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バスター・プレイヤーズ  作者: 16104
プレイヤーズ
25/30

ゼロ 其の壱

プレイヤーズではプレイヤーたちの過去を描かせてもらいます。これはゼロ編です。

「きりひこくんおはよ。」


「おはよ。さなちゃん。」


僕は家まで僕を迎えに来てくれた女の子に挨拶をした。


彼女の名前は本名、西本さなえ〈にしもとさなえ〉さなちゃん。


家はお隣通しで保育所の頃から仲良くしている。親通しも仲が良く、さなちゃんが僕を迎えに来てくれるという行為も日常茶飯事だったりする。


「あら、さなちゃん。おはよう。」


僕の後ろからさなちゃんに挨拶をしたのは僕のお母さんだ。


「おはようございます。きりひこくんのお母さん。」


さなちゃんも元気いっぱいの挨拶を僕のお母さんに贈った。


「本当にさなちゃんにはおばさん助かっちゃうなぁ。さなちゃんがいなかったらきっとキリヒコも早起きなんてしないわよ。」


「そんなことないよ!僕はちゃんと毎日起きてるじゃないか!」


憤怒の形相の僕に母は気にもとめず、腕に着けていた腕時計に一瞬目を向けたかと思うとすぐにこちらにむき直した。


「ごめんごめん。キリくんも立派な小学5年生ですものね。ささ、こんな話しはお終いにして、学校に行きなさい。そろそろ出発しないと学校に遅れちゃうぞー。」


「話を振ってきたのはお母さんじゃないか!まったく!もう知らない!行こ、さなちゃん。」


ズカズカと歩みを進めていく僕にさなちゃんは慌てて後を追おうとするが、彼女は何かを思い出したかのように動きを止め、キリヒコママの方を向くとペコリと頭を下げてこう言った。


「行ってきます」





ガヤガヤと数名のグループに別れて雑談と談笑にふける教室の一角に僕とさなちゃんはいた。


「いや、キリ。そこのポーズは違うだろ?ここをこうやってこうだ!」


ビシッと今流行りの特撮ヒーローの変身ポーズを取ったのはこうすけ〈朝霧浩助〉である。


「いや、違うよ。やっぱりここをこうしてこうだよ。」


こうすけに張り合うように僕は自分の体を動かし、カッコ良くポーズを決めた。


「やっぱりキリヒコくんサイコー。」


そう声を上げるのは髪をツインテールにしている若山夏樹〈わかやまなつき〉なっちゃんである。


「なんだよ。なっちゃんはいーつもキリばっかり、ひいきしてー。」


なっちゃんの言葉にこうすけはムスッと頬を膨らませた。


「そうかなぁ。私的にはやっぱりこうすけくんの方が近い気がするよ。」


そんなさなちゃんの声を聞き、こうすけはげんきんにもすぐにその頬を緩めた。


「なんだよ。さなちゃんはこうすけの味方かよ……。うーん。でもなぁー。なんか納得できないんだよなぁー。」


そんな話をしあっていると不意にガラガラっと5年1組の教室のドアが鳴った。


「よーし。みんな席につけー。朝の会を始めるぞー。」


「「ハーイ。」」


ゾロゾロと疎らに散っていた子どもたちが自身の席に着いていく。


先生はその様子に関心といった様子で名簿の方を向いた。


「先生!」


声を上げ、手を上げたのは僕だ。先生は視線を名簿から僕へと移し、周りの友達は『?』を浮かべながら僕の発言を待っている。その中には一人、ニヤニヤと口の端を吊り上げているこうすけの姿があった。


