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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異国からの冒険者

作者: るむるむる


 一隻の船が港街へとたどり着く。船は四本柱の帆に多くの人員を必要とするかなり大きな帆船型の船である。この船の船長はこの港町出身の人物で、五年にも及ぶ長い航海の末ようやく故郷へと戻ってきたのだ。

 。

 口にパイプをくわえ、船から港を見下ろす。船からは多くの商人たちが異国で仕入れてきた荷物を必死になって下ろしていて活気がある。

 また出迎えの人たちや、商人達が持ち運んできた商品を目当てに街から人がやってきて目ざとく商品などをチェックしている光景は昔と変わらない。船長はそんな光景を懐かしく思いながら、自身も船から降りようとしたとき一人の若者が声をかけてきた。


「ここが、アルさんの故郷なのか?」


 若者の年のころは15、6といったところだ。不揃いに切りそろえられた黒い前髪に黒い瞳。顔の彫りの深さはこの国の人間と比べると浅く、この地方ではあまり見かけない顔つきだ。好奇心旺盛な性格で丸い瞳を輝かせている。

 船長の感覚からするとどうしても15、6歳の少年には見えず、12~13歳といった印象だ。

 そしてなにより来ている衣装がこの国のそれとは異なっていて、船の中でも船員やほかの客の目をよく引いたものである。

 襦袢じゅばんと呼ばれる衣装の上に灰色の麻で出来た着物というよりは少し工夫をこしらえているのか、武道着のような簡素な作りになっている服装で、下は袴という織り目がついているこの国のズボンなどとはまた違った衣装だ。


 めったに見れるような衣装ではないし、おそらくこの国……いやこの大陸の人々にとっては目にする機会がほとんどないと言ってもいいくらいの格好だ。


 少年の名前はムネシゲ。船長が立ち寄った国の異人である。簡単に言えば船長が遭難したときにムネシゲの父親に救われ、異国に興味を持ったムネシゲ、そして息子を鍛えたい父親が修行のためにぜひ貴殿の国を見物させてやってくれと頼まれ、ここまで連れてきた少年である。

 

 航海の最中にいろんな人と喋り、そしてこの国の言葉と読み書きをある程度できるようになったムネシゲは故郷の言葉ではなく、この国の言葉で船長に話しかけた。

 物覚えの早い子だと船長は内心苦笑する。


「ああ、そうだ……さすがに五年も離れているとな……懐かしいな」

「そうか……俺にはよくわからん。アルさんはずっと故郷に帰りたかったのか?」

「そういうわけでもないのだがな。まあ、お前にもいずれ故郷に帰る時が来るだろう。その時になればきっとわかる」

 

 船長の言葉はムネシゲにはよくわからなかった。今、彼の心を支配しているのは異国の文化である。船の中には金髪や銀髪の人たちや、長い耳をしたとてもきれいな歌声を出すよくわからない人。浅黒い肌を持つ女性や、真っ黒な肌を持つ男性。そして商人たちがいろんな国から仕入れてくる珍しい食べ物や珍しい物。船の中というだけでもこれだけ目を引くものがたくさんあったのだ。となるとその本拠地であるこの国にはどれだけ珍しいものがあるのかと心を浮き立たせている。


「それじゃあ、俺は行くよ。アルさん。世話になったな」


 ムネシゲの突然の行動にアルは驚く。当たり前である15歳と言えばこの国ではすでに立派な成人だしムネシゲの国でも大人として扱われ、船の中でゲンプクなるものも済ませている。

 しかし、初めて降り立つ国なのだ。右も左もわからないのに、それ以前にどこへ行くというのかはなはだ疑問だ。


「ちょっと待て! いきなりどこへ行くつもりだ?」


 そういわれてムネシゲは少し考え込む。確かに行く当てなどない。父親からは三年ほど自由に異国を旅して来いと言われているので、適当にぶらついて見て回るというのが彼の予定である。

 ある意味無謀すぎるし、命がいくらあっても足りない行動だ。しかし、ムネシゲはそんなことはお構いなしにのんきに何とかなるだろとすら考えていた。

 

「今日はこの街を見物して、地図でも購入してから適当に旅に出るつもりだが……何か問題でもあったか?」

 不可思議な顔つきをするムネシゲを見て、アルは思わずため息を吐いてしまう。顔つきだけでなく行動そのものすら子供のような気がしたからだ。

 いくらなんでもたった一人で道中を行くなど盗賊や山賊だっているし、人を襲う魔獣だってこの世界には存在している。

 そんなアルの心配をよそに、ムネシゲは不思議そうに彼の顔を見上げている。


「あのな? ここはお前の国とは違って……そのなんだ……色々となれないこともあるだろう? いきなり一人旅というのは無茶にもほどがあるだろ?」

「ははは、心配はいらんぞ。父上からは路銀はたくさんもらっているからな」

 

