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バスター・プレイヤーズ  作者: 16104
プレモンMB
1/30

第一部、第二部

~プロローグ~




プレイヤー名、ゼロ。


濱名桐彦〈はまなきりひこ〉は基本、ネットゲーム内の名前を全てゼロという名前にしていた。


ゲームにはよくはまる方で、一日中ゲーム三昧なこともある実力者だ。


ただ、まだ学生ということもあり、ゲームに全力を注ぐことが叶わないというのはキリヒコにとっては少し残念と思うところであった。


まあ、学生という殻のおかげで人としての尊厳をギリギリ守れている状態である。


「よし、今日も勝ちっと。」


ネットゲーム用のコントローラーを操作しながら、キリヒコは自分への賞賛の言葉を呟いた。


今、キリヒコがやっているのはネットで流行りのオンライン・ゲームだ。


その名も『プレイング・モンスター・カードダス』通称『プレモン』。


クエストに行き、カードを手に入れ、育てて強くし、ボスと戦い勝利していく。至ってシンプルなゲーム。


人気の秘密はこのゲームのアクション性にある。


プレイヤーを縦横無尽に操作してカードでモンスターを召喚。そのモンスターを上手く使って相手を倒す。


言わばアクションカードゲームだ。


ポンッ!と画面の右端にメールが届いたことを知らせるアイコンが出た。


メールの相手はついさっき戦ったプレイヤーからだった。


『いやー。やっぱりゼロさんは強いですね。対戦できて良かったです。また今度、戦って下さい。今度は僕が勝ちますよ(^^)v(笑)』


このゲームは対戦機能も搭載している。


相手にバトル申請したあと相手の返事を待って対戦時間を調節して戦うというもので、面倒ではあるのだが、これはこれで相手とのコミュニケーションも取れて楽しい。


何よりこのゲームでネット友達がたくさん増えた。


「カジカノさんもとっても強くてビックリしました。でも、今度も僕が勝ちますよ。」


以下同文のメールを作成し、相手プレイヤーに送った。



~第一部~




キリヒコの休みは基本ネトゲーで終わる。ゲーム好きなのもあるが、今は『プレモン』の期間限定クエストに夢中になっている。


手が止まることは無く、母が気にして声をかけてくれるも大丈夫と一言だけ言って会話を終了させる。


部屋の中は数日分のコンビニ弁当と飲み物が置いてある。休みはこうして家に引きこもるのが日課となりつつなっていた。


時計をチラッと見ると深夜1時に差し掛かろうとしている。


明日は月曜日で学校もある。無理をすれば続けることは可能だが、親はテストの点数が悪くなったらネットゲーム禁止というルールを作った。


だが、それによりキリヒコには多少の自由を約束してくれた。


それが引きこもることであり、声を掛ける時も深く追求しないという所に表れている。


なのでキリヒコは勉強は先生の話を真剣に聴くことで覚えてしまい。家ではゲーム三昧という日々をおくる。


そして、それを実行するにはやはり集中力が欠かせないものとなり、イコール睡眠を取らないといけないという所にたどり着く。


格好は寝間着なので、着替える必要は無く、歯を磨くだけで寝ることが出来る。


ゲームはオートセーブなのでゲームを閉じるだけだ。


さっそく、消そうとマウスを動かすと気付かない内にメールが一通届いていることに気が付いた。


「どれどれ。」


深夜のメールは特段驚くことは無い。


何故なら夜行性の方々のメールが深夜に送られててそれを次の日の午後に謝罪と共に返信することが少ないことではないからだ。


つい先日も夜中にメールが届いていて慌てて返信を返したばかりである。


なので案外、この時間帯にメールを返信できることが珍しいことだったりする。


メールには『プレイング・モンスター・カードダスからのお知らせです。』という件名から


『ゼロ様、あなたにプレイング・モンスター・カードダスMBの参加権が与えられました。


参加なされる場合は下記からアクセスしてもらい。不参加の場合はこのままメールを削除してもらって構いません。


返答は24時間以内でお願いします。放置なされて数日後にアクセスなされてもこちらの方でサイトへの移動を受け付けませんのでご注意を。


なお、このゲームは非公開ですのであまり外部へ情報を漏らさぬよう。宜しくお願いします。』という文に続いた。


「非公開のゲーム?」


非公開ということはこのゲームはまだ試作品でテストプレイをしてもらうためにこのメールが送られてきたのだろうかと少し考えたが、『プレイング・モンスター・カードダス』という有名ゲームを造った会社のモノなので不信感を抱くことなくサイトにアクセスした。


