10話
無意識だったが、斧に魔力を通していたらしい。斧には傷一つなく、かつ、ダウソキングの角を根元からぶった切ってしまっている。
パイクビートルの時もそうだったが、角をへし折ると、へし折った角が消えずに残り、ドロップ品として入手できたりもした。
今回もそれに近い。ダウソキングの角が光って変化した。
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<ダウソキングの角剣>
魔力により電撃を発し、雷属性の魔法を強化できる逸品。頑丈。
<ダウソキングの肉>
食べると雷魔法の適正が上昇する。レア。
<ダウソキングの皮>
非情に頑丈な皮。防刃性能と耐魔、耐雷属性に優れている。
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結局何もせずにコアに任せてしまった。流石マヤ・アステカの全能神。
ともあれ、危機は去った。やっぱいきなり覚悟が要りそうな戦い何て出来ないな。
だけど、コアトルが居れば万が一の時も安心だ。これならBランクのダウソで自分がどの程度強いのかが測れる。試してみよう。
長い首を伸ばすような噛みつきをヒラリと躱す。脇腹を通り過ぎた首を抱えもむように左腕で抱えて、右手の斧で叩き斬る。
横から別の雌ダウソが食らいついてくる。分断した雄ダウソの首を噛ませて、その隙に頭に斧を振り下ろして一撃。
「ふう、まだまだ余裕があるな」
ダウソの番を狩ること3組目。ランクBは俺にとって脅威にはならないらしい。団体さんが来ても、まあ何とかなるだろう。
これがランクAとなると分からないが。充分に戦えるんじゃなかろうかと思う。コアも居るし、よほどのことが無い限り死なない気がする。
「シャーッ」
漁夫の利を狙って木の上からソースネークが落ちてきた。
左の頭上から降ってくるそれを腰を落とし重心を後ろに移しつつ、仰け反りながら躱しざま蹴り上げた。
ぐしゃり、と頭を蹴り砕いたのが分かった。
ダウソ2体とソースネークが光になって虚空へと溶けていく。斧に着いた血糊も消えるから、手入れが楽でいい。手入れ何てしたことないけれど。
こうやって、倒すと消える存在を魔物とか魔獣と呼んでいるらしい。
ワイバーンやグリフォンなんかは魔獣だそうだ。ただ、ドラゴンは違うらしい。
生物として一段上だとかなんとか。ティア様は物知りだな。全知という訳でもないらしいのに。
『そこは神として、でしょう。伊達に永く年を重ねていませんよ?』
ティア様の歳か。・・・・・・雉も鳴かずばなんとやら。気にはすまい。
『時にセイ。我が可愛い信徒よ、何故私の斧を使わないのですか?』
ああ、あの斧ですか。
(いや、何か使うのが勿体無く感じてしまいまして。よほどのことが無い限りは使わないと思います。それこそAランク魔獣とかが出て来たら使いますよ?)
『そうですか。贈り物を大切にしてくれるのは嬉しいです。ですが、私は戦神で渡したのは斧です。戦場で存分に振るいながら私の名を声高に叫んでもらえるのが、私としては一番ありがたいのですが・・・・・・』
「す、すいません。一応切り札として伏せていくつもりでして」
思わず声に出して謝ってしまうおれだった。
町に戻って、ダウソの角や鱗、皮などをギルドで売却した。するとどうだろう、あら不思議。冒険者ランクがCになった。ギルドに貢献したと見做されたようだ。
ギルドカードには強さがお墨付きな証として斧のマークが付けられている。これは、ギルドが同ランクの中でも秀でた戦闘能力があることを保証するマークだ。
俺の場合は斧だが、剣を使うやつは剣の、魔法が得意な奴は杖のマークになる。俺には切り札の斧もあるし、斧マークにしてもらった。
「セイさんは凄いですね。たった4日足らずでCランクになるなんて」
ギルドの受付嬢が賞賛してくれる。ここはアピっておくか。
「俺には戦女神たるユスティア様の加護があるからな。今日の朝、使い魔を貰ったくらいには守られている」
ザワリ・・・・・・と、ギルド全体がどよめいた。
今の聞いたか、とか。嘘だろ、信じられねえ。などといった声が大半だ。
少し不安になってくる。何かあるのだろうか? 堪らずに目の前の受付嬢に訊いてしまった。
「何でみんなどよめいているんだ? 何かまずかったか?」
「何言ってるんですかセイさん! 使い魔を授かる程のユスティア様の加護なんて、ここ数十年聞いたことも無いですよ! 確か、百年くらい前には数人ほど居たんだとかなんとか」
受付嬢の目が輝いている。そんなにも憧れビームを照射されても、どの位凄いのかさっぱりわからん。百年に一人の逸材ってことか?
