ゼロ 其の参
一部、性的暴力場面があるので、苦手な方はお控えください。
公園についてからは楽しかった。かくれんぼをしたり遊具で遊んだり、こうすけが持ってきたサッカーボールで遊んだり。
「もう私疲れた。」
「私も……。」
そんなこんなで辺りも暗くなり始め、帰宅の時間となった。
僕らは公園のベンチに座り、今は休憩中である。
「いやー。今日は楽しかった。」
僕も含め三名は疲労の色を見せているのに対し、こうすけだけはピンピンとしている。僕はその体力を羨ましくおもった。
「ねーぇ。そろそろ家に帰らない?もう暗くなってきちゃったし。」
なっちゃんの言葉に僕たちは渋々ながらも頷いた。補導時間もあるし、そろそろ危ない時間かもしれない。
「そうだね。時間遅くなってお母さんたちに起こられちゃったらさなちゃんの誕生日が台無しになっちゃうかもしれないしね。」
「んじゃ。帰りますか。」
最後に締めくくったのはこうすけだった。こうすけもボールを持って帰る準備を済ませている。
僕たちはそうしてさなちゃんの家に戻ってきた。もちろん帰宅途中も笑いは絶えることなく、素敵なお祝いの日になったのではないかと僕は思う。
こうすけとなつきの二人はさなちゃんのお母さんに挨拶を済ませると僕とさなちゃんに手を振りながら去っていった。僕も彼らの背が見えなくなるまで手を振り続けた。
「あ………。」
そうしているとさなちゃんが突然何かを思い出したかのような声を上げた。僕はそれに気付きさなちゃんに声を掛ける。
「どうしたの?さなちゃん。」
僕の問いにさなちゃんは手を前に伸ばして大きく振り何でもないという風に見せる。
「な、なんでもないよ。それよりほら、キリヒコくんも早く帰らないとキリヒコくんのお母さんが心配しちゃうよっ!」
「え、でも僕の家はさなちゃんの隣だからそんなにお母さんも心配しないような気もするんだけど……?」
「そんなことないよ。それにキリヒコくんは明日も練習があるでしょ?早く寝ないと駄目だよ!」
「そうかなぁ?」
「そうだよ!」
そんなさなちゃんの駄目押しに僕は食い下がるほかない。
「………わかったよ。」
僕は腑に落ちない部分が残りながらもそう言った。それを聞き、さなちゃんは何故か安堵の息を吐くと少し落ち着いた様子で僕に言う。
「また明日ね。キリヒコくん。」
「うん。じゃあねさなちゃん。」
僕たちは互いに手を振り自分たちの家のドアを開けた。
「ただいま。」
僕はそういうと自分の家の玄関へと一歩を踏み出す。
「お帰りキリくん。さなちゃんの誕生日パーティーは楽しかった?」
そう優しく僕を迎え入れてくれた母はエプロン姿で料理を作っていた真っ最中のようだった。
「うん!」
「それは良かった。ところで……。」
母は僕の耳元に口を近付けると小声で言った。
「………プレゼント。どうだった?」
それを聞き、僕はニシシっと笑うと指をVの字にして言った。
「大成功だった。さなちゃん喜んでくれたよ!」
母はでかしたと一言だけ言い。
「それじゃあ、キリくんは早くお風呂に入ってきてください。そのままじゃキリくんに晩ご飯はあげないぞー。」
僕はそれを聞き、大急ぎで脱衣所へと向かった。母もそれを見やり調理途中だったキッチンへと向かってゆく。
僕は脱衣所で自分のTシャツに手を掛けた。そしてその時、ふと思った。
━━━それにしてもさっきのさなちゃんの様子、おかしかったよなー。
僕はさなちゃんの様子に不安を覚え、Tシャツから手を離した。そのままもう一度玄関へと戻ると料理中の母に気付かれないようにそっと靴を履きドアを開ける。
同じ容量でドアを閉め終えると僕が向かったのは隣にある西本家である。
その家のチャイムを押し、僕は暫く相手の反応を待った。そして漸く返事が返ってくる。
「はい。」
その声でその主がさなちゃんのお母さんだとわかった僕はすぐに言葉を掛けた。
「さなちゃんのお母さん。さなちゃんは居ますか?」
「さなえ?━━━」
僕は次に来た言葉に一瞬だけ固まってしまった。
「━━━まだ、帰ってきてないけど。あれ?キリヒコくんたちとまだいっし…………」
僕は素早く自分の家の方へと駆けてゆき、自分の愛車に跨がった。
ハンドルを握り、ペダルを踏み締めると思い切り発進させた。
その様子を見て、玄関から出てきたさなちゃんのお母さんに何か言われた気がしたが、今の僕の耳には届かなかった。
━━━さなちゃん。どこいったの?