実際はテストプレイヤーに自分が選ばれて嬉しいと思っていることは言うまでもない。




表示された画面には赤いドラゴンと白い鎧を纏った騎士のような絵が表紙になったものとその下に『プレイング・モンスター・カードダスMB』の文字。さらにマイページと運営通信の文字。


さっそくマイページをクリックすると画面が薄暗くなり、赤、青、紫など属性の名前別に別れた項目が表れた。


『プレモン』の最初の設定もこの属性選びから始まるのだが、その種類は27種と異様な種類に別れている。


その分、楽しみも深いのだが、このMBは種類が11種と随分まとめられていた。


その中でも、興味をひいた属性があった。


「……無属性?」


通常の『プレモン』にはなかった新しい属性、『プレモン』中毒者の自分としては使ってみたい属性である。


しかし、使い慣れている属性でまた一から始めるのも悪くない。


画面を直視しながらうーんと考えていると突然耳に声が届いた気がした。


『……俺を呼べ……。』


ガタンッ!キリヒコは声に驚いて情けない声をあげながら椅子から転がり落ち、後頭部を打ちつけた。


「……いっ…てぇぇ……。」


しばらく鈍い痛みにもがきながら、痛みが大分和らいだ所でようやく体を起こし、まだ涙目の状態で再び画面を覗き込む。


すると、いつの間にか画面が次の画面にきり変わっていて、そこには一枚のカードが大きく表示されていた。


左上の所には無と記載されている。


『さっき倒れたひょうしにボタンをクリックしちゃったのか。』


少し残念な気もしたが、無属性という新たな力を使えると気持ちを切り替えることにした。


ふとさっきの声の主を探してみたが辺りには自分以外誰もいないし、両親はこの時間、基本寝てしまっている。


『でも今の声、画面から聞こえたような気がしたんだけど……。』


少し首を傾げ、納得がいかないながらも幻聴だろうと解釈し、画面に視線を戻した。


カードの絵は一言で言うと黒ずくめの人だ。


顔に黒い包帯、体全体は黒タイツで、首に巻かれる傷みの激しい黒いマントと上半身を少し厚めな黒いジャケットのようなものが細身の体を補強しているように見える。


見え方によっては忍者とかに見えなくもない。


名前は「レギナ・チェイン」とあった。


次の画面でプレイヤーネームの登録し、ゲームのスタートボタンを押した。


しばらくのロードの後、画面が光りゲームスタートか!?と思いきやゲームのキャラらしい女の子が現れた。


『すみません。このゲームにはデッキが必要なのでゲームを始めることができません。デッキの方はこちらで用意しますので、そちらが届きしだいもう一度スタートメニューを押して下さい。お手数おかけして申し訳ありません。』


そう言うと女の子は画面から消えて、画面はトップページに戻った。


「これで終わり?」


突然現れたと思ったら疾風のごとく消えてしまった女の子に呆然としながらキリヒコはマウスから手の力を緩めた。




結論から言えばあの後はすぐに寝てしまった。


何度もスタートメニューをクリックしてみたが、しばらくのロードのあとパスの承認を行いますという機械的な音声に阻まれてMBへの入場ができなかったのだ。か


おそらくパスとはIDのようなモノだと検討がつくが、ゲームの設定時にパスワードなどの登録をしていなかったとあとになってから思い出した。さらに明日は学校なのだという脱力感もキリヒコのモヤモヤを拡大させた要因になったことは否めない。


