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4話

「ふわ~~ぁふ」

欠伸をしながらも操練魔闘法を維持し続ける。

『もはや欠伸混じりですか。成長したものですね』

(常在戦場とは言いますが、寝不足の欠伸まじり状態でも迷宮で戦える自信があります)

『それは喜ばしい事ですが驕りや油断は大敵ですよ』

(確かに・・・・・・そうですね気を付けます)

 神殿の教壇に肘をつき、備え付けの椅子に座りながらそんなやり取りをしていると。

『セイ、お客が来ましたよ』

(了解。瞑想してます)

 今日は俺が神殿に待機している。そう言う日は大抵ティア様との訓練の日になる。

 来客があっても、こうしてティア様が教えてくれる。別に便利使いしている訳ではない。神殿と使徒としての威厳を保つためにティア様が注意してくれているのだ。

 それはともかく、入り口をくぐってきた中年男性に声を掛ける。

「ユステイア様を奉ずる当神殿にようこそ」



「有難う御座います。たったあれっぽっちのお布施で骨を接いで下さって、本当にありがとうございます」

「感謝の気持ちでしたら私ではなくユスティア様にどうぞ。私はかの女神様より遣わされた身、感謝などもったいないことです」

 何度もお礼を言う中年男性――名前は訊かなかった――を見送り、また教壇に戻る。

 あれっぽっちとは言っても普通の人なら1000ルピ-は大金のはずだ。それともああ見えて高給とりなのだろうか? いや、それは無いだろう。

 そもそも、一般的な神殿への喜捨とはどのくらいの金額なのだろう? もっとふんだくっているのだろうか・・・・・・

 いや、考えるまい。他所は他所、うちはうちだ。金には困ってないし、問題ないだろう。

『また、お客のようですよ?』

 思考の波を漂っているとティア様から声を掛けられて我に返った。

 注意してみると、確かに門の外が少し騒がしい。

「着いたぞアニキ。神殿だ。今、診てもらえるからなっ」

 門をくぐって入ってきたのは若い男の二人組だ。片方は血塗ちまみれで、もう片方は血塗れの男に肩を貸している。肩を貸している方も革の鎧が彼方此方ボロボロだった。

「ようこそいらっしゃいました。私が当神殿の神父です」

 取りあえず声を掛けながら近付いていく。神殿内が血塗れになっても困るのでこちらから近付き、入り口脇の長椅子に横になってもらう。

「腕が切断されてますね。肘から先はありますか?」

「あ、あります!繋がるんですかっ!!」

「つなぎます。腕をこちらに」

 腕を預かり、断面を合わせる。

「アークヒール」

 鮮烈な光が接合部で弾ける。瞬く間に腕は繋がり、問題無く接合が完了した。

 さて次は――

「エリアヒール」

 二人の負っていた負傷も回復してやった。

「俺の傷まで――ありがとうございます。神父様」

「感謝はユスティア様にお願いします。私は女神様に遣わされただけの者です。あと、失った血は相当多いようですので、二、三日は大人しくしていてください」

「分かりました。あのこれ、少ないですがお布施です」

 そう言って渡してきたのは金貨が二枚。

「充分ですよ。貴方の信仰に感謝を」

「よかったなアニキ!」

「おう! 正直腕はもうだめだと思っていたぜ。有難う御座います神父様!」

 何度もお礼を言いながら立ち去っていく二人組。それを見送り、床と長椅子を見た。

「・・・・・・掃除しないとだな」

 当神殿は今日も平和です。


 ◆


 日中は開放されている神殿入口の扉を閉める。時刻は5時過ぎだ。一日中、全身鎧を着ていたから肩がこった。軽く両腕を回しながら、孤児院の方へ向かう。

 そろそろ夕食の準備が始まっているはずだ。そう思いつつ足を進める。

 が――

『セイ、今すぐ王都のギルドへ向かって下さい』

 丁度厨房に入った所でティア様の御神託があった。

「ゴルバスさん、マチルダ。神託が下ったので王都へ行ってくる。留守は任せた。

 ゴルバスさん――ユーノの父親――達に外出することを告げた。

「夕飯は先に食べていてくれ、いつ終わるか分からない」

「分かりました」

「了解しました」

 二人の返事を待たずにその場でワープポータルを作り、王都の神殿横まで転移した。



 王都の冒険者ギルドにつき扉をくぐる。と、そこは侃々諤々かんかんがくがくという言葉がぴったりの慌ただしさだった。

『受付の方にギルド証を提示しながら話しかけて下さい』

(分かりました)

 人混みをかき分けカウンターまで進む。話しかけると同時にアイテムボックスからギルド証をとりだす。

「私の名はセイと申します。一体何があったのかお教えいただきたい」

 と、ギルド員の女性がギルド証をまじまじと見て、勢い込んで話しかけて来た。

「このホーリバス大陸で新たに加わった三人目のランクS冒険者、『戦女神の使徒』セイ様ですね!詳しいお話は奥でいたします。ついてきて下さいっ:

 幾分焦ったような声を出し、奥へと進む。追ってカウンターの端にある出入り口から中に入り急いで後ろについた。

 ギルド長室、そう書かれた扉の前で受付嬢はノックの間も惜しいと言わんばかりに扉を叩き、返事を待たずに扉を開けた。これはただ事ではないと気を引き締める。

「ギルド長! 戦女神の使徒様が来てくださいました!!」

「なに!? 三人目がか!?」

 机に広げた地図を見ながら話していたのだろう、二人の男性のうち初老といった外見の男性が勢いよく反応した。恐らくそちらがギルド長なのだろう。もう一人の男性も驚愕しているようだ。

「ユスティア様の神託により参上いたしました、セイと申します。一体何事なのですか?」

 問いかけると、初老の男性ではなく青年の方が答える様に口を開いた。

「成程、信託とあらばこの都合のよさも理解できるというもの。御足労いただき感謝の極みです。私はギルド長の秘書をしておりますガイナルといいます。どうぞよろしく」

「儂はフットリクス。この、王都シストワールの冒険者ギルドのギルド長じゃ」

 二人とも幾分落ち着いた様子で話しかけてくる。何があったのか知らないがそれ程深刻な問題じゃあないと言うことだろうか。

「それで、何があったのですか?」

 問いかけると、二人共難しい顔をして唸る。

何だろう。やっぱり深刻な問題なのだろうか? 暫し待っていると、手招きされたのでテーブルのそばまで近づく。

 と、テーブルの上に広げられた地図の一点を指さした。それはこの王都に程近い山のふもとだった。

「実は、この山麓のあたりでドラゴンが目撃された。個体差はあるが、ランクAの冒険者を百人単位でかき集めなければ対処が出来ない程の存在じゃ」

 対処、か。討伐ではなく対処と言った。と言うことは、基本的に倒すことが難しい存在だということだと受け取って正解だろう。

「今回目撃されたドラゴンは、体長7メートル前後の成体竜です。3メートル前後の幼体竜と違い、討伐はほぼ絶望的な個体と言えるでしょう」

(ティア様。今の俺で倒せるでしょうか?)

 不安になって思わずティア様に訊ねる。すると――

『問題ありません。互角以上に戦えるでしょう』

 との答えが返ってきたので不安は解消された。

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