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バスター・プレイヤーズ  作者: 16104
モンスターファーム
23/30

第九部

章の二重投稿を目指したのですが、割り込み投稿では新たに更新されていないということになってしまうようなので、プレイヤーズはこの章を完成させてから随時、投稿させてもらいたいと思います。ご迷惑おかけします。

「きた。」


それは誰の呟きだったのだろう。


しかしこの言葉は庭園にいた四名の共通の意識だった。門の外から黒い人影が見える。


そのプレイヤーは体をボロ雑巾のようなマントで覆っていた。しかし、右手に持った漆黒の刀が邪魔をし、右半身だけ隠れていない。さらにそこから見えたのは胴に巻きついた紐とそれにくくりつけられたひし形状の小型の凶器だった。


ベッキーは感じていた。


ピリッとした空気が庭園内を支配している。その発生源はハムなのかカオスなのか、それともゼロなのかベッキーには分からない。しかしはっきりとしていたことはあれだけ色鮮やかだった花たちから命を感じることが出来なくなっていたことだった。


ベッキーはそんな様子を見ていることしかできない。何故なら彼女は決して表舞台に出ることのないただの被害者の一人に過ぎないのだから。





「遅かったんじゃないかな?ゼロくん。」


最初に口を開いたのはハムだった。相変わらずの無防備ぶりだが、ゼロは既にその理由を理解している。その左腕にセットされているであろうカードの絶大で絶対の力を。


「そんなことないだろ?」


ゼロはそう平坦に言った。


「あれ?おかしいな。今までのゼロくんならすぐに飛び付いてきて、予定の時刻よりも早くここに来ると思っていたのに。これじゃあ僕の待ち損だよぉ。」


「お前がどれだけ待ってたのかは知らないが、時間の指定は昼頃だろ?これは明確な時間じゃない。それにハム、お前なら約束を護ると信じていたよ。」


「わー。遂に僕をハムって言ってくれたね。嬉しいよ。それに僕を理解してくれているのも嬉しいなぁ。」


「あー。ハムお兄ちゃんだけずーるーい!僕も構ってよー!」


不満を漏らすカオスであったが、今のゼロの耳には届いていないらしかった。


「そんなことはどうでもいいだろ?さっさと始めろよ。お前の言うところのゲームをよ。」


ハムは薄く笑った。その声にはハムの狂気が見え隠れしているように感じる。カオスは自分が無視をされたことにムスッとした様子だった。


「やっぱり面白いなぁゼロくんは…………。それにそうだね。ゲームを楽しもうかゼロくん。」


ハムはワンテンポ置き、話を進める。


「ルールは簡単。これから一対一の闘いを行うそれだけさ。僕らが勝てば約束通りに彼女達を殺す。君が勝てば僕らは死ぬ。これでどおかな?」


「両方死ななかった場合は?」


ゼロの黄色の目がハムを射抜く。


「そんなことは絶対にないよ。これはゲームなんだ。勝ち負けしか存在しないね。でも、確かにそれじゃあ引き分けがあるね。どうしようかな。」


ハムは愉快そうに辺りを見回す。そしてその目はある一点に焦点を合わせた。


「………十分間。」


ハムはそう呟く。


「十分一本勝負にしよう。クエスト内だけど公式な『プレモンMB』のルールだ。ただし、特殊ルールとして引き分けはゼロくんの負けにさせてもらうよ。それが過ぎたらゼロくんの好きにして構わないから。」


ハムは自身の顔を狂気に染め上げる。


「…………分かった。」


ゼロに選択肢はない。そもそも人質を取られた人間に尊厳も何も残されているわけがなかった。しかし彼らはゼロにチャンスという選択肢を与えていた。例えそれがゼロの勝敗に関わらずゼロを敗北へと誘うルールだったとしてもだ。


「そして今回の対戦相手はー。カオスくんでーす!拍手!」


パチパチと三者による拍手が巻き起こる。ハム、カオス、神楽?の三体だ。


「というわけでー。」


カオスはそこで言葉を区切り、年相応の元気さで庭園を駆けた。その後を追うように神楽も付いていく。


ある一定の位置まで走り終えるとカオスはこちらに手を振りながら言った。


「ゼロお兄ちゃん。早く遊ぼうよー。」


その言葉を聞き、ゼロは自分の中の何かが崩れていきそうな感覚に陥った。カオスのその純真なゲームへの楽しみがゼロの心を苦しめる。


ゼロは隣にいるハムを睨む。


「止めてよゼロくん。そんな目を僕に向けるのは。それにあれは僕がカオスくんに何かした訳でもないよ。きっとあれがカオスくんのゲームに望む願いだと思うしね。ゼロくんだってそうでしょ?」