 そういうと手にしていた荷物の中から一枚の金貨のようなものを取り出すが、この国で使われている金貨とは違い、かなり大きめでまた楕円の形をしている。向こうの国では小判と呼ばれているお金であり、また金の含有量もこの国とははっきり言って比べ物にならないくらいの量だ。


 初めてアルがかの国の文化を見たときはかなり驚いたものである。金で出来たお寺、城の上には金の魚が乗っかっていて、商人達も金を普通に扱っている。

 あまりにも不思議で独自に調べた結果、かの国では金がザクザクと取れる土地柄だと判明し、その埋蔵量に驚いたものである。

 彼自身は測量の経験は船乗りとしてしかなかったが、彼の部下にたまたま山師として活動をしていた人物がいて、軽く調査した結果なので正確には図れなかったが、それだけでも充分すぎるほどだ。


 またムネシゲの住んでいた別の地域でも、金山や銀山が多く、そこを収めている王が人夫を雇い次々と掘り出している様子も見物している。

 黄金の国……思わずそう思ってしまい、国王に報告しなければと思ったが、まずかの国があまりにも遠いことでおそらく攻め取ることは無理だと判断した。また武装集団であるこちらで言う騎士の類も存在し、かつ好戦的であり、さらに一度の戦で3万の軍を動かせるということに驚愕し、報告は出来ないとあきらめたのだ。

 しかもこの三万という数字はムネシゲが住んでいた領地を治めていた王が動かせる兵の数であって、かの国全体で動かせる兵の数は二十数万~四十万近くだという。想像が出来ない。

 この大陸すべての兵を合わせても十万人行くか行かないか……。あのような小さな島国なのになぜ? という疑問が次から次へと湧いてくるが、一介の商人であり、船乗りの彼が気にしても仕方ない。政治家ではないのだから興味があってもそれを分析するまでには至らなかった。


「だから、そういうところが心配なんだ。はっきり言ってお前が持っているその金貨一枚で2年は遊んで暮らせる」


 そういわれてムネシゲは思わず驚く。確かに自分の国では小判は比較的価値が高い金に入るが、さすがに2年は……しかも遊んで暮らせるなど言い過ぎではないかと勘繰ってしまった。

 小判で2年であれば、大判であればどのくらいの価値がこの国であるのか……。

 父からもらった路銀の種類は三つ。 

 まず先ほどアルに見せた小判。そして大判。小銭ということで貰っている銅銭。真ん中に四角い穴が開いているものだ。


「下手にそれらを見せて見ろ。世間知らずのお前のことだ。悪徳商人に騙されて巻き上げられるのが目に見えている」

「俺はそれほどバカじゃないぞ!」

 

 ムッとなって言い返してしまう。すでに元服をすませて、一人前の大人なのに、なぜ子ども扱いするのかとムネシゲは腹が立ってしまった。

 すでに父上からも当時は元服はしていなかったが、旅立つことを許された身なのだ。そのように世間知らず扱いされるのは心外である。


「誰もバカとは言っていないだろう……確かにここがお前の国であれば俺だって口は出さん。しかしここはお前のいた国とは全く別の価値を持つ国なんだ。そういう意味ではお前は世間知らずになる」


 アルの言葉に、思わず納得してしまう、郷に入っては郷に従え、彼の国にあることわざだ。

 少し短気だったかと反省する。


「ならば、どうすればいいんだ?」

「そうだな……まず家に来い。これからのことはそれから相談すればいいだろう。ったく命の恩人の息子を放り出せるか……少しは義理を果たさせてくれ」


 少し困ったようにため息とともに口から煙を吐き出す。

 ムネシゲとしては一刻も早く色々と見て回ってみたかったのだが、アルの言うことにも一理あるので素直に従うことにした。


 荷物を持ち、船から船長たちや船員たちと一緒に港へと降りていく。 

 船員たちは給料をもらって満足げに久々に陸地で酒と女を堪能するのに思いをはせていた。


「よームネシゲ。お前まだ女知らねえんだろ? よかったら一緒に行くか? ゲンプクだって済ませているのに女を知らないで大人とはいえねえぜ」


 船員の一人が陽気にアルを誘ってきた。

 女には今のところさして興味はなかったが、大人とは言えないという言葉に食指が動く。


「それは誠か? 女子おなごを知らずして大人にはなれないというのは?」

「ったりめえだろ? やっぱ大人の男なら女の一人や二人くらいは知っていなきゃな。どうだ? 優しく手ほどきしてくれる女を紹介してやるぜ?」

「もちろん付き合うにきまっているだろ。俺はすでに一人前の男なのだ」


 どうにも何か変なプライドがあるのか、船員の誘いに二つ返事で了承する。おまけに心なしかずいぶんと気合を入れているようだ。


 船員の頭に拳骨が落ちる。


「ムネシゲを悪い遊びに誘うな! ったく。何を考えているんだお前は」

「いや船長でもよ」

「悪い遊びなのか?」


「そうだ。最初くらいはそういうところじゃなくて、ちゃんと好きになった女性とするべき行為なんだ」

「船長順番が逆じゃないですか? いざって時になんも出来ねえで恥をかくより、ある程度慣れておかないと……」

「いいからお前はさっさと消えろ! 船長命令だ」


 アルに一括され船員は足早に街のほうへと去っていく。

 アルとしてはどうにもムネシゲの事を子供として見てしまう傾向がある。彼の見た目ということもあるのだが、どうしても大人として扱うことが中々出来ないのだ。また、命の恩人の息子ということもあり、あまり変な遊びを覚えさせたくないというのもある。


