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バスター・プレイヤーズ  作者: 16104
緊急クエスト
10/30

第十二部

ザッという土を踏みしめたような音がゼロの耳に届いた。


さっきまでの教師の演説とは異なりこちらはスームズにゼロの中へ入ってくる。


辺りには幾多のプレイヤー達が、それぞれのアクションを起こしていた。


嘆いていたり、装備を準備したり、馴染みのプレイヤーなのかグループを作って話し合ったりもしていた。


ゼロは頭上を見上げた。


通常のクエストとは異なり、あまりに大きいそのディスプレイには沢山のプレイヤー名が記載されていた。


ゼロはそこらの木に背をもたれ、左腕に刻まれている紋章に語り掛ける。


「これが緊急クエストなんだよな。」


基本的には人数が増えただけで、何も変わっていないように見える。それが、ゼロの感じた最初の見解だった。


ゲームというならば、もっと激しいBGMが流れてもいいはずだろうに、リアリティを追求されたこのゲームにはそれが無い。


それがまた、プレイヤーの緊張感を煽っているようにも感じられた。


グループを作っていたところは一通りの話し合いを終えたようでチームのような形で、林の方へ向かっていく。


それを視界の端に捉えながら紋章から響く音声を聴いた。


『はい。間違いなく正真正銘の緊急クエストです。ルールは通常のモノと変わりません。ですが、緊急クエストの特殊ルールとして通常のモンスターもこのクエスト内に登場します。ですからフィールドの大きさも広く設定されているので目的のモンスターを見つけるだけでも一苦労なのです。』


ミイナの話しをゼロは吟味しながら聴いていた。基本ナビは新しいアクションを起こす時しかチュートリアルを行わない。ルールブックのようなものがあればいいのだが、そんな便利なものは用意されている訳もなかった。


なので、最新の情報を漏らさず理解することがこのゲームを生き抜く為の鉄則であるとゼロは体で理解しているのだ。


━━━なるほど、あのグループはそういう目的か……。


「じゃあ、その普通のモンスターを倒したら経験値配分とかどうなるんだ?」


『緊急クエストモンスターを討伐の際は通常と同じです。通常モンスターにつきましては討伐者にそのまま経験値として蓄積していく仕組みになっております。しかも、レベルアップボーナスもこのクエスト上では可能となります。ですからここで大きく経験値を稼ぐプレイヤーは多いですね。』


━━━確かにこんなおいしいイベントはないな。ライフを2個以上持ってる奴ならここで一気に稼いで、もし負けても次回からは強い状態で闘うことが出来る。


『………ですが、それはあくまでも利点です。物事にはもちろん不利な点が御座います。』


ゼロはそれも覚悟していた。このゲームはプレイヤーのためにルールは作られていないという点を理解していたからだ。


『それは、このクエストの終了の条件です。』


「条件って基本ルールが同じなら終了条件だっておな……。」


そこまで考えて、ふとゼロは疑問を感じた。


それは、今までゼロ達よりも先にゲームオーバーになってしまったプレイヤーはその後どうなっているのかという点だ。


ゼロはまだ一回しか墜ちていない。しかも、その一回は敵モンスターとの相討ちによって死んだポイントである。確かにゼロには理解不能の世界の話しであろう。


それをゼロの雰囲気から悟ったのか、左腕のデバイスから読み取ったのかは知らないが、真実のみ答えるナビはゼロの疑問も含めて答えた。


『ゼロ様の疑問から解決しましょう。答えは待機です。……モンスターの討伐、プレイヤーの全滅。どちらかが終了するまでゲーム内で一種のスリープ状態となっていただきます。』