などの複雑な理由によりキリヒコは良い睡眠を取ることができなかった。


なので授業にもあまり集中できず、知らぬ間に昼となってキリヒコはいつものメンバーで机を重ねていた。


「キリ、今回のクエストキツくね。俺あの太っちょな中ボスに苦戦してんだよ。手伝ってくんね。」


一般的、男子高校生よりも少しがっしりとした肉体を持つ七三ヘアーの「柏木騰貴」〈かしわぎとうき〉と


「あ、僕も僕も、あの大きいの体力凄いから攻撃してもしても、体力ゲージ1mmぐらいしか減らないんだよ。」


名前と容姿のギャップが激しい。小柄で童顔、性格も良しの男の子「覇間遭乍」〈はまそうさく〉。


この2人はキリヒコと共に『プレモン』をプレーする仲間だ。


出会いのきっかけは高校1年の春。


高校で初めて出会い。同じクラスと言うことで『プレモン』をお互いにしていることを知り、一緒に遊ばないと2人に誘われたのがきっかけだった。


その夜2人はすぐにキリヒコの実力を知り、次の日から仲良く学校で話すようになった。主に『プレモン』で、形的にはキリヒコが師匠で2人が弟子のような形だ。


なので、3人でクエストに行った回数は少なくない。むしろ、期間限定クエストの時は必ずといっていいほど一緒にプレーしているほどである。


「落ち着けよお前ら。あの中ボスなら炎の『オーバークリティカル』2枚と『ボルケーノ・アーサードラゴン』でいけるだろ。弱点炎属性だし。」


「お前みたいに俺らは廃人じゃねーからそんな糞レア何枚も持ってる訳ないじゃん!」 


「そうだよ。それに『ボルケーノ・アーサードラゴン』ってゲーム内で限られた数しかないんじゃなかったっけ?どうやって手に入れたのか逆に教えてほしいよ。」


頭をフルに使って、うーんと唸ってみたが一考に思い出せない。


「まぁ、気にしない気にしない。てか、俺も忘れちゃった。」


ごめん。と一言いれて、ソウサクは少し残念そうにして頷いてくれた。


「そんなことよりよ。」


ソウサクがそんなこととはなにさ的な目をトウキに向けるが、トウキはその目をスルーして話しを勧めた。


「お前、ホントゲームばっかやる生活気を付けろよ。でないとテレビのニュースの一面になっちゃうぞ。」


「ばーか。俺がそんなヘマするかよ。」


トウキが言っているのは、テレビで良く報道されている事件の事だろう。


詳しいことは知らないが、人が突然倒れて入院するという事件が多いらしい。


しかも入院患者の約9割が死亡、正体不明の事件として報道された。


これは最近に起こったことではなく。数年前からニュースになっているのだが、警察などでも未だ全貌を掴めていない。


ただ親族や目撃者の証言でゲームスタートという声を聴いたという情報が共通しており、被害者はゲームで何らかの影響を受けて死亡したのではないかという見解が出された。


なので一時、ネットゲーム事故防止ということでネットゲームが全て遊べなくなった時期があったが、それでも事件は止まることなく続き、ネットゲームと事件との関連性は低いものとされ、規制は軽く残ったもののまたネットゲームで遊べるようになった。


