3話
『セイ。小町通りの近くでユーノが攫われました。奪還と制裁を』
(承知しました)
時刻は昼下がり。白昼堂々誘拐が起きるとは思っていなかったので少々驚いた。
表に出て一っ跳びで屋根の上に上り、屋根伝いに目標の小町通りと呼ばれる通りに辿り着いた。屋根の上から路地裏を探す。
『左です。角の肉屋の隣の小道があるでしょう』
(こっちですね、分かりました)
と、路地に入って少し走ると声が聞こえて来た。
「やったな、猫耳のアルビノなんて滅多に居ない出物だぜ!」
「おう、前から目ぇつけてたんだよ。高く売れそうだってな!」
白髪赤目の猫耳少女に猿ぐつわを噛ませ両手を縛っている二人の男が嬉しそうに話している。
だが、それを良しとはしない男がここに居る。
「そうか、それは残念だったな。お前らは城の牢が似合っている」
「「誰だ!?」」
「貴様らに名乗る名など無い」
誰何の声をバッサリ斬り捨てた鎧姿の俺を見て男たちは動揺する。
「め、女神の使徒様が何の用だよ」
こちらの素性を正確に読み取った男たちに一瞬で近付き、二度、拳を振るった。
「がはっ!?」
「ぐふぇっ!?」
あっさりと壁に叩き付けられて気絶する男たち。
「うちの子に手を出すとは愚かな・・・・・・」
誘拐犯たちを尻目に子供の方へ歩み寄る。
「ユーノ、一人で出歩いちゃいけないっていつも言っているだろう?」
困った子だとでも言うように声を掛ける俺。両手のロープと猿ぐつわを外しながら困り顔を向ける。兜で見えないだろうけど。
「ごめんにゃさい、院長先生。散歩したくにゃって、つい・・・・・・」
頭としっぽを項垂れさせて謝るユーノ。猫人族特有の「一人で気ままに散歩」がしたかったらしく、残念そうだ。
「まあ、取りあえずこいつらを憲兵に突き出して帰ろうか。マチルダにクッキーでも焼いてもらおう」
「うん、クッキー大好き。院長先生も大好き!」
よしよしと頭を撫でると嬉しそうに目を細める。鎧のゴツゴツした感触しかしないだろうに、それでも喜んでくれている。
その健気な様子に心を癒されながら、あまりにも孤児院の子供たちをねらうようなら裏組織の一つや二つくらい潰してしまおうかと本気で考えていた。
俺がこちらの世界に来てから半年余りが過ぎた。神殿や孤児院を建て、自宅? もできた。命の恩人の女神様からの信頼も篤く、使徒として彼方此方を飛び回っている。
ティア様は裏組織の存在を快く思っていない様で、今度時間がある時にでも大掃除しましょうか? と提案されている。その辺は俺としても否やは無い。
ただ、娼館や裏市なんかは裏組織の援助無しにはうまく回らないだろうから半壊くらいで留めとこうと思う。
閑話休題。
この辺りでは珍しい獣人族のユーノだが、二ヶ月前に奴隷商に追われているのを家族と一緒にひきとった。
ティア様が緊急事態だと言うので急いで駆けつけたら、父親は今まさに殺されてしまいそうな場面だった。
奴隷狩りしているような連中は葬ってしまっても良かったような気もしたが、既に捕まっている違法奴隷を解放するためには生きてた方が尋問もできるしその方がいいと判断してボルトスネークで無力化した。雷魔法の万能っぷりにしみじみとしながら。
その後の事情聴取でユーノ達親子に行き場が無いことが分かり、孤児院の部屋を貸している。
ユーノに一部屋、両親に一部屋で二部屋貸している。一部屋大体八畳くらいの広さなんだが、特に文句は言われていない。
先に来たコリント夫妻の所は。子どもが二人でも一部屋づつ与えられている。後に来たユーノ達バルト夫妻は一部屋を二人で使っている。そしてユーノが一人で一部屋使っている。コリント夫妻も二人で一部屋だ。
どちらの夫婦も仲睦まじい事だ。
そんなことを思いながら、ユーノと一緒にクッキーを作るマチルダを手伝う。
