表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
欠席魔の公爵令嬢、冤罪断罪も欠席す 〜メイリーン戦記〜  作者: 水戸直樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/16

第2話 初顔合わせは、欠席

 その日、メイリーンは“地味な婚約者”として王宮に足を踏み入れた。


 回廊を進むその姿は、ひどく控えめ。


 紺色のドレスは礼節を欠かぬ仕立てだが、飾り気はほとんどない。

 艶を抑えた髪をまとめ、無難でしかない眼鏡を掛けている。


 公爵令嬢として、失礼ではない。

 だが――華やかさもない。


 若い文官が一瞬だけ視線を留めたが、すぐに興味を失ったように目を逸らした。


「こちらが、顔合わせの控えの間でございます」


 扉が開かれ、メイリーンは静かに中へ入った。


◇◇◇


 同じ頃。


 控えの間の外、高窓の陰から、その様子を見下ろす男がいた。


 王太子ミサラサである。


 窓越しに中を覗き込んだ彼は、ほんの一瞬で眉をひそめた。


「あれが……公爵令嬢?」


 側に控える従者が頷く。


「はい。メイリーン・セレスタリア・ショカルナ様に相違ありません」


 ミサラサは、鼻で笑った。


「……あの程度の女が、婚約者だと?」


 顔立ちや体つきは悪くないが、ただ、それだけ。目立たず、抱く気にもならない娘。


「美しいという噂は、誇張だったか」


 従者が戸惑いながら、言い伝える。

「いえ、以前お見かけしたときは、たしかに、お美しく感じたのですが……その、今日は……どうなさったのか」


「いや、嘘だな。時間の無駄だ」


 ミサラサは、それ以上確かめようともせず、窓から離れた。


「……顔合わせの刻限ですが」


「いくらでも待たせておけ。地味な女だ、せめて忍耐力はあるか、テストしてやる」


 そう言い捨て、踵を返した。


挿絵(By みてみん)


◇◇◇


 定刻。

 そして、形式上の猶予。


 控えの間では、時だけが静かに過ぎていった。


 控えの文官が落ち着かない様子で視線を彷徨わせる。


「……殿下は、別件の対応中とのことです」


 メイリーンは、ただ一度、頷いた。


 やがて、彼女は席を立つ。


「本日の顔合わせは、ここまでといたしましょう」


 侍女が息をのむ。

 文官が慌てて声を上げた。


「え、あの……殿下がお見えになれば……」


「定刻は過ぎています。すでに婚約は成っておりますし、次回は殿下のお住まい、東宮でお会いできましたら」


 感情も、非難も、そこにはなかった。


「承知しました」


 形式的な一礼。

 それだけを残し、メイリーンは控えの間を後にした。


◇◇◇


 その日の夕刻。


 王宮の典礼局から、公式文書が届けられた。


 ――本日予定されていた顔合わせは、公爵令嬢メイリーンの欠席により中止となった。


 侍女が唇を噛みしめる。


「……あちらが来なかったのに……」


 メイリーンは、眼鏡を外し、机の上に静かに置いた。


「今のところは不合格……かしら」


 品格。

 カリスマ性。

 それがないとしても、せめて、誠実かどうか。


「あと一回だけチャンスをあげないとね」


 誰がこの日、不合格だったのかを――

 この時、王太子はまだ知らない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