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10話

 神殿を後にした俺は、その足で市場まで来ていた。

 流石は王都、色んな出店や露店が軒を連ねている。俺は、迷宮都市でそうであったように肉の串焼きや雑穀、塩などを買ってはアイテムボックスにしまい込んでいく。

 迷宮都市でも定期的に繰り返してた事だ。アイテムボックス内には常に二、三ヵ月分の食料が備蓄されている。

 何か、不測の事態が起きた時の為にそうしている。念の為、串焼きなどは10本単位で確保している。有事の際などそうそう無いだろうが個人的にそうしたくてやっている。

 放出する機会が有るとは思えないが、着々と備蓄は増えている。

アイテムボックスは上限など感じさせない程に良く入る。実は薪や木炭なども備蓄していたりするのだが、そちらも増える一方だったりする。

 回復薬ポーション魔力回復薬あマジックポーションも、ちょくちょく買っているが、たまる一方で使う機会が無い。何だか無駄な事をしているようで、少し虚しい。

 狩猟用の麻痺毒なんかも蓄えてあるし、タオルや毛布のたぐいもある。節操なく揃っている品々に対し、自分の中の何がそうさせるのかとも思う。思う、が、つい買ってしまう。蓄えてしまう。いつか役に立つ時が来ればいいな、と自分をごまかしてまた蓄え続けるのであった。

 屋台を物見遊山で冷やかしながら時々買い食いしてはまたぶらりと練り歩く。気に入ったものがあれば大量に買い付け、アイテムボックスに放り込む。

 そうこうしているうちに腹が一杯になり、宿に引き返した。

 時刻は昼前、11時41分だった。宿からの食事は朝、夕の二回なので昼食は出ない。

 元々屋台で腹は膨れていたし、大人しく自室でゆったりした。王都の本屋へ行くのも良いかと思っていたが、いい感じにまどろんできたので昼寝シエスタと洒落込んだ。


 目が覚めると時刻は3時過ぎだった。

『あら、お目覚めですか? セイ』

(ええ、折角の王都だし、寝てるだけは勿体ないですから本屋に行ってきます)

『行ってらっしゃい』

 目覚めはよく、すっきりとしている。ただ、鎧姿のまま眠っていたので少し肩が痛い。

『本屋は幾つかありますが、ここからだと一本裏通りに入ったところが一番近いですね』

 相変わらず地理に詳しい女神様の案内で本屋に向かう。

『また伝記ものでも買うのですか?』

(そうですね。あとは面白そうなのがあれば嬉しいですね)

 裏道一本を隔てた本屋は本当に近かった。蔵書も豊富で10冊程買ってしまった。思ったよりも時間を費やしていたようで、時計を取り出してみると5時過ぎだった。

 宿の部屋に戻って買ったばかりの現代魔法論・上巻を読みふける。

現代の魔法は素養さえあれば大凡おおよそ何が出来るかが術者には分かる。その備わっている魔法の資質は、昔から伝わっている魔法によって上級、中級、下級に分けられた手本の魔術を使えるかどうかで判断しうんぬんかんぬん――

 思った程為にならない文字列を追っていると、ぐうぅ、と腹が鳴いた。

時刻は7時半。キリの良いところで本を置き、夕食を食べに一階に降りた。


 翌日、朝食の後は昼過ぎまで部屋でのんびり読書していた俺は、そのまま3時になるのを待って一階に降りた。

 宿の入口から外に出ると、扉の脇には紅蓮の六人と荒鷲隊の一二人、それにディアックさんたちギルド員がそろっていた。

「やっと来おったか。では直ぐに出発するぞ」

 どうやら俺が最後だったらしい。3時集合だったはずだが、皆早めに集まっていたようだ。なんだったら部屋まで呼びに来てくれても良かったのに・・・・・・

 今から全員で競りの会場に向かう。競り自体は朝からやっているが、例の魔石は目玉商品扱いなので夕方の5時を過ぎたころ漸く競りにかけられる。

 皆でぞろぞろと列をなして歩く。競りの会場は宿から近いので5分ほどで直ぐについた。

「5万!」

「6万っ」

「6万5千!」

 会場は体育館くらいの大きさで、中々に活気があった。今ステージにあるのはしくも魔石。こぶしよりも少し小さい大きさのものだった。

 魔石は、空気中から魔力を取り込み、溜め続ける性質を持つ。大きければ大きい程に溜め込んでおける魔力量も増える。主に魔道具の核として使用されるそれは、大きければ大きい程に希少であり、溜め込める魔力量も多い。

