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9話

 翌朝、待ち合わせの9時前にギルドに行くと、二人の姿は既に入り口の扉の横にあった。

「おはよう。悪い、待たせたか?」

と、声を掛けると、何かを話し合っていた二人はこちらに振り向いた。

「おはよう。私たちもさっき来たばかりよ」

「おう、おはようっ。俺もついさっき来たところだ。気にすんな」

 恒例のあいさつの後で三人連れ立ってギルド内を歩く。パーティー申請は簡単に済ませられたので、すぐにギルドを後にする。

 神殿に寄って祈りを済ませ、路地裏にひっそりと移動し、ポータルを設置して一気に40階層にまでワープした。

 ◆

「やっぱ一瞬で深い階層に来れるのは有り難いな」

「ちょっと待って。天井に光石が有るってことは、ここって40階層!?」

 のほほんとじゃべるレンドに、焦ったような声を出すヤミー。

「キリがいい方がいいかと思って。昨日の午前中を使ってポータルを設置しておいたんだよ」

「「40階層に!?」」

「綺麗にハモったな」

 チームワークの良いことで。

「何かまずかったか?」

「まずくは無いが、急造のパーティーでどこまでできるか分からんだろうが」

 至極まっとうなことを言うレンド。しかし。

「チームワークも何も、俺が最前線で壁役として敵を引き付けてその間に数減らしてもらうってだけだろう?」

「その鎧だって新品だろう? どの程度の攻撃ままでなら大丈夫かとか調べないと」

「この鎧も盾も神器だからAランク相手でもそうそう壊れないさ」

「「・・・・・・」」

二人とも黙り込んでしまった。

 ◆

 羽の生えた虎の魔獣、飛虎をアイスリベットの魔法で壁に縫い付けた。

その傍らで俺が引き付けていたスケルトンウォーリアをレンドが切り裂く。

「ボルトスネーク!」

 ヤミーが壁に縫い付けた飛虎にとどめをさす。


「いやー、大漁大漁。普段の戦闘とは大違いだぜ」

「本当、ドロップアイテムも良質なものが多いわ」

「この三時間で金貨30枚は稼いでるぞ! 一人金貨10枚だ。とんでもないな!」

「それだけあれば、研究費用にも充分だわ!」

 二人ともおおいに喜んでいる。パーティーを組んでよかったと言ってもらえたのはとても嬉しかった。

「しかも、セイのアイテムボックスがあるから、まだまだ稼げるぞ!」

「喜んでもらえて幸いだ。おれも初パーティーでこんなにうまくいくとは思わなかったよ」

「セイの壁役。あれは本当に壁だな」

 と、レンドはしみじみと言う。

「そりゃあ、俺は壁役なんだ。壁として機能しなかったら意味ないだろうに」

「っ新手よ!」

 通路の向こうからくるトロルの群れに対して俺が一番前に出る。

 トロル3体か。余裕だな。

 アイスマシンガンを打ち込んで怯ませようとしたら、それだけで勝負がついてしまった。昨日よりも明らかに威力が上がっている。

 トロルの脂身を回収しつつステータスを確認してみる。

 ◆

御手洗 清 (セイ)

年齢16 男 LV47

称号:忘れん坊 迷子 魔獣殺し 戦女神の寵児 戦女神の信徒 冒険神の信徒

 特殊:記憶喪失 適応補正 清めの手水 戦神の加護 冒険神の加護

 魔眼:麻痺LV3 看破LV5 選別LV3 暗視LV4(神)

スキル

攻撃補正LV17 被ダメージ軽減LV9 回避補正LV12 欠損再生LV1 盾殴りLV8 戦場闊歩LV14 第六感LV6 操練魔闘法LV10(神)

魔法適正

・水属性(高)・光属性(高)・雷属性(中)・無属性(激高)・影属性(高)

使い魔:コアトル

 ◆

 あまり大きな変化はないな。如何してあんな威力が出たのだろうか?

『お答えしましょう。ズバリ、操練魔闘法の不随効果です!』

(ティア様!? どう言うことですか。操練魔闘法の不随効果?)