親にも心配をかけさせないと定評のあるあのさなちゃんが何も言わずに消えた。
そういえばと僕は思う。
━━━さなちゃんは不審者にずっと見られていたんだ。それがこの頃、見てないからって僕はなんてことをしてるんだよ。
僕は自分を攻めながらもさなちゃんが行きそうなコースを自転車で最速に駆けていった。
━━━さなちゃん!無事でいて!
「あ、あった!よかった~。」
私はほっと胸をなで下ろしその落とし物を拾い上げる。
私が今いるのは先ほど遊んだ公園の茂みだった。
かくれんぼをしていた時に私はここに隠れ、大切なものを落としてしまった。
「ごめんねキリヒコくん。」
そう言いながら手に持ったハンカチで落とし物に付着してしまった汚れを拭い取る。
「………家に帰って綺麗にしなくちゃ。」
私は立ち上がり、手に持ったものをハンカチに包んだまま大事にポケットにしまった。
そこで私は気がついた。夜はすっかりとふけ、先ほどまで色鮮やかに辺りを彩っていた夕日も消えてしまっている。それに空もよく見れば暗い色をした雲たちが空を覆い尽くしてしまっていた。
それらを見やり、私はすぐに家へと続く道に足を進めた。天気が悪そうだというのもそうだが、何よりも嫌な予感がしたのだ。
そしてそれは的中することとなる。
「きゃっ!」
突然私の腕を掴んできたのは暗い色のパーカーをした人だった。
私は驚きのあまり強張ってしまい身動きを上手く取れないままその男の人に腕ごと腰を挟まれ引っ張られてしまう。
私は声を出すことができなかった。出来たのは最初に発した言葉のみだ。必死に抵抗を試みたが、相手の方が強くて勝負にもならない。
私は目を強く瞑った。
━━━助けて、誰かたすけて………っ!
それが私に出来る最大の抵抗だった。
━━━助けてっ!キリヒコくん!
その思いが通じたのか。
「さなちゃんから離れろぉぉお!!」
大声を出しながら私の方へと木の棒を持って駆けてきたのはキリヒコくんだった。
「おらぁぁあ!!」
キリヒコくんの振りかざした一撃が、相手のどこかに直撃した。
それにより私に掛かっていた拘束も解除されることとなる。
「さなちゃん!逃げて!!」
私は何も考えずまず走ろうとそう決意した。必死で前方へ走ってゆき、キリヒコくんを抜かす、キリヒコくんは私の後から走るようだ。
そんなキリヒコくんの様子を横目に見ながら私は走ったとにかく走った。
「うわぁぁああ!!」
そんな悲鳴が聞こえたのは私の後ろからだった。見ればキリヒコくんがパーカーを着た男の人に頭を掴まれそのまま横に転がされ、必要に顔や腹などを蹴られている光景が見えた。
「このくそガキがぁぁああ!!」
男は声を荒らげながらキリヒコの顔面に再び蹴りを打ち込む。
キリヒコの顔は既に何ヶ所かの腫れが広がり、鼻血と唇から流れる血がコンクリートに点を打っていた。
「やめて!!」
私はその男の人に飛びかかった。私はとにかく必死に男の腕や胴を殴る。
「じゃますんな!」
男は怒りの目を私に向けると私の腹に蹴りを放った。
「っ!?」
私はその鈍い痛みに耐えられず、地面を転がり、腹部を押さえたまま動けなくなる。
その頃になると近所の人も不振と思ったのかふらふらと何人かが近付いてきている気配を感じた。
私は叫んだ。
「たすけてっ!」
その声を聞きつけさっきよりも足音が鮮明になってきた気がする。
「黙れよ!」
男の人はもう一度、私の腹を蹴った。私は肺に溜まっていた空気が一気に吐き出され、また声が出せなくなった。
「こい!」
男は乱暴に私を立ち上がらせると引き摺るように私を連れていく。
私は痛みに歯を食いしばりながらもその声を聞いた。
