4話
ふと、気付いたことがあった。
この一週間足らず、忙しく動きすぎた。今日は一日ベッドの上で過ごそう。
そう決めてから、既に三日が経っていた・・・・・・
『セイ、そろそろ迷宮に潜ってはどうですか? 英気は十分に養われたでしょう?』
『宿に籠ってないで、稼いで来たらどうですか?』
・・・・・・確かに、この三日間食事以外はベッドの上から動いてない。ごろごろするか、ティア様と話すか、ごろごろしながら魔練気をコントロールして維持し続けるかだった。
(そうですね、いい加減外に出る事にします。)
ティア様への返事をしつつ起き上がる俺だった。
◆
神殿で祈りを捧げ、ギルドに行く前に盾を買っていこう。
神殿に行かずとも、俺のティア様への敬いは微塵も揺るがない。何せ宿屋のベッドで祈っただけでも神授の魔法を一つ授かったほどだ。
だが、念のため御神体も拝んでおこう。俺にとっては是非も無い。ティア様への忠誠を示すは今だ。と言わんばかりに一心に祈る俺。
ついでだ、冒険神の御神体にも祈って行こう。
ッポーン!
突然甲高い音が鳴り響いた。覚えのある音だ。
『我が名は冒険神グライジョル。我に対する信仰が篤いことを認め対価を授けよう。何か希望の物はあるか?』
やっぱり信仰音(俺命名)だったか。対価、ねぇ。
何が良いだろう? 差し当たってこれというものが・・・・・・
そうだ、盾にしよう。神器の盾なら強力だろう。
(初めましてグライジョル様。セイと申します)
『うむ、始めまして。それで、何か望む者は無いか? 金などでも良いぞ?』
え、金もくれんのかよ。凄いな信仰特典。うーん、でも・・・・・・
(俺の望みは盾です。ラウンドシールドかタワーシールドが欲しいです)
『よし、分かった。盾を授けよう』
その言葉を聞いた瞬間目の前に光り輝く盾が現れた。丸いラウンドシールドで、畳んだ翼の美しい意匠がしてある。中心には宝玉だろうか? 透き通った青い水晶が象嵌されている。
『銘は公翼の盾という。使うものの意思一つで、閉じた翼が広がり上下左右に防御フィールドが発生する。ラウンドシールドとしても、身体全体を覆う盾としても使える。防御フィールドの形状はある程度変化可能だ。縦に長く伸ばせばタワーシールドの代わりにもなろう』
またもやチート級アイテム。重さはラウンドシールドのままで、タワーシールドの防御力を得られるとは・・・・・・
(グライジョル様、ありがとうございます!)
『これからも、ついでで良いから我を信仰してくれ。ではな』
(はい、ありがとうごさいます)
神授の武具はとんでもないものが多いな。謎材質でできた腕への固定具もあるし把手もある。これなら、両手に武器を持つこともできそうだ。
兜の下で満面の笑みを浮かべながら後ろを振り返ると、神殿中の視線が俺に突き刺さっていた。ざわざわとした気配が広がっている。
神器がどうとか言ってるみたいだが、皆驚いた様子でいる。信じられん、
なんて声も聞こえる。珍しいのかな? もう三つも神器を貰っている身としてはなんでそんなに騒いでいるのかさっぱりだ。
◆
ギルドで目ぼしい依頼を探すが、大したものが見つからなかった
コボルドやオークなどは常時依頼で討伐以来が出ているみたいだ。
増えやすい種だからだろうか? ゴブリンの常時依頼もあったし。
ともかく、今日はこのまま迷宮に潜ろう。パーティーメンバーを募るのはもう少し戦闘慣れしてからにしよう。少なくとも、初見の魔物を極力減らしたい。
盾役にしても、受けたり、逸らしたりすることに慣れないと。少しでも早く慣れておかないとな。
そんな思いと共に今日も迷宮に向かう俺。
◆
|フライングマーリン(空飛ぶカジキマグロ)の大群を50匹ばかし、斧とメイスで片っ端から叩き落とした。
今日も騒乱に愛されている実感と共に達成感が体を満たす。戦女神様のお気に入りも楽では無いが、いとしの女神さまからの試練に対する達成感を感じられる為、そう悪くも無い気がしてきた。
ドロップアイテムの切り身|(一つ一つが馬鹿でかい)を回収して更に迷宮の奥へと進む。
『セイ、次の十字路を左に曲がってください』
(左へ? 何かあるんですか?)
進むにつれて剣戟の音が聞こえてくる。――厄介ごとのにおいがする。
『窮地に陥ってる者たちがいます。颯爽と現れ私の威光を知らしめてください』
(助太刀ですか。わかりました)
内心の不安は置いといて、今こそ信徒としての見せ場と自分を奮い立たせる。
十字路を曲がると、すぐに大部屋になっていた。肌が黒く、大きな体のオーガが大剣を縦横無尽に振り回している。
戦っているのは――三人! 三人ともこっちには気が付いていない。こちらには背を向けて前衛の剣士が注意を引き付け、更に軽装の女の双剣士が動きまわり集中できないように全身あちこち手当たり次第に攻撃している。後衛なのだろう、ローブ姿の魔法使いが精神を集中させている。
どうやら何らかの魔法を使って攻撃力を上げているらしく、双剣士の方は刃が赤熱化している。
それでも傷が浅いのか、みるみるうちに再生していく。
剣士は練気を使ってオーガの怪力に対抗しているようだ。
「二人とも下がれ!」
三人のうちの最後の一人、ローブ姿の男が叫んだ。
「フレイムレーザー!」
看破によると神授の魔法らしい。これは出番無かったかな。
そう思った時――
オーガはよく見ると体中に呪文のような赤い文言がびっしりと書かれていた。
と、そのびっしりと書かれている全身の文言が光ったと思ったら――
ヒュン、と風切り音を残して一瞬で三人の後ろに回り込んだ。まずい!