「待機って……。それじゃあ、それまでの間、全てのプレイヤーが現実の世界へ戻れないのかよ!」


『はい。』


ゼロは頭が痛くなるのを堪えた。今、冷静さを欠けば後に響くことは明白だからである。


『ですが、このルール自体は通常クエストと大差ありません。違いといえば121名でチャレンジする広大な土地のバトルというだけです。何か他に質問はありませんか?』


全てを聴き終え、ゼロは一言「ない。」とだけ言い。ミイナとの会話を終了させた。


もう一度、頭上を見る。そこには121名のプレイヤー名が記載されている。


━━━とにかく、俺もここを出よう。ここに居てもおそらく彼らを救えない。


今、残っている者はもはや戦意を失った者達ばかりであった。


誰かに助けを求めるでもなく、ただ絶望の渦に呑まれていった者達。


ゼロは一人孤独にこの広い世界へ一歩を踏み出した。




━━━クエスト開始から3週間以上経過━━━


プレイヤーの生存数は40人強。


このゲームでは空腹という概念が存在しないので人数減少の理由とすればモンスターとの戦闘、もしくはプレイヤー同士の不毛な殺し合いだろう。


そしておそらく、今、生き残っているプレイヤー達はどれらも強者。さらに言えばグループとして行動し、その生存確率を上げている筈だ。


そして、ゼロは━━━



手に持っていた刀を地面へと突き刺し、顔に附着した液を拭いさる。


目の前には赤く染まった二本角のモンスターが3体ほど転がっていた。


それらも数秒後には粒子となって仮想の空へと消えていく。


『レベルアップおめでとう御座います。ゼロ様、レベルアップボーナスの方をお受け取り下さい。』


荒い息を吐きながら、ゼロは目の前に浮かぶ三つのカードの中から一枚を選択した。


『さらに、レベルが40まで達しましたのでレベルボーナスとして『サモンカード』をお受け取り下さい。』


言葉と共に、先程のカードとは異なる輝きを放ったカードが出現する。しかし、ゼロがそのカードに触れた瞬間、その物体は跡形もなく消滅した。


だがそれは本当に消滅した訳ではない。カードは選択と同時にデッキへと組み込まれるシステムとなっているのだ。


ゼロはつかさず刀の柄を握り引き抜いて歩みを進めた。


通常ならば、ここでレアカード入手に対する何らかのアクションを起こすところなのだろうが、今のゼロには喜びを味わう程の余裕はなかった。


「「グァァダアアア!!!」」


大音量で発狂される咆哮がゼロの軌跡を追ってくる。


「くそっ……!」


ゼロは焦燥を含めた黄色の眼を背後に向けるとおぼつかない足取りでその場を後にした。




最初は経験値のために二本角のモンスターを討伐したのだが、どうやら群れをなすタイプのモンスターだったようで、ゼロを標的と定め、後を狙ってくるようになった。


しかも、倒しても数は減ること知らず次々と出現する。モンスターのレベルも決して低い訳でなく、ここ一週間、闘い続けたゼロの体は完全に衰退してきていた。


「……!!」


ゼロの前方から一体のモンスターが突撃してきた。もちろん敵は今までの二本角モンスターである。


モンスターは鋭い鉤爪をこちらに向け、瞳孔が開きっぱなしの血の眼でゼロを威嚇してくる。


しかし、ゼロは臆することなくモンスターの動きを観察しつづけた。


そして、モンスターが両の腕を大きく開き、ゼロを挟むための大きなギロチンの構えを取った瞬間、ゼロはその体を横にずらしフェンシングのような体制を取った。


