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バスター・プレイヤーズ  作者: 16104
モンスターファーム
19/30

第五部

イベント終了3日前、深夜━━━




「いやー。今日もノってるね。その力、それだけ気に入ってもらえて嬉しいよ。」


闇属性プレイヤーはそう言うと満足そうに首を縦に振る。


「ぎゃああああ!!」


「た、たすけっ……。」


次々と粉末へ変わっていくプレイヤー達は絶叫のままゲームから除外された。


そしてたった今、最後の一人を棍棒で潰したところで男は声を漏らす。


「くっくっく。サイコーだぜこの力。どんどん力がみなぎってくる。」


どうやら闇属性プレイヤーの話は聞こえていないらしい。


「いやさ。キミがどう想おうと勝手だけど質問ぐらいには答えてもいいんじゃない?」


闇属性プレイヤーもそれを理解しているのか社交辞令程度に言った。


「まだ足りねーまだ足りねーよ~。」


餓えた獣のような声を出すプレイヤーの足取りはおぼつかない。いやおぼつかないというより何かに反応して歓喜に震えているようだった。


「はあ、キミは駄目だったんだ。ざーんねん。」


何が駄目なのかは定かではないが闇属性プレイヤーはつまらなそうにその場を後にしようとする。


しかしそれを許さない者がいた。


「……待てよ。」


「ん?」


闇属性プレイヤーは男がいたであろう後ろを振り向いたしかし、既にそこには男はいない。


「テメーには感謝してるぜ?でもよ。何だか知んねーけど今の俺ならテメーぐらい簡単に捻れそうな気がすんだよなー。でさー。悪いんだけどここで死んでくんね?」


そこまで聴き、闇属性プレイヤーは緊張感の欠片もなくあくびをした。相当眠いらしく意味もなしに目元をこするほどだ。


「よくいるんだよねー。そう言う人」


草のなびく音がした。それから数秒とすることなく闇属性プレイヤーの目の前に鉄の壁が広がる。


闇属性プレイヤーは避けることができなかった。


しかし、地面に伏したのは男の方だった。


何かの引力に導かれるように男は地面に顔を埋める。男の声が響いた。


「テメー何をしたー!!」


地面に倒れている男を眠気目で見下しながら闇属性プレイヤーは応じた。


「ふぁーあ。………駄目だよそんなこと気にしたら。だって、ここでボクの秘密をキミに教えたらゲームがつまらないじゃない。ゲームは楽しむモノ。それがボクのコミュニティーのモットーです。キミももう手遅れかもしれないけどゲームを楽しんでね?」


