10-2 AI艦隊と神童の戦術
帝国総督ゲルハルト・フォン・レーヴェン率いる、三百隻超の大艦隊が、シュテルン星系に設定された最終防衛ライン——かつて、アレスが海賊ブラッド・ハウンド隊を誘い込んだ、『重力の浅瀬』の宙域——に到達した。
旗艦『ブリュンヒルデ』のブリッジ。
レーヴェンは、メインスクリーンに映し出された、あまりにも矮小な「敵」の姿を見て、その灰色の瞳に、侮蔑の色を浮かべた。
「……フン。たった、三隻か。……あの黒いのが、報告にあった『ロストシップ』とやらであろうが……。所詮は、旧文明の、ガラクタよ」
彼は、副官に命じた。
「全艦、前進。……帝国軍の、鉄槌の、威力を、あの、愚かな、反逆者どもに、思い知らせてやれ」
「御意!」
帝国大艦隊が、まるで黒い津波のように、アレス艦隊へと殺到する。
その威容は、絶望的だった。
経験の浅い兵士なら、見ただけで戦意を喪失するであろう、圧倒的な物量。
『プロメテウス』のブリッジ。
アレスは、その絶望的な光景を、しかし、冷静に分析していた。
(……来たな。……三百隻、全て、お出ましか)
(……そして、予想通り、何の工夫もない、『横陣』フォーメーション。……馬鹿の一つ覚えだな、帝国軍は)
<<マスター>>
思考に、アルゴスの声が響く。
<<敵艦隊、全艦の、スキャン、完了。……個艦識別(ID)、武装、シールド強度、エネルギー・パターン……全て、データベースと、照合>>
<<……予測される、敵の、第一波攻撃パターンを、三百通り、シミュレート完了。……回避パターン、および、最適反撃パターンを、算出しました>>
「……さすがだな、アルゴス」
アレスは、笑った。
(……これが、AIとの、『共闘』……!)
(前世の、クソAIとは、次元が違う!)
アレスは、神経接続された意識の中で、アルゴスが算出した「最適解」を、さらに、己の「軍事オタク知識」で、ブラッシュアップしていく。
(……アルゴスの、予測は、完璧だ。……だが、AIには、『感情』がない)
(……敵指揮官の、『プライド』、『焦り』、『恐怖』……。それらを、計算に入れれば、さらに、精度は上がる)
(……例えば、あの、突出している、巡洋艦部隊。……あれは、レーヴェンの、直属の、親衛隊だろう)
(……ヤツは、プライドが高い。……必ず、自分の、手で、俺(反逆者)の、首を、獲りに来る)
(……そこが、『隙』だ)
アレスは、決断した。
「——アルゴス。……プラン『デルタ』で、行く」
<<……了解。……プラン『デルタ』……。……敵の、心理的、動揺を、最大化させる、高リスク・高リターン戦術……。……承認します>>
アレスは、全艦隊に、命令を発した。
その、第一声は、三百隻の、帝国軍、全ての、度肝を、抜くものだった。
「——全艦、後退!」
「……は!?」
『ブリュンヒルデ』のブリッジで、レーヴェンが、眉を、ひそめた。
「……なんだと? ……戦わずして、逃げる、だと?」
スクリーンの中。
アレスの、三隻の、艦隊は、敵に、背を、向け、全速力で、『重力の浅瀬』の、さらに、奥……かつて、海賊を、誘い込んだ、あの、危険な、宙域へと、逃げ込んでいく。
「……フン。臆したか、小僧め」
レーヴェンは、嘲笑した。
「……だが、逃がさん。……全艦、追撃! ……あの、忌まわしき、『巣』ごと、焼き払ってやれ!」
帝国大艦隊が、雪崩を打って、『重力の浅瀬』へと、突入する。
先頭に、立つのは、やはり、レーヴェンの、直属の、巡洋艦部隊。
彼らは、手柄を、焦るかのように、他の、艦隊を、置き去りにして、加速していく。
『プロメテウス』のブリッジ。
「……アレス様! 敵、完全に、釣れましたぞ!」
ガンツが、興奮した、声で、叫ぶ。
「……ああ。……だが、まだだ」
アレスは、冷静だった。
「……ミミ!」
「ニャイ!」
「……『浅瀬』の、一番、深い、ポイントまで、あと、どれくらいだ!」
「……ええっと……。ヘスティア(ねえさん)の、計算だと……あと、30秒ニャ!」
「……よし。……全艦! ここで、反転!」
「——『ベルカ式(※)』の、お出迎えだ!」
(※前世の、架空戦記ゲームで、アレス(山田)が、得意とした、奇襲戦術)
アレスの、号令一下。
逃走していた、三隻の、艦隊が、まるで、示し合わせたかのように、一斉に、180度、反転した!
そして、同時に、『プロメテウス』の、艦体、上下左右、全ての、ハッチが、開いた!