「でも、あれってホントなんなんだろうな。このままだったらまたネットゲームが出来なくなっちゃうんじゃないか?」


「えーそれはやだよ~。」


ははは、と笑い合ったのとほぼ同時にチャイムが鳴り、みんな大急ぎで自分の席に戻っていった。




キリヒコはトウキとソウサクに別れを言って学校を出た。どちらも部活に入っているので一緒にゲームをするのはいつも夜遅くになる。


なのでキリヒコはそれまでの間、さらにゲームを攻略していく、待っていなくてもゲームばかりなのだが……。


家の着くと、ドアの前にダンボールが置かれているのに気がついた。


相手先を見ると『プレイング・モンスター・カードダスMB』と記載されている。


さっそくダンボールを手に取り、自室に直行。両親は仕事でいないので、ただいまもなしだ。


部屋に着くと、制服のブレザーとネクタイだけを取って、椅子の上にどっさりと座った。


一息ついてテーブルに置いたダンボールに向き直る。


ガムテープで締められた口を開くと中には一枚のカードと縦に少し長い長方形型のケースが一つだけ入っていた。


「なにこれ?」


ケースの方はデッキケースだと想像がついたが、カードの方は不明のままだ。


自分ではあの時、画面に映されたカードが入っているかと思っていたのだが、カードは全体的に黒く、裏にはMBの文字。表にもゼロと小文字でしか書いていない。


模様もないので味っけの無いカードだ。


一応、パソコンの電源を点けて『プレモンMB』のトップに入りマイページを開いた。


『パスの確認を行いますので画面にパスを翳して下さい。』


昨日もお世話になった。声のよく通るお姉さんの声が喋り終わると今度はまた、あの変な四角い枠のようなものが現れた。


この画面になるとキーボードは全く反応はない。マウスで適当にクリックしても反応がないので、左下のもどるボタンで前の画面に戻っていた。


ここに来てまた何も出来ないのかと少し諦めてしまいそうになったが、さっきのダンボールに入っていたカードを思い出し、もう一度それを手にとった。


「……パスってこれか?……まさかな……。」


冗談半分でゼロと記載されてる方を画面に翳してみた。


独断反応もなく、やっぱりなと苦笑しながらカードを画面から放すと画面からまたお姉さんの声が聞こえた。しかし、それはパスの確認をしますというものではなく。


『パスを承認しました。ゼロ様。』


「え、え?…。」


『デッキケースをお持ち下さい。ゲームを始めます。』


まさか本当に翳しただけで承認さると思っていなかったので、キリヒコは画面の声をなかば放心状態で聞いていた。


『3、2』


「ちょっ、まっ!」


しかし、突然のカウントに体が反射して無意識の内に手をデッキケースとおぼしき物に伸ばした。


『1』


ケースをガッチリ掴むのと画面のカウントが終了したのは同時だった。


『ゲームスタートです。』


いきなり画面が光だし、それがキリヒコの体を全て包んだ。


あまりの眩しさにキリヒコは目を開けることができず、手を目の前にクロスする体制で光が止むのを待った。




~第二部~




少しの浮遊感がキリヒコを襲ったあと光が止んだ。


「痛た!!」


キリヒコはお尻をさすりながらその場から立ち上がってみる。


「……どこだよここ……。」


ここはさっきまでの部屋ではなく、どこを見渡しても何もない空間にキリヒコはいた。


そして、キリヒコは自分の体の変化に気がついた。


「なんだこの腕。」


それは戦隊ヒーローのような黒いスーツでキリヒコの体に完全にフィットしており、腕、脚、胴体の至る所に軽い金属のパーツが付いている。


「てか、カッコ悪いなこの格好……。」


さらに、左腕には腕周りよりちょっと大きい幅の機械類が装着されており、先端には何らかのカードが挿入されているのが見られた。


おそるおそる顔に手を当ててみると、金属のヘルメットのような感触が伝わってくる。


取ろうとしても剥がすことは出来ず、これもまた装着されていることを知った。


『こんにちは!』


「うわ~っ!!」


正面に向き直した時、突然目の前に女の子が立っており、そのまま驚いてキリヒコは尻餅をついてしまった。


二回目の尻餅だったためダメージは大きかった。


『あはははは。あ、スミマせっ。ちょっ、スミマ、あはははは。』


「そんな笑うんじゃねー!!」


気合いを一新してキリヒコは立ち上がった。目の前で尻餅ついた所を見られて笑われたのだ。恥ずかしさが痛みを凌駕した結果といえるだろう。


『いや、ホント。スンマせっ!いやいや、あはははは、痛たっ!』


ゴチンとその子の頭に拳骨を入れてやると女の子はキリッとした顔でキリヒコの目をまた正面に捉える。


『いえいえ、ホント失礼しまっぷっ!…………改めまして、私はゼロ様の専属ナビ、〈ミイナ〉です。宜しくお願いします。』


握り拳を見せると緩まった頬は引き締まり、笑みをこぼすことなく、〈ミイナ〉と名乗る女の子の簡素な挨拶が終わった。


「ゼロ?ゼロって俺のことか?」


