6-4 決闘と軍事オタクのT字戦法
帝国法に則った、貴族間の「決闘」は、厳格なルールの下で行われる。
場所は、両領地の中間に位置する、中立の、暗礁宙域。
帝国の、監視衛星が、見守る中、両者の、全ての、艦隊が、一堂に、会した。
バルツァー子爵艦隊。
フリゲート艦、八隻。駆逐艦、四隻。
合計、十二隻。
彼らは、帝国軍の、教本通り、分厚い、「横陣」(艦を、横一列に、並べた、壁のような、陣形)を、敷き、その、圧倒的な、火力を、誇示していた。
対する、アレス・フォン・シュテルン男爵艦隊。
旗艦『アルゴス』。
魔改造フリゲート艦、『グリフィン』。
魔改造フリゲート艦、『スフィンクス』。
そして、レナが、率いる、新型戦闘機『クリムゾン・ウィング』隊、六機。
合計、たったの、三隻と、六機。
戦力は、四分の一。
誰の、目にも、勝敗は、明らかに見えた。
『——フハハハハ! 小僧め! 今から、降伏しても、いいのだぞ!』
バルツァーの、下品な、嘲笑が、全チャンネルに、響き渡る。
『アルゴス』の、艦橋。
アレスは、その、挑発を、完全に、無視した。
「……ヘスティア。監視衛星の、データ、取れてるな?」
<<……はい。決闘開始の、公式カウントダウン、開始まで、残り、60秒>>
「……ゼクス」
「はっ!」
アレスの、背後に、控える、狼の、剣士が、短く、答える。
「……ブリッジの、防衛は、任せた。……万が、一、被弾して、敵の、突入を、許しても、俺と、シエラを、守り切れ」
「——御意。この、命に、代えましても」
ゼクスが、音もなく、振動ブレードを、抜いた。
「……ガンツ」
「はっ。いつでも、行けますぞ」
操舵席で、老将が、武者震いを、抑えきれない、といった、様子で、答える。
「……シエラ」
「……は、はい!」
隣で、通信席に、着いた、シエラが、緊張に、顔を、こわばらせている。
「……怖いか?」
「……こ、怖くない、と、言えば、嘘に、なります。……ですが」
シエラは、アレスの、横顔を、見つめた。
「……あなた様が、隣に、います。……不思議と、負ける、気が、しませんわ」
「……そうか」
アレスは、フッと、笑った。
「……レナ。ミミ」
『——準備万端だ、坊や!』
『——ニャッハー! あたしが、組んだ、『魔改造エンジン』の、限界を、見せてやるニャ!』
『グリフィン』と『スフィンクス』の、艦橋から、頼もしい、声が、返ってきた。
「……よし」
アレスは、艦長席に、深く、座り直した。
<<……決闘開始まで、10、9、8……>>
アレスは、前世の、軍事オタクとして、脳内に、完璧な、シミュレーションを、描いていた。
(……敵の、陣形は、「横陣」。……火力を、前面に、集中させる、古典的な、陣形だ)
(……だが、弱点も、明白。……機動力が、ゼロ。……そして、側面と、後方が、完全に、無防備)
(……対する、俺の、艦隊は、「単縦陣」。……三隻が、縦に、一列に、並んでいる)
(……バルツァーは、俺たちが、このまま、真正面から、突っ込んで、各個撃破されると、思っている)
(……だが、見せてやるよ。……百年前に、地球で、完成された、「海戦の、必勝法」を)
<<……3、2、1、——決闘、開始!>>
『——全艦、砲撃、開始ーーっ! あの、ガキどもを、宇宙の、塵に、しろぉ!』
バルツァーの、下品な、号令と、同時。
十二隻の、敵艦から、凄まじい、数の、ビームが、雨のように、『アルゴス』に、殺到した。
「——ガンツ! 面舵一杯! 敵の、陣形に、対し、直角に、進路を、取れ!」
「御意!」
『アルゴス』が、急旋回!
