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バスター・プレイヤーズ  作者: 16104
プレイヤーズ
26/30

ゼロ 其の弐

「えへへー。さなちゃん喜んでくれるかなぁ。」


僕はそう自分の隣に立っていた母に尋ねた。


ここは近所でも有名な雑貨店である。


母はこちらを向いて


「そうね。さなちゃんのことだからきりくんから貰ったものは全部嬉しいと思うわよ。」


「僕が聞いてるのはそういうんじゃなくて女の子が喜ぶかどうかなんだよー。」


頬を膨らませる僕に母は少し意地悪そうな顔をした。


「あら、家のキリくんはそんな小さいことに捕らわれる男の子だったかしら。それにそれはキリくんがいいなと思って選んだ奴なんでしょ?もしそこでお母さんが一緒に選んだらそれはキリくんのプレゼントじゃなくて濱名家のプレゼントになっちゃうわよ?」


「そっかー。」


僕はもう一度、自分の手に持った商品を確認した。


「うーーーー。」


眉ねを寄せ必死に考え込む僕へ母は言う。


「そんなに決められないなら、さなちゃんに直接聞いてみる?」


僕は首を横に振った。


「それはダメ。ぜーたいにダメ。」


「じゃあどうするの?」


「うーーーー。」


「さなちゃんの誕生日は週末だし、お母さんもちょっと忙しくなるから今日しか選ばせてあげられる時間がないんだー。どうしよう?」


母の困る顔を見て、僕はもう一度品物を見た。


━━━よし………。


「僕、これに決める!」


ビシッと母の前に出した品物を見て母は僕に尋ねてきた。


「本当にそれでいいの?もう少し別のところ行って見てみてもいいのよ?」


僕は首を横に振った。


「これでいいの!」


母はそれに頷き、僕を連れてレジの前に立った。


「これをお願いします。」


母はそれを定員さんに渡した。


「あ、あとプレゼント用にしたいので包んでもらえると嬉しいんですけど………。」


「はい。分かりました。リボンの方は赤とピンクがございますがどちらになさいますか?」


「ピンクピンク!絶対ピンク!」


僕の言葉に定員さんは頷き、一瞬だけ母の方を向いたが母もそれを肯定したので定員さんはその商品を綺麗な袋に詰めてくれた。


その間に僕は上着のポケットに手を突っ込んだ。そこから出てきたのは小さな小銭入れである。たんまりと膨れたそれから電子機器には表示されている値段を見て、同じ数になるだけお金を置いた。