「女子を知らなければ大人にはなれんのか……」

 アルの心配をよそにムネシゲはぶつぶつと独り言を言っている。

 

 二人はそのまま港から出て街へと向かい、やがて少し立派な家にたどり着く。

 

 街の様子にも目を奪われたムネシゲだが、この家の造りにも感嘆の吐息を漏らす。

 立派な門に、玄関へと続く小道。きれいな芝生に職人づくりの噴水もある。

 噴水はムネシゲの国にはないもので、泉から吹き出す水の勢いに見とれてしまう。また、天気が良かったせいかほんのりと虹が出来ていた。


「こ、これは凄いな……」


 ムネシゲがそういうと、屋敷の扉が開いて、赤毛をベリーショートにした中性的な顔立ちの少年のような少女のような人物が駆け寄ってきた。


「父さん! お帰り!」


 小さな顔の割には大きな瞳をキラキラを輝かせて、アルに抱き着く。

「ははは。ティラか! 見違えたぞ。前に見たときはこんなに小さかったのになあ……もうこんなに大きくなったのか」

「そうだよ。15歳に昨日なったばかり! なんであと一日早く帰ってきてくれなかったの? せっかく誕生日を一緒に祝ってもらえると思ったのに」


 ぷくーっと頬を膨らませて彼女はアルを睨みつける。

 アルは少し困った表情をして頬をポリポリとかいている。


 そんな時、ティラと呼ばれた人物がムネシゲに気付き視線を向けた。


「おお、すまん。紹介が遅れたな。彼はムネシゲ。とある事情でこの国に武者修行に来た若者だ。ムネシゲ。こっちは俺の娘のティラミスだ。同い年だろうし仲良くしてやってくれ」


 ティラミスはムネシゲの事を遠慮なく見つめている。黒い瞳に黒い髪。彫りが浅く、どう考えても同い年には見えない。背だって自分と同じくらいか少し高いくらいの身長しかない。黒い髪は確かに珍しく、肌の色合いも黒くもなく、白くもなく……なんと言い表してよいやら。

 来ている衣装には目を奪われるものがある。なんというか織り目の付いた……スカートのようにも思える。

 男のくせにスカートをはくなんて変な子と思ってしまった。

 ムネシゲのほうも思わず娘と言われて驚いてしまった。赤い髪は船の中でもいたので、すでに珍しいものではないのだが、なぜ女性がこのように髪を短くしているのかものすごく疑問に思った。


 ムネシゲの国では大抵の女性にとって髪は長く、髪を短くするという行為はよほど思いつめたことがない限り滅多にしない。ましてやここまで短くするということなどほとんどないと言ってもいいくらいだ。

 恵まれない家庭の娘や母親が自分の髪を切って人形屋に売るということはあるのだが……この家を見ている限りそのような事とは無縁のような気がした。


「女性なのになぜ男装しているんだ?」


 挨拶よりも先に思ったことをそのまま口に出してしまう。

 ティラはカチンときたようだ。この髪は今はこの街で流行っているファッションの一つで、また動きやすく周りからも似合うと言われていただけに、見も知らない他人に男装扱いされては怒りもわいてくる。


「そっちこそ男のくせにスカートをはいているなんてずいぶんと変な子だね」


 これにはムネシゲもカチンときたようだ。父上から旅の間に元服するだろうから、前祝として贈られた逸品である。ムネシゲにとっては自慢の衣装であり、一張羅でもある服だ。スカートというのはこの国では女性が履くものだと船の中で教えられている。

 

「なんだと? 父上からもらった袴を女性の衣装と一緒にするのか!?」

「そっちこそあたしを男扱いするなんてどこに目を付けているのよ!?」


 二人がにらみ合っていると、ティラの頭に拳骨が落ちてきた。


「ティラ! 異国からはるばるいらしたお客様に向かってなんて態度をとっているんだい! 大体流行だかなんだか知らないけどね、そんな格好していたら男装と思われても仕方ないじゃないか!」


 そういった人物はティラと同じような赤毛に髪の毛を後ろに縛ってまとめている温和な顔立ちをした女性だ。ただし目からはティラに対する怒りが放たれている。顔にはそばかすがあり、綺麗な肌とは言えないが、それを打ち消すほどの愛嬌のある顔立ちだ。