120人分ともなると一仕事だが(また増えた)、マチルダの手際は素晴らしく良かった。僅か20分で後は型をとって焼くだけとなった。生地を寝かせなくていいのだろうか? と、一瞬思ったが途中魔法を使っていたので、そのあたりも織り込み済みなのだろう。塾生魔法、といううのを最近になって知った。
片っ端から型をとっていく俺とユーノ。マチルダは焼くのにも魔力式オーブンと竈を同時進行で使って焼いていってる。魔力式オーブンも竈も、200人の孤児の食事を賄うために大きなものが孤児院の厨房にはある。と言っても120人分となるとッ相当の量だ。
20分ほどかけて第一陣が焼き上がる。それを大きな皿に入れて、第二陣が焼かれ始める。
俺はというと、炎の祝福の御蔭で暑さを感じないので竈に入れた大きな鉄板を掴んで取り出していた。上にのっているクッキーを大皿にザラザラと入れて、元の竈に戻すと、型にとってあるクッキー生地をのっけていく。
第三陣まで焼けば充分な量になるだろう。それまでは手伝おう、と思った。
しかし凄いもんだ。これだけの量なのに焼きむらが殆どない。流石はマチルダ、だ。感心しつつ手伝うのだった。
夕食後、腹ごなしに迷宮に潜っていると、また見慣れない魔物が居た。
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スピネルレオ
LV53
特殊:火炎無効化
スキル
火炎放射LV17 火炎爪LV19
◆
真っ赤な毛並みをしたライオン。鬣は金色でもの凄く豪華な出で立ちだ。こちらには後ろを向いている。
無造作に近づいて斧で首を刎ねようとしたら気付かれた。
「グルルル」と喉を鳴らして威嚇してくる。
と、突然口を大きく開けると――ゴウウッと炎を吐いた。
それを斧の一振りで吹き飛ばし、一っ跳びで距離を詰めて脳天に斧を叩き付ける。予想通りそれだけで方がついた。
ドロップアイテムはいつもの魔石と豪華な毛皮だった。毛皮は売らないで部屋に飾ろう。今の所、殺風景な部屋だし。
そう思っていたら、またスピネルレオと遭遇した。今度は三匹の群れだ。軽く片付けたが、今回はドロップアイテムが少し違った。
魔石は同じだったけれども毛皮が一つ、肉が二つだった。
〈スピネルレオ肩ロース〉
食べると火属性の適性が上がる。レア。
久々に来たな、魔法適正の上がるチート肉。よし、早速食べよう。
先刻見つけた小部屋まで戻って魔力障壁で周囲を囲い邪魔が入いらない様にして、アイテムボックスからフライパンを取り出す。フライパンの底を左手に乗せ、炎の祝福で温める後は肩ロースを豪快に焼き上げてく。
夕食後にも拘らず300gはありそうな肉をぺろりとたいらげた。塩と胡椒だけの味付けだったが、中々美味かった。
「さてと」
フライパンや食器をミネラルウォーターの魔法と洗剤で洗う。
洗い終わった後、魔力障壁の外側を見る。
そこには魔力障壁をガンガン叩くゴブリン達の姿があった。
ざっと13匹くらいか。食後の運動にもならないだろうが相手してやるか。
◆
御手洗 清 (セイ)
年齢16 男 LV68
称号:忘れん坊 迷子 魔獣殺し 戦女神の寵児 戦女神の信徒 冒険神の信徒
特殊:記憶喪失 適応補正 清めの手水 戦神の加護 冒険神の加護 炎の祝福
魔眼:麻痺LV5 看破LV7 選別LV4 暗視LV4(神)
スキル
攻撃補正LV35 被ダメージ軽減LV15 回避補正LV29 欠損再生LV1 盾殴りLV25 戦場闊歩LV35 第六感LV14 操練魔闘法LV19(神)
魔法適正
・水属性(高)・光属性(高)・雷属性(中)・無属性(激高)・影属性(高)・土属性(神)・火属性(中)
使い魔:コアトル
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