自分の顔、もといフェイスマスクを指差しながらキリヒコはミイナに答えを促した。


『はい!ゼロ様はゼロ様です。それ以外ありません!』


感極まったような彼女の顔にドギマギしながら、キリヒコはふと疑問に思ったことを口にしてみた。


「あれ?そういえばキミってあの時ゲームに映っていた子じゃなかったけ?」


確かに『プレモンMB』を最初にプレイしようとした時、パスがないと出来ませんと言っていたあの子にソックリだ。


だが、この言葉だけだと妄想癖のある危ない子だと思われたかもとキリヒコは喋ったあとに気がつき。


しまった!とキリヒコは思いっきり顔を背けた。


『はい。その通りです。ゼロ様が最初にスタートボタンを押した時点で、私があなたのナビになりました。』


しかし、彼女はキリヒコにひくことなくさも当然のように告げた。


笑われるかひかれると思っていたキリヒコは彼女の言葉に疑問符を浮かべながら向き直った。


「え、でも、会ったのってゲームの中でだぜおかしくない?」


彼女はキョトンとした顔になって、何を言ってるんですかと前置きをいれながら


『当たり前じゃないですか。ここはゲームの中なんですから?』


「はぁ!」


キリヒコは最初、この言葉の意味を脳で処理することが出来なかった。


確かに専門的な装置を用いて行うものならテレビで視たことがある気がするが、高々、数十万のパソコンにそんな機能が付いている筈がない。


「ちょっと待て。ゲームでこんなリアル3Dを体感出来る訳ないだろ。痛みも本物だったし……。からかうなよ。」


少し乱暴気味に答えてしまったが、ある訳ない冗談はキリヒコが最も嫌う話しだ。


『からかってないですよ。これはリアル体感ゲームです!ゼロ様は余り信用して下さらないのですか。』


「当たり前だろ。こんな話、信じて欲しかったら証拠見せろよ。俺のナビなんだろ。」


胸を張って答える彼女に、キリヒコはちょっと意地悪な事だと思いつつも自分の意見を曲げずにぶっきらぼうに言った。


ここまで言えば相手も嫌そうな顔を見せたりするものだが、〈ミイナ〉と名乗る少女の瞳は依然としてりんとしている。


それ程までに負けず嫌いなのか、それとも……。


『……分かりました。』


少女は凜とした目は瞬間に見つめられたコチラが凍ってしまうような冷ややかな目に豹変し、声もまるで機械が話しているかのような感情のないものに変わった。


『では、チュートリアルを行います。』


「……はい?」


余りに突拍子のない言葉に思わず聞き返してしまった。


ミイナは返答はせず、ただ坦々と言葉を紡ぐ。


『ゼロ様の左腕に御座いますデッキの中から一枚引いて下さい。』


少女の熱のこもった声に流石に逆らえず、キリヒコは言われるがままに右手でカードを引いた。


カードの中央には漆黒に彩られた刀の絵が描かれており、左上の方には〈レギナ・チェイン〉の文字、さらに英語表記で〈weapon〉と記載されている。


『次にそのカードをデッキの横にある。スキャナーにスキャンして下さい。』


キリヒコから見て右側に確かに溝のような物が存在していた。カードで遊ぶ筐体にこんな感じの物あったよなと他人事のように考えながら軽い感じでスキャンを終了させる。


しかし、カード全種類制覇するまでその手の筐体を遊び尽くしたキリヒコの洗練された動きは滑らかを通り越して美しいとされる物となっていた。


『weaponカード!!』


機械から野太い男性の声が流れ、それに呼応するようにスキャンしたカードが眩い閃光を放ち、カードは一瞬の内に漆黒の刀へとその姿形を変えた。


玩具だろうとキリヒコはその頭を振ったが、右手に握り締めた刀はどっしりと重く、異様な存在感を放っていた。


『これより戦闘に入ります。準備して下さい。』


『……戦闘?』


カードゲームで戦闘って何だとキリヒコは口を開いたがその声はミイナに届く前に第三者の声によってかき消された。


いや、それは声と言うよりも咆哮に近く、何もない空間の地面?のような所が徐々に盛り上がり、そこからゲームでよく見るような獣人間が姿を現した。


目が虚ろで涎がだだ漏れだ。まるでそう。飢えた獣のような……。


『戦闘開始。』


合図と共に目の前の獣人がゼロ目掛けて襲ってきた。


獣人の爪が一瞬の内に長い得物に変わり、さっきはよく見えなかったが犬歯の尖り具合もなかなかのものだった。


獣人の大振りの横なぎをすんでの所でかわし、獣人の脇から転がっていって距離を取る。


ゼロは震える手で刀を構え、獣人を牽制しながらミイナに話し掛けた。


「なんだよコレはカードゲームだったら何かモンスター召喚してとかだろ!」


ミイナは氷のような目でゼロを捉え。


『このゲームはプレイヤーがモンスターの力を借りて闘うというものです。なお、一定のレベルに達することで召喚カードを手に入れることが出来ます。』


「ああ、そうかよ!」


雄叫びを上げながら獣人が迫ってきた。


それに対し、ゼロは敵に背を向ける形で走る。


「うおおぉぉぉーーー!!」


ーあれ?