「ごめんね。えーっとムネシゲであっていたかしら? 主人から手紙で聞かされていたから楽しみにしていたのよ。私はユティ。よろしくね」


 ムネシゲに向き直ると優しそうな笑顔を向けてくる。かつての母の顔を思い出してムネシゲは思わず照れてしまった。


「はい。そ、そのお世話になります」



                ─────────────


 その日の夜、アルの家の食卓は大いににぎわっていた。娘にとっては父親が、母にとっては主人が五年ぶりに帰ってきたのだ。家族関係が冷えているような家庭でもない限りにぎわうのは当然だ。

 ましてや、異国のお客さんもいる。

 アルは自分の船を持っているということもあり、実入りのほうはかなりあるみたいで、この国では比較的裕福な暮らしをしている。

 使用人も少ないながら何人か雇っているようで、食卓には豪華な食事が次々と運ばれていく。


 ムネシゲは見慣れない食事に戸惑いながらも色々と口にするが、口に合わないものもあったりして、時折顔をしかめる。

 そのたびにアルは顔をほころばせ、ユティは「あらまあ」などと口をおさえる。

 ティラは先ほどの件はすでに忘れているのか、ムネシゲに異国のことを次々と質問して根ほり葉ほり聞いてくる。


「へー……そんな国ならあたしもいつか行ってみたいな」

「父さんだって命がけだったんだ……お前じゃ無理だよ」

「全く父さんは帰ってくるとあたしを子ども扱いして。ちゃんと成長しているんだからね。ハンターギルドにだって登録したんだから」


 ガタンと音がしてアルは手にしていたスプーンを落としてしまう。

 ハンターギルドとは主に魔獣退治を扱っている職業斡旋所の一つだ。登録自体は簡単で誰でもできるが、登録すれば依頼が来るとは限らない。適切な人員を配置しなければ失敗してしまう恐れもある。失敗などしてしまえばギルドの信用にも関わってくるのでその辺はシビアになっている。


「なんでそんな危険なギルドに……いや……まあ……お前にいきなり危険な仕事が回ってくるとは思えないが……もう少しまともな職だってあったろうに」

「んーやっぱ父さんの娘ってことかな……母さんだって昔は冒険者として色々とやってたから反対もなかったしねー」


 そういって母親に視線を向ける。

 ユティは少し困ったような顔つきで、アルに許しを求めるようなそんな表情のままだ。


「はんたーぎるどとは何のことだ?」

 ムネシゲは今まで黙って会話を聞いていたが好奇心を抑えきれずについに質問してしまう。

 

 それを説明したのはティラだ。要するに国が退治しきれない人を襲う害獣や魔獣の類を有志を募って退治するという目的で作られたギルドで、危険な分実入りが中々いい仕事なのだ。

 いまでは色々と派生して表に出せない仕事を権力者が密かに利用していたり、盗賊ギルドなど犯罪組織として活動しているギルドなどもある。


 自分の国にはない機構にムネシゲは目を輝かせて興味を持つ。

 この国に来たのは見分を広めるという名目もあるが、武者修行ということも内容に含まれている。危険な魔獣退治はムネシゲの武人としての心を湧き立たせた。


「俺もそこに登録できるのか?」


 それに驚いたのはティラである。同い年と聞いていたもののどう考えても年下の男の子にしか見えない人物が魔獣退治などの主としたギルドに登録する……自分もまだ登録したてのひよっ子だが彼はひよこにすらなっていない卵の状態としか思えないのだ。


「ムネシゲ。ハンターギルドはとても危険なの。あたしも何度か簡単な依頼を受けたけどヒヤリとしたことは何度もあるのよ?」


 まるで姉のように、あるいは年下の男の子を諭すような優しい口調である。一人っ子のティラとしては、突然の居候だが、慣れない土地で右も左もわかっていない子供という印象が強くどうしてもそうした態度で接してしまう。


 ムネシゲは鈍感なのか、そうした相手の態度には気づかず、胸を張る。


「心配するな。武芸は一通り父から習っている。剣も槍も弓も一通り使えるぞ?」

「あのね、ムネシゲ。実戦は稽古のようにはいかないの! 実際何があるかわからないし、油断するとそれこそ次の瞬間首と胴が離れていたりすることだってあるのよ?」

「ティラはどうも俺のことを見くびっているようだな……」


 腹を立てるほどでもないが、不愉快な気分になったことには変わりない。実際ムネシゲとしては他国であろうと後れを取ることはないという自負があるので、こうあからさまに危険から遠ざけられるようなことを言われると子ども扱いされているようでどうにも落ち着かない。

 ともあれ、自分の父の言うことならまだしも、異国のましてや知り合ったばかりの女性に言われたくらいで引き下がるほど柔弱ではない。あまりうるさく言うようであれば家から飛び出せばいいだけの話である。そもそも自分の目的は武者修行だ。危険は大いに結構望むところである。


「まあいい。ティラがなんと言おうが俺はそこのギルドに登録してみる」


 すでに15を超えているというのが本当であれば登録は簡単に済ませられる。ティラは頑固そうな男の子の瞳を見て諦めの吐息を吐いた。こうなったらこの子が危険に巻き込まれないようにあたしが見張っていなきゃという一種の保護欲に掻き立てられたのだ。