僕は言う。


「アーマーレンジャー、レッドの変身ポーズを教えて下さい!」


一瞬、場の空気が静まり返った。周りの友達はポカンと口を開ける中、こうすけだけはにやけ顔のまま僕を視ている。


「………ふふ、ふふふふ、キリヒコくん。」


先生は名簿の方に目を向けたのかはたまた下を向いただけなのかもしれないが、口元に微笑を浮かべながら恐怖心を与えるような威圧的な声を上げた。


しかし、そんな態度とは裏腹に次の言葉は明るかった。


「いい質問だ!よし!先生が見せてやる。みんな起立しろ!」


生徒達は意味不明といった様子のまま渋々立ち上がっていた。いや、若干一名のみ元気よく立ち上がっている。こうすけだ。


先生はみんなに告げる。


「いいか、まずはうでをこうしてだな。足の位置はこうだ。そして、ポイントはこの足の開き加減だぞ、そしたら腕をこうもって来て………。」


ビシャ!


「大崎先生!!」


その大きな声と勢い良く開け放たれた扉により、僕を含め5年1組の全員が硬直した。


怒鳴ったのは紫葉先生という女の先生で、その紫葉先生は暫くガミガミと大崎先生に怒鳴りつけるとまだ、止まらない怒りを露わにしながらちょっときなさいと大崎先生に言った。


