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バスター・プレイヤーズ  作者: 16104
モンスターファーム
15/30

第一部

『ゼロ様、今日のところはこの辺りで宜しいのではないでしょうか?これ以上お調べになっても答えが出ないような気がするのですが?』


そんな相手を諭すような言葉を述べたのはゼロの専属ナビ、ミイナだった。彼女はかれこれ一時間以上、何の進展のないゼロのテスト練習に付き添っている。彼女にとってそれ自体はどうでもよいことなのであるが、ずっと体を動かしっぱなしのゼロの身を案じているのだ。


「くそーーほんとに駄目だ解らねー。なあ、ミイナ。本当にこのカードの使い方あってんのか?」


ゼロの指摘しているのはレベル50代で手に入れたスキルカードの事であった。本来、スキルカードの表記名は『skill』と表記される筈なのだが、このカードには『set-skill』〈セットスキル〉と表記されていた。


初めてのカードのためミイナに使用法を訊くと差し詰めトラップカードのようなものだと判断できた。だが、それまでだった。


カードを左腕に装備されたデッキケースの長方形型ラインへ裏表示で置くこととこのカードには二種類のパターンがあり、特定条件下で自動発動するもの、「オープン」と唱えて手動で発動するものがあるらしいという内容のみでこのカードがいったいどちらのパターンで、しかもどういう条件の下、発動するのか解らないままだった。なので、不確定なモノを使うことが出来ず、宝の持ち腐れのように実戦でもデッキに入れることが躊躇われていた。


『間違いありません!その証拠にちゃんと「セット」されてるではありませんか!他のカードでは出来ないのです!私を疑うのはやめてください!』


プイッとソッポを向いたミイナを無視してゼロはもう一枚のカードを手に取った。こちらのカードはレアカードのようでラメ入りのザラザラした表面が虹色の光沢を放っている。しかし、残念なことにこちらも『set-summon』と表記されている。


ゼロは深いため息を尽きながら真っ白な境界線を眺めた。





「なぁーキリ?ちょっと前の授業のノート見せてくんない?俺、写してなくてさー。」


「いいけど。お前、何してたんだよ。」


「え、寝てたにきまってるだろ?」


元、七三分けの男、トウキは何の詫び入れもせず坦々と言葉を述べた。ちなみに髪型は坊主である。話を聴くところによるとバスケの大会が近いらしい。きっとそれが彼なりの気合いの入れ方なのだろうと予想が出来た。


なのでキリヒコはその気合いも考慮しつつ口元を緩めながらこう言った。


「却下だバーカ。そこで死んでろ。」


神に見離されたような顔をしたトウキは何の恥ずかしげもなく床に手を着けながら絶望していた。


「僕のでよかったら使って。」


そんな落ちぶれた男に手を差し伸べた可愛らしい男の子は覇間遭乍である。


小柄で童顔。このクラスのマスコットに定着しつつあるその愛嬌一杯の手をトウキは神か何かを拝むように仰々しく取った。ついでにその手に握られていたノートも。


一通りの寸劇を見送ったところでキリヒコは窓の外を見る。曇った空からポツポツと細かい粒が降っていた。


「平和だなー。」


キリヒコのボヤキは背後からの張り手とオロオロとした口調の声とですぐに途切れる。


これはそんなキリヒコの日常の一ページだった。━━━━





ゼロはマイページからあるところへダイブしていた。ダイブといっても元々マイページの機能の一つのようなモノなので移動といった方がいいかもしれない。


ゼロの到着した場所はマイページと何ら遜色の無い真っ白な場所だった。永遠と続いていそうな白い境界線にどこまであるのか検討もつかない白い天井。


しかし、ここの上空にはいくつものディスプレイが上空に映し出されていた。一つ一つに細かい情報が流れているものや何らかの方法で中継でもしているのだろうか、プレイヤー同士の対戦の様子が映し出されているモノもある。


そして、ゼロの目の前に広がっているのは様々なプレイヤー達の姿と屋台のような建設物。


ここはMBコミュニティーと呼ばれる『プレモンMB』専用のコミュニティーだ。ここでは様々な情報が流れたり、特殊カードと呼ばれるカードやイベントカードが売り買いされている。


