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バスター・プレイヤーズ  作者: 16104
プレモンMB
3/30

第五部

『ゼロ様。お疲れ様でした。』


ゼロの目の前には柔和な笑みを浮かべたミイナの姿があった。


腕の痛みは消えていた。それどころか今までの疲れが嘘のように無くなっている。


ゼロは包帯を外してみたが、やはり腕の腫れはひいていた。


辺りを見回す。校舎の面影は一切みられず、最初の時のような何もない無が永遠と続いている場所。


今、ゼロはミイナ言うところのマイページにいた。


『今回のバトルでゼロ様はレベル1からレベル3にアップしました。ですのでレベルアップボーナスとして基本カード三種から好きなカードを2枚選ぶことが出来ます。同じ系統のカードを2枚選んでもいいですよ。カードは選べば選ぶ程、レベルが上がってゆきますから。』


「なあ、ミイナ。ハギナミってプレイヤーは生きているのか?」


『ハギナミさんですか?えーと、あの雷属性の方ですよね。でしたら、ほっと!』


ミイナは右手を突き出した。すると、ゼロの目の前の空間に磁場の乱れのようなものが発生し、一つのディスプレイが出現した。


「これは?」


『はい!これはプレイヤーの対戦に用いられるプレイヤーリストです。人を捜す時にも使用できるのでこちらから検索していただけると安否確認程度なら出来るかと。』


ゼロはディスプレイに向き合った。アイコンが何個かあったが、その中でも人型をしたアイコンを押してみた。


ポン!と鳴り、画面が変わる。名前、レベル、属性と検索が出来るようだった。


ゼロは雷属性、ハギナミと検索した。


検索結果は一件。


その一件を押すと、そのプレイヤーの情報が次々と出てきた。


その中には画像も入っており、本人と確認すると、肩の荷を下ろすように息を吐いた。


次にゼロは炎属性、テラーを検索した。


検索結果は3件。


一つ一つ確認して、そいつを発見する。


「レベル26。なぁミイナ。レベル26って強いのか?」


『そうですね。最高レベルが200ですので、下といった所でしょうか?ちなみにゼロ様は下の下ですね。』


「下……か。」


ゼロは自分の中の煮えたぎる思いを振り切るように首を振り、話題を変えた。


「ミイナ、最高レベル200ってそこまで行ったら何かあるのか?」


ゲームでいう、最高レベルとはゲームクリアと言ってもいいだろう。まだ、その上には全クリというモノがあるが、何らかの報酬があるのではとゼロは思っていた。


『レベル200になると一つだけこのゲームで願いを叶えることが出来るそうです。』


「え、てことはこのゲームをやめることも?」


『はい。出来ると思います。最高レベルに達するということはこのゲームでのクリアと同じですから。』


━━━レベル200!遠いが、でも目指すべき道は出来た。


『ですが……。』


次のミイナの言葉はゼロを現実という壁に立たせるには十分な言葉だった。


『このゲームが始まって以来、200まで達した方は僅か十名ほどです。』


「十人って、何十年も続いてんだろこのゲーム。だったらもっとクリアしてるはずだろ!」


『ですが、本当に十名しかクリアしていません。更に言えば、クリアした中の九名の方はゲームを辞めることが出来ましたが、残り一名だけはまだゲームに残っています。』


「…………。」


『実は私もその一名については深くは知りません。ですが、ゼロ様もお気づきでしょう。このゲームは実力を伴うプレイヤーしか生き残れないゲームであると。』


ゼロも難しいことだろうとは予想していたが、ここまでクリア数が少ないとは思っていなかった。そしてそれはそれ程のモンスターとこれから闘うことになるという事も意味してくる。


『クエストがありますよね。あのクエストのモンスターはおよそ1~140レベル程度のモンスターがウジャウジャ出て来ます。

140レベル程度ならばレベル50程度のプレイヤーにもなれば勝利することが可能となるでしょう。

しかし、もう一つ。緊急クエストというモノが存在します。』


「緊急クエスト?」


『緊急クエストとはレベル150越えの最強のモンスターを討伐するクエストです。プレイ人数は100名以上。これも討伐者ボーナスなど存在するのですが、勝利するのがかなり難しいのです。』


