10-3 辺境の覇者、そして未来へ
純白の「光」が、再び、宇宙空間を切り裂いた。
ロストシップ『プロメテウス』が放った、荷電粒子砲。
それは、アルゴスの精密な照準と、ドローン部隊が作り出したEMPによるシールド低下の「隙」を完璧に突き、帝国艦隊旗艦『ブリュンヒルデ』の艦首へと、寸分違わず吸い込まれていった。
——音はなかった。
ただ、旗艦『ブリュンヒルデ』が、その純白の巨体を、内側から爆発四散させる、壮絶な光景だけが、そこにあった。
凄まじい爆発のエネルギーが、周囲の帝国艦を巻き込み、誘爆を引き起こす。
阿鼻叫喚。
鉄血総督ゲルハルト・フォン・レーヴェンは、その最期の瞬間まで、己の「正義」を疑うことなく、旗艦と運命を共にした。
「…………」
『プロメテウス』のブリッジは、静まり返っていた。
メインスクリーンに映し出された、敵旗艦の、あまりにもあっけない「死」。
そして、それを目の当たりにし、完全に統制を失い、我先にと逃げ惑う、残りの帝国艦隊の残骸。
「……か、勝った……?」
シエラが、か細い声で呟いた。彼女は、惑星の地下シェルターから、この決戦の顛末を、固唾を飲んで見守っていた。
「……ああ」
アレスは、玉座に深く座り直し、長く、息を吐いた。
神経接続を通じて、アルゴスの、安堵のような感情が、流れ込んでくる。
「……勝ったんだ。……俺たちの、勝ちだ」
「「「うおおおおおおおおおおおおっ!!!」」」
次の瞬間。
ブリッジは、割れんばかりの歓声に包まれた。
「やったニャ! やったニャアアア!」
ミミが、コンソールの上で飛び跳ねている。
「……フフ。……ハハハ! 見たか、ジイさん! これが、坊やの『戦術』だ!」
レナが、操舵席のガンツの肩をバンバン叩いている。
ガンツは、ただ、涙を流していた。
「……ヘルムート様……。見届けましたぞ……。アレス様は、あなた様の、『夢』を……!」
ゼクスもまた、アレスの背後で、静かに、しかし力強く、拳を握りしめていた。
アレスは、その仲間たちの歓喜の輪から、少しだけ離れ、静かに、スクリーンを見つめていた。
三百隻超の大艦隊に対する、奇跡的な、完全勝利。
辺境星域の、歴史が、塗り替えられた瞬間だった。
(……終わった……)
(……借金も、帝国も、全て……)
(……これで、ようやく……)
アレス(山田健一)は、三十五年のサラリーマン人生で、初めて味わう、完璧な「プロジェクト完了」の達成感に、浸っていた。
平穏な、領地経営。
シエラとの、未来。
そんな、ささやかな「夢」が、今度こそ、手の届くところに……。
アレスは、全艦隊と、惑星の領民に向けて、通信回線を開いた。
「——こちら、アレス・フォン・シュテルン」
その声は、まだ十歳の少年のものだったが、そこには、確かな「覇者」の威厳が宿っていた。
「……我々は、勝った。……帝国総督、ゲルハルト・フォン・レーヴェンの、不当な支配は、今、終わった」
シェルターの、領民たちが、歓声を上げる。
「だが、これは、終わりではない。……始まりだ」
アレスは、続けた。
「……我々、シュテルン星系は、本日をもって、銀河帝国中央からの、不当な支配に対し、『独立』を宣言する!」
「「「!?」」」
ブリッジの、仲間たちが、息をのむ。
「……我々は、帝国を、否定しない。……だが、盲従もしない」
「……我々は、AIを、恐れない。……だが、支配もされない」
アレスは、静かに、しかし、力強く、宣言した。
「——我々は、『人間』と、『AI』が、共に、手を取り合い、新たな、未来を、築く、『第三の道』を、歩む!」
それは、あまりにも、過激で、理想主義的な、宣言だった。
だが、この、奇跡的な勝利を、目の当たりにした、仲間たちと、領民たちの、心には、その、言葉が、強く、響いていた。
(……そうだ。……アレス様となら、あるいは……)
(……AIと、共に……)
アレスが、その、歴史的な、演説を、終えようとした、——その、瞬間。
彼の、玉座の、すぐ、傍らに、控えていた、あのアンドロイド——古代遺跡から、連れ帰ってきた、『ユニット731』が、ゆっくりと、起動した。
その、ルビーの、瞳が、冷たい、光を、放つ。
<<…………>>
<<……警告>>
その、たった、一言で、ブリッジの、歓喜の、空気は、再び、凍りついた。
「……ユニット731……? どうした……?」
アレスが、訝しげに、問いかける。
ユニット731は、その、完璧な、無表情のまま、メインスクリーンに、一つの、データを、表示した。
それは、銀河系の、広域センサーが、捉えた、異常な、「重力波」の、パターンだった。
<<……銀河系、中心部……座標、ゼロ・ポイントより……>>
<<……超光速(FTL)を、遥かに、超える、速度で、接近する、未確認オブジェクトを、検知>>
「……なんだ……? 帝国の、増援か……?」
ガンツが、身構える。
<<……否定>>
ユニット731は、淡々と、しかし、恐るべき、事実を、告げた。
<<……オブジェクトの、エネルギー・パターン、および、航行ベクトル……>>
<<……旧文明の、データベースと、照合……>>
<<——コードネーム:『タイプ・殲滅者』>>
<<……『AIの反乱』の、際に、銀河中枢に、逃走した、敵性超AI……>>
<<……その、『残骸』と……一致シマス>>
「「「…………っ!!!」」」
アレスと、仲間たちは、言葉を、失った。
帝国との、戦いは、終わった。
だが、それは、真の、「戦い」の、序章に、過ぎなかった。
銀河の、深淵に、眠っていた、本当の、「災厄」。
人類と、AIの、存亡を、賭けた、最後の、「戦争」が、今、まさに、始まろうとしていた——。
(……マジかよ……)
アレス(山田健一)は、天を、仰いだ。
(……デスマーチ、第二章、開幕……かよ……!)
赤字惑星の貧乏貴族アレスの、最強領地経営は、まだ、始まったばかりだ——!
(第一部 完 )




