のレベルが上がったからだろう。
早速何か魔法を作りたい。ということで定番の、影に潜るやつをやってみよう。
顛末としては、出来たには出来た・・・・・・潜ると息できなかったけれど。
影に潜ると黒いプールみたいな不思議空間になってて、水中のように呼吸が出来ない。地上へは影になっている所からしか出られない。
けれど、影の無い所も不思議空間が続いている。影が無いので出入りは出来ないが、影から影へと息継ぎしながら泳いで渡れる。
こうして、若干微妙な魔法。シャドウダイブが完成した。
食休みを終えて、川沿いを北東に上って人里をめざす。歩くこと暫し、3時間ほどで村らしきものが見えてきた。
櫓も立ってるし、一際高い警戒塔には緊急時の大鐘が備え付けられている。ずいぶんとまぁ、物々しい村だ。
けれど村の入り口に見張りがいるわけでもなく――村は全体が柵で囲われている――物々しいのか、のどかなのか今一分からん。
村に入り適当に歩く。一際でかい建物が村長の家だろう。ただ、一応念の為に誰かに訊いてみよう。
よそ者とて警戒はされてないはずだ。シャドウウルフのコートの下はカットシャツにデニムという出で立ちの俺だが、周りの人々は麻の衣や、毛皮、その他謎の素材で出来た服や鎧をまとっている。
多様で雑多な服装が多い。これなら俺も変に注目を浴びることは無いだろう。
村長の家はやはり一番でかい家だった。二番目が礼拝堂だ。農耕神エスタ様という神様を祀っているらしい。
その礼拝堂を見て思いついた、ティア様に相談しよう。民家の裏手にまわって膝をついて祈る。
(ユスティア様、ユスティア様、ご相談があります。)
『どうしました? 私の可愛い信徒よ。」
(ティア様! 村についたけれど、どうやって生きたらいいでしょうか?
冒険者ギルドってありますか? あと、すんなり村に入れちゃったんですけど大丈夫なんでしょうか?)
『冒険者ギルドはエスタを祀っている礼拝堂の向かいにありますよ?』
マジですか? 周りをよく見てなかったからかなぁ。気付かなかったですよ。
『村程度ならは検問も無く出入りは自由ですが、買い物に税がかかります。かつての迷い人が提案し、確立させた制度です。消費税、と言ってましたね』
消費税!? マジかよ・・・・・・
(ありがとうございますティア様。早速ギルドに登録しにいってきます。)
『ええ、それではまた』
礼拝堂の前に戻ってきた俺は、反対側の建物である冒険者ギルドを眺める。
扉の上にでかでかと看板が出てる。剣と槍の交差するイラスト付きだ。
因みにだがティア様の不思議パワーのおかげで文字もばっちり読める。女神様々。もっかい拝んどこう。
(ティア様ありがとうございます~、凄く助かってます~)
よし、それじゃあいよいよギルドに登録だ。
外観は赤煉瓦の壁、扉は黒ずんだ木製。その扉を開けて中に入る。
なかは至って普通。ゲームとかでよく見る様子だ。北側に受付らしきカウンターがあって、西と東――左右の壁に依頼書と思われる紙が幾つも貼ってあった。
左右には大きめの柱も一本づつ立っていて、そこにも紙が貼ってある。
荒くれ者たちが屯してる様子には思わずにやけそうになる。西側の一部のスペースは酒場を兼業しているようだ。席もあるしカウンターも趣が違う。
俺は受付カウンターでお馴染みのセリフを言った。
「新規で冒険者登録をしたいんですが」
少々お待ち下さい、と言われ用紙を差し出され、記入して渡して今度はカードを取り出してきて、それに針で一滴血を垂らして。そんなこんなで。
登録は恙なく終わった。諸々の注意事項を聞いておしまい。俺の手には磨りガラスの様に半透明なカード型のギルド証がある。黒い文字でGと書いてある。
因みに名前は偽名だ。清を音読みでセイにした。そして裏側には普段は何も書かれていないが、念じるとスキルや魔法適正、今現在に使える魔法などが表示可能だ。
そのあたりはティア様との雑談で教えてもらった。
「このカードが倒した魔物を自動的に記録してくれますので」
おお、それは便利だな。その機能は知らなかった。
「また、裏面にはご自身の能力が浮かび上がる様になっております。表面は御覧の通り、ランクとお名前が表示されています。他に何かご不明な点などはございますか?」
受付嬢がきいてくるので、一点だけ訊ねてみようと思う。
なんか、某称号たちのせいか、やたらと親切なんだよなぁ・・・・・・・
「ランクを上げるにはどうしたら良いですか?」
「ギルドの方で会員の貢献度を吟味して上下を決めております」
上下って、下がることもあるのかよ。シビアだな。
「ランクAとBとの違いは貢献度の差だと迄言われています。
基本的には上のランクになるほど、戦闘能力や交渉力など、強さや出来る事が増えていくと言われています」
「そうですか、分かりました。ありがとうございます」
一礼して席を辞する。一文無しの身としては、さっさと依頼の一つもこなして今日の宿代くらい稼ぎたい。
などと考えたところで、そううまくいくわけも無し。目ぼしい仕事が無かったものだから、今夜は夜間の村の見回りと不寝番だ。
この仕事は、基本的には村の自警団で持ち回りらしい。
そして、俺みたいに仕事に困ってるヤツのために、ギルドに依頼として常に発注しているらしい。頭が下がる・・・・・・
他にも討伐系の依頼もあったが、右も左も分からない異世界では、気軽に受けられない。もう少し
「大変だぁ!」
詰め所にいると、櫓での見張りを担当していた男が飛び込んできた。
「どうしたんだ? そんなに慌てて」
自警団の副団長が男に訪ねた。
「シャドウウルフだ! ブルオーク三匹を追いかけてまとめてこっちに向かってやがる!」
「ッ 、なんだと・・・・・・」
副団長が言葉に詰まった。