想い人と、想いの始まり
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―いつからか、
『君』を想う私がいた―
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#0000〈想い人と淡く光る想い出〉
Eクラスの『小暮 雄志』。
私が、中1の後半あたりから想いを寄せてる人物。
誰にでも優しくて、明るくて、フレンドリーで、頭が良くて、誠実で、男らしくて、歌が上手くて…すごく素敵で…私にとって、完璧な人。
雄志に出会った時のことは、覚えてない。
いつの間にか出会って、友達やってたから。
でも…雄志への気持ちが変化した時のことは、鮮明に覚えてる。
中1の3学期。私はDクラスで、雄志はAクラス。
違うクラスだけど、面識はあった。
あの日は雨だった。
学校は諸活動停止で、全生徒が同時刻下校だった。
私と雄志は下駄箱まで、たくさんの生徒の混み合う中で会話をしていた。
校舎を出てすぐのとこで、雄志が
「お前、傘は?」
と、スクバを背負って両手が空いた状態の私を見て言った。
「ん?忘れた。」
毎度のことだったので、私は普通にこう答えた。
でも、内心は
『全くもって馬鹿だな…。』
と思っていた。
その時…
「貸してやるよ。」
と、雄志は私の手に紺色の少し大きい折り畳み傘を渡した。
「えっ、いいよ…!」
と私が言っているのに気づかず、雄志は友達の傘に入って行ってしまった。
…初めてだった…。
男子に、傘を借りたのが…。
男子の方から、傘を貸してもらうのが…。
初めて触れた優しさに、私はドキドキしてた。
『雄志…。』
雄志の傘を見ながら、心で呟く…雄志の名前を…繰り返し…何度も…。
そして、これだけでは終わらなかった。
次の日。私は、家で何度も雄志の折り畳み傘がバックに入っているのを確認して、学校に行った。
直接渡すつもりで、移動教室から帰ってくる雄志を、階段で待っていた。
でも…中々彼は現れない。『同じクラスなら…すぐ渡せるのにな…。』
と思いながら待ってる時間、くすぐったい胸に我慢がいかなくなって、雄志と同じAクラスの私の友達、
『小野寺 衣葉』に渡してもらうように頼んだ。
雄志の、なぜか眩しく感じる折り畳み傘と、お礼の手紙を衣葉に渡した時、少し切なくなった…。
昼休み。Aクラスに行った。
雄志の手に、傘が戻ったか確認するために。
雄志は教室の前のクリーナーに、色とりどりに染まっている黒板消しを押し付けていた。
少し震える手…。
なぜか緊張していた…。
「あの…、、傘、受け取った…?」
雄志のそばで、震える声で言った。不自然すぎる。
「よっ!受け取ったよー」太陽みたいな眩しい笑顔で受け答えしてきた雄志に、動揺を隠せなかった。
「あ、お前、下の名前なんていうの?」
いきなり何の前触れもなく雄志が聞いてきた。
「えっ、あぁー。葵希。小川葵希。」私は、疑問に思いながら答えた。すると…
「じゃあ、そっちで呼ぶね。」
…ドキッとした。
『そっち…?下の名前を…?』
さらに動揺する。
雄志は、黒板消しのクリーナー掛けを終えた。
「じゃあな。葵希。」
雄志は、真っ直ぐ私を見て、私の名前を呼んだ。
淡々しく、でも確かに、私の耳に、私の名前が響いた。
「うん。またね。」
笑顔で、一時の別れを告げた。
また初めて…
男子から、下の名前を呼ばれるなんて…。
男子の方から、呼んでくれるなんて…。
どうして…彼は…私にいろんな初めてをしてくれるんだろう…。
私にとって初めてのことをしてくれる彼に、私は…わくわくしてた…。
それから。雄志は私の中の『特別な存在』になった。
ある意味では、これが始まりだったかもしれない。
私たちの…始まり…。
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