 次の日、ティラに案内されてギルドの建物へと向かう。道中は昼間ということもあり活気づいていて出店で色々なものを売っているのにムネシゲは目を奪われ、あちらへふらふらこちらへふらふらと引き寄せられて、ティラは大いに焦る。


 ホットドッグの売っている店では小判を取り出し、「これで足りるか?」などと店主に聞くと、「店主は偽物の金貨でごまかそうとはふてえ野郎だ」といってムネシゲに殴りかかってきた。ムネシゲとしてもいわれなき誹謗を受けて大いに憤慨する。

 

 あやうく大騒ぎになりかけたのをティラがなんとか収めて一息ついていると、また居なくなる。

 今度は、妖しげな占い師の水晶玉を興味深く見ているのだ。老婆は先ほどのホットドックの主人とのやり取りを見ていたのか、そのことを遠回しにあててムネシゲを驚かせる。そして「このままではお主の大切な人に災いが降りかかるだろう」といって、先ほどの見慣れない金貨を渡すように言ってきた。


 年の功なのか、おそらくあの金貨は少し変わってはいるが、間違いなく本物の金貨だと目ざとくチェックしていたのだ。また少年の着ている見慣れない衣装から察するに異国から来た少年で、世間知らずなのだろうとあたりをつけ、詐欺まがいにせしめようとしたのだが、ティラがあわてて割って入り再び事なきを得た。


 ギルドに行くだけなのになぜにこうも騒ぎを起こすのか……本当に子供を連れて歩いている感覚になる。


「先ほどの老婆の言っていたこと当たらねば良いのだが……今、父にもしものことがあれば我が領地は天野家に乗っ取られるぞ……いや、兄上がいるから早々大事には至るまいが……もしや二人の身に何かが……」


「あのね……あれは詐欺なの騙しなのまったくのでたらめなの!」

「しかし、先ほど変わったパンを売っていた店主とのやり取りを見事にいい当てたぞ?」


 何と言ってよいのやら……頭を抱えてしまう。


「ともかく、ふらふらしないであたしについてきなさい」


 きつく言われ少し不満げな顔つきになるが、致し方なしと諦めティラについていくことにする。

 そしてようやく目的の場所へとたどり着いた。


 中に入り、待ち合い用の椅子に座るように言われてムネシゲはおとなしく待つことにする。

 しかし、ムネシゲの着ている衣装はこの場ではとても浮いている姿で、様々な人から様々な目線で見られる。さすがに無遠慮に見られるというのはムネシゲとてあまりいい気はしない。


 とはいえ、向こうから何か言ってくるわけでもないので、大人しくするしかない。

 しばらくすると、ティラが戻ってきてカウンターへとムネシゲを連れて行く。


「何をするのだ?」

「あんたの身分証明書みたいのを作るだけよ。そこの水晶に手をかざして」


 おとなしく言われたとおりにすると、水晶が白く光る。

 

「おお!? 光ったぞ!?」


 だがムネシゲの驚きとは別にティラの顔は優れていない。予想していたとはいえこうも見事にここまで使えないとは……この程度の実力で一体何をする気だったのか……。


「ハア……やっぱ魔力0……完璧に0……真っ白……伸びしろすらない……あんたこれで大陸を渡り歩くつもりだったの!?」


 ムネシゲはティラが何を怒っているのかさっぱり把握できずにいた。

 水晶が白く光るということはそれほど彼女の機嫌を損ねるこなのだろうかと思わず首をかしげる。


「あんたねー……まったく魔法が使えずに……どうやって」

「魔法とは何のことだ?」


 そこから説明しなきゃいけないのか……武芸を習っていると言っても身体能力引き上げの魔法すら使えないのでは戦士としても致命的すぎる。ただの何の力もない人間が魔獣退治などどう考えてもアリ一匹で象に立ち向かうようなものだ。

 色々な目があるのでここで立ち話をするのは避ける。

 中には白く光る水晶を見てクスクスと嫌な笑みを浮かべる連中すらいる。自分とて新人の身なのだ。変な連中に絡まれないうちに早いところ場所を移動しようと考えたが一歩遅かった。


「ありゃりゃ……最近期待のルーキーと言われているティラミス嬢ちゃんじゃねえか……ようやく仲間を見つけたのかと思いきやまだガキじゃねえか……おいおいちゃんと成人していないと登録は出来ねえぜ?」


 人を見るなりいきなり子ども扱いするとはとカッとなりムネシゲは相手の男に食って掛かろうとするが、その前にティラが言い返す。


「おあいにく様。これでもちゃんと成人しているのよ。魔力は0だけど……」


 最後は聞こえないようなか細い声である。

 しかし、男の耳にはしっかりと届いたようだ。


「ぶひゃひゃひゃ! ま、魔力0だって? どんな育ち方したんだよ! ひーひー……そんな奴連れていたら足手まといにもほどがあるだろ。どうだ? 俺らと組まねえか? 女っ気なくてなあ……」