「100人以上ならそれくらいはな。でも、190レベルくらいになれば大抵は倒すことが出来るんだよな。」


『いいえ。150レベル以上というのはあくまでも定義。最早、レベルは関係なくなります。実力勝負。ただ純粋な力のみが要求されるのが緊急クエストです。』


「でも、レベル後半のプレイヤーにもなると経験値的にレベルの高いモンスターを狩らないといけないんだろ。」


『過去。190レベル代だけならば、数々のプレイヤーがおりました。しかし、緊急クエストで彼らは命を落とした……そう現実の死です。そして、今ではもう190レベル代はたった一名のみ。』


「レベル上げには緊急クエストが不可欠。でも、倒せないってなんだよ。」


『確かにゲームバランスは穫れていないと私も思います。ですが、これが『プレモンMB』です。』


「リアル体感ゲームってか?」


『はい。』


「……はぁ。」


つくづくこのゲームに嫌気がさした。おそらく、ルールを聴けば聞くほどこのゲームが嫌いになっていく。


もうこのゲームだけで何回目の溜め息だろうか。


『ですが、こんな所でくよくよしてはいけませんよ。ゼロ様!私が言うのも何ですけどゼロ様きっと強くなれますよ。』


「なんかお前に言われると本当に夢が遠くなる気がするよ。」


『そんなゼロ様~。』


「わりわり、でも、ありがとうな。少し元気出て来た気がするわ。」


『…………それは良かったです。』


その時のミイナの笑顔は憂いを帯びたどこか儚げな笑顔だった。


ゼロは気まずさを振り切るようにさらに話題を変えた。


「と、とにかく。なんだっけ。えーと、あれあれ。そう。カード選らんじまおうぜ。俺も疲れたし、早く現実に戻りたいわ。」


『そうですね。では、』


ミイナは再び、右手を前に突き出した。するとまた、あの磁場が発生し、新たなディスプレイが展開される。


そこに映し出されているのは裏表示のカードが三枚。キレイに並んでいる所だ。


『右からウェポン、シールド、スキルです。そのディスプレイにタッチしてもらうと新たなカードを入手することが出来ます。』


「ミイナ。この俺のベースカード。レギナ・チェインのことなんだけど。なんか得意な系統とかってないの?ほら攻撃力が高いとかさ。」


『そうですね。レギナ・チェイン限定な訳では無いのですが、無属性の特徴としてスキルが得意なモンスターが多いです。』


「無属性の特徴って他のもか?」


『はい!無属性は基本、属性を武器に闘うのがスタイルと言えます。特にレギナ・チェインは属性と属性を繋ぐモンスターとして有名なのです。』


「言ってる意味はさっぱりだが、とにかく、スキルカードが得意なんだな。だったら」


ゼロはスキルカードをタッチした。するとディスプレイ上のカードが光り、ゆっくりとディスプレイから浮かび上がるように飛び出てくる。最後には完全にこちら側にカードとして存在していた。


「ディスプレイから出て来るって。」


『ゲームの中ですからね。なんでもありと思ってもらうしか…………。』




「はっ!!」


キリヒコは顔を上げた。今の時刻は9時01分。


テストは続行されていて皆、机と真剣に睨めっこをしていた。


「濱名。そんなにカンニングしたいのか?」


運悪く、また先生に見つかってしまった。


キリヒコはすみませんと一言だけつげ、机に向き直る。


一応、机の中を確認したがあのカードはどこかに消えてしまっていた。




キーンコーンカーンコーン!