闇属性プレイヤーがマスクで隠れたニコヤカスマイルを男に向けたのと前方から大きな尻尾が振るわれたのはほぼ同時だった。


「あれ?」


闇属性プレイヤーは間の抜けた声とともに大きな放物線を描きながら空の彼方へと消えていった。


男はその光景に絶句したが、暫くして動けるようになった手を動かすとすぐさま棍棒を握った。


後ろを振り向くが先程の尻尾の主は見当たらない。男は体にむずがゆさを感じながらも心に秘めた凶器を荒く鞘に納めた。





イベント終了3日前、早朝━━━




ゼロは後ろを振り向き、俯きがちの彼とやる気満々の定の彼女とこれから起こることに対して無関心に執筆を続ける少年に声をかける。


「……行きましょう。」


少年は執筆の手を止め、どこからか取り出したショルダーバックに6冊目となったスケッチブックと過去の作品5作をしまった。


バックは6冊も入るスペースはないはずの小型な物なのだが、あっさりと入ってしまう所を視るに四次元製なのかもしれない。


その作業を全て見終えるとゼロを先頭に集団は歩き出した。




早朝ということもありモンスターの数は少ない。出現してもレベルは低く障害と呼べるほどのレベルでもなかった。


メンバーの中には重い沈黙が流れていた。


人を殺してランクを上げる。それを聴いた後の移動はまさに自殺行為に等しい。


今こうして歩いている間にも見えないところでは他のプレイヤーが息を潜めてこちらの様子を窺っているかもしれないと想うと移動の足も重くなるのは必然の事である。


そもそもルールを知ってて尚、最初からポイントを稼ぎに出ていたゼロの方が異様なものであることは否めない。


そうした精神的苦痛が確実に彼らを蝕んでいた。それに洞窟から歩いてきた距離も相当なものである。


そう判断したゼロは後ろのメンバーに声をかけた。


「ここで休憩しましょうか。」


ゼロの声は幾分弱々しく感じられる。


ヒエイは俯いたまま首を縦に少し傾け、適当な場所を見るとそこに腰をおろした。


少年はその場に座り込みさっそくショルダーバックから引き出したスケッチブックに絵を書き始めている。


「あなたはどうするの?」


仲間に何も言わず歩みを進めようとしたゼロをベッキーが制した。ゼロもその声に振り返る。


「敵が近くにいないとも限りません。俺は辺りの調査をしてきたいとおもってます。」


「……私も行くわ。」


一拍置いてベッキーは手を腰に当てながら言った。


「あなたばかりに負担はかけさせられないし、それに一人より二人の方が安全でしょ?」


ベッキーはさも当然のような口調でゼロへ話し掛けたが、その時ゼロの目に映ったのは嘗て護ろうとした者達が次々に殺戮されていくシーンだった。


あの時も集団で行動し失敗した。生き残ったのは自分のみで仲間だけが消えていく。


そんなゼロの心に残ったのは悲しみと挫折、そして決して埋め合わせる事などできない深い虚無感だけだった。


そんな絶望感をゼロは二度と味わいたくはない。ゼロは首を大きく横に振った。


「ベッキーさん。すみません。それだけは駄目なんです。俺は近くにいる人を救うことはできません。俺にできるのは遠くからやってくる脅威を根本から潰すことだけです。だから俺にはあなたを護ることができないから……。」


途中、震えたような声で話すゼロの口調は子どものようだった。しかしその中に含まれた想いを感じ取ることのできないベッキーでもない。


「……分かったわ。私はここで他の人を護ります。あなたも早く戻ってね。」


ベッキーは少し不満気な声だったがあれだけ何でもできると想っていたリーダーの弱々しい声はそれだけで彼がまだ子どもなんだと確証を得るには充分だった。


それに絶大な力を持つゼロの弱音を聴けたのも少し誇らしかった。自分だけが知っているゼロの不安。そんな二人だけの秘密が何よりも彼女は嬉しい。


「はい。大丈夫です。すぐに戻りますから」


そう言うとゼロは正面を向き、歩んでいった。


現時点のメンバーの中で一番不安を抱えているのはゼロであることを知るものはいないだろう。何故なら彼が今まで護れなかった人達はみな、ゲームの終盤に消えていった者達なのだがら。ゲーム初心者にその概念は浮かぶことはない。





ゼロは自身の気配を最小限に抑えながら進んでいた。


ただでさえ一人で行動しているのだ。複数人に囲まれてしまえばさすがのゼロも苦戦をしいられることは間違いないだろう。ここから先は何一つ油断することのできない場所だった。


そんな木々の間を抜けた時、ゼロは一瞬後方へ跳びず去った。


条件反射で手がデッキへと伸びてしまったが、こちらの好戦的態度で相手も攻撃体制になってしまってはそれこそゼロの生存率が下がってしまう。


ゼロは右手をすっと左腕から離して、木陰に身を潜めて周囲見渡した。


しかしそこに人の影は見当たらない。モンスターの影も見ることができなかった。


ゼロは息を呑み、前進した。神経も全開に張り巡らせた状態だ。


ゼロは視野を一杯に広げながら周囲を観察していた。そこでふと目に入ったものがあった。


紫色に伸びた二本の脚がそこにはあった。警戒を強めそれに近付いてみるがそれは杞憂だったらしい。


実際にその脚の先を見てみると顔面から骨盤の辺りまでかなり綺麗な状態で地面に埋まっているからだった。


粒子となっていないところを見ると生存していることは間違いなかった。


そしてゼロもそういった人達を見捨てられる程に人間はできていない。


「すみません。大丈夫ですか?今、助けますので自分でも出られるように協力して下さい。」


闇属性プレイヤーの脚がブンブンと大きく動いた。どうやら了解を得たらしい。


さっそくゼロはそのジタバタの脚を両手で握り締めると呼吸を一つ吐いた。目を閉じ神経を研ぎ澄ませ集中する。


ゼロの目が見開かれた瞬間。瞬発力を最大限にいかした引きが闇属性プレイヤーを胸の辺りまで引き上げることに成功した。


流石に人一人分は重いらしく少し呼吸を乱している。そしてもう一度、今度は脚ではなく胴の辺りを掴み同じ行動を取った。


ゼロの目が開かれ、力を込める。そして闇属性プレイヤーの体が地面から離れた。力の反動によりゼロは尻餅をつき、背中から地面についた。どうやら後頭部だけは守れたようだ。