 嫌らしい笑みで、ティラの体を舐めるように見てくる男たち。どう考えても女子おなごに対する態度ではない。どうやらまりょくとやらがない自分をバカにしているようだが、それがなんなのか分からない以上、腹を立てる理由が見つからない。しかし、ティラに対する態度はどうしても我慢できなかった。


「女子に対してそのような態度をとり、あまつさえ下卑た視線を浴びせるなど……同じ男子おのことして許せぬ。そこのお前。貴様に少しでも男子としての矜持があるならばティラに頭を下げ、今の行動を謝罪しろ」


 凛とした態度だ。見慣れない衣装のせいもあってか、その雰囲気は立派な一人前の男としてティラの目には移った。

 今までの行動が行動だけに、そのギャップも手伝い思わず目を丸くしてしまう。


 そしてティラとは別に、何言ってんだこのガキ? という顔つきの男。

 見た目が12~13にしか見えないようなガキにこのようなことを言われてつい腹を立ててしまう。


「おーおーお子ちゃまのくせに。言うことだけはいっちょまえだな? ここにはママはいないぞ? いいのかなー怖い大人を怒らせて?」

「ふん、貴様のような人間が大人というのであればこの国では得られるものはほとんどないな。幻滅してしまうよ」


 男は無言のまま、ムネシゲの頬をなぐりつけた。ムネシゲはとっさにそれに対応しようとしたが、なぜかよけきれずにそのまま直撃して大きく吹き飛ぶ。

 なぜ? 見えていたはずなのに……思考が混乱してしまい。状況がつかめず痛みだけが襲ってくる。


「ガキの言うことだからこれ一発で許してやる。……ティラいつでも待ってるからな」


 そういって男は仲間たちとともにギルドを出て行った。


 すぐにムネシゲに駆け寄るティラ。倒れているムネシゲの頭を抱えて覗き込む。

「ムネシゲ!? 大丈夫?」

「いってー……おかしいな見えていたはずなんだが……」


 どうやら意識ははっきりしているようで、ティラは一息つく。

 ムネシゲはどうにも不可解なことで頭がいっぱいだ。途中までは相手の拳がはっきりと見えていたのだ。それに対応するすべも体に叩きこまれている。

 半身になり、相手の拳をそらし、右足を相手の足の間に踏み込ませ、相手の勢いを利用して、そのまま投げ込む。

 それが、彼の頭の中で描いたイメージであり、その通りになるはずだったのだ。

 

「まったく……あれでもあいつは身体能力引き上げの魔法に関してはこの界隈ではピカ一なのよ? おまけに火属性の魔法にも優れているし……なんの力もないあんたが立ち向かおうなんて……でもあたしのために怒ってくれたことは感謝するわ」


 あれが魔法……そう途中からリズムが変わり、自分の目では追い切れないほどのスピードで拳がめり込んできたのだ。対処の使用がなかった……しかし……悔しいという気持ちよりは学んだという気持ちのほうが強くそれほど腹は立たなかった。


 立ち上がると体についた埃を取り払う。

 

「さあ、今日はもう帰りなさい」


 もう帰ろうではなく、ムネシゲを一人で帰らせるような言い方だ。


「ティラは帰らないのか?」

「ついでだから一仕事こなしていくわ。この近辺に植物系の魔物が出没しているみたいだから。その依頼を受けたの」

 簡単な雑草狩りよと最後に付け加える。


「俺も見物していいか?」

「あんたねーあれだけのことがあってよくそんな元気があるわね」

「あの程度大したことはない。それに女子おなごを一人で戦わせるなど、俺の矜持が許さん」


 簡単な依頼だし邪魔にはならんだろうと考えて了承する。

 それにしても自分のより弱い人間が騎士気取りとはねと思わず苦笑してしまう。どうにも異国からのこの変な若者は変な価値観を持っているようだ。

 とはいえ、言っていることも態度もティラにとっては決して悪いものではない。これで少なくても自分より強く、もう少し大人っぽかったら惚れていたかもしれないと内心苦笑してしまうが、どうしても弟どまりだ。


 街から出てしばらく行くと、サボテンが二、三匹あちらこちらへと生き物のように移動しているのを見かけた。

 大きさとしては人間の子供7~8歳くらいの大きさだ。

 ムネシゲはこれが魔物かと興味深げに見ていると、ティラが剣に風を纏わせあっという間に切り裂いていく。この魔法にも思わず目を見張ってしまう。なるほど魔法というものがあるからこの国では女性でも戦えるのかと漠然と考えてしまった。