『貴方はいま、無意識に操練魔闘法の練り上げた魔力で魔法を使用しました。だからこそのあの威力なのです』

(成程、只の魔練気と操練魔闘法との違いが如実に現れた結果という訳ですか)

『この世界の一般的な魔練気では気と魔力を両方同時に練り上げます。気は本を正せば体内に吸収された魔力。

 元々は同じものなので気と魔力を同時に練り上げる一般的な魔練気でも魔法に使用しようのと思えばできなくはありません。しかし、制御がとてつもなく難しいのです。

 ゆえにこれは、あなただけの必殺技と言えるでしょう。それでは失礼』

 (ティア様、説明ありがとうございました)

 ◆ 

「おいおい、そんな隠し玉持ってたのかよ。驚いたぜ、トロルがミンチになるのなんかそうそうおがめないぞ」

「射程も威力も申し分ないわね。こんなに強力な魔法は神授の魔法くらいしか思い当たらないわね」

 魔法は自前だけど、威力の上昇は操練魔闘法の効力だから・・・・・・

「半分正解、ってところかな」

「残りの半分は何よ企業秘密何て言わないでしょうね」

 不満そうに近寄ってくるヤミーに

「別に、神授の魔練気の付属効果ってところかな」

「魔練気?」

 レンドが首を傾げる。

「俺がユスティア様から与えられたスキルの中に、操練魔闘法って言うのがあって。それは普通の魔練気と違って気を体の中に魔力を体の外にと、別々の流れを操作しなくちゃいけない。

 けれど、既存の魔練気と違って、練り上げた気でしっかり肉体を強化して、そのうえで練り上げた魔力を体表にまとうんだ。最終的には体内で合一するのが秘伝らしい。

で、ここで注目してほしいのは、体表に流れているのは練り上げられた魔力なんだ。と、ここまでくればもう分ったろう?」

「成程。気の混じってない純粋に魔力のみを練り上げる魔練気を使用して魔法を使う。と、そういう訳なのね」

「ご明察。つっても、ユスティア様の受け売りだけどな」

「気と魔力を別々に、か。俺も練習してみるか」

 そうぼやくレンドにハッパをかけるようだが。

「迷い人には出来る奴が多いんだそうだ。逆にこの世界の人間には難しいってユスティア様が言ってた。後は神授のスキルを授かるか、だそうだ。授けてもらえるように一層信仰を篤くするんだな」

 と、教えてやる。因みに俺は最初っから出来たしスキルも授かってる。

「ようし、これからも一層信仰するぞ!」

 気炎を上げるレンド。物理的に熱くなっている気がするから不思議だ。

「アドバイスとしては、魔力だけを練り上げる事に慣れる事、かな」

「「魔力だけを・・・・・・」」

 思案する二人に追加で説明する。

「気だけを練り上げるのが練気功。気と魔力を同時に練り上げるのが魔練気功。で、今じゃ伝わってない技術らしいけれど、魔練功ってのもあったらしい。

 練気功と魔練功。この二つを合わせた荒業が魔練気功と呼ばれたんだそうだ。

 ただし、気と魔力の両方を同時に練り上げるのは、エネルギーが飛躍的に高まる為身体に対する負担が大きい。だから今現在、肉体を純粋強化する練気功と練りの甘い魔力を合一させる魔練気功が主流になっている。

 それでも、この世界で強いとされる人物たちは、奥の手として魔練気を使いこなす。

 さっきも言ったが気と魔力を混ぜながら練り上げると体への負担が大きい。だから奥の手、だ。使った後の反動が大きすぎて一時的に弱ってしまう。

 だからユスティア様の編み出した操練魔闘法は気と魔力を別々に練り上げて、そのあとで合一させるんだ。

 この方式なら何時間維持しても疲れはするが、身体にかかる負担は段違いに軽い」

 「へー、そうなのね。魔練功なんて技術があるなんて。・・・・・・練習してみようかしら」

「随分と詳しいな。迷い人のはずなのに。なんでだ?」

 疑うというよりも純粋な疑問だった様なので正直に答える事にした。

「三日間ほど宿屋でゴロゴロしていた時に、ユスティア様から教えてもらったんだよ。魔練気の修行がてらに」

「三日間ゴロゴロ・・・・・・」

「修行に信託付き・・・・・・」

 二人が呆然と呟く。なんか変なこと言ったかな?

「信託で長時間神様と会話するなんて聞いたこと無いぞ?」

「しかも神殿ですらない宿屋の一室でなんて、普通なら信じない所だけど・・・・・・

「いえ、もう深く考えるのはよしましょう。セイは迷い人なんだから、普通とは違うのよ。きっと」

「そうだな。迷い人だもんな。普通とは違ってもおかしくは無いだろう」

 何処か遠い目で言う二人。二人の言う通り異世界人の俺は普通とは違うのだろう。

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