そこから、発進したのは、レナの、『クリムゾン・ウィング』隊(六機)だけではなかった。
「——な……!?」
追撃の、先頭を、走っていた、帝国軍の、巡洋艦の、艦長が、絶叫した。
「……て、敵艦載機!? ……数が、多すぎる! ……百……いや、二百機以上だ!」
そう。
アレスは、この、日の、ために、鹵獲した、海賊船や、バルツァー子爵から、奪い取った、全ての、艦船を、ミミと、ヘスティアに、命じて、「無人戦闘機」へと、魔改造させていたのだ。
それらは、AIによって、完全に、制御され、人間の、パイロットには、不可能な、精密な、連携機動を、行う、「死を、恐れぬ、蜂の、群れ」だった。
「——レナ! 遊んでこい!」
「——お待たせだ、坊や!」
レナの、真紅の、専用機が、先頭に立ち、二百機の、ドローン戦闘機が、それに、続く!
目標は、ただ、一点!
『重力の浅瀬』に、突入し、機動力が、低下した、帝国軍の、先頭集団——レーヴェンの、親衛隊!
「——『グリフィン』『スフィンクス』! ミサイルの、雨を、降らせろ!」
「「御意!」」
二隻の、魔改造フリゲートが、その、搭載量の、限界まで、詰め込まれた、ミサイルを、一斉に、発射!
それらは、アルゴスによって、最適化された、軌道を描き、ドローン戦闘機が、こじ開けた、敵艦の、シールドの、隙間へと、吸い込まれていく!
『ぎゃああああ!』
『シールド、消失! エンジン、大破!』
『だ、ダメだ! 『浅瀬』から、抜け出せない!』
帝国軍の、先頭集団は、一瞬にして、地獄へと、叩き落とされた。
アルゴスが、作り出した、「罠」。
レナと、ドローンが、作り出した、「混乱」。
そして、二隻の、フリゲートが、叩き込んだ、「死」。
完璧な、コンビネーションだった。
「……み、見事……」
ガンツが、その、あまりにも、鮮やかな、奇襲戦術に、言葉を、失う。
「……だが、まだ、終わらん!」
アレスは、叫んだ。
「——アルゴス! ドローン部隊、全機! フォーメーション『デルタ・ストライク』!」
「——目標! 敵本隊、中央! あの、デカブツ(ブリュンヒルデ)だ!」
アルゴスに、制御された、二百機の、ドローン戦闘機は、親衛隊の、残骸を、乗り越え、その後方に、控える、帝国軍本隊の、ど真ん中へと、突撃を開始した!
自殺行為にしか、見えない、無謀な、突撃。
「——フン。虫けらが」
旗艦『ブリュンヒルデ』の、ブリッジ。
レーヴェンは、己の、親衛隊が、壊滅したことに、眉一つ、動かさず、冷たく、言い放った。
「……対空砲火、最大。……あの、ゴミどもを、一掃しろ」
凄まじい、弾幕が、ドローン戦闘機隊に、襲いかかる。
次々と、火球となって、砕け散っていく、無人の、翼。
だが、彼らは、怯まない。
アルゴスの、完璧な、制御の下、彼らは、ただ、一点……旗艦『ブリュンヒルデ』の、正面へと、突き進んでいく。
そして、旗艦の、シールドに、激突する、寸前。
二百機の、ドローンは、一斉に、「自爆」した。
——閃光。
衝撃波。
旗艦『ブリュンヒルデ』の、強固な、シールドが、大きく、歪み、悲鳴を、上げる。
「……な……!?」
レーヴェンが、初めて、わずかに、目を見開いた。
「……シールド、出力、70%まで、低下!」
「……ば、馬鹿な! あの、程度の、自爆攻撃で……!?」
「……違う」
アレスは、『プロメテウス』の、ブリッジで、冷たく、笑っていた。
「……あれは、ただの、自爆じゃない」
「——『EMP(電磁パルス)爆弾』だ」
ミミが、ありったけの、電子部品を、詰め込んで、作り上げた、「嫌がらせ」兵器。
物理的な、ダメージは、少ない。
だが、敵艦の、電子システムと、シールド発生器に、致命的な、「ノイズ」を、与える。
「——アルゴス」
アレスは、命じた。
「……『本命』の、時間だ」
<<……了解、マスター>>
<<……ロストシップ『プロメテウス』……>>
<<——主砲、『荷電粒子砲』……>>
<<——エネルギー、充填……100パーセント!>>
『プロメテウス』の、艦首が、再び、あの、「神の槍」を、放つべく、開いていく。
その、圧倒的な、エネルギーの、奔流を、目の当たりにし、帝国艦隊は、パニックに、陥った。
『……ひ……! 来るぞ! あの、光が!』
『だ、ダメだ! シールドが、まだ、回復しない!』
『回避! 回避しろ!』
「——目標! 敵旗艦『ブリュンヒルデ』!」
アレスは、叫んだ。
「——チェックメイトだ、レーヴェン!」
「——撃て(ファイア)!!」




