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1話

 翌日。昨日と同じくギルドの前で待ち合わせた俺たちは迷宮の攻略について話し合っていた。

「じゃあ、お前は昨日のうちに50階層まで行ったんだな?」

 とレンドが訊いてくるので。

「ああ、ユスティア様の試練を乗り越えた」

 そう返す。するとヤミーが。

「私たちは、昨日の45階層が最深到達階層なのよ」

 と言うので、

「じゃあ今日は45階層から行こうか」

 と提案した。

二人とも、そうしてくれると有り難い、と言うのでそうなった。

 ◆

 ここの迷宮は、40階層から先は人工物の様な様相だ。

 とは言っても、相変わらず石造りなのは変わらない。天然の洞窟じみた内装から、切り出した石が積まれた建物のような内装に変わっただけだ。

 現在48階層。そんな洞窟の内部を進んでいると、大きな部屋に出た。そしてそこには横たわったでかい鬼が居た。大きさは5メートル弱だろうか。看破によるとオーガジャイアントと言うらしいことが分かった。

「お、おい。あれ、オーガジャイアントだぞ」

レンドが震えた声でいう。

「っ――」

それを聞いたヤミーが息をのんでいる。

「ら、・・・・・・ランクAAの化け物じゃない」

「ああ、頭か心臓を確実に潰さないと直ぐに再生する正真正銘の化け物だ」

 恐ろしげに言っているがそんなに強い相手じゃないのが直感のスキルで分かった。でもそうか、二人にはきついのか。それなら仕方ない。

 俺はオーガジャイアントに向かって無造作に歩き出す。

「お、おい。やめろ、逃げるぞ!」

 焦った声で止めるレンドに背中越しに手を振る。

「大丈夫だって、昨日のユスティア様の試練に比べれば大したことないさ」

「んなっ、いや、でもよ」

「まあ見ていてくれ」

 しどろもどろになったレンドに心配するなと声を告げて俺はオーガジャイアントの方へ歩いていく。

 俺が近づくと同時にオーガジャイアントは体を起こした。

「行くぞ」

 ぐおう、とオーガジャイアントが応じる様に唸る。

 あらためて見るとオーガジャイアントの体躯は脅威だった。5メートルに届きそうな巨体は圧迫感を感じる。だが、それだけだ。

 女神斧ことユスティアックスを構え、相手の間合いぎりぎりぐらいの所で立ち止まる。すると、驚いたことにオーガジャイアントが大きめの唸り声をあげると、アイテムボックスの魔法を発動して斧を取り出して見せた。

「魔法使うのかよ。でもまぁ、大したことじゃあないな」

 そう言って腰を落としいつでも動けるようにする。取り出した斧の分だけ広がった攻撃圏内に入ってしまったためだ。

 既に体中に練気功を循環させてある。更に、魔力を斧に、盾に、鎧に、と練り上げながら循環させる。これでこちらの準備は整った。

 オーガジャイアントの斧がうなりをあげる。ユスティアックスで難無く弾き、一瞬でオーガジャイアントの首元まで飛び上がり、一閃。

 首を真っ二つに斬断した。

「昨日のドラゴニュートに比べれば大したことないな」

 ずしん、と大きな音を立ててオーガジャイアントの巨躯が倒れ、光の粒子に変わっていく。

 部屋の入口で唖然としている二人を尻目にドロップアイテムを確認する。

「ふむ、オーガジャイアントの角とミスリル製の斧か。斧はこのままじゃあ大きすぎて使えないな。鍛冶屋で鋳潰して人間サイズの装備に仕立て直してもらえばいいかな」

 言いつつアイテムボックスに斧と角を放り込む。

「な、大丈夫だったろう?」

 二人のもとへ戻りつつ訊く俺。なるべく何でもないように言ったつもりだが、嫌味な感じになっていないかちょっと心配だ。

「お前は本当に人間か?」

 開口一番そう問われて遺憾いかんに思った。

 ◆

 時刻は昼過ぎ。50階層への階段の前で意見が割れた。

 俺は進む、二人は現状維持。

「俺たちじゃあ実力が足りない。50階層から先へはついていけない」

「そうね、私たちには根本的な実力が足りていないものね」

 だそうだ。俺よりもベテランの二人が言うんだ、そうなんだろう。

「じゃあ、40階層から49階層を行ったり来たりしようか」

 そう言うと二人はあからさまにホッとした表情を見せた。

 それから8時間程迷宮を彷徨ってワープポータルで帰途についた。

「今日も大漁だな。一人増えただけで今までの倍以上の稼ぎだ」

 レンドが嬉しそうに呟く。

「本当、有り難い限りだわ」

 換金を済ませ等分に分配して今日のお勤めは終了だ。

 ギルドを出ると、いつもならそのまま解散。と言うのがここ数日の流れだったのだが、少し付き合えと言われてとある酒場に連れてこられた。

「セイ、悪いが暫く迷宮に潜らずに休養したい。ついでに修行し直したい」

 席に着くなり前置き無くそう告げられた。

「そういう事なら私も、暫く修行し直したいわ」

 ヤミーもそれに乗る。

「俺たちじゃあ実力が釣り合ってないんだ。もっと腕を磨いてから出直したい」

「私たちじゃあ50階層以下にはついていけない。時間を頂戴」

 返す言葉は思いつかなかった。ただ、そうか。とだけ答えた。

「どのくらいの間待てばいい? 無期限は流石に無いだろう」

 冗談めかして言う俺にレンドは一ヶ月は欲しい、と言った。

「私も、前に言っていた魔練功を試してみたいわ。取りあえず一ヶ月欲しい」

 そう言う二人に俺は嬉しく思った。俺と、並んで立とうとしてくれている。頼りきりになるのを良しとしない、その姿勢に感じ入った。

「分かった。一ヶ月待つよ。」

「ありがとう、俺たちの我がままに付き合わせて」

「いいや、嬉しいよ。二人とも俺に頼りっぱなしを良しとせず、こう言ってくれてるんだし」

 そういうと二人とも照れくさそうに笑った。

「ようし、それじゃあ新たな門出に祝杯と行こうぜ!」

「「賛成ー!」」

 初めて飲んだ酒はほろ苦くみるような味だった。

 ◆

 2時間ほどして、大分酔いもまわってきたところで解散となった。

「それじゃあ、又な。飲みの誘いならいつでも受け付けてるからな」

「修行の為の一ヶ月だっての」

「まあ、息抜き位ならね。宿を変えるつもりは無いんでしょう?」

「ああ、青い鳥亭のままだと思う、変えるときは一報いれるよ」

「わかったわ。それじゃあ又」

 三人それぞれ違う方角に歩き出す。けれどそれはまた同じ道を歩くためだ。少なくとも俺は、そう思っている。


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