 一般的には魔石の色が透明なら魔力が空で、満タンになると濃紺色になるとされている。

 今、競りにかけられている魔石は濃紺色をしている。あの大きさなら半日もあれば満タンになるだろうから、使い勝手がよさそうだ。

 魔石の使用方法には幾つものパターンがある。まず一つは人力の魔力タンクとしてだ。術者の代わりに魔石から魔力を取り出して魔法を発動する。

 二つめは魔道具の魔力タンクとして。刻印や魔法陣を刻んだ道具に、核として装着して、魔力の続く限り刻み込んだ魔法陣の魔法を発動し続けるというものだ。

 三つめは魔石自体に魔方陣を刻印して効果を発動するものだ。一般的にはこの方法を使った魔法装置も魔道具として認識されている。ただし、大きな魔石ほど効果のあるこの方式は効果を求めるほどに高価で大きな魔石が必要となる。

俺が持ってきたラグビーボール大の魔石なら、瀕死の重傷さえ完治させる程の回復魔法を刻印できるだろう。逆にいざという時の為の切り札用の攻撃魔法を刻印することも出来る。

 そう思えばこそ、あの魔石の価値は金貨200枚をくだらないとも思うのだった。


「そろそろ儂らの持ち込んだ魔石が競りにかけられる頃合いじゃな」

 ディアックさんが懐中時計を見ながら言った。時刻は午後5時過ぎだった。

「さて、続いての商品は、こちら! 迷宮都市ジルタルより持ち込まれました魔石! なんと、前代未聞、空前絶後の巨大魔石だー!」

「「「うおおおおぉぉおぉぉぉぉ!!!」」」

 会場が沸き上がる。

「今回は同じものが合計10個持ち込まれています! 迷宮都市産、巨大魔石は今回は10個限りです。今回を逃すと次があるか分かりません。お早めにご決断を!」

 売り子のお兄さんが叫ぶ。会場はまだざわついている。

「それでは競りを開始します! 先ずは100万から!!」

「200万!」

「300万!」

「400万!」

 おいおい、あっという間に400万――金貨400枚まで値段が上がったぞ・・・・・・

入札しているのは身なりの良い人ばかりだ。きっと貴族だろう。

 既に充分すぎるくらい高値だがまだまだ値段は釣り上がっていく。

「500万!」

「550万!」

「600万!」

「650万!」

「700万!」

「750万!」

 結局、一つ目は金貨800枚の値がついた。二つ目は825万で三つ目も825万。以降は判で押したように金貨825枚の値がついていった。ギルドの出品分が全部で4100万。

今、今日最後の巨大魔石――俺の出品分ラス1――が競りにかけられている。の、だが・・・・・・

「900万!」

「900万が出ました! もういませんね!? 本日最後の巨大魔石、900万が出ました! もういませんね!?」

「1000万!!」

「「「おおおおぉぉぉぉぉ!!!」」」

「でたぁ! 出ました1000万ん!!! さあ、もうありませんか!? ありませんね? それでは最後の巨大魔石は1000万で落札となりました!!!」

俺が持ち込んだ分は5つ合計で4300万の値がついた。


「・・・・・・とんでもない値段になったもんじゃな。まさか800万とは」

 宿への帰り道、ディアックさんが困惑しながら言う。けれど、俺も同じ思いだ。まさかこんなにも値段が釣り上がろうとは、思ってもみなかった。

「取りあえず、これで今回のセイへの報酬は410万になったのう。かなり高額じゃが、安全な旅と高額収入の対価としては悪くない、か」

 今回の競りでの依頼の儲けはギルド側が3690万、俺が4510万となっている。

「まさか俺の方が儲ける結果になるとは思ってませんでしたよ」

「それは儂もじゃな。最後の一つが1000万の値がついたのは驚いたわい」

 宿へと帰って来た俺たちは丁度夕食時だったのでそのまま一階で食事をとった。


 翌日。早朝に集まった俺たちは、帰路についた。俺の方はマチルダさんとエミリアさんの二人と合流して。帰りの道も10日間ある。のんびりとした気分でスニーキングリザードの鞍上あんじょうに跨っていた。

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