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バスター・プレイヤーズ  作者: 16104
ファントムシップ
30/30

第二部

ビーーーーー!!


喧しいほどの音響がフィールドに鳴り響き、バトル終了の合図を送った。


『バトル終了でーす。』


『結果、デッキ枚数の多い。ゼロ様の勝利となりました。皆様、お疲れ様でした。』


光の輪が頭上から現れた。それはゼロの体を難無く通すと何もない無の中へと溶けていった。


「ミイナいるか?」


ゼロは素早くミイナに確認を取る。


「ハイハーイ!」


元気よくポンと出てきたのはゼロの専属ナビ、ミイナである。


「はい!ではさっそく勝利報酬を……。」


「ミイナすまん。それは後にしてくれないか?」


ミイナはそこで一つポンと手をたたくと強くウンウンと頷いた。


「なるほど。さっきの約束ですね?では。」


ミイナは手を動かし、宙にディスプレイを展開させた。


ゼロはそれに近付き、一つのアイコンを叩く。


それはMBコミュニティーへ行くためのMBと入ったアイコンだった。


アイコンを叩くとほぼ同時に光の輪が上空に現れる。ゼロはその中に入り、目的地へと向かった。





ゼロはMBコミュニティーに到着した。


前方に見えるのはガヤガヤと賑わっている繁華街の用な場所。


ゼロは人の波の中を突き進みながら目的の場所へと向かう。


『次の角を右です。ゼロ様。』


ミイナにナビを頼み、数分。ゼロは目的の場所へとたどり着いた。そこは西部劇に出てきそうな木製造りの建物だった。


ゼロは開き扉に手を掛け、中へと入っていく。周囲を見回すとかなりの人気店のようで丸いテーブルに数名のプレイヤーたちが談笑している姿が見られた。


ゼロはその一角で脚を止めた。


「遅かったな。」


腕を頭の後ろに組みながら椅子に腰掛けていたのはコウスケだった。コウスケは顎でゼロに座るよう促すとゼロもそれにならい席に座る。


ゼロはテーブルに手を起き話を進める。


「さっきの話しだが………。」


ゼロが言いづらそうに言うのを見て、コウスケは溜め息を吐いてそれに答える。


「だからさっき言った通りだって、お前に手伝ってほしいクエストがある。」


その解答を改めて聞き、ゼロは嘆息した。


「俺もさっき言ったはずだ。俺は人を殺すようなクエストは………。」


「もちろん分かっているさ。これはそういうクエストじゃない。倒すのはあくまでモンスターだ。」


「………。」


ゼロが沈黙したのを見てコウスケはゼロに説明を始めた。


「このクエストはファントムっていうモンスターを狩るゲームで、ポイントによって勝敗を決める。ポイントはファントムによって異なってるってところが肝だな。そしてこのゲームの終了条件。それはリーダー核のファントムを殺るか、こちらが全滅するかだ。何かここまでで、質問は?」


「………時間制限はないのか?」


「無いな。そのリーダー核のファントムを殺るかこちらが全て殺られるかだけだ。」


ゼロはそこまで聞き、頭の中の情報を整理し始めた。


「なるほど………でも、何で俺にそれを頼むんだ?お前一人でも充分にクリアできるはずだろ?」


対戦でコウスケはゼロの攻撃を一度も浴びずに屈服させている。ゼロは勝利こそしたが、内容ではコウスケにボロ負けの状態だった。


「確かにこれだけじゃ信用してもらえないか………。」


コウスケはだったらと言葉を挟んだ。


「俺の能力について話す。これでどうだ?」


その言葉にゼロは目を見開く。


「だが、その情報が嘘の可能性もある………。」


ゼロは慎重だった。一度は本当に殺されそうになったのだ。油断して背後を取られれば今度こそゼロの命はないかもしれない。


初めから疑ってかかるゼロに対しコウスケは不愉快な顔をみせない。逆にその顔には何かが吹っ切れたようなそんな雰囲気を出していた。


「ま、疑うならそれでいいさ。」


そう言うとコウスケは自分の人差し指を自身の目に向ける。


「俺の能力は相手の未来を視ることが出来るっていう能力だ。」


「未来っていうのは次に誰がどんな行動をするのか分かるってことか?」


「まあ理解の仕方的にはそれでいいかな?それでその未来を視るために必要なのがあのカメラとスキルカードだ。」


━━━そういえばカメラで撮影した写真を確認してたな。あれも関係あるのか?