敵の、弾幕を、紙一重で、回避しながら、敵の、「横陣」の、「真正面」ではなく、「端」に、向かって、突進する!
『——な、なんだ!? 奴、何を、する、気だ!?』
バルツァーが、困惑する。
彼の、艦隊は、「横」に、広がりすぎているため、端に、向かってくる、アレス艦隊に、全ての、砲門を、一度に、向けることが、できない!
「——今だ! 砲撃、開始!」
アレスが、叫ぶ。
『アルゴス』、『グリフィン』、『スフィンクス』。
縦一列に、並んだ、アレス艦隊が、敵艦隊の、「端」の、一隻に、対し、全ての、主砲と、ミサイルを、集中させた!
「——『T字戦法』、成立だ!」
アレス艦隊は、「T」の、「縦の、棒」。
敵艦隊は、「T」の、「横の、棒」。
アレス艦隊は、全ての、火力を、敵に、叩き込める。
対して、敵艦隊は、その、一部の、艦しか、反撃できない。
「——レナ! 敵の、後方に、回り込め! 舵の、イカれた、奴から、潰せ!」
『——お待たせだ、坊や!』
ミミの、魔改造エンジンで、敵の、センサーの、死角を、突いた、レナの、戦闘機隊が、混乱に、陥った、敵の、後方から、襲いかかった!
『ぎゃあああ! 後ろだ! 後ろから、戦闘機が!』
『だ、ダメだ! 舵が、効かねえ!』
『陣形を、立て直せ! 回れ! 回れ!』
バルツァーの、艦隊は、完全に、崩壊した。
あまりにも、旧式で、硬直した、「横陣」は、アレスの、高機動と、高火力の、「T字戦法」の、前に、ただ、蹂躙されるだけの、「的」と、なっていた。
『アルゴス』の、重力子砲が、火を、吹く。
『グリフィン』と『スフィンクス』の、ミサイルが、嵐のように、敵艦の、シールドを、剥ぎ取っていく。
わずか、十分後。
バルツァーの、十二隻の、艦隊は、その、大半が、戦闘不能となり、残りも、白旗を、揚げて、降伏していた。
『……ば、馬鹿な……』
バルツァーは、大破した、自分の、旗艦の、艦橋で、ただ、呆然としていた。
『……わ、私の、艦隊が……。たった、三隻の、ガキに……』
「——決闘、終了だ。バルツァー子爵」
アレスの、冷静な、声が、響き渡った。
「……帝国法に、則り、貴様の、敗北を、認めるな?」
『……み、認める……。……私の、負けだ……』
バルツァーは、崩れ落ちた。
『アルゴス』の、艦橋は、歓喜に、包まれていた。
「「「うおおおおおーーーっ!!」」」
「や、やりましたぞ、アレス様!」
ガンツが、涙ながらに、叫ぶ。
「……アレス様……! す、すごいです……!」
シエラも、興奮に、頬を、赤く、染めていた。
アレスは、静かに、頷いた。
(……勝った)
(……前世の、オタク知識が、また、俺を、救ってくれた)
この、勝利により、アレス・フォン・シュテルンは、バルツァー子爵から、あの、資源豊富な、『エルドラド』星系に、隣接する、宙域の、統治権を、合法的に、獲得した。
さらに、バルツァーが、支払った、莫大な、賠償金により、シュテルン男爵家の、八十五億クレジットの、負債は、この日、ついに、完全に、完済された。
赤字惑星の、貧乏貴族は、今や、銀河の、辺境において、最も、注目される、新たな、「勢力」として、その、名を、轟かせ、始めた。
だが、アレスも、仲間たちも、まだ、知らない。
この、あまりにも、急激な、辺境の、パワーバランスの、変化。
それが、銀河帝国の、中央……硬直した、官僚たちの、冷たい、視線を、集め始めていることに。