ゼロは怪訝な表情を浮かべた。しかし内心では彼も理解していたのだろう。次のハムの言葉を。


「━━━この二人を護りたい。それがゼロくんの今の願いでしょ?」


「おーい!はーやーくー!」


駄々をこね始めたカオスに手を振り、ハムは能面の水晶を煌めかせた。


「早く始めてよゼロくん。僕の願いは君の対戦を見て楽しむことなんだ。」


ゼロは歯を軋ませる。


「…………これだけは言わせてくれ。」


ゼロは重い口を開いた。


「お前のその考えは間違ってる。俺が絶対それを分からせてやるよ。」


ゼロは歩みを進めた。既に理解している負けのゲームを始めるために。


ハムはゼロに聞こえないよう小さい声で呟いた。


「何を言ってるのさ。このゲームの本質はカードバトルでしょ。」




ゼロはカオスと対峙した。互いに視線を向け合い勝負の時を待つ。


「二人とも準備はいいかな?」


そう声を出したのはハムだ。距離はそれなりに離れたのであちらは少々大きめの声を出している。


「ああ!」


「いっつでもいいよー!」


そういうカオスの装備をゼロは見やる。装備としてはシールド系の装備はいっさい視られず、あるのは手に持った一冊のスケッチブックと肩から掛けたショルダーバックだけであった。


━━━まぁそれもあの『神楽』とかいう謎の兵器を抜かせばだがな………。


神楽はカオスの真後ろに鎮座していた。その威圧感は緊急クエストのそれと近しいものを感じる。


━━━少なくともあの兵器はレオを倒したんだ弱い訳がない。しかもレオに負わされた傷も残ってない。となるとやっぱり…………。


視線は神楽からカオスの手に握られたスケッチブックへ向かった。


━━━狙うのはあれだ!


沈黙がフィールドを駆ける。そんなピリピリとした死線に一番ウキウキとしていたのはこれから闘う二人よりもハムというプレイヤーだったのかもしれない。


「…………さぁ。」


ハムの口が開かれる。これから起こる殺人的カードバトルを楽しむために。


「バトルスタート。」


ダッ!!


先に動き出したのはゼロでも、ましてやカオスでもなかった。


ドシン!!


地面に自身の脚をめり込ませながら神楽の進撃が始まる。


恐ろしく素早い巨兵は右拳を握り締めゼロ目掛けて振りかぶる。


『skillカード!!』


対するゼロの行動はスキルでの対抗だった。


紅の瞳が神楽を見据える。


ブオォオ!!


風を巻き上げながら撃ち込まれた神楽の一撃をゼロは最小限の動きだけでかわした。しかし━━━


「…………ぶっ!?」


ゼロの横を通り抜けた腕に巻き上げられていた風がゼロの体を叩いた。


ゼロの油断もあるがただの拳圧だけでゼロにダメージを与えた神楽の一撃は最早、化け物の域に達していた。あの拳をゼロがモロに受けてしまえばゲームオーバーは必死であろう。


ゼロは紅の瞳で神楽を睨んだ。多少、体勢を崩してしまったものの今の状態では確実にゼロの方が先に攻撃できる筈だった。


神楽の無機質な瞳がゼロへ向けられた。


異様な体勢から放たれる神楽の右足が一直線にゼロの胴を狙う。


ガキャン!!


ゼロは刀を縦に向け、神楽の攻撃をいなし、その後やってきた風圧を斬り捨てた。


神楽の攻撃は止まらない。神楽は右足ごと体をゼロへ飛ばしながら力点に使用した左足を九の字に曲げ、その膝でゼロを潰しに掛かる。


ボカァーン!!