ゼロを殺すことしか脳のないモンスターには刀が見えていないようだった。だからこそゼロはその無防備な胴へ全力の突きを浴びせる。


軽い抵抗が掛かったものの刀は当然のように突き刺さり、モンスターに絶命の二文字を与えた。


「「グァァダアアアアアア!!!」」


しかし、そんなゼロに左右から全く同種のモンスターがしかも同時に襲ってきた。


ゼロは苦い顔をしながらも、刀を右側へと振るいその大きな肉塊を右から迫るモンスターへと投擲した。


肉塊はそのままの勢いでモンスターへ衝突し、地面と肉塊のサンドを作る。


その時、既にゼロの至近距離まで近づいていたモンスターは素早く打ち込んだ左の蹴りでどうにか去なしたが、蹴りにはさほどの威力もなく数歩、退くだけにとどまった。


しかし、ゼロはそこへ一閃。


鋭い斬撃がモンスターの胴を深々と抉り、その切り口から大量の液がこぼれた。


更にゼロは刀を薙ぐ勢いをそのままに真後ろとも言うべき場所へ垂直に刀を投げる。


刀は目標の頭部に直撃すると仮想の重力に従って後ろへと倒れていき、頭部を間に挟んだ状態で地面を穿った。


その一部始終を見終えるとゼロは辺りにモンスターがいないことを確認し、高鳴る鼓動を抑えるために息を吐く。


『skillカード!!』


ゼロの頭上を何かが通過していった。


突如として起こった出来事にゼロは反応することが出来ず、ただその何かが通った方を確認した。


そこには胴体を氷の柱で貫かれ、そのまま木に貼り付けられたモンスターの姿。


「キミ、すごいね!」


パチパチパチっと拍手したのは勿論、この氷の力を使った張本人であろう。


ゼロは後ろを振り向き、そのプレイヤーを確認した。


薄青色の装備が、酷く赤黒い物を見過ぎていたゼロの眼には眩しく直視することが出来なかったが、男はその腕に纏った光を霧散させると改めてゼロの前へ立つ。


「さっきの見せてもらったよ!一人であの4体を相手にするなんて……まぁ、最後は油断してたみたいだけど、合格、合格!それでさキミ!もしよかったら僕達と一緒に闘ってくれないかな!」


男はゼロの血塗られた手を気にすることなく両手で握ってきたかと想うとそのままその手を全力で上下に揺さぶった。


「え、いや…まっ━━!」


「え、いいの!じゃあ行こう!すぐ行こう!」


相手は興奮を抑えきれていないようでゼロの抵抗をキロ単位で無視するとそのまま引き摺るように早歩きで歩き始めた。


「いった!!いたい!いたい!」


筋肉痛で軋む体をいたわろうともしない男に殺意が芽生えたが、体も想うように動かすことが出来ず、泣き崩しのように痛みに耐えることしかゼロに選択肢はなかった。




ここはとある洞窟の中だ。何か魔物の住処だったのか辺りには骸骨が錯乱している。勿論、人の骸ではない。仮想世界のただの玩具のようなものである。


何故、洞窟でここまで視界が鮮明に見えるかというとここには灯りと呼べる物が存在しているからだ。誰かの技なのか人達の中心に炎が轟々と点火されている。


これを技と疑った理由はこの炎からは何の煙も発生していないのと辺りに薪のようなものが見られなかったからだ。


そして、その鮮明に見える炎の先には幾人のプレイヤー達の姿があった。


プレイヤー達は一堂にゼロと男に注目している。


「ハイハイ!みんなー!今日は新しい仲間を紹介します!…………えーっと。………。」


男は正面に向けていた空色のマスクをこちらに向けると密かな声で


「キミ、名前は?」


━━━今、それを訊くのかよ!