「さ、なっちゃん………。」
キリヒコくんはそう言いながら、私に手を伸ばしてくる。私もそれを求め、自分の短い腕を定一杯に伸ばす。
「………キリヒコくん。」
しかしその手が届くことはなかった。次第に遠ざかっていくキリヒコくんの姿を見て私はいつの間にか自分が涙を流していることを知った。
ポツポツと雨が大地に降り注いでくる。
「のれ!」
私は男が用意していたと思われる車の助手席に乱暴に乗せられた。
バン!という音と共にまた男が私に話し掛けてくる。
「次、喋ったら殺すからな?」
男はそう言うと自分のポケットから取り出したナイフを私に突き付けてきた。
「ドライブしようぜ?」
車のエンジンがなり、そして動き出した。
車が止まったのは人知れない森にあった一軒のボロ小屋の前だった。
私は男にナイフを向けられたまま男の指示通りに小屋のドアを開け、中に入る。
中には前の人の置き忘れとしか思えないものが充満していた。
「おら。」
男はさっきまでの怒り口調ではなくどこか素っ気なさと高揚感に満ちたような声を上げ、私を突き飛ばす。
その先にはテーブルがあり、私は身を乗り出すような体勢となった。
私は後ろを振り向く。
「……私に………何かようなん、ですか?」
私の口から漏れたのはそんなか細い声だけ。それでも男はそれに対して返事などを一々せず、自分のズボンに手を掛けるとそれをぱんつごと一気にズリおろした。
「っ!?」
私はその不快な行動に体をビクつかせることしかできない。
男は私に近付いてきた。それに対し私もズリズリと後ろに引き下がっていく。しかし、テーブルの先には壁があった。
男はナイフを煌めかせながら私に迫ってきた。男は私の胸ぐらを掴むとナイフを服の中央部ほどに突き立て、一気にそれを引き下ろしてゆく。
ビリビリと軽快な音を立てながら私の服は破れ、そこから露わになった私の胸に男は顔をうずめてくる。
私は声も上げることもましてや抵抗も出来ず男にされたい放題の状態となっていた。
男は次に手を私のスカートへと伸ばし、そして顔は私の顔へ近付けてくる。
男の唇と私の唇は重なり、そして……
「んっ!んんーん!」
私の声に鳴らない声にも男は反応を示さない。男は何も見ないまま私のスカートを下げ終えると今度は私の唇から唇を離し、今度は徐々にそれを下へと持って行った。
私は声を出そうと必死に喉に力を入れた。
しかし出ない。出掛かっているのにまるで息が止まってしまったかのように声が出なくなってしまっていた。
━━━
男は興奮を押さえきれず、体を私の方へと乗り出すと手を私の顔のある左右に置いた。
そんな興奮状態の男に私は言った。
━━━こんなところでこんな目にあうんだったら、私は………
「お兄さん………。」
男は初めて私の声に耳を傾けた。それは気分がいいからなのかそれともお兄さんと呼ばれたのが嬉しかったのかは分からない。
「なんだいお嬢さん。僕はこれからキミと気持ちよくな………」
「お兄さんは━━━。」
私は男の声を遮るようにもう一度声を漏らした。
これには男も少し驚いたようだが、それでも男は私に優しい顔を向けている。
男は次の私の言葉を待った。
━━━ごめんね。ごめん。キリヒコくん。
その様子を見ながら私は口に軽い笑みを浮かべ男に言った。
「━━━プレモンMBって知っていますか━━━。」
この時、複雑なノイズが私と男を包み込んだ。そしてボトッとスカートから落ちたのは一枚のハンカチにくるまれた。小さなネックレスだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。




