1話
稚拙な駄文を失礼いたします。
ある日、目が覚めたら戦場にいた。意味が分からなかった。
戦場と言っても、今まさに戦闘が行われているわけではない。正しくは戦場跡だろう。彼方此方で死屍累々だ。正直気分が悪い。
そりゃこんな光景見て気分がよくなるような奴は居ないだろうけれど。
周囲を見る限りゲームに出てきそうな西洋風の鎧甲冑の死体も少なくない。他にも、やっぱりゲームに出てきそうな革鎧やら法衣的なトーガ的なのとか。機械らしい機械も見当たらないし、多分これあれだな。
実は最初からそうじゃないかと思っていたが、おそらく異世界転移だろう。
城でも牢でも魔方陣でもなく、戦場に呼び出される、か。何か格好良くないかそれ。俺自身は別に、百戦錬磨の傭兵とかじゃないんだけれどもね。
よく見ると、山と積まれた死体には焦げたものや凍ったりしたものが幾つも見受けられる。
これは恐らく魔法、ないしそれに類する不思議技術があるに違いない。少なくとも超科学とかではないと思う。繰り返すが機械の類は見当たらないぞ。
それで、そんな中で俺はというと、屍の山の傍らに呑気に寝ていたようだ。横を見ると、すぐそばの死体は上半身が無い。断面見ちゃったけど凄くきれいに真っ二つだぞ? 別に断面がぐちゃぐちゃだろうが、吐き気を催すことには違いないけれど。
徐に、その下半身の傍らに転がっているメイスを拾う。武器が無いと不安でしょうがない。武骨でずっしりと重たいそれは手に馴む・・・・・・
ということも無く、握っていても非現実的で、違和感しか感じない。それでも、こんな状況じゃあ丸腰よりはましだろう。
この下半身さんはメイスの持ち主だろう。腰にメイスを入れておくらしい革袋がある。
ベルトと一緒にそれを外して自分の腰にメイスをぶら下げる。うん、こんなところで何も持たずに突っ立ってるよりは万倍ましだな。
それにしても見渡す限りが死体だらけで、実際に死体を触ったりしたが、俺自身はそれを特に何とも思っていないようだ。気分は悪いけれどな。
というか、目覚めた後は、まず最初に襲ってくるような存在が居ないか確認すべきだったようにも思う。いや、死体のインパクトが凄くて・・・・・・
いや、それならなおさら安全確認を優先するかな? 普通。
安全か、身を守る武器は多い方がいいよな。あっちの死体の腰にある短剣、かっぱらおう。それ以外はいいや。鎧とか着ながら動ける自信ないし、剣術とかの心得もないし。
それに、どうも落ち武者狩り的な行為は粗方終わった後の様な気がするな、これは。残ってる武器や盾なんかは、損傷が酷いか、武骨で飾り気がないか、だからだ。そう思うのは。
どっちにしろ、目ぼしいものを探せるような心得も無いし適当でいいや。使えれば良いだろう、刃毀れもしてないし。
ここで気付いたが、元の世界の事が良く思い出せない。記憶喪失、というやつか。家族構成はおろか自分がどんな人間だったか思い出せない。そのくせ文明レベルや漫画ゲーム何かの情報は覚えている。不思議なもんだ。
名前も覚えてる。御手洗清。それが俺の名前だ。よかった、名前すら覚えていなかったらきっと不安で押しつぶされてしまう。
あとは、そうだな。定番のステータスはあるのかな?
「メニュー表示」
・・・・・・何も起きない。
「ステータス」
今度は脳裏に情報が浮かび上がる。
◆
御手洗 清
年齢16 男 LV3
称号:忘れん坊 迷子
特殊:記憶喪失 適応補正 清めの手水
魔眼:麻痺LV1 看破LV1
スキル
攻撃補正LV1 被ダメージ軽減LV1 回避補正LV1 欠損再生LV1 盾殴りLV1 戦場闊歩LV1 第六感LV1
魔法適正
・水属性 ・光属性 ・無属性
◆
「おいちょっと待て忘れん坊って何だしかも迷子かよ! なんで、どっちも態々情けない表現なんだよ! これ称号じゃねぇよ蔑称だよ!」
殆ど息継ぎせずに捲くし立てた。いや、言わなきゃいけないと思った。
「称号の効果とかあんのかな?」
腹立ち交じりに呟いて詳細を見てみると、説明文には母性本能をくすぐる。庇護欲が増す。と書かれていたマジでなんだこの称号・・・・・・
「グルルル」
いきなり獣の唸り声が聞こえて、慌ててそちらを見る。すると体長が3mくらいありそうな黒い狼の様な生物がそこにいた。
明らかにこちらを捕食対象として見ている気がする。
どう考えても思わず大声で突っ込み入れたせいで注意を引いたな。おのれステータスめ。「おのれ俺のステータスめ」って早口言葉っぽくない?
いかん、思わず現実逃避してしまった。そんな場合じゃない、こういうのは先手必勝なんだ。たぶん。
『チュートリアルを開始します』
は? なんだと?
『目の前にいる魔獣を倒してください』
いきなり頭の中で声が響いた。チュートリアル、か。
・・・・・・オーケー、取りあえず分からんが分かった。分かったが分からん。
分からんということが分かった。だから、分かったところで分からん。
ヤバイ混乱してる。落ち着け深呼吸しよう。スー、ハー。
話は奴めを倒してからだな。よしっ、やるぞ!
自分でも驚くような速度で、飛び出す様に黒い獣に肉薄する。まずい、何も考えずに飛び出してる。どうしよう、無意識に短剣掴んでるからこれでいいや。
腰の後ろに差した短剣を右手で逆手で抜きざまに、黒い獣の顔面に殴るように叩き付ける。
バギィンッ
獣は吹き飛ぶように転がったが短剣はへし折れた。刃が通らないようだ。それならそれでいい。奴は今隙だらけで転がっている。そして俺の左腰には頼もしい武器がある。
向こうは狼みたいなフォルム――山犬ってああんな感じなのかな?――に3mもの巨体だ。逃げきれはしないだろう、鼻も利くだろうし。
だったら攻撃あるのみ、だ。
撲殺系のセオリー通り(?)メイスを両手でもって頭をフルスウィングで狙う。ひるんでいるであろう今が最後のチャンスだ。何度も何度もメイスを叩き付ける。
目茶苦茶に振り回していたせいで何度も逸れて地面を叩き、それに焦ってまた出鱈目に振り回す。
気が付いたら黒い獣は既に動かなくなっていた。
ほんの少しでも楽しんでいただければ幸いです。