「あとはお前なら分かっただろうが、未来を視ることのできるのはカメラで撮影した写真に移っているモノ限定一つのみ。さらに持続時間は2分と短い。そしてそれが俺の持っている能力の全てだ。そして最後に俺がお前にクエストを頼んだ理由は━━━」


「━━━自分のカードに相手を傷付けることのできるカードがないってことか?」


ゼロはコウスケの言葉に被せるように言った。コウスケもそれに頷く。


「だが、俺はどうしてもこのクエストのイベントアイテムが欲しいんだ。だから頼むキリヒコ。俺を手伝ってくれ………。」


頭を下げるコウスケへゼロは最後の質問をした。


「そこまでは分かった。じゃあお前は何でそのアイテムがほしいんだ?」


「それは━━━━」


コウスケは真剣な目でゼロを見つめた。その瞳は今までのどの眼差しよりも強い。そしてそこにはコウスケ、彼自身の覚悟が秘められていた。





『こんにちはゼロ君、今日はどういったご用件ですか?おや、ゼロ君が一人でこないとは珍しい。そちらの方は?』


いつものスマイルフェイスを崩すことなくゼロを迎え入れたのはカスザメというフリーのナビだった。


「だから何度も言わせるなよカスザメ。お前ならそんなこと言わなくても分かるだろうが。」


カスザメはふんと鼻を鳴らすと面倒くさそうに自分の前に展開したディスプレイを操作し始めた。


『あ、すみません。キミ、もうちょっとこっちに来てもらっていいですか?』


「あ、ああ。」


不信感を露わにしながらもコウスケはオープンな状態になっている店の板一枚隔てた所まで近付いた。


『はい。チーズ。』


パシャ!!


「お前、何を!!」


『エイド君ですか………いい名前ですね。』


今にもカスザメに襲いかかりそうなコウスケを宥めながらゼロは思った。


━━━そんな機能があるなら最初から使えよ!!


おそらくコウスケよりもゼロの怒りは大きかったに違いない。


『では改めて、私はカスザメと申します。どうぞよろしく。』


そう一礼したカスザメに対しエイドと呼ばれたコウスケはそっぽを向いたままだ。


ゼロは息を吐きながらカスザメと向かい合った。


「俺たちあるクエストに参加したくってな。」


『ああ、そういうことでしたか。』


ゼロの言葉にカスザメは頷くとすぐさまこちらに参加申し込みの書類を差し出してきた。


ゼロはそれを訝しみながらも覗き込む。


そこに書かれていたのはファントムシップという単語だった。


ゼロは意味なく拳をカスザメの顔面に振るったが、カスザメもそれをひょいっとかわした。


『クエストの開始は一週間後になりますね。その他の要項はそちらの書類に書かれていますので確認をお願いします。』


笑顔を崩さないカスザメにゼロは戦意を失い。未だ遠くを眺めるコウスケを呼んで書類にサインを記入した。


『では、またのご利用を。』






そこはとある森の中だった。


ゼロは前方でうねる全長200m、縦の長さも10mほどの蛇のようなモンスターに接近していた。蛇はもはや骨だけの存在で長い胴から生えた骨たちがまるで無数の足のように奇妙な歩行を見せている。


「あれは本当に倒せるのか?」


生物の常識として骨だけの存在が生きることはできない。つまり既に生物として死んでいるものをどう倒せばいいのかに対してゼロは悩んでいた。


━━━ああいうのってどっかのゲームでは死んでも時間が経つと生き返るんだよな。このゲームでもそんなことになったら………。


「はぁー。」


ゼロの溜め息はつきることはない。


『skillカード!!』


グァアアアアア!!


肉のない骨でどこから鳴らしているのかモンスターは金切り声を上げていた。


そんなモンスターと対峙していたのはテラーだった。テラーは手に纏う炎を全弾命中させると迫るモンスターの顎を回避した。


ゼロは自分の手元を見る。手に握られていたのは漆黒の刀が一本のみ。足にはシールドが装備されていた。


ゼロは一枚カードを引いた。ゼロはそのカードを見やるとすぐさまデバイスにセットする。


『set!!』


だが、それだけで安心できるゼロではない。テラーが苦戦している以上。あのモンスターのレベルは相当強いのだろう。


ボゴーン!!


フィールドに変化が起きた。それはモンスターの胴を半ばほどから囲むように展開された土たちがモンスターの体を地面に縫い付けた音である。


モンスターは身動きの取れる上半身部分を奇妙に捻り、後方を見据えた。


グアアアアア!!


次にモンスターが取った行動は動く下半身部分を動かし辺り一面の木々を清掃する事だった。


たった一振りによりその場所は木の残骸がひしめく森へと変化する。


「あっぶねー。」


その煽りを受けたゼロは命からがら生き残っていた。


目の前に広がる光景にゼロは苦笑いを浮かべながらも前に進もうと丸太を一つ越え、モンスターへの接近を図る。


蛇型のモンスターはその顎を土の囲いに叩き込み破壊しようと試みていた。


そしてそれはポンと言う音とともに形を失っていく。


グアアアアア!!!