神楽の膝が何もない地面を穿つ。咄嗟に体ごと横に転がったゼロは受け身を取ることに成功し、上体を上げたがそこに迫っていたのは神楽の左拳であった。


ラリアットのように横に伸ばされた腕の延長線上にゼロの顔面がある。


ゼロは必死に身を低くした。


神楽のラリアットは風を切りながらゼロの体スレスレを通り過ぎてゆく。


ゼロの鼓動が激しく脈打つ。ゼロの脚は動きを止めた。たった一度の攻撃だけでゼロの心は折られそうになった。


━━━本当に俺にあいつが倒せるのか?しかも十分以内に………。


ゼロは血の気が引いた顔である一点を見つめた。そこには今ゼロの護るべき者の姿がある。


━━━くそ!倒せるかじゃねーだろ!俺!


ゼロは自分自身を奮い立たせる。動かない体に鞭を打ち、歩をカオスへと向けた。


ゼロは走り出した。その時、体に巻き付くひし形の凶器を一つ左手でむしり取るとそれを素早くカオスへ投擲する。


カオスはスケッチブックから紙を一枚引き離した。紙は一度纏まると発光し、新たな体を形作る。


カオスの前に召喚された鋼の戦士はその手に持った盾を構える。カオスの身を守るために現れた盾はゼロの攻撃を簡単に弾き飛ばしてしまった。


カオスはつかさず紙を切り捨てた。それは一枚、二枚の話ではない。今、カオスの手に持つスケッチブックの全ての紙を切り離したのだ。


カオスは無造作に紙を投げ捨てた。紙たちは発光し、新たな形に変化した。


一言で言えば全属性。個々が一つの属性色に彩られた戦士たちがゼロの前に立ちふさがっている。主人であるカオスを護る騎士としてだ。


数十人の軍勢を前にゼロは臆することなく突き進む。端から見れば自殺行為とも言えるその行いはしかしこの場面で最適のものと言えるだろう。何故ならゼロはカオスがあの戦士たち生み出すスケッチブックを4冊以上所持していることを知っているのだ。これ以上敵を増やされるのとここだけのこの人数を相手どるのでは前者が有効であることは目に見えている。


青色の装甲を持つ戦士が五体、槍を突き立てながらゼロへと迫る。


ゼロが狙ったのは右端の戦士だ。戦士の動きはゼロよりも遅い。なので右端を狙い走るゼロの動きに付いていくことの出来ない左側の戦士は呆然とそれを見やる。


互いの距離は5メートル程となった。


中央の戦士がゼロへ槍を投擲した。


ゼロは一目でそれを回避すると次に右側戦士二体へ視線を向ける。


その左側にいる戦士が槍を横に凪いだ。そこから生まれた水の斬撃はゼロへ向けて飛ばされる。


ゼロはそれを刀で両断した。


つかさず右の戦士が槍を突く。


ゼロはマントを端を左手で掴むとすぐさま体に纏わせた。さらにマント越しの裏拳を槍の側面にぶつける。


槍の空振る音と共にその槍を振るった戦士とゼロの距離は離れていく。


ドクン!!


ゼロの心臓が脈打つ。


その鼓動にこたえるようにゼロは反射的に体を横に飛ばした。


粉塵が舞う。その中央に位置していたのは神楽だ。


神楽はゼロの元いた位置にその拳をめり込ませていた。神楽がそれを抜き出すと抉った地面も一緒にくついてきた。


ゼロは顔をひくつかせる。


━━━まじかよ。


神楽のその鍔帽子がゼロの方を向く。


ゼロは迷わず前方へ駆けた。


今、大事なのは神楽と死闘を繰り広げることではない。しかも時間制限も付いていることから大将狙いの一本勝負しか狙えないといった方が正しい。


前からやってきたのは炎の戦士と風の戦士である。


風の戦士は剣を突く体勢を取っていた。しかし相手の剣の長さから見ても今のゼロには到底届く距離には思えない。


それでも風の戦士はその剣で空を穿った。


ボシュッ!!そんな音が聞こえ、ゼロの左肩に痛みが走る。


「あれ?なんで?その攻撃を受けたら血が出るはずなのに!?」


しかし攻撃を受けたゼロよりもカオスの方がその光景に驚愕していた。


「もしかしてそのマント越しにぶつかったから………?」


カオスのその観測は正しかった。ゼロのシールドであるマントは防御力こそ無いが、ある特殊な点に優れていた。


それは斬撃を通さないという点である。どんな斬撃を受けてもこのマント越しであれば本人の体は傷付くことはない。しかしその衝撃自体は防ぐことが出来ないためダメージはそのまま受けることとなる。かつてテラーと闘った際にゼロが頭にナイフを受けても突き刺さらなかった理由はここにあった。


「━━━へー。だったら。」


カオスは肩に掛けたショルダーバックから2冊目のスケッチブックを取り出した。


ブン!


