1話
迷宮都市。そう呼ばれる町がある。迷宮の入り口を擁する町だ。
その町は他の町村には無い迷宮産の物品を取扱い、栄えている。
その町には色々な人種、職業、価値観が溢れている。人も物も、煩雑に入り乱れている。
そんな町に入る為の大きな門に続く列、その列の中に俺こと御手洗清は並んでいる。
周りは色々な人で溢れかえっている。商人風の者。旅装の者。中には着の身着のままといった風体の者も少なくなかった。
その中で俺は、冒険者と一目でわかる旅装をしていた。判別は簡単だろう。身軽なコート姿で、腰には斧とメイス。荷物は手荷物とも言えない水筒と、背負うように持った大きめの革の袋のみ。
それだけの軽装にも拘らず、俺の踏み出す一歩は物理的に重い。右足、左足と踏み出す度に靴底が地面にややめり込む。
俺が特に太っているという訳ではない。むしろ痩せぎすかもしれない。
ではなぜに俺の脚にかかる重量が重いのか。
それはアイテムボックスの魔法によるものだ。不思議空間に幾らでも荷物を収納できる代わりに、収納した荷物の分の重量が全身にのしかかる。
そんなことになっているのは、俺の、そう己の未熟のせいである。まだアイテムボックスの魔法を上手く使いこなせていないから、作りだした不思議空間から逆干渉が起き、結果として収納した分の重量が術者である俺の全身に圧し掛かってきているわけだ。
そして問題の空間収納の中身だが、鎧が数着と斧等の武器がいくつか入っている。
俺は現代日本の高校生だったはずだ。それが気が付いたら戦場の跡地で死体と仲良く添い寝していた。
どういう訳か異世界に迷い込み、世界の境界を越えるにあたって自己進化を遂げた俺の体はアメコミのヒーローばりの強さを手に入れたらしい。代償に記憶を失ったが。
らしい。というのはもちろん他者による伝聞だからだ。
『もうすぐ順番が来ますよ。セイ』
そう、この声。戦女神たるユスティア様が、教えてくれたのだ。因みにセイというのはこの世界に合わせた偽名だ。本名は御手洗清という。
かつて、右も左も分からない俺に
『言語に関しては、不思議パワーで何とかしてあげます。貴方がた異世界人はこの世界に繁栄と、時にトラブルを巻き起こします。それはこの世界の停滞や腐敗を防いでくれます。貴方がたは我々神に存在を望まれているのです』
と言って助けてくれたのだ。
何もわからない俺に、魔法を使うためのイメージの仕方。肉体や精神の強化がされたこと、世界を越えた衝撃で記憶を失ったのだろうという推測を教えてくれた。
いきなり目の前に魔獣が現れた時に初めて掛けられた言葉が――
『チュートリアルを始めますか?』
の一言だった。一気に冷静になったね。同じ様にこの世界に迷い込んだ異世界人(多分日本人だろう)が、そう言えば生存率が上がるはずだと言ったんだとか。マジグッジョブすぎるぜ先輩。
そんなわけで、チュートリアルの女神さまに色々聞いて、アイテムボックスの魔法造って、火事場泥棒した鎧詰め込んで。最寄りの村に行って。
冒険者ギルド行って、冒険者になって。数日でベテランと目されるランクC冒険者になって。加護の事がばれて、丁度いいやと騒いでいる連中を煙に巻くついでに村を出て。
そんで今、ここにいる。
身分証代わりのギルドカードを提示して、門をくぐる。
門の前の通りは活気に満ちていた。色々な人がいる。大型の馬車がすれ違ってもまだ道幅には余裕がありそうだというのに、その道幅を一杯にするほどの勢いで人混みが発生している。
(ティア様、神殿には今すぐに行った方が良いでしょうか?)
俺はユスティア様を愛称で呼んでいる。他ならぬユスティア様ご自身がそうしろと言ったからだ。
『いえ、後でも良いでしょう。貴方の信仰心は疑っておりませんし』
そりゃ、命を助けてもらった恩がある。信仰ぐらいしたっておかしくない。ましてや実際に戦女神さまだし。
ともあれ、取りあえず宿を探すとしよう。風呂付の。
◆
一泊二食で200ルピーという高級な宿に部屋をとった。各個室に湯船のある、この世界に於いては富豪用としか思えない宿だ。
鍵を受け取り、部屋に荷物を置いて直ぐに宿を出る。この都市の中心にある神殿に向かう為だ。
ティア様は後でいいと言ったが、なるべく早い方がいいだろう。
等と考えつつ雑踏をかき分けていった。着いた先は大きな神殿だ、横幅はちょっとした学校位に広い。多神教らしく、入り口の門の上には三つの紋章がある。
そのうちの一つは俺のギルド証に刻まれているものと同じものだ。
戦女神ユスティア様の紋章。ここはユスティア様を含めた三柱の神が祀られている神殿である。門の上の紋章は祀っている神を示している。
この神殿の場合は、ティア様の他に、大地母神エスタと冒険神グライジョルの二柱が祀られている。
そして、この神殿の裏手に、迷宮の入り口がある。
迷宮から無事に帰れるようにと祈願する者から、無事帰ってこれたことを報告するものまで。本当に大勢の人間が来るのだそうだ。
中には、旅人に行商人、旅芸人などの人たちもいる。旅の無事を冒険神グライジョルに祈っているのだろう。折角だから、後で俺も冒険神に祈っとこう。迷宮に入るわけだし。
神殿の左に冒険神、右側に大地母神、正面にティア様が祀られている。
三か所それぞれに、大きな御神体の像がある。祈りを捧げながらよく見てみると、ティア様を象ったとされる神像はとても美しかった。
『だから言ったではありませんか。美神で通っていると』
(ティア様。人の心を読まないで下さいよ)
『・・・・・・その、どう思われてるか気になったもので。つい」
(ともあれ、ステータスには反映されたみたいですよ? 信徒の称号が増えましたし)
『そうですか。それでは後ほど神器を授けましょう』
(え、あの斧の他にですか?)
『ええ、今度は身を守る防具です』
(え! それは有り難いです。ありがとうございますユスティア様)
『礼を言うのはこちらもですよ。良質な信仰心は我々神々をより強大な存在するのですから。さあ、早く人目につかないところへ行きなさい。不用意に目立ちたくないと言ったのは貴方ですよ』
(じゃあ、冒険神様の所で祈ったら直ぐギルド寄って迷宮に潜ります!)
そそくさと移動してぱぱっと祈った俺は迷宮に入るべく、神殿の裏口に回った。
御手洗 清 (セイ)
年齢16 男 LV19
称号:忘れん坊 迷子 魔獣殺し 戦女神の寵児 戦女神の信徒 冒険神の信徒
特殊:記憶喪失 適応補正 清めの手水 戦神の加護
魔眼:麻痺LV2 看破LV4 選別LV2 暗視LV1(神)
スキル
攻撃補正LV5 被ダメージ軽減LV2 回避補正LV4 欠損再生LV1 盾殴りLV1 戦場闊歩LV4 第六感LV2 操練魔闘法LV2(神)
魔法適正
・水属性(高)・光属性(高)・雷属性(中)・無属性(激高)・影属性(高)
使い魔:コアトル




