8-3 古代の管理人(ユニット731)
超巨大リング建造物は、沈黙したまま、アレスたちの『アルゴス』を、迎え入れた。
それは、ドッキングと、呼ぶには、あまりにも、巨大すぎる、構造だった。
リングの、一角。
ヘスティアとは、異なる、未知のAIの、誘導信号に、導かれるまま、『アルゴス』は、まるで、巨大な鯨の、口に、飲み込まれる、小魚のように、リング内部の、巨大な、ドッキング・ベイへと、静かに、着艦した。
プシュー、と、空気が、満たされる、音。
重力が、安定する。
「……信じられん……」
ガンツが、ブリッジの、タラップを、降りながら、呆然と、呟いた。
「……空気が、ある。……何万年も、放棄されていた、遺跡のはず……。完璧な、生命維持システムが、今も、生きている、と、いうのか……」
アレスは、艦長席から、立ち上がった。
「……調査隊を、編成する」
アレスは、即断した。
「……俺が、行く。……ヘスティアが、いない、今、この、艦の、『管理者権限』を持つ、俺が、行かねば、埒が、明かない」
「アレス様!?」
シエラが、悲鳴を、上げた。
「いけません! あまりにも、危険です! 未知の、AIが、何を、仕掛けてくるか……!」
「——その、通りだ」
アレスの、背後、影から、滑り出るように、現れた、ゼクスが、その、金色の、獣の、瞳を、鋭く、光らせた。
「……主君を、一人では、行かせられません。……この、ゼクスの、牙が、先導いたします」
「……フフ。面白そうだね」
レナも、戦闘機の、パイロットスーツの、ヘルメットを、小脇に、抱え、ニヤリと、笑った。
「……アタシも、行くよ。……AIが、どんな、化け物だろうと、この、ブラスターで、風穴、開けてやる」
「——ニャ! なら、あたしも、行くニャ!」
『アルゴス』の、機関室から、ミミが、油まみれの、顔を、覗かせた。
「……こんな、スゴイ、『旧文明』の、塊を、前にして、あたし(エンジニア)が、黙って、見てられる、わけ、ないニャ!」
アレスは、その、頼もしすぎる、仲間たちを、見渡した。
アレス(指揮官)。
ゼクス(護衛・白兵戦S+)。
レナ(遊撃・エースパイロット)。
ミミ(技術・天才エンジニア)。
「……分かった」
アレスは、頷いた。
「……ガンツ、シエラ。……二人は、『アルゴス』と、残りの、『クリムゾン・ウィング』隊の、守りを、固めてくれ。……万が、一、俺たちが、戻らなかったら……」
「……縁起でもないことを!」
ガンツが、アレスの、言葉を、遮った。
「……必ずや、ご無事で、お戻りください。……この、老いぼれに、吉報を、お待ちさせて、ください」
「……アレス様……」
シエラが、不安げに、アレスの、服の、袖を、掴む。
アレスは、その、小さな、手を、力強く、握った。
「……大丈夫だ。……俺の、【幸運(LUCK)】を、信じろ」
アレスたち、四人の、調査隊は、『アルゴス』の、ハッチを、開き、未知の、遺跡へと、第一歩を、踏み出した。
内部は、想像を、絶する、広大さだった。
まるで、一つの、都市が、そのまま、リングの、中に、建造されているかの、ようだった。
だが、人影は、ない。
ただ、清潔すぎる、金属の、通路が、どこまでも、続き、淡い、照明が、四人を、照らしているだけだった。
「……気味が、悪いニャ……」
ミミが、その、猫耳を、不安げに、ピクピクと、動かす。
「……ゼクス」
「はっ。……匂いは、ありません。……生物の、匂いも、腐敗の、匂いも。……ただ、乾いた、機械の、匂いだけが、します」
「……AIの、野郎。……どこへ、案内する、気だ……」
レナが、ブラスターの、安全装置を、外しながら、呟く。
四人は、あの、AIの、声が、発信された、ビーコンの、座標だけを、頼りに、無人の、都市を、進んでいった。
やがて、一行は、ひときわ、巨大な、ドーム状の、建造物の、前に、たどり着いた。