そこから少し離れた位置にいるはずのゼロにも人々の声が聞こえてくる。そこには活気が溢れていた。


ゼロも当然のようにその集団の中へと体を吸い込ませた。さまざまな声が耳に通り、どんな話をしてるかも分からないぐらいに響いている。


辺りの建物〈店〉を見渡してみると販売を行っているのはプレイヤー達のようだった。ここはコミュニティーだけに個人の店も展開できる仕組みである。


その中でもゼロが見とれてしまったのはどこから持ち出したのかハリセンを叩きながら商売をする草属性のプレイヤーだった。


その後もゼロは何の迷いもなく前へと進んでいたが、その途中、一人のがたいのいい鋼属性プレイヤーの男と肩をぶつかってしまった。


ゼロはすぐに謝ろうと相手の方を向くが


「何ぶつかってんだよ。ふざけんな。」


男は怒りの声音で言いたいことだけ言い終えるとそのままズシズシと行ってしまった。


ゼロには複雑な気持ちだったが相手も行ってしまったので渋々目標の場所へと再び歩みを戻した。


ゼロが向かった場所は建物と建物の間に開いた小さなスペースの先にある場所だった。ここの通りは人通りも少なく、鉢合わせするような人があまり見当たらない。


前方から一人のプレイヤーが歩いてくるので軽く会釈し、お互い狭い空間で退け合う。


暫く歩くとそこにあったのはこれもまた建物であったが、広場の明るさと違って少し陰気な気配がある。


そんな小さな店の椅子に腰掛けると建物の中から一人の男性が現れた。


「やあ、ゼロ君。元気でしたか?」


男性は眼に眩しいぐらいのスマイルを浮かべながら丁寧な口調で挨拶をしてきた。


「カスザメ。お前なら俺がどんな状態か話さなくてもわかるだろ?」


ゼロは面倒そうに呟きながらカウンターに手をおいた。このゲームには飲食の概念は無いので飲み物などは出されない。


「そんなこと言わないで下さいよ。我々、ゲームナビ達も全ての人のデータを覚えるのは大変なのですよ。」


カスザメはそういうが彼の中で想うことは面倒だからの一言につきるだろう。何故なら彼は否定はしていないのだから。


「そんなことより」


ゼロはそんな雑談を切り捨て本題へ入った。


「次のイベントの情報を知りたいんだが、教えてくれないか?」


ゼロの目は真剣そのものだった。しかし、顔を隠すフェイスマスクのせいで相手にその表情は読み取ることはできない。


カスザメはぶらっと持ち上げた手を空に押し当て自身のディスプレイを展開した。


それからゼロの求めている情報を引き当てると画面をこちらに向けながら答える。


「近いイベントはこのモンスターファームですね。強いのから弱いのまでウジャウジャのステージです。経験値アップに最適なイベントだと思われます。」


「そのイベントの参加ポイントは?」


イベントクエストは通常、緊急クエストとは違い参加自由の特殊なクエストである。


しかし、クエストを受けるためにはポイント。つまり、ライフを支払わなければ受けることの出来ないという条件があるのだ。


ライフは確かに3つしか持てないのが条件であるが、ライフはカードの形に変えることもできる。そのカードはライフカードと呼ばれ、このコミュニティー内でも現実世界のお金のような形で特殊カードが売り買いされているのだ。もちろんライフカードはスキャンすることでライフとしてプレイヤーに入る。そして同じような理屈でイベントクエストの参加にもこれが必要な訳である。


「もちろん。ゼロ君の事も考えてライフポイントは一つですよ。」


カスザメは愉快そうに口元を吊り上げながら言った。


「その笑みがムカつくよ。どっかの誰かに似ているせいもあるかな。」


そのどっかの誰かは今頃、バスケの大会の為、必死に汗を流していることだろう。


「でも、ゼロ君もポイントを稼いでもっと良いクエストを選んでもいいと想うんですけどねー。」


「俺は人を殺したくねーんだよ。」


適当な口調で話すカスザメの言葉をゼロは睨み付けながら話した。


今度の表情は察したのかカスザメは鼻を鳴らしながら話を進める。


「流石ですねゼロ君。あとここだけの話なんですが、実はアナタの知名度も少しずつ上がってるんですよ。プレイヤーを殺さず。そして殺されないプレイヤーだってね。」


カスザメは少し誇らしげな調子で話す。


「そして付いたあだ名が『最強最弱のプレイヤー』。ゼロ君にピッタリだと思うのだけれどゼロ君自身はどう思いますか?」


それを本人に訊くのか?とゼロは本気で想ったが、回答も面倒なので「いいんじゃないですか。」と軽く流した。


「まっそれは置いといて、このイベントは明日の深夜12時に始まりますので。あ、ここで選手登録しときますか?実はさっきここを通っていった子もこのイベント参加するみたいなんですよ。良い縁ですね。」


話しながらもディスプレイを操作してイベントの参加申し込みの要項がまとまったモノをゼロの前へ差し出してきたカスザメはゼロがその書類を書き留めるのを見ながら沈黙を断つように話し始めた。


「そういえばゼロ君。『お遊戯会』ってコミュニティー知っていますか?」


ゼロは唐突に話をされてチラリとカスザメの方を見たが首を振るだけで声は出さない。


「気を付けた方がいいですよ。『お遊戯会』はいろんな方法でライフを集めてるらしいですからね。しかも人員もつぶぞろいときてます。出来れば相手にしない方がいい。」


「それで?」


ゼロは一通りの記入を済ませるとそれをカスザメに渡した。


「こちらで得ている情報はそこのトップがハングリームーンという名ということだけです。なのでまぁ、あまり気にとめずにちょっと危ないということだけ理解して頂ければ結構ですので。」


ゼロは「じゃあな。ありがとう。」と言葉を言い、何の躊躇いもなく「リンクアウト」と言った。





━━━PM23:58━━━


いよいよイベント開始2分前となった。


キリヒコは緊張を忘れたかのような落ち着いた表情でベッドに横になっている。


先程まではテレビを見ていたのだが、時間が近付いてきたのでそれも止めた。さらに部屋の電気も消す徹底ぶりだ。今、彼を照らしているのは携帯の画面にやどる光のみとなっている。


PM23:59


ついに開始一分前となった。


ピリィィィィィ!!


このプレモンMB特有の目覚まし時計は流石のキリヒコも慣れていた。しかし、この前はこの音によってベッドから転がり落ちてしまったという苦い経験をしている。


『イベントクエストを開始します。なお、今回は認証は結構ですので、辺りの安全にご注意下さい。』


抑揚のないキレイな女性の声がゲームの始まりを告げた。


たっぷり45秒ほど待った所で細かいカウントに移る。


『5、4、3、2、1』


キリヒコは無意識の内に口元を緩めながら呟いた。その眼には覚悟の炎が浮かんでいる。


「さあ、始めるか。」


『クエスト開始』

ここまで読んでいただきありがとうございました。

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