「ま、こんなもんよね……さ、あとは帰って報告よ」


 そういってムネシゲを促すと、遠くから遠吠えが聞こえてきた。

 ティラの顔がサッと青ざめる。


「どうした? 狼の遠吠えなどさほど珍しいことではあるまい」

「……ただの狼じゃないわ……しまった。もうそんな時期だったのね……急いで街に戻るわよ」


 しかし、すでに時は遅かった。いつの間にか周りには狼の群れに囲まれていたのだ。

 キラーウルフ。牙の一つがが口の半ばから下に向かって大きく生えていて、刃物のように研ぎ澄まされている。かみつくのではなく、この牙と突進を利用して獲物を切り裂くのを主としている危険な魔獣だ。


 また単体ではなく少なくても十数対で行動をしていて、ギルドでもよほどのベテランじゃない限り退治をできるレベルの魔物ではない。ましてや、新人のティラと何の魔力もないムネシゲだ。

 ティラの足ががくがくと震えだす。


 そして群れの中からひときわ大きいキラーウルフがのっそりと姿を現す。おそらくこの群れのボスだ。


「どうしよう……」


 あまりの突然の強敵の出現に、ティラはパニックに陥る。生き延びる手立てがまったく見つからないのだ。それでも剣に風の力をこめて、身体能力を引き上げる。

 キラーウルフの毛皮は、並みの剣士では傷つけることすらできない丈夫な毛皮だ。例え風の力を用いたとしてもティラではどうしようもできない。

 息が荒くなる。頭がくらくらする。足が震える。コンディションは最悪だ。涙すら出てくる始末だ。


「心配するな。ティラ。俺がついている。この程度なら簡単だ」


 はったりにしてもせめてもう少し気の利いた言葉を吐いてもらいたいものだ。この子を守れる手段すらなく、脳裏に昨日帰ってきたばかりの父の顔が思い浮かべられる。


 そんなティラの前にムネシゲはかばうようにキラーウルフの群れに立ちはだかる。


「な、何やってんのよ。あ、あんたは弱いんだから……引っ込んでいなさい」

「ティラは凄いな。勝てないとわかっていても自分より弱い人間を守ろうとするなんて。でも心配しなくていい。俺は強い」


 この子はまた変なプライドが出てきたのだろうか……なんとかかばいたいが足が震えて動かない。

 そしてキラーウルフのボスがひときわ大きい声を放つ。

 ティラにはそれが攻撃の合図だとなぜか直感できた。


天羽宗茂てんはむねしげの名において命ずる! 古より封印されし、わが守り鬼よ! その役割において解き放たれん」


 袖から二枚の紙を取り出すムネシゲ。途端にその二枚の紙が大きく膨れ上がり、巨大な人のようなものが現れ、向かってきたキラーウルフ三匹があっという間に叩き潰された。

 

 突如現れた謎の人影。混乱したのはキラーウルフだけではなく、ティラもである。

 

「な、何が……?」


 ティラの位置から見えるのはムネシゲの背中と、そして強靭な肉体を持つものと思われる二人の人物?の背中。


 そしてその人物がゆっくりとティラに振り向く。


「ひッ!」


 思わず息をのむティラ。

 その人物は一つの目しかなく、暗緑色の色合いの肌。腰には布きれ一枚を巻いているだけであり、頭部は完全に禿げあがっている。そして頭部の真ん中には鋭くとがった角が一本生えていて、隆起した筋肉はあまりにもおどろおどろしい。片手には棘の付いた鉄の棒のようなものを持っていてすでに血にぬられている。先ほどのキラーウルフの血だろう。

 しかし、ティラの目には人というよりも、新たな魔物が出現したとしか思えずにその場でヘナヘナと腰が砕けへたり込んでしまった。

 もう一体出没した魔物も似たようなものだが、こちらは暗褐色の肌を持っている。


「前鬼、後鬼。守りは任せたぞ。その女性を絶対に守れ」

「アルジハドウナサレル?」

「うーん……ボスと対決かな?」

「アルジ、ホウリキハアルケド、チカラハナイ。マトモニヤッタラアレニマケル」

「あいつを使う」

「……アルジギョセルノカ? アイツコワイ」

「これも修行だ。ダメだったらお前たちが取り押さえてくれ」

「アルジムセキニン」


 二匹の魔物はややあきらめの表情のまま、今度は地面にへたり込んでいるティラに向き直る。


「アルジノメイレイダ。オマエヲマモル」


 何やらくぐもった声で聞き取りづらいが守ると言われた。こんな化け物に。

 後ろからキラーウルフが突進してくる。刃のような牙をきらめかせものすごいスピードだ。鉄すら切り裂くと言われているキラーウルフは重装備に身を固めた戦士でさて真っ二つにするほどの力を持つ。


 しかし、この魔物にはその牙の切れ味は発揮できなかったようだ。

 キィンと甲高い音を発して、キラーウルフの二本の刃が半ばからぽっきりとへし折れたのだ。

 キャインキャインと鳴き声を発するキラーウルフ。そして無造作に殴りつけられた棘つきのこん棒によって天高く舞い上がり絶命する。


「何よこれ! ちょっと! ムネシゲ説明しないよ!」


 相変わらず腰は砕けたままだが、調子は取り戻してきたようだ。なぜに魔物が自分を守っているのかさっぱりと分からないが、命の危機は去ったとなぜか根拠はないが思ってしまった。