「ありがとうございました。」


定員さんはレジごしに僕らを見送ってくれた。僕はそれに手を振って応えた。


キリヒコの手にはピンクのリボンに包まれた一品のプレゼントが握られている。





「さなちゃんの誕生日パーティーしようぜ!」


こうすけはそう僕ら三人に促した。


「今、僕たちはその話をしてるんだよ。」


「こうすけくんおっそいからー。」


「ありがとう。こうすけくん」


いつものメンバーの三者三様の言葉を聞きこうすけは少し残念そうな顔をした。


6月13日土曜日はさなちゃんの誕生日である。そして今日は6月8日月曜日だ。前もって親に許可を貰わなければいけないので一週間前から話し合いをしているのだ。


「聞くけどこうすけ。お前もやっぱり午後の方がいいよな?僕たち野球の練習があるし………。」


こうすけは真面目な顔をして話に加わった。


「そうだなー。確かにさなちゃんには悪いかもしれないけどそうしてもらえたら助かるかな?」


さなちゃんはコクンと頷き。


「分かった。それでお母さんと話してみる。」


「さなちゃん楽しみにしててね!」


そう言ってなっちゃんはさなちゃんに抱きついた。その時に頬をスリスリなんかしちゃって僕は少しだけ羨ましそうに目を向けた。


「そんな顔してもダーメ。この頬は私のなんだよ。」


「そんな顔ってどんな顔だよ!」


「そんな顔だよ。」


「もーー!!」


そこでさなちゃんの口からクスクスと小さな笑い声が聞こえてきた。手を口に当てて笑うその姿ははっきりいって可愛い。


「さなちゃんまでなんだよー。」


僕以外の三人はそれぞれに僕を見て笑っていた。


僕も恥ずかしさからくる顔の火照りを隠しきれずもう一度はっきりと言った。


「笑わないでよー!!」





日にちというものはすぐに変わっていくもので、僕も気付けばすでに日付は6月13日土曜日である。


カレンダーにもこの日にマークを付けていたことだし、僕は一度もこの日を忘れたことはなかった。


「「ありがとうございました!!」」


練習を終え、時間も12時となかなかの時間だ。お腹の減りを押さえながら僕は自転車に向かい。同じく自転車に跨がっていたこうすけに言った。


「何時にさなちゃんの家に行く?」


こうすけは目をつぶり上を向く。


「そうだなー。昼ご飯食べてからじゃないと行けないし、二時頃になっちゃうかもなー。」


僕はそれに頷いた。


「分かった。さなちゃんたちにもそう伝えておくよ。」


僕たちはペダルに足を掛け発進する。


「じゃあな!またあとで!」


「うん!」


僕らは手を振りながら自分の家へ向かった。





「お母さん。今日さなちゃんの家行くから!」


家の玄関を開けてそうそう僕は大声でお母さんにそう宣言した。


「はいはい分かってるわよ。というか、あー。こんなに汚れてる。ほら、まずはお風呂入って体を綺麗にすること。」


「はーい。」


リビングの方から出てきた母は僕の状態を見てそう言った。僕も少し面倒そうな声を上げるが、確かにこんな格好で挨拶に行くのは失礼だと思いそれに従う。


靴を脱ぎ、汚れたジャケットを母に渡すと僕は一目散に脱衣所へと向かう。


汚れた服などを脱いでそれを全て洗濯機の中に放り込むと準備完了である。


僕は片手にタオルを持って裸のまま浴室へと入った。


まずは体を洗い次に頭を洗い終えると僕は湯船に浸かった。


「あったかーい。」


既に常備されていた湯船の温度はちょうどよく僕は心と体をリフレッシュさせながらじっくりとお風呂を堪能した。




「行ってきまーす。」


僕はそう言うと玄関のドアを閉めた。


先ほど時間を見るとそれは1時30分ほどだったので少し慌てて走った。まあ、そんなことをしなくともキリヒコの家の隣は…………。


ピンポーン!


僕は呼び鈴に手を掛けた。


その音が西本家中に響き渡り、暫くして中から反応があった。


「どうぞ。キリヒコちゃん。」


その声を聞き、僕は西本家のドアを開けた。中から出迎えに来てくれたのはさなちゃんのお母さんである。


さなちゃんのお母さんは「みんな上にいるからどうぞ。」といい二階を示してくれた。


「おじゃまします。」


頭を下げ、靴を脱ぎ、二階へと僕は向かった。


二階には数部屋が設けられていたが、僕は迷うことなく一つのドアの前に立つ。


それはもちろんさなちゃんの部屋を元から知っていたのも事実だが、ドアに貼られているネームプレートにさなえと可愛く表示されていれば間違いようもなかった。


僕はさっそくドアをノックしようと体勢を取った。まあ体勢といってもドアに手の甲を向けるだけなのだが。


中からは談笑も聞こえてきた。そしてその声だけで相手が誰なのかも判断できる。


━━━さなちゃん、なっちゃん、そして…………。


「━━━でさ。」


━━━こうすけ!?


