2話
レンドたちと距離を置くことになった日の翌日。どうにも動く気がせずにベットの上でゴロゴロとしていた。
時刻は既に9時半を過ぎている。パーティーの一時解散が殊の外堪えているようだ。
折角実力ある人たちとパーティーを組めたのに、数日で解散となってしまった。たった数日でも金貨70枚以上を稼げたのに。俺が50階層よりもしたに行きたがったばかりに、解散となってしまった。
正直、所持金は金貨100枚を超えたし、敢て稼ぐ必要性も無いが。それでも、ティア様の威光を示す為にもっと頑張るべきだろう。
今でも、朝晩二回は必ず会話している。日中は、パーティーを組んでいるために話しかけるのは控えてもらっていた。
そのパーティーも一時解散となってしまった為、一度始まるとティア様との会話が止まらない。
『それで、セイ。今日はもう外には出ないのですか?』
(正直、今日は一日休みたいですね)
なんだか一気に疲れてしまったような気分だった。
『では魔練気のおさらいからいってみましょうか』
(はーい)
俺が宿屋でゴロゴロするイコール魔練気の修業をするとなっている。なってしまっている。なぜか。なぜだろう。
◆
翌日、更に気が重くなった俺はこのままではまずいと思い宿から出る事にした。
もはや馴染の全身甲冑を、アイテムボックスから取り出すと同時に着用する。はたから見たら、いきなり甲冑が現れたように見えるだろう。
黒い穴を経由しなくても鎧が出せて、しかも装着までできるんだ。俺の無属性魔法の秘めるポテンシャルは高いと思う。適正激高だし。どれだけの人に看破を使用してもそんな表示見たこと無いもんな。無属性なのに空間操ってるし。
ともあれ、まずは冒険者ギルドに行きますか。物理的にも重くなった腰を上げる。武勇の誉れには興味ないけれど、ティア様への恩返しなら喜んでやろう。
宿を出て大通りを歩く。あまりこの辺りをじっくりと見回したりもしなかったから、いつ通っても何だか新鮮な気分だ。
ギルドへは大通り沿いに行けばすぐだ。けれど、時折見かける露天商にも目が行ってしまう。
中級ポーションが三つで金貨1枚か。安いのかな?
『安いと思いますよ、普通は二本で金貨1枚ですから』
それを聞いて俺は露天商の方へと足を向けた。それと――
(心を読むのはやめて下さいってば)
ティア様への抗議を忘れずに行う。
「おい、中級ポーション六つくれ」
「へいっ毎度有。金貨2枚になります」
金貨を支払いポーションをアイテムボックスにしまう。
「お、兄さん空間収納持ちかい? それなら扱いの難しい毒薬なんかもある
けどどうだい? 空間収納があれば間違える心配も無いだろう?」
「いや、そっちは遠慮しておくよ」
すげなく断り、またギルドへと足を向ける。後ろからもう一度まいどっ、と声が聞こえた。
ギルドに着くとなにやら騒がしかった。どうやら三人組の男と一人の女の子が渦中の人らしい。三人組の方は何やら下卑た笑いを浮かべておりガラが悪そうだった。
「だからよお、言ってんじゃんか。色々教えてやるってぇ」
「ですから、結構です! 私はソロでやって行くので」
「いやいやぁ、危ないよ一人じゃあ。俺たちと一緒に行こうぜ」
「ついでに天にも昇る気持ちにさせてやるからさ」
テンプレだ。これがテンプレか、初めて見た。ラノベみたいだな、なんてまた現実逃避してしまう。
これ、誰か助けてやらないのかな、周りを見渡しても我関せずの人ばかりだ。
介入するの嫌だな、なんて思ってしまう自分に軽い失望を覚えた。
『セイ、わが信徒よ。卑しい考えを持つ者たちに鉄槌を下し、我が威光を示しなさい』
(ティア様。・・・・・・分かりました)
公明正大なる我が愛しの女神様のお告げだ。従うに否やは無い。改めて四人の方を見やる。
