1話
「ほっ、よっ、はっ」
群がってくる3匹のメタルドレイクを、身を躱しながら斧で首を落としていく。
現在迷宮53階層。そう、遂に52階層を突破して最深到達階層を更新したのだ。戻ったらギルドにも申告しておかないと。
ギルドに報告して、ギルドカードで確認してもらった後は早々に神殿に戻った。
孤児院の方も順調に子どもたちが増えていっている。路頭に迷ってた一家を受け入れて、大人の人手も増えた。孤児たちの面倒を見るのに大人は多い方がいい。今では大人が二人増え、孤児たちも80人になった。
元々収容人数は200人を想定しているから、まだまだ部屋が余っているけれども。それでも4,5人でしっかり管理するとなると、これが中々難しい。
マチルダもレミリアも良くやってくれているし、勉強なんかの教育もしてくれている。神授のレリーフの効果でうちの神殿と孤児院は淡く発光し、聖域となっている。
敷地内で嘘をつけば神罰の雷でうたれ、痺れることになる。結果。素直な良い子に育っていく。しつけの必要性が一気に減ると、その分他に力を注ぎやすい。だから、勉強をさせている。読み書きと四則演算くらいは分からないといけない。
うちは、一番の年長さんでも11歳だから、この世界での成人とされる15歳まで4年ある。問題無く教育できるだろう。手に職がつけば何とかやっていけるだろうし、希望者には戦闘訓練も行っている。冒険者を目指すと言う子も多い。
そんな子たちに稽古をつけてやったり、一緒に野菜の皮むきをしたりして親睦を深めている。いつも鎧姿の俺を『院長先生』と慕ってくれる子どもたちの可愛いこと可愛いこと・・・・・・
親心というのが少し理解できるような気がする。
ゴルゴット商会や冒険者ギルドに、引き取り手の無い孤児は引き受けると宣伝してもらってる。実際それでうちの子が3人ほど増えたりもした。
だが、まだまだだ。受け入れられる孤児はまだまだ100人以上いる! 目指せ満室、孤児200人!
あ、いや一部屋はさるご夫婦が使っているんだったな。もしかするとこれから先もそういうことがあるかもしれない。となると、目指せ満室! ご家族歓迎! これだ!
いやどれだよ、おれ。少し冷静になれよ、俺。
そんなことを考えながら神聖魔法で少女の骨折を治療している。所謂お布施をいただいて、来訪された方々に治癒魔法を施している。
喜捨を募り、孤児院の運営に充てる。これも立派な神殿の有り方だったりする。
ぶっちゃけ、金貨4000枚以上の金を蓄えている俺にとっては多少のお布施などはした金でしかないけれど、もらえるものは有り難くいただいておこう。
今日は俺が担当しているが、マチルダやレミリアも神聖魔法が使えるので、二人のうちどちらかに任せることも多い。
「はい、いいですよ。立ち上がってごらんなさい」
「は、はい・・・・・・」
恐る恐る椅子から立ち上がる少女。
「すごいっ! こんな短時間かつ一回の神聖魔法で治るなんて!!」
「完全に折れていたのに、こんなにあっさりと・・・・・・流石使徒様だ」
付き添いの御両親が驚いているが全てはユスティア様の思召し。何も不思議なことは無い。何せ今日は午後から神殿に居ろと言ったのはティア様なのだから。
「すべては戦女神ユスティア様の思召しです。努々、ユスティア様への感謝の気持ちを忘れてはなりませんよ?」
一応釘を刺しておいた。俺じゃなくてティア様に感謝してもらわねば困る。
「はい、はい。ユスティア様への信仰は一層篤くさせていただきます」
何度も頭を下げながら帰ってゆく家族たちを見送って漸く人心地ついた。最近じゃあ俺が使徒だっていうのは知れ渡っていて妙に畏まる人が多くて肩がこる。
だけど仕方ない。ティア様の使徒たる者、万夫不当の豪傑でなくては。イメージは大切だ.へたれと気付かれないように厳めしい空気を纏っていなければ。
教壇に備え付けの椅子に座りひとりごちる。今日は来客があるらしいからまっていないといけない。勿論、ティア様の御神託だ。
暫くゆっくり寛いでいると、マチルダがお茶を持ってきてくれた。
「ありがとうマチルダ。嬉しいよ」
「いえ、使徒たるセイ様にお仕えするのが我が本懐ですので」
うーん・・・・・・堅いなあ。同じ神殿に住む家族だというのに。マチルダもレミリアも、一歩引いた位置からの会話になってる。
その空気は孤児たちにも伝わっていて、慕われてはいるのだが今一つ懐いてはいない。ぶっちゃけると、ボッチ感がぬぐえない。
うーん、やっぱり一緒に野菜の皮むきとかしたくらいじゃあ親密にはなれないか。鎧姿がいけないのかな? でも一緒に食事するときは兜を外しているし、それが原因とは思えないなあ……。
既に全身鎧の使徒として名を馳せているから、今更鎧を脱ぐのもなあ。第一、戦女神様の使徒として常に鎧でいるのは外せない要素だしなぁ・・・・・・。
などと考えていると神殿の正門から二人の人物が入ってきた。因みにマチルダはいつの間にか居なくなっていた。
「ようセイ。一ヶ月ぶりだな」
「元気そうで何よりだわ。ジルタルの神官戦士さん」
ジルタルの神官戦士ってのは通り名の様なもので、この都市以外でよく使われる二つ名みたいなものだ。
「ああ、二人とも久しぶりだな。どうだ、修行の成果は?」
「見ての通りだ。お前が看破を使えるのは俺の看破で分かってるんだぜ?」
「それじゃあ遠慮なく・・・・・・へえ、気功波を覚えたのか。スキルのレベルもステータスも大きく上昇しているな。一体何処で何をしてきたのか分からんが、相当パワーアップしているな。流石、ユスティア様の加護を得ているだけあるな。満遍なく鍛えられている」
「ヤミーの方は・・・・・・驚いたな、魔練功を習得したのか。スキルもレベルが大きく上がっているし、ステータスも大きく上昇している。
二人の顔がどこか得意げに見えるのは気のせいじゃあ無いだろう。
「二人共たった一ヶ月でよくこれだけのパワーアップが出来たな。驚いたよ」
「師匠の爺様にみっちり扱いてもらったからな」
レンドが嬉しそうに言う。続いてヤミーが。
「私もお師匠様に訓練を手伝ってもらったもの。魔練功の再現も手伝ってもらったわ。体外で魔力を練り上げる。中々に大変だったわよ」
「そうか。二人ともありがとう。俺との戦力差を埋める為に頑張ってくれて」
「ワンマンチームじゃ格好がつかないもの」
「ランクA冒険者最高峰とされている俺たちが足手まといになったんじゃ、それこそ面子が丸つぶれだ」
二人がここまで俺の戦闘能力を評価してくれているとは。有り難い。ようし、・・・・・・今の時刻は3時過ぎか。
「よし、今から50階層に行くか!」
勢い込んで言ってみたら直ぐに返事が返ってきた。
「おうよ、修行の成果を見せてやるぜ!」
「否やは無いわね。その為に修行したんだし」