「うおおおお!」
雄たけびを上げながらオーガに突っ込む。勿論魔練気を使いながら。
「壁役は任せろ! 今のうちだ!」
言いながら左のメイスを一振り、大剣を持ったオーガの右肩から先が吹っ飛んだ。
ダンジョン内では念のためいつも発動させている、清めの手水の浄化の力との相乗効果でメイスが輝いている。
「グガアァッ!」
こちらに向いたオーガは口から炎を吐いてきた。あごにシールドバッシュを叩き込んで強引に炎をせき止める。
これで、一瞬で間合いを詰めた俺に脅威を感じるはず。右肩も吹っ飛ばしたし、ヘイトコントロールは完璧なはずだ。
その瞳が怒りに染まっていることを間近で確認しつつ、三人に声を掛けた。
「早く、今のうちに畳みかけろ!」
早くも出血が止まり始めている右肩に脅威を感じつつ、催促する。
「誰だか知らんが恩に着る!」
{助太刀感謝します!」
剣士と双剣士から礼の言葉を受け取りつつ魔法使いの方は、と様子を見ると既に精神を集中し始めている。
「キャスリング!」
剣士が魔法を唱えた一瞬後に持っていた長剣が槍に変わっていた。
空間魔法だろう。便利そうだな、参考にしよう。アイテムボックスを使って一瞬で装備の換装ができるように試そう。と、ひっそりと心のメモ帳に記す。
「サンドスライサー」
また何らかの魔法を使ったのだろう。唱えた後は遠めの間合いからいつでも離脱できるように――さっきの魔法を喰らわない間合いにいつでも下がれるようにしている。
「ワールウィンド!」
双剣士がそう叫ぶと風を纏い、移動速度が格段に上昇した。1秒の間に幾つもの斬線が走る。
しかし、二人の攻撃はギィンッ、キンッと硬質な音を立てて弾かれ、碌にダメージを与えられていない。俺はオーガを持ち上げながら壁まで突進した。
オーガは拘束を解こうと手足を振り回している。
必殺の一撃が来るのが分かっているのだろう。オーガが魔法使いを警戒している。もうじき魔法が完成する。もういつでも放てそうだ。
「みんな下がれっ」
ローブの男が叫ぶ。二人は飛びのいた。
だがこのままではまた避けられるかもしれない。下がりざま俺の目が怪しく光る。
「麻痺の魔眼」
オーガの体を一瞬拘束する。
――そして。
「フレイムレーザー!」
今度こそ、超高熱の炎熱に焼かれオーガが溶ける様に崩れる。
看破によるとダークオーガというらしい。ランクはBBだ。シャドウウルフよりも斬撃や刺突に耐性のある体をしている。
と、そこまで読んだところでダークオークが完全に光になって消えた。
「いやぁ、助かった。ありがとうな」
槍に持ち替えた騎士が声を掛けてきた。長身だが大柄ではなく、背高ノッポという感じだ。装備は全身ではなく各所を覆う鎧だ。
「我が愛しの戦女神さまの威光を知らしめるためだ。気にするな」
と恰好つけてみたところ。
「おお、戦女神というとユスティア様の信徒か!」
何やら食いついてきた。
「ああ、加護持ちだ。威光を示せとお告げになられた。礼代わりに、時々でいいからユスティア様に祈りを捧げてくれ」
そう言いながら元来た道に向って離れていく。元々さっきの十字路は真っ直ぐ進むつもりだったからだ。
「あの一瞬で魔眼を発動するなんて・・・・・・」
双剣士の女性が何やら呟いていが、構わず離れていく。
すると、ローブのフードの中身は優男だった魔法使いから。
「せめてもの礼だ、とっておいてくれ」
そう言いながら金貨を一枚手渡された。
「有り難く貰っておくよ」
手を軽く振りながら去っていく。途中でアイテムボックスに金貨を収納して。
◆
御手洗 清 (セイ)
年齢16 男 LV35
称号:忘れん坊 迷子 魔獣殺し 戦女神の寵児 戦女神の信徒 冒険神の信徒
特殊:記憶喪失 適応補正 清めの手水 戦神の加護 冒険神の加護
魔眼:麻痺LV3 看破LV5 選別LV3 暗視LV4(神)
スキル
攻撃補正LV11 被ダメージ軽減LV4 回避補正LV6 欠損再生LV1 盾殴りLV3 戦場闊歩LV8 第六感LV4 操練魔闘法LV6(神)
魔法適正
・水属性(高)・光属性(高)・雷属性(中)・無属性(激高)・影属性(高)
使い魔:コアトル




