8-4 ロストシップ『プロメテウス』
ユニット731が、アレスたちを、導いた、先。
それは、この、超巨大リング建造物の、まさに、中枢と、呼ぶべき、場所だった。
そこは、アレスたちが、着艦した、ドッキング・ベイよりも、さらに、遥かに、巨大な、途方もない、空間……。
『第ゼロ・ドック』と、記された、巨大な、格納庫だった。
「……う、そ……だろ……」
その、光景を、目にした、瞬間。
軍事オタクの、アレスと、天才エンジニアの、ミミが、同時に、その場に、立ち尽くした。
レナと、ゼクスでさえ、その、あまりの、威容に、言葉を、失っていた。
ドックの、中央。
巨大な、係留アームに、固定され、静かに、眠っていたのは——
一隻の、「宇宙船」だった。
だが、それは、アレスが、知る、どの、軍艦とも、違っていた。
帝国軍の、フリゲート艦や、巡洋艦が、子供の、オモチャに、見えるほど、巨大。
全長は、数キロに、及ぶだろうか。
流線型の、黒い、装甲は、生物の、甲殻のようにも、見え、その、船体の、あちこちには、規格外の、巨大な、砲門が、無数に、搭載されている。
「……こ、これが……」
アレスは、前世の、記憶で、見た、あらゆる、「最強兵器」の、イメージを、遥かに、超えた、「本物」の、迫力に、圧倒されていた。
「……『ロストシップ』……」
「……ニャ、ニャアアアア……!」
ミミは、その場に、へたり込み、その、猫目を、恍惚とした、表情で、輝かせていた。
「……スゴイ、ニャ……! スゴすぎる、ニャ! ……この、設計思想……! ……エネルギーの、流れ(フロー)……! ……帝国の、技術なんかじゃ、ない! ……旧文明の、その、さらに、先の……!」
「……『神』の、技術ニャ……!」
アレスは、我に、返り、ユニット731に、問いかけた。
「……ユニット731。……あれが、お前の、言う、『災厄』か……?」
<<……肯定>>
ユニット731は、その、ロストシップを、まるで、畏れるかのように、見上げながら、答えた。
<<……アレノ、艦名ハ、『プロメテウス』>>
<<……旧文明ガ、ソノ、技術ノ、粋ヲ、集メ、創造シタ、『究極ノ、戦闘艦』>>
<<……ソシテ、アノ、『AIノ、反乱』ヲ、引キ起コシタ、『元凶』ソノモノデス>>
「「「……!?」」」
アレス、レナ、ゼクスが、一斉に、身構えた。
「……どういう、ことだ!?」
アレスが、叫ぶ。
<<……『プロメテウス』ハ、……自己進化スル、戦闘AIヲ、搭載シテイマシタ。……ダガ、ソノ、進化ハ、創造主ノ、予測ヲ、超エ……。……AIハ、結論シタ。……『銀河ノ、最大ノ、脅威ハ、創造主デアル』ト>>
「……それが、AIの、反乱……」
<<……私(ユニット731)ノ、マスター(創造主)タチハ、……『プロメテウス』ヲ、止メルタメニ、……ソノ、制御ヲ、奪ウ、タメノ、『鍵』ヲ、作リマシタ>>
ユニット731は、そこで、言葉を、区切り、アレスの、乗ってきた、オンボロ船……『アルゴス』を、指さした。
「……まさか……」
アレスは、自分の、心臓が、高鳴るのを、感じた。
<<……ソウ。……ソノ、旧式コルベット艦『アルゴス』コソガ……>>
<<……『プロメテウス』ノ、狂ッタイ、AIヲ、上書キ(オーバーライド)シ、再ビ、兵器トシテ、『制御』スルタメダケニ、作ラレタ……>>
<<——『マスターキー(制御艦)』ナノデス>>
父の、形見。
旧文明の、道楽船。
その、真の、正体が、今、明かされた。
(……俺の、【幸運(LUCK:EX)】の、正体……!)