大崎先生は僕らに「ごめん。一時間目は自習でお願い。委員長。あとはまかせた。」そう言い残し、大崎先生という男は紫葉先生に職質されにいった。





「キリ!走れ!」


僕は後方にいるこうすけからボールを受け取り、ワンタッチを踏まえてボールをキープした。


「任せろ!」


今は体育の授業で、僕らはサッカーをやっている。担任教師の大崎先生も職質から帰ってきて、元気いっぱいの僕らに笑顔を向けていた。


僕はドリブルしながら一直線にゴールへと向かう。


だが、相手陣地ではそれを止めようと数名のメンバーが僕の所へ駆け寄ってきていた。


僕は最初に当たりにきた一人をひょいとかわす。


男の子は悔しそうに顔を歪めた。


次に当たりにきたのはクラスでも運動神経がいいと言われている女の子だ。


僕の拙いフェイント程度で、かわせる程の相手ではないと僕も理解している。


だから僕は………。


「抜かせないよ。キリヒコ!」


「負けないよ。ゆきちゃん!」


僕は一回ボールを足の裏で転がし、瞬時にアウトサイドで転がした方とは逆の方へ切り返す。しかし予想通りゆきちゃんにはこの方法は通用しない。


「もらった!」


ゆきちゃんは僕が抜けなかったところを勝機と視たのか一気に詰め寄ってきた。


だが、勝利を確信したはずのゆきちゃんの顔に疑問符が浮かんだ。そこからはっと目を見開いたかと思うと、ゆきちゃんは叫ぶ。


「誰か、こうすけをマークして!」


僕の蹴った球はゆきちゃんの脚をかいくぐり、斜め右上へと転がっていった。そして、そこには………。


「ナイスパス!」


こうすけは僕からのパスを前の方へと転がすとフリーとなった相手の陣地をボールとともに駆けていった。


「おりゃ!」


こうすけのシュートがゴールを揺さぶった。


「「キャーーーー!!」」


ゴールとともにこうすけへ向けた外野の女の子達からの歓声が巻き起こった。


こうすけはそれらに手を振りながら周囲を見渡していた。


その目線の先にはさなちゃんの姿がある。


「さなっ………。」


「お疲れ、キリヒコくん。」


こうすけが声を掛けようとしたが、その声はさなちゃん自身の声に打ち消された。


「これくらいで僕は疲れないよ。それよりほら、自分のポジションに着いてよ。ゲームが始まっちゃう。」


そんなやり取りを遠くから見詰めるこうすけの顔はどこか寂しそうだった。


しかしそんな彼の寂しさを誰も知るよしもなく相手からのキックオフが始まる。





僕とこうすけは野球少年団に通っていた。毎日放課後になってはすぐに家へ駆け寄り、近所のグラウンドまで自転車をこいで行くのが僕らの日課だった。


「「「お疲れさまでした。」」」


終わりの号令をし、みんな帰宅のとに着く。こうすけは僕と家が反対なのでグラウンドでお別れだ。


そして僕はというと。


「また来てたの。さなちゃん。」


僕の自転車の近くで待っていたのは帰宅組であるさなちゃんだった。よく見るとランドセルを背負っていないので、一度家に戻ってからここに向かったのだと推測できた。


「うん。だってキリヒコくんが野球やってる姿ってスッゴくカッコイイんだもん。」


さなちゃんは屈託ない笑顔を僕に向けた。


僕はそれに微かなむずがゆさを感じながら照れくささを隠すように土で汚れた手を鼻で擦って言った。


「そんなことないよ。本当にカッコイイのはやっぱりアーマーレンジャーのレッドだよ。」


「そうだね。」


口元に手をやりクスクスと笑う彼女の仕草に僕は思わず見とれてしまった。


「………くん?キリヒコくん?」


「あ、ご、ごめん。何か言ってた?」


頭を掻きながらほってった顔を隠すように僕は下を向く。


「だから、あの人。」


さなちゃんが指を指した方向には暗い色のパーカーによれよれのズボンという夜の闇に溶け込んだ人が一人立っていた。


「あの人がどうかしたの?」


さなちゃんは少し困ったような顔をした。


「実はあの人、数週間前からよく見かけるんだ。最初は偶然だと思ってたんだけど。時々、私の跡をつけてきているような気がするし、ちょっと困ってて…………。」


「さなちゃんのお父さんとお母さんにはその事を言った?」


さなちゃんは首を振る。


「直接何かされたわけでもないし……。それに本当にただの偶然だったらあの人にも迷惑がかかっちゃうから……。」


さなちゃんの声音は弱かった。自分としては不安だけど相手のことを考えると何も言えないという彼女の優しさが伝わってくる。


僕はそんな彼女に頬を緩めた。


「そっかぁ。じゃあこれからも学校に行く時は一緒に行こう。それでもし、あの人が何かしてきたら僕が追い返してあげる。」


「うん。ありがとう。」


彼女の顔はすぐに満面な笑顔となった。


「それと、ここに来るのは暫く止めた方がいいと思うよ。だってここに来るまでさなちゃん一人でしょ?」


僕としては少し残念な気持ちだったが、彼女の安全と天秤にかければそんなことは問題にもならない。


「やだ、やだ!それだけはダメ!」


しかし、さなちゃんの反応は意外なものだった。いきなり動揺し始めた彼女に僕は面食らう。


「でも危ないよ?ここにも一人だけでいるわけだし、僕はそっちの方が心配だよ。」


「だって、そうじゃないと私の放課後の楽しみが無くなっちゃうんだもん。そんなのやだよ。」


僕は困ったが、彼女の意見を考慮してあげたいという気持ちが少しだけ心配より勝った。


「分かったよ………でも、気を付けてね。」


「うん!」


さなちゃんに笑顔が戻ったところで話は終了した。


「じゃあ帰ろうか。」


僕はさなちゃんにそう促した。


ちらっと先ほど人がいた方を見る。しかしそこにはすでに人の姿はなかった。


「キリヒコくん?早く行こうよ!」


「ああ、うん。」


さなちゃんは自転車でないので僕は自転車を押してさなちゃんのあとを追っていった。





あれから数日が経過している訳だが、今のところさなちゃんに危害はない。


確かにまだあの怪しい人の姿はちょくちょくと見かけたが、それも日に日に少なくなっていっているように思う。


「さなちゃん。最近あの人の姿、見なくなったよね。」


「確かにそうかも。でも、まだ近くにいるかも知れないし…………。」


「分かってるよ。だからまだ暫くは一緒に行こうよ。」


僕はさなちゃんに元気になってもらいたくって僕の出来る100パーセントの笑顔をさなちゃんに向けた。


さなちゃんもそれのおかげかどうかは分からないけど笑顔を返してくれた。


「ありがとうキリヒコくん。」


その時、僕が思ったのは彼女の笑顔を護りたいという思いとこんな日がもっと続いてほしいという願いだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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