『博士この子飼いますか』
「今日も雨か。ここのところ雨ばかり。この地球はどんどんおかしくなっていく……マーチン君もそうは思わんかね」
「そうですね」
「こう雨ばかりだとわしの古傷も疼くよ……なあマーチン君」
「そうですね」
「そうあれは忘れもしない13年前だった……聞いてる?」
「そうですね。あ、すみません。聞いてませんでした」
「君、何してるの」
「今ですか? 今は博士に頼まれた部品を作ってます」
「邪魔しちゃったかな」
「邪魔ですね」
「悪いことしたね。じゃあわし向こう行ってるから」
「ドルドン博士。言われた部品出来ましたよ。て何に話かけているんです?」
「犬だけど」
「正気ですか」
「正気だよ。いつの間にか敷地に入って来ててね。ちょっと変わった犬なんだけど」
「確かに犬にしては見たことない種類ですけど、新種ですかね」
「地球外生命体だよ」
「博士ロマンチックですね。でもこう見ると結構可愛いじゃないですか。研究所で飼いませんか」
「飼いたいのはやまやまだけど」
「問題でも?」
「いや、先日君にボムボムキャッチャーVer.4で予算使われちゃったでしょ」
「投資の件ですか」
「あれをあくまで投資と言い張るんなら否定はしないけどね。そんなこんなで餌を買う余裕がないんだ」
「じゃあ今度から私のご飯代は自分で出しますよ」
「君ご飯代研究費から抜き取ってたんだ」
「言ってなかったでしたっけ」
「言えばオッケーって問題じゃないからね」
「すみません」
「許しちゃう。じゃあ君のご飯代の分をこの子に回すことにしようか」
「何食べるんでしょう。やっぱりドックフードとかですかね」
「なんだろうね。とりあえずそれ買いに行ってみよう」
「そうしましょう」
「これだけドックフート買えばどれかは食べるだろう」
「そうですね。この前の焼き肉代くらいは掛かりましたからね」
「え、例の1人焼き肉も研究費からだったの?」
「あ」
「あ、じゃないよ。サラッと言ったけど、わし結構ダメージ受けてるよ?」
「13年前の古傷が疼きますか」
「ちゃっかり話聞いてたんだ。君そういうところやさしいね。まあとにかく手当たり次第に与えてみよう」
「食べないな」
「食べませんね。そういえば最近は不思議な生き物多いんですよ」
「というと?」
「この間なんて私が道を歩いていたら突然目の前に狐がやってきましてね」
「うん」
「唯でさえ道端に狐がいるって珍しいじゃないですか?」
「確かにそうだね」
「そうしたら急に『わん!』て鳴いて逃げていったんですよ。狐のくせに『わん!』ですよ『わん!』博士おかしくないですか?」
「うん。おかしいのは君だったね。それは狐に似たただの犬だったんだよ……はっ!」
「博士やっと気付きましたか」
「マーチン君知ってたのかね」
「気づいてましたよ」
「もっと早く言ってくれたまえ。わし勘違いしてたよ」
「そうなんです。その狐、新種だったんです」
「あ、そこなんだ」
「そこですけど」
「わしてっきりこの子が犬に似た熊だぞって気づかせてくれたのかと思っちゃった」
「……それもありますけどね」
「君、嘘付くとき目が泳ぐの知ってる?」
「何はともあれ早く気付けて良かったですね博士」
「何が?」
「13年前の古傷ですよ、古傷。森で突然熊に遭遇してやられたじゃないですか。この子がいくら小熊といえ飼うのは怖いでしょう。トラウマですもんね」
「あ、これ君にやられた傷なんだけど」
「そうでしたっけ」
「そうだよ。君覚えてないんだ」
「全然」
「わしあの時熊に出くわして大声で叫んだよね。『熊だー!』って」
「へぇ」
「へぇ、って何。君すぐに駆けつけてくれたはいいけど間違えてわしを殴ったよね?」
「百歩譲って私が博士を殴ったとしましょう」
「いや譲ってくれなくても事実なんだけどね」
「私が博士を殴る理由がありませんよ」
「あの日大雨だから視界悪かったんじゃないの。少なくともわしはそう思ってるけど」
「きっとそうに違いないですね」
「マーチン君、目泳いでるけど大丈夫? とりあえず小熊を森に返しに行こうか」
「博士この辺でいいですかね」
「いいんじゃない? さあ森に帰りなさい」
「では失礼します」
「あれ、マーチン君? ちょとマーチン君! 君が森に帰ってどうするの? ちょと! マーチン君!」
「……本気で行っちゃったよ。その内帰って来るだろう……全くロクでもない助手だよ。優秀なわしの助手としては失格だな。そろそろ新しい助手でも……ん? なんかガサガサいってる。わっ、オオカミだ!オオカミ出たよー!」
「博士どこですか!」
「マーチン君来てくれたんだ! あっちあっち!」
「博士どこですか!」
「わあ! わしじゃない、わしじゃないよマーチン君!」