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1章『結婚の意味』―1

 憂鬱な気分とは裏腹に、太陽は嫌がらせと言わんばかりに日を浴びせてくる。

 冬とはいえ紫外線の気になる今日この頃。

 朝早起きしてちゃんと体に日焼け止めを塗ったのは正解だった。

 息を吐き、真っ白な空気が見えることから寒さを確認する。

 本当に寒い。何で女の子はスカートなんだろう。

 せめてスパッツぐらい履かせてよ、そう心の中で呟くが現実はソックスが申し分程度に脛を隠すぐらい。

 私は女という性別に生まれたことを少し後悔する。

 男の子だったら冬も楽なんだろうな。

 人繁く通行人の中から男の子を見つけると、履いているズボンに視線を下ろした。

 足を完全防備できるズボンが羨ましい。


――――私が男の子だったらズボンを3着ぐらい履きたいのに。

 

 不可能なこととは分かっているが多少は望みつつも、やはり校則は守らなければいけないものなので、私も仕方なしにスカートを守る。

 というよりも立場上守らないといけないのだが。




「――――あっ、南生徒会長」



 

 その言葉に私は何とも言えな笑顔にながら手を振った。


――――慣れないな、この感じ。


 生徒会長になってから早2ヶ月。

 皆にとって私が学園の顔になりつつあった。

 だけど私としてはもう次期生徒会長の選挙を始めたほうがいいと思う。

 このまま私がスカート履きたくないから不登校ってなる前に早急にすべき。

 いや、しなきゃマズイ。

 そんな惰性生徒会長は校門を過ぎるところで10人ほどに声をかけられていた。

 皆が皆面白おかしく私を弄るのだ。

 これは由々しき問題。

 よし、次の議題はこれにしましょう。


 腹いせに一つ仕返しを思いついたところで後ろから聴き慣れた声が。




「とーもみ♪」

「あ、れい!」




 ぎこちない笑顔から自然体な笑顔に。

 少しばかり茶髪がかったショートカットの子は私の親友だ。

 小学生の頃からともに人生を歩んでいき、大学に行っても絶対に仲良くすると約束した仲。

 



「しっかし、友美もすっかり人気者になっちゃって」

「もー。他人事だからって…………馬鹿にされてるだけなんだからね」



 

 怜は悪戯っ子のような笑みを浮かべながら私の肩を叩く。

 その時に崩れてしまった肩甲骨辺りまで伸びた黒髪を指でとかしながらただす。




「そういえば話変わるんだけどさ。最近面白いこと聞いたんだよね」

「面白いこと?」

「うん。聞きたい?」

「もったいぶらずに言ってよ」




 気を許した仲だけに見せる笑顔で私は問うた。




「はいはい――――それがね、最近夜の校舎で出たらしいのよ」

「出た…………って、もしかして」

「そう。『幽霊』が」




 ゾクッとした。

 小さな頃からホラーものを苦手とする私にとって、幽霊という言葉は5本の指に入るほど苦手な言葉。

 そのせいか無意識のうちに怜を叩いていた。




「痛い痛い」

「ばーかっ! 私が嫌いなこと知ってるでしょ」

「知ってるけど、まだ朝よ? え、朝でもダメなの?」

「………………うん」

「――――かわええっ!」




 そして「結婚しよう」なんて言われながら私は抱きつかれる。


――――結婚。


 私にはよくわからない言葉だ。

 意味なら分かる。

 形式上、男と女が結ばれることだと。

 だけど、何を持って結婚するのか。何を基準に結婚をするのか。

 だいたいその人にとって結婚する相手とは、いつどのようにして会うのか。

 私には分からないことばかりだった。

 いつかいい人と出会うよね、これはガールズトークのネタになりやすいが、いい人って何がいい人なのか。

 私には理解できないし、理解したくもない内容。

 だけど人間はいつしか結婚しなければいけない。

 そうしなければ人類は衰退してしまうから。


――――でも私は結婚とかいいかな。


 冷静な顔になりながら抱きついている怜を引き剥がす。




「うーん。やっぱり友美いい匂い」

「何かキモいよ。私何もしてないし」

「違うんだよなー。後付した匂いじゃなくて、底から漂うこの香り!」

「そう言われてもね」




 そして間を空けると何がおかしいのか二人は軽く笑い合う。

 私はこの時が楽しい。

 理由は分からないけど、この時が楽しいことだけは理解できる。

 一生怜といれればいいのに。そうすれば幸せなのに。


『だけど、それは不可能なこと』




「ね、見て」



 

 怜の指差す方向には見知った顔が。

 バレー部の水嶋海斗――――校則違反であるにも関わらず見た目をよく見せるワックスがテカテカと陽光を反射させるような人間。

 私にとってはそんな人間だが、




「かっこいいね」




 怜にとっては真逆な存在。

 思い人である。




「……そうだね」




 人はいつしか人を好きになる。

 これが世の常であり、絶対だ。

 私にとって好きな人なんかいないが、それが異端であり怜が正常である。

 だけど何だろう。私の絶対的な判断が違うと言っている。

 彼じゃない。怜に合うのは彼じゃない。

 そうは語りかけてくるが、親友の言葉を無下にはできず、私は青空を見ながら相槌を打つことしかできなかった。




「あーあ。私もあんな彼氏がいたらなー」

「やっぱり彼氏って欲しいもの?」

「そりゃそうに決まってんじゃん。彼氏いらないと思ってるの友美ぐらいじゃない」

「そうなのかなー」

「そうよ」




 ゆったりと歩いていた二人だったが、長話も過ぎたのか下駄箱にたどり着く。

 上履きに履き替え2年生の階である3階に向かおうとしていたところだった。

 見知らぬ女子生徒が、私たちの方に歩み寄ってくる。

 リボンの色からして1年生だろうか。



「――――あの」

「…………え、私?」




 まさかとは思っていた私は素っ頓狂な声を出して応答する。




「は、はい。その、もしよろしければ――――放課後お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」




 私は首を傾けて疑問を表したつもりだったが、彼女にとってはそれが同意に見えたのだろう。




「じゃ、じゃあ放課後生徒会室に行きます!!!」




 話は勝手に進められて、私は困惑で頭痛を覚えた。

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