リンクの鼓動
実話を元にした作品になります。
書く事により、作者本人も非常に落ち込みがひどくなる為、連載についてはかなり間隔が空く事になると思われます。
その点は十分にご理解頂きますよう、お願いいたします。
もうすぐ、うちの猫が死ぬ事は予感ではなく、確信だ。
このままではいずれ息が途絶えると言う確信。
過去――
昔から私の家は動物園と言われるくらいに、動物を飼っていたことがある。
現在は犬のダックスフンドと猫、たぶん普通の日本猫だろう。
以前で言えば、ハムスターも鳩やアヒルも飼っていた。もちろん、食用としてではない。動物と共に生きてきた家族と言ってもよい。
今回というよりも今、書き残す事は「リンク」と名づけられた猫の話である。
さて、この猫「リンク」が、この家に来た経緯は妹の子供。つまりは私の甥っ子にあたる、3兄弟の末子が捨て猫を見つけたことから物語は始まった。とここまでは、どこにでもある捨て猫の話である。と言ってもどんな人間だって、猫だって独特の物語があるだろう。よくある話の一つだが、ちょっと話を聞いてくれると、これを書いている私も悲しさが安らぐかもしれない。
死ぬという現実から目を逸らすために、何かを書くことで誤魔化しているといってもいいかもしれない。
実際、先ほどまで悲しみに殴打されて誰かに見られれば、一目でその目が赤く腫れていることに気付くだろう。
話は戻るが甥っ子がうれしそうに片手に生後2か月くらいの子猫と言うには少し大きめの捨て猫と、反対の手に持たれた甘栗の袋と共に、この家の敷居を跨いだ。
この時はこの猫の運命は明るい未来ではないとは誰もが思うまい。
ちなみに私の母、甥っ子から見れば、祖母にあたるのだが孫からの頼みに迷う様子もなく、わが家族に迎える事を承知したらしい。
そして、他からの反対もなく、あっさりと家族として受け入れた。普通の家では珍しいのかもしれないが動物の家族化に抵抗はなく、子供のお願いにあっさりと陥落した。
そんな状況も知って知らずか、その猫は警戒する用もなく、部屋の中を甥っ子と追いかけっこをし始めた。
普通、初めてくる場所では警戒するのが動物の本能だと思うのだが、今までもここに住んで居ましたとばかりの暴れっぷりに変わった奴だと思わずにはいられなかった。
そんな猫にでもくる儀式はある。どんな家でも動物が家族の一員となる為にやっておくべき事「名付け」であろう。もちろん、今回も例にもれず家族たちで、いろいろ案は出る。
「マロンだよ!」
甥の末っ子の言う名前に
(食べ物かよ!)
(クリかよ!)
(さっき、こいつ栗食べてたよな……)
家族の反応は声に出なくても、そんな思いが含まれた笑いで感じ取れた。
しかし、あまい。今までも最後は私のつけた名前が最終で選ばれる事は、もはや最初から定められた筋書きのようなものだ。
「残念。このこの名前はリンクだよ」
なんとなく、この猫、つまりはリンクに家族を繋ぐと言う役割を与えたかったからである。
「リンク? そっか、リンクか~。じゃ、リンクおいで!」
あっさりと受け入れる甥っ子の素直さに、君自身がまるで動物のような素直さだと思ったが、もちろん口にはしないのは大人の対応であると、口元に笑みを浮かべて満足しておく。
「そう、君はリンクだ。リンク、リンクっ、リンクー!」
2,3日は名前が定着するまでは、用がなくても呼ぶことは大目に見てほしいところである。
問題があるとすれば、この時はリンクがオスなのかメスなのか正直わからない状態だった。
結果としては後々でオスと判明するのだが、オスとしては微妙なネーミングなってしまったことだろうか。
ただ、それ以外は問題もなく家と家族に馴染んでしまったわけではあるのだが、リンクをこの家に持ってきた、甥っ子は舐められているのか、よく追い掛け回された事はトラウマにならなければよいだけである。たぶん。
現在――
キーボードを打つ手を止めリンクの様子を見る。
じっと私を見つめているその目は私の動作を見逃すまいと弱々しくも目を閉じる事を拒否しており、重い呼吸音を繰り返しながらも生きる事を諦める様子は見られない。
「明日まで持つのだろうか」
部屋で一人つぶやくも返答出来る人間はおらず、私のキーボードをたたく音とリンク命の音だけがこの空間を支配している。
「一人にはしないから見つめてなくても大丈夫だよ」
理解したかどうかは分からないが、舌をペロリと出した事だけは見えた。
(準備はしておいた方がいいかもしれない)
今までの経験から察した事だった。
過去――
家族に加えられて1か月経過したが、思った以上のやんちゃっぷりを見せるようになってくるリンクの様子にメスではないのでは? と言う思いは強まる一方だった。
「今まで何匹も飼ってきたけど、これだけの暴れん坊は初めてかもしれないわね」
母の言葉に家族全員が同意したことは、当然の結果と言える状態だった。
朝5時に起床して家の中を一人で全力疾走を繰り返し、寝ている人間が居れば、上からお腹を踏んで飛び越えていく。
思わず「うっ!」との声を発する共に家族は起こされるわけである。