するとどうだろう、少女の方に目が釘づけになる。一言でいえば美人だった。小さな顔、切れ長の目、鼻も高く眉はキリリと凛々しい。背は低めで150センチソコソコだが、出るとこはしっかり出ている。看破によれば13歳らしいその美少女は、男三人を相手に一歩も引かずに言い争っている。
まあ、このステータス差なら、三人まとめてかかっても返り討ちになるだろうが。でもまあ、愛しの女神様がお告げだ。割って入っていく事にした。
「その辺にしたらどうだ、お前ら」
言いながら四人の中間あたりに立った。
「なんだてめぇ、すっこんでろ」
「出る幕じゃねーんだよ鎧野郎」
途端、浴びせられる暴言。ああ、テンプレだ。
「悪いが我が女神様がお告げでな、下卑た三下は許せんそうだ」
「はあ? 神殿でもねぇのに信託なんかくだるわけねえだろうが!」
そういう認識ってことはやっぱ俺は例外ってわけか。
『なにせお気に入りですから』
(心を読まないで下さいってば)
ともかく、あまり事を大げさにしたくないな。
「その子はお前たちが三人束になってもかなわない力を持っているぞ」
「なんだよそりゃあ、何でんなことッ分かんだよ。ああん?」
簡単には引き下がってくれないか、やっぱし。なら。
「お前のしょぼいレベル3の練気功じゃあ4倍近いこの子の練気功のレベルには全く通じないぞ。そんなんで何を教えるって?」
「ッ、こいつ鑑定持ちか!?」
「この子の実力はランクBに相当する。お前らの出る幕じゃない」
これで引き下がってくれないかな?
「そ、そいうテメーはどうなんだよ?」
あ、矛先がこっちに向いた。彼女の実力がBランク相当なら手が出せないもんな。
「偉そうなこと言って、おめぇもランクCソコソコなんじゃねぇのか?!」
俺は黙ってアイテムボックスからギルド証をとりだして見せた。
と、場がシンと静まりかえる。いつの間にか周囲の注目を集めていたようだ。
「お、おい。あれ・・・・・・」
「加護持ちの紋章にギルドお墨付きの印証。しかもランクはA。ギルド全体見回しても上層。上から数えた方が早い程強いってことかよ、あの全身鎧」
まわりがザワついているが気にしないでおこう。
「もう十分だろう。この子は俺が預からせてもらう。いいな?」
そう言って少女の腕を掴みギルドから外に出る。・・・・・・よかった、誰も追ってこない。
「勢いで出てきてしまったけど、大丈夫だったかい?」
もし何らかの手続きを行うためにギル尾を訪れていたのなら邪魔をしてしまったことになる。先程から一言もじゃべって居ないのも気になる。もしかして怒っているのだろうか、と恐る恐る振り返る。が――
「大丈夫です、依頼は受けた後なので」
可愛らしい笑みを浮かべた美少女がそこにいた。
「そうか、それなら良かった」
余計な事をしたかと心配してしまった。
「きっと、あのままだったらギルドの訓練場で勝負、なんてことになってたでしょうし。本当に助かりました、どうもありがとうございます」
深々と下げられた頭にむしろこちらが恐縮してしまう。これは話題を変えないと居心地が悪い。
「迷宮、行くだろ? 入口まで一緒にどうかな」
「はい喜んで。あ、私イリーナと申します」
「俺はセイ。よろしくな」
はい、よろしくお願いしますと返事が返ってきた。しかし可愛いなこの子は。13歳とはとても思えない程大人びた顔立ちをしている。
迷宮の入口まで来た。
「俺、ポータルだからそこの道の端から転移するよ。またね」
「はい。今日は本当にありがとうございました」
彼女もポータル持ちみたいだからどこかで転移するんだろう。手を振りながら転移する俺を手を振り返して見送ってくれた。