炎の戦士の刃が横に振るわれ、ゼロはそれを重心を低くしかわした。この時既にゼロの瞳は黄色に戻っている。しかしゼロは刀を戦士の腹に添えると勢いよくそれを振るった。


戦士の装甲は硬く、腹の部分を浅く斬った程度になったが体をよろめかせることには成功した。ゼロはそのまま戦士の横を通り過ぎようと試みたのだが、その戦士の頭に拳がヒットした様子を見て一瞬ひるんだ。あの硬い装甲を持っていた戦士の顔面を軽々と変形し粒子へと変換される。


神楽は再びその無機質な目をゼロに向けた。


ゼロはサイドへ大きくステップした。神楽の右手からくる裏拳がゼロの横スレスレを通る。


カオスの方から戦士達が駆けてきていた。見ればそれは土、鋼、雷属性と打撃系のメンバーを揃えているように見える。


━━━あの一瞬でこのマントの特性を掴んだのか、さすがに強いよカオス。


相手に感心を持つ反面、ゼロは内心焦っていた。確実に戦力で負けている上にカオスはその戦力を生かしてゼロのスキルさらに攻撃パターンを解析してきている。つまり時間を掛ければ掛けるほどゼロが不利となる。しかしそれを実現するための一番のポイントとなっているのは………。


━━━神楽、コイツさえ。


神楽という狂戦士がそれらを実現している。神楽が囮となり相手の情報を引き出し、カオスが観察測定し、相手の弱点を引き出す。まさに最強であった。


そこでゼロは首を振った。


━━━駄目だ!こんなところで相手の能力に僻んでいるようじゃ誰一人として救えないんだ!


神楽の左腕がゼロへと伸びていく、もちろん手はグーだった。


迫り来る脅威にゼロは刀で応戦する。刀の刃を神楽の腕を切り落とすつもりで思い切り振るった。


しかし神楽の腕は切り落とすことが出来ない。それどころか切り傷にもならずただ神楽の表面を削っただけの状態だ。


ゼロは相手の攻撃をずらし前進しようと歩を進めたが、その一歩が出る前にゼロの腹部に衝撃が走る。


衝撃は体内を通り、全身から力を奪っていく。


後方に転がっていくゼロに攻撃を加えたのは雷の戦士だった。


その足にはバチバチっと電気をほとばらせている。


「あ、あがっ」


全身に痺れが残り暫くは動けそうもない状態のゼロに近付こうとする者の姿がある。


神楽だ。神楽は仰向けのゼロに対し両手を絡ませながらその巨大を大きく仰け反った。


ゼロはそこで気付いた。未だ視たことのない輝きがデバイスから灯っているということに。


━━━まさか、このタイミングで…………。


それはデバイスにセットしていたゼロのスキルカードだった。どういうタイミングで条件が揃ったのかは未だ分からないが、その輝きは現在進行形で窮地に陥っているゼロには逆転の光に見える。


ゼロは自分の中の空気を振り絞るように吠えた。


「open!!」


デバイスもゼロの声に答えた。


『skillカード!!』


デバイスの猛りに合わせ、新たな声がゼロの耳に届く。


シーン


しかしスキルによって起こるはずの効果は何も起こらなかった。


「……はぁ?」


ゼロは間の抜けた声を上げた。


『ゼロ様!このカードを装備するパーツを選択して下さい!早く!』


ゼロはその応答に疑問符を浮かべることしかできなかった。何が起こっているのか分からない。逆に何も起こっていないという状況がゼロを更なる混乱に導いていく。


神楽のその巨大なハンマーがゼロの胴目掛けて放たれる。


『キリヒコくん!!』


ゴキュリ、それがまずフィールドに響いた音だ。


音源は神楽の手の下、咄嗟に腕でガードしていたようだがその腕ごと胴へ拳が打ち込まれている。


その後ゴリゴリメキメキと骨たちの悲鳴を漏らし、ゼロは地面にめり込んでいく。


「ゼロぉお!!」


そう叫んだのはベッキーだった。


「やったー!僕の勝ちだね!」


そう喜んだのはカオス。そして………。


「…………成功だよ。」


そう呟いたのはハムだった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。バトルスピリッツ絶賛放送中。ディアポリカマンティス格好いい!!

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