そしてプレイヤーの方はゼロが地面との接触による衝撃で手を離してしまったために巴投げのように投げ込んでしまった。


しかし闇属性プレイヤーは器用に着地を成功させると仰向け状態のゼロの方へ体を向けた。


その顔は顔の中心にデカい半円状の水晶が付いているだけのどこかのっぺりとした顔だった。


「いやーごめんね。助かっちゃった。実は今朝方に僕、奇襲にあっちゃって、そこで何やかんやで吹っ飛ばされちゃったんだよー。」


闇属性プレイヤーは若い男性のような声で少し愉快そうにヘラヘラと話す。どうやら攻撃自体には何の危機感も抱いていないらしい。


「そう…なんですか?でも、そうなると仲間の人とはぐれてしまったんですよね。」


「いや。僕に仲間はないよ。」


ゼロは視線を下に下げた。


「もしかしてゲーム中に……。」


ゼロは少し聞きづらそうに声を漏らしたが、闇属性プレイヤーは苦でもなく平然として言ってのけた。


「いや、余りにもつまらなそうにゲームを進めていくもんだからさ。僕が殺っちゃった。」


ゼロは瞬間に状態を起こし、デッキへ手をかけた。闇属性プレイヤーの異様な雰囲気をゼロは感じ取ったのだ。


「反応はいいんだね。でも少しキミもゲームを楽しめてないように見える。何が原因なのかなぁー。」


闇属性プレイヤーはゼロの行動に対しても警戒していない様子だった。それよりも自分で見つけ出した謎の解明に忙しいらしく右手の人指し指は顎に置かれている。


「やっぱり、人を助けるとかいう使命に翻弄されているのかなぁー。でもそうだよね。キミの様子や話を聞いてみても、モンスターに怯えてるというより人に怯えてるもの。」


ゼロを見透かしたかのような赤い水晶は一瞬煌めいた。


「ねぇねぇ。せっかくだからさ。もう少しゲームを楽しんでみたいと思わない?」


ゴツ!


そこまで言い終えた闇属性プレイヤーの頬を殴ったのはゼロだった。


ゼロは怒気を含めた声で言う。


「ゲームを楽しむだと?ふざけんな!…分かってんのか?このゲームで死んだら現実世界でも死ぬんだぞ!」


ゼロの怒りは収まりそうにはなかった。何故なら今、ゼロの目の前に立っている奴こそがゼロが一番嫌っている性格の奴だからだ。


しかし殴られてなお、闇属性プレイヤーは平然と話す。


「すごいね!やっぱりゼロ君は面白いよ!」


その姿はまさしくゲームを楽しんでいるもののそれだった。強い相手を前にして絶対勝ってやるといきがる子どものような純粋な反応。


流石のゼロも予想の斜め上をいく相手の反応に言葉を詰めらせた。


「さっきのパンチ。僕は全然、反応できなかった。やっぱり情報通りだね。キミは怒りで強くなれるんだ。」


ウキウキしながらしかし赤いレンズは貪欲にゼロの心を眺めようとする。


ゼロの瞳が視界の端にあるものをとらえた。


「ふせろ!!」


ゼロの必死の言葉にしかし闇属性プレイヤーは呆けたような声で答えた。


「何で?」


横なぎに振るわれる巨大な棒の端が闇属性プレイヤーの胴に接近していた。


ゼロは瞬時にカードを引きスキャンする。


『weaponカード!!』


漆黒の刃がゼロの右手に出現した。ゼロは両手でその柄を握ると闇属性プレイヤーの横に割って入り、刀で棒を迎撃した。


だが、質量とパワーの違う二つの武器の近郊は一瞬にして崩れた。


闇属性プレイヤーを巻き込む形でゼロと闇属性プレイヤーは大きく吹っ飛ばされた。


その先にある木に衝突し、バランスを崩す。


「大丈夫か!」


ゼロはすぐに後ろを振り向き確認した。


「全然、大丈夫だよ。」


闇属性プレイヤーは平然と言葉を述べる。


ゼロは再び正面を見据えた。先程の棒を伝手に襲撃者を捜す。


しかし既にそこには棒の姿はない。


まるで幻であったかのように全長数十メートルはある棒が跡形もなく消滅したのである。


━━━どうなってる?あんなデカブツ消すことなんて不可能の筈だ。


「……っ」


そんな戦闘態勢のゼロをよそに狙われた側である筈の闇属性プレイヤーは余裕の様子で伸びをした。


「んー。ふう。」


「お前やる気あんのかよ。」


闇属性プレイヤーのあまりのやる気のなさにゼロは溜め息をつく。


「だってー。もうすぐで勝負が終わるって時にゼロ君が邪魔するんだもの。しょうがないじゃない。」


「は?……お前、何言って……っ!!」


第二撃目がゼロを挟むように左右から振るわれた。木々をなぎ倒しながらやってくる凶器の速度は速い。


先程の闘いから鍔迫り合いは不可能とゼロは判断し、叫ぶ。


「右側に走れ!!」


ゼロは刀を握り、右から振るわれる棒目掛けて走り出した。


刃を正面に向け衝撃に備える。


ガキィィィイイ!!