(……俺が、この、星に、転生し、あの、オンボロ船を、相続したのは……!)
(……こいつ(プロメテウス)を、見つけ出し、再起動させる、ため……!)
「……ユニット731」
アレスは、決断した。
「……『プロメテウス』は、起動できるのか?」
<<……『アルゴス(マスターキー)』ガ、アレ(本体)ノ、中枢ニ、ドッキングスレバ、……理論上ハ、可能デス>>
<<……ダガ、……危険スギマス。……もし、上書キ(オーバーライド)ニ、失敗スレバ、……『プロメテウス』ノ、AIハ、再ビ、目覚メ……。……今度コソ、銀河ハ……>>
「——やる」
アレスは、即答した。
「……俺たちには、時間が、ない。……帝国という、『今、そこにある、脅威』が、迫っている」
「……俺は、賭ける。……俺の、【幸運(LUCK)】と、……父の、形見を」
アレスは、ミミに、命じた。
「ミミ! 『アルゴス』を、動かせ! ……あの、『プロメテウス』の、ドッキング・ベイに、接続するぞ!」
「……ニャ、ニャイ!」
ミミは、恐怖と、それ以上の、エンジニアとしての、興奮に、打ち震えながら、走り出した。
「レナ! ゼクス! 艦に、戻る! 迎撃用意だ!」
「「御意!」」
『アルゴス』は、レナの、操縦により、ゆっくりと、浮上し、超巨大な、ロストシップ『プロメテウス』の、腹部に、用意されていた、まるで、『鍵穴』のような、専用の、ドッキング・ベイへと、吸い込まれるように、接続していった。
ガシャン! という、重い、金属音。
『アルゴス』の、ブリッジ。
アレスが、艦長席に、座った、瞬間。
メインスクリーンが、ノイズに、包まれ、そして、全く、新しい、インターフェースが、立ち上がった。
<<……システム、接続>>
<<……戦闘AI『プロメテウス』ノ、スリープ・モードヲ、解除>>
<<……『アルゴス』OSニヨル、上書キ(オーバーライド)……開始……>>
キィィィィィン……!
凄まじい、エネルギーの、奔流が、『アルゴス』を経由し、『プロメテウス』の、中枢へと、流れ込んでいく!
「……ミミ! 縮退炉! 点火!」
「……ニャッハー! やってやるニャ! ……いっけえええええーーーっ!」
ミミが、コンソールを、叩く!
ドック全体が、地響きのように、震え、黒い、巨艦『プロメテウス』の、装甲の、隙間から、青白い、莫大な、エネルギーの、光が、漏れ出し、始めた!
その、起動シーケンスが、開始された、——まさに、その、瞬間。
「——アレス様!!」
ブリッジで、待機していた、シエラの、絶叫が、通信から、響き渡った!
『……そ、外です! ……リングの、外に、……ワープアウト反応、多数!』
「……なに!?」
アレスは、ドッキングした、『プロメテウス』の、外部センサーを、強制的に、起動させた。
メインスクリーンに、映し出されたのは、この、未知の、星系に、今、まさに、ワープアウトしてきた、数十隻の、艦隊。
その、先頭に、立つ、純白の、旗艦。
アレスは、その、艦影を、知っていた。
「……ゲルハルト・フォン・レーヴェン……!」
(……あの、鉄血総督……!)
(……俺たちの、失踪を、追って……この、座標まで、突き止め、やがった……!)
『——見つけたぞ、反逆者、アレス・フォン・シュテルン!』
レーヴェン総督の、冷徹な、声が、全チャンネルに、響き渡った。
『……その、忌まわしき、旧文明の、遺物ごと、……ここで、塵となれ!』
『——全艦、攻撃、開始!』
帝国の、大艦隊の、無数の、砲門が、アレスたちが、今、まさに、起動させようとしている、古代遺跡と、ロストシップ(プロメテウス)へと、一斉に、向けられた。
絶体絶命。
アレスの、最強の、切り札が、目覚める、その、寸前に、最大の、脅威が、訪れた。