僕はその声を聞き、ノックも忘れてドアノブに手を掛け開け放った。そこにいたのは。


「よう。遅かったな。」


と片手を挙げて出迎えたこうすけと


「こんにちはキリヒコくん。」


とさなちゃん。そして


「キリヒコくん。ドアはまずノックをしないと駄目なんだよ。」


と僕に注意をするなっちゃんの姿。


僕は女性陣の言葉を無視してこうすけに詰め寄る。


「こうすけ、なんでお前僕よりここに来るの早いの!?」


こうすけは勝者のみが見せる笑みを浮かべた。


「キリ、お前がお風呂に入っている間に来てやったぜ。どうだ凄いだろ!」


「まー。来たといってもほんの数十分前だけどねー。」


そうなっちゃんは小悪魔的、笑みを浮かべた。


こうすけはばらすなよと口をさしたがもう遅い。何故なら既に僕の耳に情報が入り終わったあとなのだから。


こうすけはコホンと喉をならす。


「じゃあみんな揃ったことだし、プレゼントの時間にしようぜ。誰がさなちゃんの喜ぶものを買えたかさなちゃんに審査してもらおう。」


「もー。プレゼントに順位付けるなんてサイテーだよ。ま、私はいいけどね。はいこれ、さなちゃん誕生日おめでとう。」


「次は俺だな。おめでとうさなちゃん。」


「僕はこれ、お誕生日おめでとうさなちゃん。」


「みんなありがとう。」


三人からのプレゼントを貰い、さなちゃんは躊躇いなく笑顔をこぼす。


「ねえ、開けてみてよ。」


こうすけはそう言った。


「え、でも。」


「私たちのことなら気にしないでそれに他の人のプレゼントにも興味あるしねー。」


「うん。僕もいいよ。」


さなちゃんはそれを聴くとまず、なっちゃんから受け取った小型の箱のようなものを手に取った。蓋を開け、中身をみる。


「あー!可愛い。ありがとうなつきちゃん。」


さなちゃんが手に取ったのは可愛いくまさんのイラストが入ったマグカップだった。


「でしょー。さなちゃんには似合うと思ったんだ。このくまさんのおっとり感、さなちゃんにそっくりなんだもん。」


僕もそのマグカップのくまさんを見た。確かにこの優しい感じはさなちゃんに似ている気がした。それにこの愛くるしい目なんてもう。


そこまできて僕は首を振った。


「次は俺のだぜ。」


こうすけは自信満々といった様子でプレゼントの開封をさなちゃんに促した。


「わー。ありがとうこうすけくん。」


こうすけのプレゼントはブックカバーである。花柄模様でチャックで開封する仕組みの奴だ。


「さなちゃん読書好きだし、本も大切にしてるからこういうの有ればいいかなぁーと思って………。」


「うん。私もブックカバーちょうど欲しかったのありがとう。」


こうすけは鼻をこすり照れ隠しした。


「さて、次はキリだぜ。どんなのが出てくるのか楽しみだ。」


こうすけはニヤニヤしながらピンクのリボンで包まれた僕のプレゼントに目を向ける。


「じゃあ、次はキリヒコくんのね。」


そう言ってさなちゃんは僕のプレゼントのリボンを解いていった。シュルルとすぐに取れたリボンを机に置き、袋の中身を取り出す。


「わー。素敵なネックレスだね。」


なっちゃんがプレゼントを見て口を開いた。


それは色鮮やかで、真ん中に蝶々のアクセサリーの付いたものである。


さなちゃんはしばしそれを呆然と見やり、ポツリと言葉を漏らした。


「ありがとう。キリヒコくん。」


その様子を見て、こうすけは悔しそうに拳を握り締めた。


順位を決めようと言い出したのはこうすけ自身ではあるが、さなちゃんの様子を見てそれがどれだけ浅はかなものだったのかと思い知らされた。


勝敗は既についていた。


「じゃあ。みんなのプレゼントも開けたことだし、外に遊びに行こうぜ。この時間だから公園もあいてるだろ。」


そう言うとこうすけはすぐさまさなちゃんの部屋を飛び出し一階へと向かっていった。


残った僕たちのそのあとを追って急いで一階へ駆ける。


「「おじゃましました。」」


僕となっちゃんはハモりで挨拶を済ませ、あとからさなちゃんもお出掛けの挨拶を済ませる。


「公園に遊びに行ってきます。」


その時、さなちゃんは僕のプレゼントしたネックレスを首に掛けて家を出てきた。


僕としても使ってもらえて嬉しい。


こうすけは少しつまらなそうにそのネックレスを見つめたが。


「行くぞ。みんなー!」


「「「おー!」」」


さなちゃんは自転車を持っていないので、僕らは徒歩で公園へと向かった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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