と、内心でツッコミつつも悪い奴にはどうしても見えなかったのでこちらも男にだけ聞こえるような声で


「……ゼロです。」


この時、ゼロの口元がひくついていたことは誰も知らない。


「ゼロ君です!拍手!!」


この男のこの一連の動作をさも当然のように思っているのか簡略的な拍手が辺りからこだました。


すると一人の水属性の女性がこちらへと近づいてきた。


「で、ヤマザキ君。その人はどこで拉致ってきたの?」


「人聞き悪いこと言わないでよ!それに何、僕のリアルネーム発表しちゃてんのさアサミ君?ここではグレイザーでしょ!?」


「あんただって私のリアルネーム暴露してんだろーが!それにここのチームであんたのリアルネームを知らない人はいないのよ!」


アサミと呼ばれた女性は罵倒をグレイザーたるヤマザキさんをぶちのめし、彼を充分にへこませると


「あら、……ゼロだったかしら。随分ケガしてるのね。ちょっと待ってて。」


こちらには本来の姿であろう。優しい女性の声音で応対してくれるとカードを一枚引き抜き何の迷いもなくスキャンした。


彼女の手が淡く光るとその手をゼロの傷付いた箇所へ丁寧に乗せていった。


ブルーオーの回復技は徐々に回復していく物だったがアサミの技は手を置いた箇所を瞬時に治していくものらしい。


ゼロの体もほんの数十秒で嘘のように動くようになった。


「これで安心ね。それに比べてコイツは……。」


地面にめり込むほど額を擦っている残念なヤマザキさんはそのままブツブツと呪詛のようなことを呟く。ハッキリいって視ていられない。


そんなヤマザキさんを復活させたのもまたアサミさんであった。


しかしそれはゼロにやってくれた優しい治療方などではなく、彼の顔面を蹴り飛ばすという何とも言えないものだった。




「んじゃー!みんな聴いてくれゼロ君だ!拍手!!」


気絶していたヤマザキさんの開口一番のセリフはそれだった。ゼロは今の一撃で脳に障害が出来たのかと思ったが、アサミさんの握り締めた拳を観るなり、態度を変えた所を視るに大丈夫そうだ。


「で、もう一度だけ聴くけどこの人はどこで拉致ってきたの?」


「いえ、あの……。」


「いいんだゼロ君。」


グレイザーは左手でゼロを制すと


「この人には僕達の仲間になってもらうことにした。そして、今回の緊急モンスター討伐に協力してもらおうと想う。」


さっきとは違う真剣な声音で言うグレイザーにゼロは驚きを隠せなかったが、アサミとその他プレイヤーはやっとかという調子でグレイザーの言葉を聴いていた。


「今日まで仲間を集めてきたが、それはここで終了しようと想う。理由はまあいろいろあるが、カードの消費量を考えるとここが限界だ。」


このゲームで使用したカードは元には戻らない。正確に言えばゲーム終了まで墓地へと送られ終了後に復活するという仕組みである。


なので現時点でカードを増やす為にはこのゲームでレベルを上げ、レベルアップボーナスを手に入れる他に手段がないのである。


しかし、モンスターのレベルも高い。レベルを上げる為にカードを使用し続けるのは本末転倒と言えるであろう。


「それに……。」


グレイザーはゼロの肩を掴むと自分へと引き寄せ。


「こいつはあの『ギーガー』を3体を一人で倒しちまった。」


彼の口振りから『ギーガー』があのモンスターであるとゼロは頭で理解した。


しかし、それ程、大事の相手かなと考えるゼロとは裏腹に、他のプレイヤーには衝撃が走っていた。


「『ギーガー』ってあの70レベル相当の!?一人で一体が上出来なのにそれを一人で3体なんて……。」


最初に口を開いたのは土属性のプレイヤーの女性だった。


「確かに、でも、奴らの強みは実際、その集団戦だ。だが、コイツはそれを回避してる。」


辺りは沈黙し、視線はただゼロに向けられた。


そんなプレッシャーに耐えかねゼロも口を開いた。


「いや、本当に対したことしてないですから!それに最後は油断してグレイザーさんに助けてもらいましたし……。」


ゼロが俯く姿を確認したグレイザーは気を使ってくれたのか話題を元に戻した。


「ま、それは置いておこう。で、本題なのは敵の位置を特定した。まさか、あんな所にいるとはな流石に驚いた。」


ゼロも含め、辺りのプレイヤーはグレイザーの次の言葉を待った。


「奴はこの先のコロシアムみたいな所を拠点にしてる。この眼でみたから間違いない。」


グレイザーの言葉にゼロは衝撃を受けた。


「ちょっと待って下さい。今、コロシアムって言いましたか?」


「……そうだが?」


「そこって、その…『ギーガー』ですか?ソイツらのアジトですよ。」


ゼロの一言はプレイヤー達に更なる衝撃を与えた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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