『……来訪者ヨ。……入ラレヨ……』
AIの、声が、響き、重い、扉が、自動的に、開く。
その、中は、ヘスティアが、眠っていた、『神殿』を、さらに、巨大にしたような、超高度な、管理センターだった。
そして、その、中央。
巨大な、制御コンソールの、玉座のような、シートに、一人の、「女性」が、座っていた。
いや、それは、女性の、姿を、した、「アンドロイド」だった。
ヘスティアの、ような、完璧な、「美」では、ない。
もっと、無機質で、冷徹な、しかし、機能美に、溢れた、黒い、戦闘服のような、装甲に、身を、包んだ、銀色の、短い、髪の、アンドロイド。
彼女は、玉座に、座ったまま、休眠している、ようだった。
「……ヘスティアの、『ボディ』とは、違う……」
アレスが、呟く。
「……ニャア……!」
ミミが、その、アンドロイドの、姿に、釘付けに、なっていた。
「……スゴイ、ニャ……! この、設計……。ヘスティア(ねえさん)が、『内政用』なら、こいつは、完璧な、『戦闘用』だニャ……!」
ミミは、その、技術的な、好奇心を、抑えきれず、ふらふらと、休眠する、アンドロイドに、近づいていった。
「おい、ネコ! 触るな!」
レナが、制止するのも、聞かず。
ミミは、その、アンドロイドが、座る、玉座の、コンソールに、自分の、携帯端末を、恐る恐る、接続した。
「……ニャ、ニャア……。……システム、生きてるニャ……。……再起動、かけてみるニャ……!」
「——馬鹿! やめろ!」
アレスが、叫んだ、——その、瞬間。
——キィィィィィン!
凄まじい、起動音と、共に、玉座の、アンドロイドが、その、瞳を、カッと、見開いた。
その、瞳は、ヘスティアの、青とは、違う、冷たい、ルビーのような、赤い、光を、宿していた。
「——!?」
アンドロイドは、玉座から、立ち上がった。
その、動きは、レナや、ゼクスが、反応できないほどの、神速だった。
アンドロイドは、一瞬で、ミミの、喉元に、その、白く、細い、指を、突きつけていた。
「……ニャ……!?」
ミミが、カヒュッ、と、息を、のむ。
「——動くな!」
レナが、ブラスターを、向ける!
「——主君から、離れろ!」
ゼクスが、振動ブレードを、抜き、アンドロイドの、背後に、回り込もうと、する!
だが、アンドロイドは、その、二人の、殺気を、完全に、無視した。
その、ルビーの、瞳は、ただ、一点。
ミミの、背後……アレスの、姿だけを、捉えていた。
<<……侵入者……。いや……>>
アンドロイドの、唇から、ヘスティアとは、異なる、冷たい、しかし、滑らかな、女性の、声が、響いた。
<<……生体認証……。……適合>>
<<……『アルゴス』の、制御権限を、確認>>
アンドロイドは、ミミの、喉元から、指を、ゆっくりと、離した。
そして、アレスの、前に、進み出ると、まるで、騎士が、王に、仕えるかのように、深く、片膝を、ついた。
<<……お待チシテイマシタ。……『マスターキー』ノ、運ビ手ヨ>>
「……お前は……?」
アレスは、かろうじて、声を、絞り出した。
<<……私ノ、個体識別名ハ、『ユニット731』>>
<<……コノ、古代遺跡……『ヘパイストス』ノ、管理人デアリ……>>
彼女は、ゆっくりと、顔を、上げた。
<<——ソシテ、アノ、『災厄』ノ、起動ヲ、待ツ、者>>
「……災厄……?」
「——案内、シマス」
ユニット731は、立ち上がると、アレスたちに、背を、向け、ドームの、さらに、奥へと、続く、扉へと、歩き出した。
「……アレス様……?」
ゼクスが、アレスの、意向を、伺う。
「……行くしかない」
アレスは、頷いた。
(……この、アンドロイドも、『アルゴス』の、『鍵』に、反応している……)
(……全ての、謎は、この、先に、ある)
四人は、ユニット731の、後に、続いた。




