5話
「兎に角、そのドラゴンを何とかすれば良いのですね?」
確認の意味も兼ねて二人に問いかける。
「そうは言うがのう。事はそれほど簡単でもないのじゃ。何せ相手はドラゴンじゃぞ? 簡単には倒せんし、ある程度拮抗した力を持つもの以外は対話さえ不可能と来ている。その知能は、人間と然程変わらん」
成程、厄介な存在に変わりはない、と。しかし――
「神託でドラゴンを退治せよと仰せつかったので、戦力は問題無いでしょう。戦女神ユスティア様の名のもとにそのドラゴン、私が何とかいたしましょう」
「「・・・・・・」」
二人共黙ってしまった。また驚愕に顔を染めて、今度は口を空けたり閉じたりしている。
「か、神の名のもとに宣言されるとは、それ程に自信がおありですか・・・・・・」
「よし、三人目! お主だけが頼りじゃ! 頼んだぞっ!」
再起動した二人が口々に言う。それに対する返答はきまりきっている。
「お任せください。私がドラゴンを何とかして御覧に入れます」
大口を叩く俺を、頼もしそうに見る二人の視線を受け止めて鷹揚に頷く。
こうして、俺のドラゴン退治の一幕が始まった。
(ところでティア様、ドラゴンて害獣の類なんですか? 特に何も聞かずに、勢いだけで請け負ってしまったんですけど・・・・・・)
『竜種の類は知能は高いのですが闘争本能が強く、強敵と戦うのが大好きな種族でして。自分から退治されるような、例えば、村や都市を襲って討伐隊が自分を退治しに来るのを待っているような存在ばかりなのです』
(それはまた難儀な・・・・・・)
『それよりも、報酬などの話は一切してませんでしたが、よかったのですか?』
(あ・・・・・・、わ、忘れてました。完全に)
『ランクSモンスターであるドラゴン退治ともなれば、国からの報奨金は1000万ルピーは下らないでしょう』
(1000万!? 金貨1000枚ですか、破格の報酬ですね)
『何より、ドラゴンをソロで討伐したとなれば名声も今まで以上に高まるでしょう』
(そうしたらまた、ティア様を信仰する者も増えるでしょうね)
『その為にも、頑張ってくださいね。セイ』
(お任せ下さい。見事ドラゴンの首、打ち取って見せましょう)
などとティア様と会話しながら王都の門を潜り、目的の山の麓へと向かう。全力で走っても到着は夜中になるな・・・・・・
まあいいや。とりあえず走ろう。
世界最強種の生物と戦うために走っているというのに、わくわくしてしょうがない、何せドラゴンだ。男なら燃えるところだろう、ここは。
そんなようなことを考えながら、身体がうずうずして止まらない自身に少し呆れながら、それを誤魔化す様に全力疾走した。
夜中の、日付も変わったくらいの時間に俺は山に着いた。
その山の麓に7mはありそうな巨体が横たわっている。
体をおおう鱗は鮮やかな緑。暗視の魔眼が無ければ分からなかったであろうこの目には、その巨体は瞼を上げ、こちらを窺っているのが分かる。
ドラゴン。
初めて見たが生き物としての格の違いがわかる。圧倒されそうな存在感に晒されながらも俺はティア様の使徒として真っ向から向かっていくかのように歩を進める。
間近まで足を運ぶとふと、ドラゴンが脳内に直接語り掛けて来た。
『ほう、私の威圧を全く意に介さないとはなかなかの強者と見ました。無論、この私と一戦交えてくれるのでしょう?』
「その通りだ。俺はお前を退治しに来た。戦女神ユスティア様の使徒にしてこの大陸で三人目のランクS冒険者のセイだ。いざ尋常に勝負!」
『話が早いのは好ましいですね。しかし女神の使徒とは、大物が釣れましたね。嬉しい限りです。こちらも全力で相対しましょう』
その言葉が終わった瞬間、合一法を使って体内で魔力と気を混ぜ合わせる。更にそれをアイテムボックスから取り出したを公翼の盾とユスティアックスを取り出して体表と共に気と魔力の合わさったオーラで包む。全身鎧と体表に別々にオーラを纏っている念の入れようだ。
「くらえっ」
衝撃波をまき散らし音速を遥かに超えた速度で距離を詰め、一気に勝負を決めようとドラゴンの首を狙って一撃を加えた、のだが。
ガキイィン、という金属同士が打ち合わせたような大きな音が鳴り、周囲に響き渡った。
『危ない危ない。危うく首を落とされる所でした』
音速を遥かに超えた速度で振るわえた斧の一撃、それを右腕の爪できっちり防御されてしまった。
『嬉しい事だ。あなたの力の一端、見せてもらいました。お礼に私の力の一端をお見せしましょう』
言うが早いか、ドラゴンは大きく息を吸いこみ、津波の様な炎を吐いた。
だが、俺には炎の祝福がある。炎をやり過ごした俺は変わらずに同じ場所に立って、悠然と斧を持ち上げる。今度はこっちの番だ。
「おおおぉぉぉぉおおお!」
雄たけびを上げながら衝撃波をまき散らす。狙うは腕、足、胴体と様々に変えてダメージを蓄積させる目論見だ。
しかし、対するは生物の中でも頂点に立つドラゴン。そうそう簡単にはダメージを与えさせてはくれない。殆どが爪で防がれている。
ならばと魔法を使ってみる事にした。
「アイスマシンガン!」
純粋な魔力ではなく気と複合したオーラによって形成された氷の弾丸が秒速五発ほど発射される。
ドラゴンは爪で弾き続けているが何発かは胴体に突き刺さっている。本来は音速での戦闘も可能なドラゴンであるが、一発一発が重く、爪を大きく弾くためそれで防御が間に合わなかった数発が胴体に食い込んでる氷の弾丸だった。
『小癪な、全て薙ぎ払ってくれる!』
再び大きく息を吸い込むドラゴン。一瞬、また炎を吐くのかと思ったが、直後に嫌な予感がして魔法の発動を停止し、衝撃波をまき散らせながら音速で横っ飛びにその場から移動する。
瞬間、光閃の様な閃光が数発のアイスマシンガンを消滅させながら俺の居た場所を薙ぎ払った。直撃した地面は融解しており、その威力を物語っていた。
『よくぞ躱しました。これは賞賛に値する! まだまだ私を楽しませてくれるのですね。まだまだ行きますよ、いざ、躱し切って見せよ!』
またもや閃光のブレスが辺りを薙ぎ払う。俺めがけて吐き出されるブレスを音速で回避し続け、息を吸いこむ隙を利用してドラゴンの懐に入り込みブレスが届かない位置にまで接近した。
ドラゴンが爪で迎撃しようとするが、それより一瞬速く動いていた俺はドラゴンの右腕を叩き斬った。




