7話
翌日、再び王都シストワールの冒険者ギルドを訪ねた。
そのまま奥に通され、ギルド長のフットリクスさんに面会することになった。てっきり、ギルド員から日程を聞けると思ったのだが。
ギルドの二階にある一番奥の部屋に案内された。昨日とは違う部屋だ。
ギルド員がノックをして声を掛ける。
「ギルド長、冒険者のセイさんがいらっしゃいました」
「・・・・・・入れ」
短い返事にドアを開けるギルド員は、俺が入ったのを見届けた後で退室した。
「失礼します」
「うむ。適当にかけてくれ。それと、すまんが少し待っていてくれ」
どうやら此処は執務室のようだ。フットリクスさんの座る机の上には、山となった書類が積まれている。
備え付けのソファーに座り、フットリクスさんが手すきになるのを待つ。
五分ほどで、一段落ついたのか席をたち、俺の向かいのソファーに座った。ほぼ同時に、お茶とクッキーをギルド員が持ってきた。
「待たせたな」
「いえ、たいして待っていませんよ」
「報奨金の授与式じゃが、今日から五日後の昼となった。当日はギルドに迎えの馬車が来る。少し早めにギルドに来てくれ」
「分かりました、五日後ですね。鎧は着たままで大丈夫でしょうか?」
「大丈夫じゃろう。始めに兜だけは脱いでおけ」
「そうですね、そうします」
「で、じゃ。ドラゴンとの戦いはどの様なものじゃったんじゃ?」
その後は一時間ほど雑談して神殿へ帰った。
五日後、特に何事も無く過ぎる日々にまったりとしながら過ごしていた俺は、危うく王都へ行く事を忘れそうになっていて焦っていた。
神殿備え付けの時計は午前11時40分を示している。もう少しで王との謁見をすっぽかす所だった。危ない危ない・・・・・・
レミリアに外出する旨を話し、急いでワープポータルで王都に転移した。
ギルドに着いた俺はまたもやフットリクスさんの執務室に通された。
「直に迎えが来るじゃろう。それまでは寛いでおれ」
「じゃあ、そうさせてもらいます」
ソファーに座って寛いでいると、またギルド員がお茶とクッキーを持ってきてくれたので口をつける。
「今回の報酬じゃが金貨百万枚となった。どうやら、規格外な強さを持つものに莫大な財力も与えてしまっては手が付けられんという腐った政治的な理由らしい」
「成程。まあ、仕方ありませんね。本来なら複数人に分割して与えられていたものが、一人に纏めて払われる訳ですし。
実際、金貨百万枚もの報酬が支払われては私兵を抱え込むことができたりするわけですし」
「そうじゃな。危険かどうかは分からんし、ただでさえお主はランクS冒険者じゃ。何よりも戦女神様の使徒じゃ。いらぬ勘ぐりもうけるじゃろう。すまんのう」
「フットリクスさんが謝ることじゃあありませんよ」
「ふむ、そう言ってくれると助かる」
話題はそのまま過去のドラゴン退治の話に移行した。
暫くすると、ギルド員が呼びに来た。お迎えが来たらしい。
「ではギルド長、失礼します」
「おう、気を付けて行け。赤っ恥かくなよ」
「ははは、気を付けます」
割とマジで。作法とか分からんし。
貴族が乗るような、立派な馬車で15分程。馬車の窓から王城が見えて来た。
これまで意識して見たことは無かったが、さすがは一国の頂点。荘厳な門構えであり、城壁も白く塗られ清廉なイメージが神殿を彷彿とさせる。
城門をくぐったところで馬車から降ろされ、大臣らしき人物が案内をしてくれるらしい。
大臣の後に続いて場内を歩く。調度品もさりげないが上品なものを感じさせるものが置かれている。白磁の壺がやけに多いが何か理由があるのだろうか?
「あの、白磁の壺が多いのは何故ですか?」
「ああ、あれは夜になったら光源として機能するのですよ。一種のマジックアイテムでして、魔力を込めると発光するのです」
「なんと・・・・・・」
金がかかってそうだな。ひとつ幾らぐらいなんだろうか。いや、さすがに訊ねないが。
程無く、謁見の間へとたどり着いた。と、ここで――
『セイ。何か言われても跪いたりはしなくてもいいですからね。貴方は神の使徒なのですから』
――と、ティア様の仰せだ。
(承知しました。兜だけ脱いだら後は立ってます)
『ええ、それでいいです。間違っても使徒の名に恥じるような行いはしないように』
(はい、肝に銘じます)
深呼吸してから気を引き締める。よし、今からドラゴンと戦えと言われても大丈夫だ。それくらい気合は充実している。
大臣が謁見の間のドアの両脇に立っている二人の門番の騎士に命じると、扉が開いていく。
大臣と共に謁見の間に入り、中央辺りで俺だけ止まり、兜を脱いで小脇に抱える。大臣は玉座の脇に控えている。
壁際には護衛の騎士たちがずらりと並んでいる。玉座の近くには文官らしき人たちや、武官と思しき人たちも居る。
「どうした? なぜ跪かん」
案の定王様から催促される。だが。
「私は戦女神様の使徒です。首を垂れるも跪くもユスティア様御一柱のみ。他の者に下げる頭は持っていません」
さあ、どう出る? 最悪不敬罪で処刑か?
「ふむ、そうか――」
ところが、国王シントスは困り果てたようにつぶやく。
「過去の文献を紐解いてみても、使徒が一国の王に対し頭を下げたことは一度も無い。こうなることは最初から分かり切っていた。
だが、それでも此度の件は賞賛に値する。報奨金だ、受け取るがよい」
シントス王のその声に、控えていたらしい筋骨隆々の巨漢たちが大きな箱を持ってきた。数は五つ、各二十万枚で合計百万枚か。
「では有り難くいただきましょう」
五つの箱全てをアイテムボックスに収納する。
その様子を見ていた他の者たちが驚きの声を上げる。それもそうだろう、普通のアイテムボックスが黒い穴が発生し、その中に放り込むのに対し、俺のアイテムボックスは触れただけで収納できる。この辺の便利さは空間魔法ではなく、無属性魔法だからなのかも知れない。正確な所は分からないが。
「シントス国王の広い懐に感謝します」
軽く一礼をして退散しようとして、シントス国王から声がかかる。
「そうではない。過去の文献には、一国と争って使徒が勝利したと言うものが複数あったが故だ。そんな危険物に誰が火を付けたがるものか」
シントス国王が恐ろしげに言う。
「まして、今回のドラゴンは明らかに一国を軽々と滅ぼせる存在だ。それを退けた者と敵対したいなどと誰が思おうか」
その言葉に苦笑して今度こそ謁見の間を退室した。