チャイムが鳴り、教師の一言でテストが回収されていく。


キリヒコは解答欄こそ埋めたもののテスト自体には自信が持てていない状態だった。


時間こそ50分程度ではあったが、キリヒコの体感時間では30分以上は脳または身体を動かしていたのだ。最早、テストに集中できるような状態ではない。


「うがーー。」


結果、キリヒコは机に突っ伏すという現状に陥った。


━━━くそ、頭の中グシャグシャだ。一度整理する時間も欲しいし、今日はもう帰ろうかな。


「キリ!どうだった。何?俺の結果を聞きたいって?それはなー。」


「どうせ惨敗だろ?いちいちいらないよ。そんなの?」


「今日、随分coolだね。やっぱり何かあったのかな?」


意外と滑らかなクールの発音にイラッときたキリヒコであった。


「なぁ、トウキ、もしさ…………………………何でもねー。」


「なんだよ。キリなんか喋ろうとしたんじゃねーの?」


「いや、本当に何でもない。ほらチャイム鳴るぞ席につけ!」


「お前は先生かよ。」


トウキはそのまま自分の席へ戻っていく。


━━━『プレモンMB』の話は出来ない……か。ハギナミさんの言ったとおりだ。


チャイムが鳴り、教師が教室に入ってくる。


━━━他の人に心配もかけられないし、今日は頑張るか……。





「ふう。」


学校も終わり下校となったキリヒコが向かったのは自宅のパソコンディスクではなく公園のベンチだった。


何をする訳でもなく、コンビニで買った缶コーヒーを啜りながらどこか遠くをみるようにボーとしているだけだ。


この時間には人もおらず、暇な中高生が道を歩いている姿しか見られない。


しかし、そんな雑踏の中に一人見慣れた女子中学生の姿があった。


向こうもこちらに気付いたらしく、テコテコと歩いてくるとキリヒコの隣にどっさりと腰を下ろした。


「それで、先輩どうしたんですか?ついに三次元に興味ゼロになっていつ死のうかと考えてました?」


開口一番にとんでもない言葉を言ってきたのはキリヒコの後輩、中野美鈴〈なかのみれい〉。


キリヒコが中学時代に所属していたパソコン部の後輩であり、キリヒコのライバルでもある。


もちろん、ライバルというのはプレモンでのことであり、ミレイもなかなかの実力者であった。


「二年ぶりぐらいなのに、相変わらずだなお前。それに俺はちゃんと三次元ラブだし、二次元ライクだよ。」


「相変わらず、面白いですね先輩。でも、その様子じゃまだプレモンをやってますね。早く卒業しないと彼女も出来ないですよー。」


「大きなお世話だ。俺は二次元のカードを愛してるのであって、キャラクター達にはあまり興味ない。」


「だからそこが駄目なんですって。」


「てかお前、部活は?」


「先輩のいなくなった部活なんて直ぐ辞めちゃいましたよ。いやーあの頃は楽しかった。激しくコントローラーを打ち合ったのを覚えてます。」


「お前のせいで、俺のコントローラーが未だ先生の手中にあるのも覚えてるぞ?」


「でも、ほんと偶然ですね。先輩卒業してから寂しかったんですよ。会いたいなと思っても会えないし。」


「お前どんだけだよ……。てか、あーもー。俺今、ボーとしてたんだよ。何水さしてんだよ。」


「あ、そうそう。先輩。先輩に訊きたかったことがあるんですけど。先輩って近頃変わったことってなかったですか?」


「変わったこと?」


「はい。例えば、新しいゲームをやったとか━━━」


ミレイはポケットから取り出した一枚のカードをキリヒコに示した。


「━━━例えば、こんなモノを見たとか。」


「なんで……。」


そこにあったのは青で染め上げられたカード。その表面にはMBの文字。


「あ、やっぱり先輩みえるんですね。良かったー。」


━━━俺のカードと似てるけど色が全然違う。て、ことは俺のじゃない。じゃあやっぱりあれは。


ジリリリリィィ!!!


耳ざわりな音がキリヒコの脳を揺らす。さらにポケットの中が振動しているのに気付き、中に手を入れるとやはり、あの漆黒のカードが姿を現した。


『クエスト開始5秒前』


「その様子だと。先輩も徴収のようですね。」


ミレイは慣れた手付きで携帯を操作し、カードを画面に翳した。


『ブルーオー様。承認いたしました。』


『3、』


えっへんという顔でこちらに顔を向けてくる。


「あれ?先輩、承認しないんですか?」


「承認っていっても、ネット検索してもプレモンMBのサイトが見つからないんだよ。」


『2、』


「それはそうですよ。ほらそのカードの表面のしたの方にURLあるじゃないですか。それで検索しないと出て来ませんよ。」


「なに!?」


『1、』


慌てて入力するが無惨にもタイムオーバーとなった。


『クエスト開始』

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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