 しかし、ムネシゲはそんなティラの叫びを無視するかのようにボスの前へと堂々と立ちふさがる。

 ボスからしてみればあまりにも大誤算だ。見つけた獲物は人間の子供二人。この程度なら群れに被害を出すことなく簡単に自分達の食糧にできるだろうと思っていた。大して魔力も感じない。まさに絶好の獲物だ。

 しかし、黒髪の少年が何やら叫んだとたん見慣れない魔物が現れ自分の部下をあっという間に蹴散らしてしまった。なんなのだ? このような魔物はこの大陸では見たことはない。ましてやなぜ魔物が人間に尽くしているのか不思議でならない。

 野生の勘が告げている。敵の能力は未知数である。ここはおとなしく引き下がるべきだと。本来であればキラーウルフの習性は野生動物に近い。ゆえに勝てないとわかればさっさと引くのが普通なのだが、魔獣となり下手に知恵がついた分、プライドが出てきて引き下がるに引き下がれなくなっていた。

 これは何かの間違いだ。見よ、我の目の前にいる人間の子供を。何の魔力も感じない矮小な子供ではないか。このような雑魚に、我から見れば餌に過ぎない分際の輩がわが群れを蹴散らすなどあり得るはずがない。たった今引き裂いてやろう。


 そうして前足を深く沈みこませ、人間で言う前傾姿勢を取る。


 その様子を見たムネシゲは、再び袖から札を出す。


「来い! 阿修羅童子!」


 今度は札がまるでムネシゲの中に入っていくように消えていく。

 途端にムネシゲから解き放たれる圧力が何十倍にもなって膨れ上がる。


 キラーウルフのボスは今度こそ間違いなく、野生の勘を信じた。目の間にいる少年は少年ではない。この圧力……大きさこそ違えど何度か感じたことがある圧力にそっくりだ。この大陸を作ったと言われている5柱の神。魔獣の身になっても野生の感性が衰えたわけではない。時折感じる神のぬくもり。それはこの大陸に生きる者すべてに注がれていて、それを時々とらえる生き物もいる。

 キラーウルフのボスはそのぬくもりと今少年が放っている圧力がまったくの同一のものだと感じたのだ。相手は神だ。逆らってはいけない。

 ゆえに彼はひときわ大きな声で叫び部下に引くように命じると背を向けての逃走を選んだ。が、背を向けた途端、彼の意識は霧散して虚空へと消えて行ってしまった。


 

(こらムネシゲ! こんな雑魚のために俺を起こしたのかよ! ああん?)

「暴れるなよ阿修羅! 絶対お前の封印はとかないからな!」

(ちッ。天羽の法力は相変わらずかよ。いいかちっとでもてめえの法力が衰えて見ろ。天羽と俺をこんな紙切れに封印した神々を皆殺しにしてやるからな)


 そしてムネシゲの体の中から一枚の紙が出てきて袖に収まる。

 前鬼と後鬼もいつの間にか紙に戻っていてムネシゲの袖に収まっていた。

 残されたのはキラーウルフたちのいくつかの死体と血だけである。


 ティラは目をまん丸くして、そしてなぜか怒っているようにも見えた。


               

               ────────────────


「嘘つき」


 ティラが罵倒してくる。


「バカ!」

 

 まだ言ってくる。


「ほんと騙された」

「俺は何一つだましていないぞ! 嘘などもついていない!」

「だって弱い振りしていたじゃない!」

「そんなふりをした覚えはない」

「水晶だって真っ白で魔力がないって証明されていたのに」

「風を起こす術や火を起こす術は俺には使えんからな。部下には何人か火遁や水遁を使うものもいたが、あれが魔法なのか?」

「知らないわよ。バカ。なによカトンって」


 憎まれ口を叩いてはいるものの、ムネシゲにおぶさっている状態ではどうにも恰好がつかない。自分が守るつもりでいた異国の少年に逆に守られ、しかも実力は自分の数十倍だ。恥ずかしいやら、何やらでどうしようもない。憎まれ口を言ってごまかす方法しか思いつかなかったのだ。


 街へ戻るとすでに日は暮れている。今日は父さんにこの子のことをもっと詳しく聞かなければと気合を入れた。

 街の人たちがじろじろと自分達を見てくる。はてなんだろう? 首をかしげるが心当たりはこの子の変わった衣装ぐらいだ。しかし、街の人々はまるで微笑ましいものを見るような目で見てきている。


 そしてようやく気付く。街中についたら下ろしてもらおうと思っていたのにいつの間にか多くの人の目のあるところで男の子に背負ってもらっているのだ。恥ずかしいなんてレベルの話じゃない。


「お、下ろしなさいよーー」


 ティラの叫びが街中にこだました。


 こんなに長くなるお話じゃなかったはずなんですけどね(汗

 かなり説明省いてもこの長さ……。

 ここまで読んでくれて感謝します。

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