刃から火花が散った。しかしゼロはそこで真っ正面から衝撃を受け止めるのではなく手首のスナップを効かせ棒の表面をなぞるようにその下側へと滑り込む。さらにそこで棒を持ち上げるように命一杯の力で刃を振るった。


ガキャン!!


そこでゼロの漆黒の刃は砕けた。しかし全力の一撃は幸をそうしたようで、軌道のズレた棒は闇属性プレイヤーが屈めばやり過ごせる程度の空域を飛んでゆく。


ゼロは必死の形相で闇属性プレイヤーを睨んだ。だが闇属性プレイヤーを一目見やり、そこでゼロの目から力は失われた。


立っているのだ。逃げようともあまつさえ焦りの様子さえ見せず闇属性プレイヤーは堂々とそこに佇んでいる。


「やめろーー!!」


届かぬと知ってなお、ゼロの腕は伸びる。


闇属性プレイヤーはそれでも動かなかった。


「ゲームセット」


ボキン!!


破壊音が闇属性プレイヤーを中心に半径一キロほどに響き渡る。


しかし悲鳴を上げたのは闇属性プレイヤーに接触した棒の方だった。


棒は破片を周囲にばらまきながら消滅していく。


「……それがお前のスキルなのか?」


ゼロはその光景に唖然としていた。一切の予備動作なしに棒のみを粉砕した男を警戒しないほうがおかしいのだ。


闇属性プレイヤーはそんなゼロの心情を知っててなお、気楽に話す。


「そーだけど。謎は教えないよ。だってそれじゃあゲームがつまらないからね。」


闇属性プレイヤーはここに来て初めてカードを一枚引いた。


『weaponカード!!』


闇属性プレイヤーの右手に出現したのは刃渡り十八センチほどの包丁だった。


闇属性プレイヤーはその赤い瞳を包丁へと向けた。プレイヤーの瞳から反射した光が包丁を煌めかせ、包丁の色を赤く染める。


静かな殺気を確かにゼロは感じた。


「僕はちょっと用事ができたから行ってくるね。またゲームで会えることを楽しみにしてるよ。」


左手を振りながら去っていこうとする闇属性プレイヤーをゼロは止めた。


「ちょっと待て。」


マスクで見えないがおそらくキョトンとしていたであろうプレイヤーにゼロは問うた。


「お前の名前は?」


プレイヤーは少し考えるような仕草を見せ、思い出したかのように包丁をゼロへと向けながら言った。


「ハムって覚えておいて。」


闇属性プレイヤーの包丁はやはり赤い色をしていた。




━━━数分後


「こんなところにいたんだ捜したよー。」


表情を見せない闇属性プレイヤーのマスクは赤く禍々しい闇を見せていた。


「お前のせいで、俺の仲間が死んだんだ。だから俺はお前を殺す!」


地に伏しながらも罵声を浴びせる草属性プレイヤーだったが、その体は微かに振るえていた。


闇属性プレイヤーは右手に持つ包丁を弄びながら楽しそうに話を進めた。


「いいね。その殺意。でも、それだけじゃゲームは楽しめないよ。それに何だか見てて辛そうだし……。」


闇属性プレイヤーは悩んだ。どうすれば彼を救えるのかと。しかしそれもたった一秒間のできごとに過ぎない。


「あ、そうだ!」


闇属性プレイヤーは『スペシャル』と唱えると自身の目の前に展開されたカードのカタログのようなものを操作し始めた。


その間の間、草属性プレイヤーは憎々しげな目をずっと闇属性プレイヤーに向けている。


「これこれ」


愉快そうに話す闇属性プレイヤーの手には一枚のカードが握られていた。しかし通常のカードとは異なりその裏面にはSと記載されている。


「このカードの効果はね。このゲームの間ずーと。僕が倒した相手のライフを二個削ることのできる効果を手に入れられるんだ。でーここまで言えば分かるよね?」


「や、やめろ!」


草属性プレイヤーはその意味を悟り、震えをより一層大きいものとした。


『specialカード!!』


「じゃーね。僕も辛いけどこれはゲームだから……。それに僕はゲームを楽しんでいない人を見るのがとても辛いんだ。」


「うわぁぁああーーーー!!!」


ドス!


草属性プレイヤーの脳天に包丁が突き立てられた。プレイヤーは暫く痙攣していたが、それもやがて止まる。


ポン!


上空からそんな音が聞こえた気がした。


闇属性プレイヤーは落ちた包丁を拾おうともせずその場を後にする。


残されたのは赤く染まった包丁だけだった。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

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