ゼロは走りながら自分の変化に気がついた。


そう。走っても疲れないのだ。


正確には全力で走ってはいるが、まだ余裕で走れそうということ。


しかし、全速力で走るものの一向に距離は伸びず、逆にその距離が縮まっていく。


冷や汗のようなものが伝う中、ゼロはミイナの言葉を思い出していた。


「くそ!ミイナ!あいつをどうやって倒せばいいんだよ!」


チュートリアルに戦闘という単語はゲーム好きのゼロには馴染み深いものである。


だからこそ分かる。この場面を攻略する方法、即ち相手を倒す方法を。


チュートリアルということは闘い方をナビが教えてくれるものとゲームでは相場が決まっている。


なので、迷うことなく彼女に解説を求めた。


ゼロの考えは的中のようで彼女は告げる。


『その刀は飾りでは御座いません。それはこのゲームの戦闘用兵器です。』


その言葉を聞いた瞬間、ゼロは動いた。


刀を構え今度は逆に相手を待つ体勢だ。


獣人の攻撃は遅い。一つ一つの動作が遅いため、先程の攻撃も運動の苦手なゼロでもかわすことが出来た。


今回の攻撃も大振り、芸のないもので、デジャヴを感じさせる程の動きだ。


ゼロはまた攻撃をかわした。だが、今回は相手の胴体に刃を添える形で刀を置く。


そして、そのまま野球のバットのように刀を振り切った。


「オラァァァーーーー!!!!」


ブシャッッ!!


最初ゼロはミイナが言ったようにゲームならば斬っても血が出る程度のものだろうと考えていた。


しかし、実際は獣人の上半身は中を舞い、切り口からは赤い液のような物と元々、獣人の身体に収まっていただろうモノが散らばって行く。


手に持った赤黒い刀をその場に棄てて、キリヒコはそのままへたり込む。


「ハァ、ハア……ハァ。」


深く息を吸い込み、ゼロは必死に現状の把握を始めた。


目の前に広がるのは、真っ赤に染まった獣人の上半身と下半身。さらに右手側に見えるこれもまた、獣人の血に染まった刀。


『このように、闘うことでゼロ様のレベルが上がって行きます。レベルが上がるごとにカードを入手することができ、バトル時、さらに優位に闘うことが出来るようになります。』


ゼロが気付かぬ内に近くまで来ていたミイナは、簡潔にただ真実だけを述べた。


「なんなんだよ。これ……ゲームじゃねーだろ。リアル過ぎだろ。」


ゼロのぼやきのような言葉もミイナは拾い、その答えのみをゼロに与えた。


『勿論これは、リアル体感ゲームですから。』


「………!」


先程もミイナは言っていた。これはリアル体感ゲームだと、だが、ゼロはまだ納得は出来なかった。これは悪夢なのだと考える方が頭がいい考え方の筈だ。


ゼロは震えている手を見ながら、呟くように言った。


「ミイナ、このゲームを終了する方法を教えてくれ……。」


『チュートリアルを途中でお辞めになりますか?』


「……あぁ。」


『了解しました。チュートリアルを終了します。また、チュートリアルをなさる場合はマイページよりミイナの方に連絡を下さい。』


電池の切れた人形のようにミイナは首を落とし、しばらくして、ムクっと顔を上げたかとおもうと目をパチパチと瞬きをしてキョトンとした顔をした。


そこからすぐにゼロを視界に捉えた。


『ゼロ様、お疲れ様です?』


そこに先程の冷たいミイナの表情はもうない。


「お前って、二重人格なのか?」


あまりの豹変ぶりにゼロは自分が思うよりも先に口にしてしまっていた。


『いえ、そんなわけでは……。ただ、我々ナビは必要事項を報告する際に、インプットされた情報を流すモードになるんです。なので、実際の所、さっき私が何をしていたのか覚えてないんです。』


だが、こんな赤い染みや獣人の姿を見てもどうじることの無い彼女も常軌を逸しているのではないかとゼロは思った。


ミイナは少し間を開けて次の言葉を話した。


『……ゼロ様、それであの……。ここがゲームの世界ってこと分かっていただけましたか?』


ゼロは唇を噛み、でもやはり信じられないという宗をミイナに話した。


『そうですか。』


見るからにしょんぼりしたミイナに罪悪感を感じたが、確証を持てないいじょう。これ以上の話しは無駄だとゼロは勝手な解釈を入れた。


ゼロはその場から立ち上がりミイナに向き直る。


「それで、どうやってこのゲームを終わらせるんだ?」


『はい。えーと、マイページからですとリンクアウトって言ったら帰れる筈です。』


笑顔で言われたこの言葉は今のゼロにとって胸にチクリと刺す物があった。


「分かった。ありがとな。」


『はい!今日はお疲れ様でした。また、次も宜しくお願いしますね。』


ゼロは敢えて返事を返すことなく、ゲーム終了のコマンドを呟いた一一一


「リンクアウト」


一一一自分はただ夢をみているだけなのだと信じて。


また、風景が光だし、ゼロを包む。


ミイナに聞こえたかは知らないが、ゼロは最後に呟くように言った。


「……ごめん。」


だが、ゼロはまだ知らなかった。


プレモンMBが途中で辞めることの出来ないゲームであると。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

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