「アイミから聞いた話は本当だったんですね! ブレススネークを授かったなんて、普通は信じられないですが、本当にユスティア様の御加護を授かっているならおかしな話じゃありませんし!」
一言言い終える度に、何故かこちらに詰寄ってくる受付嬢に圧力を感じる。
「あの、受付嬢さん」
仰け反りながら両手を前に出して困ってますアピール。
「あ、すみません。失礼を・・・・・・」
恥ずかしそうに浮かしていた腰を元の椅子に落ち着ける受付嬢さん。ぺこりと御辞儀する仕種がとても可愛らしい。多分年上だけど、癒される雰囲気だよな。この人。
「あの、私の事はミーナとお呼び下さい」
受付嬢さんはミーナさんというらしい。それはともかく周りがざわざわ煩い。もうお暇しよう。
「じゃあ、ミーナさん。お疲れ様です」
席を立って踵を返そうとしたら――
「あ、セイさん。お待ち下さい」
なぜか止められた。何故だ。
「はい? なんですか?」
振り返り、問い返す。
「加護の証明をして頂きたいのですが。先程に御自身で明かしてらしたし、特に隠している訳でもないのですよね?」
加護の証明、って。
「どう証明したら・・・・・・」
と、困っている俺に。
「こちらに手を置いて、神の名と加護を受けていることを宣言して下さい。それだけで十分です」
そう言って石版的なものを取り出した。一番上に文字が書いてあり、ティア様の不思議パワーによって読めるその文字は『嘘発見器』と書いてある。
『セイ。私の可愛い信徒。ついでに自分が異世界からの迷い人であることも宣言なさい。貴方の事を色眼鏡で見ている連中も納得するはずですよ』
ティア様の言う通り、と。
「俺は戦女神ユスティア様の加護を受けている。あと、俺は異世界からの迷い人だ。元居た世界は平和で、荒事とは無縁な生活を送っていた」
またもやざわり、と周囲がどよめく。貴族のボンボンじゃなかったのか。とか、やけにとっぽいと思ったら平和ボケのせいだったのかよ。とか。
・・・・・・とっぽくて悪かったなぁ。どおりで、やけに話しかけずらい、非友好的な雰囲気だと思ったら。そんな風に思われてたのか。
「じゃあ俺はこれで」
今度こそとばかりそそくさと帰途につく俺だった。が、
「待ってくださいセイさん」
またも呼び止められてしまった。なんなのさ。
「ギルドカードをお出しください。加護の印に、戦女神ユスティア様の紋章を記しておきます。加護もちの方は貴重ですので。
加護を授かった神様からは、宣伝や勧誘の指示も出るでしょうから。腕っぷしをアピールして、加護を授かっている神を宣伝するのが一般的ですし。
実績や冒険者ランクが髙ければ、同じ神を信仰する者も増えるでしょう。」
成程。そんなのもあるのか。
「隠すつもりも無いのですよね?」
俺としては頷く以外の選択肢はない。ティア様の偉大さを知るがいい。
宿に帰り、自室でギルドカードを眺める。
俺の名前とランクが横書きで記され、その下に斧のマークとユスティア様の紋章が重ねる様に記されてある。
「きゅー」
コアが頬にすり寄ってくる。それで思い出したが、宿の人にコアトル(|使い魔)の事伝え忘れてた。普段は服の中で腕や胴に巻き付いたりしてるから、一見しても使い魔が居る事は分からないだろう。
まあ、丁度いいさ。明日、迷宮都市に行こう。
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御手洗 清
年齢16 男 LV19
称号:忘れん坊 迷子 魔獣殺し 戦女神の寵児
特殊:記憶喪失 適応補正 清めの手水 戦神の加護
魔眼:麻痺LV1 看破LV3 選別LV2
スキル
攻撃補正LV4 被ダメージ軽減LV2 回避補正LV4 欠損再生LV1 盾殴りLV1 戦場闊歩LV4 第六感LV2
魔法適正
・水属性(高)・光属性(高)・雷属性(中)・無属性(激高)・影属性(高)
使い魔:コアトル(ブレススネーク)
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