それも仕方がない事で食べる量が尋常ではなく、この家に来て1か月、生後3か月程度で4キロを超える成長を見せたのである。
みなさん考えてみてほしい。4キロの砲丸が寝ている状態でお腹に落とされる感覚を。
当然――
「こらー!」
となるわけである。
もちろん、これだけに留まるわけもなく、猫を飼っていればどこの家でも恒例の障子やぶりに始まり、襖すらも穴を開けてしまう始末。
「これでメスなら、とんでもないおてんば娘だ」
とは悪戯をされた時の家族の決まり文句だった。
これは後でオスだと分かった時にリンクにとっては失礼だったかもしれないが、体の成長が早い割にかなり性器がかなり小さく、どう見てもメスにしか見えなかったのである。リンクには事情を察してもらいたいものである。
ただ、オンとオフのスイッチが激しいところがあり、疲れると爆睡する。
一日に20時間寝るところは他の猫と変わらないが、寝るときはイビキをかき、寝言も言う。
更にひどい時は目を開けて白目で寝ているときもしばしば……。
家族にとっては人が寝てると邪魔をするくせに、自分が寝る時は一切の遠慮も警戒もない姿に、悪戯心を擽られることは仕方がないと私も賛成票を投じるしかない。
(リンク、君が悪いのだ。安心して寝させはしないよ)
こうして毎日の応酬戦が繰り広げられた。
我が家の家族に迎えられて2か月がたつ頃だった。体重が5キロを超えたのだ。
人間の赤ちゃんの生後3か月くらいに並んだ事に笑いしか出ない成長は留まる事を知らず、これは10キロとか超えるスピードじゃないかな? と母と話題になったことがあった。
ちなみに我が家ではミニチュアダックスフンドという、訳ありな黒い物体もいたりするのだが、今回は猫が主役であるのだから、出番は待ってもらうしかない。辛抱していてもらおう。
その黒い物体と並んだ姿は変わらないくらいの大きさに、犬が猫のリンクに遠慮と警戒気味である。
ただし、その遠慮が災いしてからなのか黒い物体君の餌まで手を出しており、ますますその成長が加速していくだった。
気が付いた時にはリンクの体重は6キロを超えていて10キロが見えてきたんじゃないかと母と本気で心配したものだった。
こちらは実際、心配要素としては明るい方で、外の世界の興味を持ち始めたことの方が心配の種となっていた。と言うのも、私が学生時代の自宅が動物園と言われていた頃だっただろうか?
それを友達も近所も納得する程に、猫も犬も鳥も飼っていたことがある。
そして同時に、それだけの死を見てきた事でもある。
我が家の動物の長い眠りつく経過は、多く見られる病死や衰弱死が圧倒的に少ないのである。
特に犬と違い繋がれていない猫は外への興味を断つ事は非常に難しく、いつか外の世界を知ってしまうのだ。
これは人間も同じことを言えるかもしれない。親の元を離れて外の世界に飛び出す……。
だからこそ、狭い家の中だけで満足させる事が出来るはずもない。
結果、頻繁に外に出るようになる。
そこに追加条件として、我が家の前の道路は田舎道にも関わらず、高速道路ですら可愛く見えるほどのスピードで走る車が多かった。
実際、8割くらいがその餌食となって家族を悲しませるのだった。
母は危険だからと閉じ込めておくのは可愛そうだと、外に出る事を無理をしてまで抑える事はしなかったが、子供をお腹に抱えた妊婦のままで死んだ猫がおり、現在では外に極力出さないようにしていたのだ。
「外に出る事を覚えなければいいけど……」
母の口から出た心配の言葉は当然、私も同意見だった。
現在――
リンクの様子は悪化をたどる一方だった。
私を見る目は閉じられる事はなかったが、明らかに光を失い始めており、もう見えているかも定かではない。
息は深くなり、口での呼吸に変わっていっているのだ。投げ出された腕には力が見られず、呼吸音が悲しげな、別れの言葉に聞こえたのは錯覚とは思えなかった。
(思っている以上に早いかもしれない……)
まだ太陽が昇るには早い時間だが母を起こす為、母の寝室に向かったのだった。
過去――
半年が経ち、心配した10キロに届く事もなく、何とか6キロで成長も安定してきた様子にある意味、残念な気持ちも少々持ちながらも十分立派な姿に呆れの方が大きかった。
この頃になると、もう一つの心配していたオスなのかメスなのかの判断は判断の付く程度にはなっており、やはりオスである事に家族からは納得の声しか聞こえなかった。
ただ、心配していた外への興味は増すばかりの様でキッチンの窓から、外の世界を眺める事が増えたように思えた。
近所の野良猫も家の裏に来る事が増えて、その声と様子を見ていたリンクの外への興味心にに出てしまうのは近いかもしれないと感じ始め、私と母の大きな心配になっていった。
更に心配に追い打ちを掛けるように、リンクの外見程に内蔵の成長が追いつかないからなのか、小便の方に血が混じっているところを時々見かけるようになっていた。
それと同時に時々辛そうに座っている姿を見せており、餌の量や質を変えて改善を試みていくことになったのだった。
読まれた方はどうお考えでしょう?
この作品を通して、動物を飼うという事の難しさを少しでも理解して頂き、ペットへの愛情を益々深めて頂ければ幸いです。