砕けた土の囲いを見て蛇は勝利の雄叫びを上げると先ほどから執拗に攻撃してきた他のプレイヤーたちへと睨みを効かせた。


逃げ惑うプレイヤーたちへ蛇は追撃を開始する。


「逃げんな!!」


ゼロはさらにカードをドローした引いたカードはスキルカード。


『skillカード!!』


ゼロは瞳を紅く染め上げながらムカデのように蠢く蛇の骨に接近する。


その中の一本が地面を穿った瞬間、ゼロは骨に飛び付いた。


骨の間にある間接部が丁度いい足場となり、ゼロはさらにモンスターの背骨へと移動する。


足場はガクガクと不規則に動いているが行動に支障はなさそうだった。


最新の注意を払いながら前方に見える頭部を目指すゼロはそこで一人のプレイヤーと対峙した。


そのプレイヤーは落ち着いた様子で背骨に腰を下ろし、片手には鞘に収まった刀、さらにもう片方は骨を掴み安定を計っている。


「誰か来たのか?」


蛇の足音にゼロは上手くその言葉を聞き取ることが出来なかった。


「ここに乗ったということはあなたも?」


プレイヤーは「ああ」と一言だけ言い、刀を蛇の頭部のある方へと向けた。


「このモンスターの核はあそこだ。」


ゼロは刀の指し示す方を向いた。そこには何か鋭いモノで削られたような痕がくっきりと残ったポイントがあった。男は続けて言う。


「目の見えぬ儂ではあそこを集中して攻撃するのは難しいのだ。だからキミがあれを破壊してくれないか?」


ゼロはそんな不審な行動を示すプレイヤーに疑いの眼差しを向けた。


「………恐れているのか。」


ゼロの心をよんだかのようにそう低く呟いたプレイヤーは重そうに腰を上げる。


「何をする気だ。」


ゼロの反応にプレイヤーは嫌な様子を見せることなくカードを一枚引いた。


『skillカード!!』


その行動にゼロの警戒度は一気に跳ね上がった。刀を構え牽制のいろを見せるゼロにプレイヤーは告げた。


「何も………ただの途中下車だ。」


「やめろ!!」


プレイヤーは蛇の背骨から飛び降りた。ゼロも急いで手を伸ばしたが、プレイヤーを掴まえることはできず手は空を切るだけの形となった。


そしてゼロは見た。プレイヤーが飛んだ距離は短く、さらに後ろから迫ってきた骨の足達が次々とプレイヤーを踏み潰そうと前に出るところを。


ガキン!!


そんな音を響かせながらプレイヤーはその土煙の中に姿を消していく。しかしゲームオーバーを示すあのメロディーは聞こえなかった。


ゼロは再びポイントに顔を向けた。


「くそーー!!」


ゼロは素早くポイントに向かった。刀を逆手に向け、刃を思い切り傷付けられていたその中心に叩くように振るう。


━━━ゲームオーバーの音は鳴らなかった!なら、あの人はまだ助けられるはずだ!


ガキンガキンと骨を砕く破砕音が鳴り響く。そして━━━。


パキッ!そんな音が聞こえた。音はひび割れとともにテンポよく鳴り、その規模を蛇全体の骨に拡散させる。


グアアアアアァァァアアア!!!


これまでにないモンスターの声が響く。その声には心なしか苦痛のいろが伺えた。


骨はまるで陶器のようにボロボロと崩れていく。そして崩れた骨の内側からは黒い層のようなものが見え始めた。


「まだだ!!」


ゼロは刃を再びモンスターのその黒い層に突き立てるとモンスターの背をモンスターの顔面に向かう形で疾走しはじめた。


ビリビリビリと紙のように斬られていくモンスターの黒い層から赤黒い液が噴出していく。


アアアアア!!


「ああああああっ!!!」


ゴキン!!


その音とともにモンスターの首が前方へ弾け飛んだ。


ゴロゴロと転がっていった頭部はやがて粒子となり架空の空へと流れていく。


『クエストクリア』


アナウンスが入り始めた。これはクエストの終わりを告げる合図でもある。


『クエスト生存者7名、討伐者無属性ゼロ』


ゼロは上空にあるディスプレイを見やる。


ゼロの字は赤く染まり、そしてゲームオーバーとなったプレイヤーは青く染まっていた。


ゼロは息をのみつつ目的のプレイヤーの名前を確認した。


風属性 ア


その色は黒字で記載されており、そしてそれはそのプレイヤーの生存を意味している。


「………よかった。」


『マイページへ移行します。皆様、お疲れ様でした。』


ゲームはそこで一旦幕を閉じた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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