第2話・薬剤師を許せない患者さんの話 (その2)
今日書くのは、担当薬剤師が許せなかった患者さんの話です。やらかしたのは、わたし。なので自戒を込めて、いや、この場合は仕方がないよと言ってくれた同僚もいたのですが、でもなんとかできなかったかと思っています。
Bさんとします。70歳代の女性。持病多数あり、神経質で過去の薬局ともトラブルを起こしています。Bさん自ら教えてくれたのですが、前の薬局はBさんを大事にしてくれなかったらしい。
そして現在、当薬局に来るたびに、わたしは出すなと言われています。めっちゃ、嫌われております。今回はその顛末を書きます。
昔からBさんはジェネリック薬品が嫌いで、必ず先発でないといけないという信念がありました。令和7年現在、何ら理由のない場合の先発薬希望者には薬代の上乗せがあるのですが、それでもいいから先発にしてと、余分に支払う人です。
さてBさんの主治医は今年の春に異動で交代になりました。新しい主治医は先発薬ばかりの処方箋内容を見て、「ずっと同じ薬ですし、毎月受診するのもしんどいでしょうので、2か月に一度受診できるように薬を変えてあげますね」 とおっしゃったそうです。すべてジェネリックにされていました。薬局でその事実を初めて知ったBさんは気分を害してお金ならいくらでも払うからとおっしゃいました。でも薬局でも一応はジェネリック薬品を推奨することになっているので、「一度だけでもいいからジェネリックに挑戦したみたらどうでしょう?」 と言いました。でもBさんは拒否されて薬局が折れて医師に疑義照会したうえでBさん希望の先発薬品の処方に訂正となりました。これが1つめ。
2つめは、先発になったのはいいが、処方内容自体も変更されているので初めての先発薬。数年間同じ薬でなじんでいたのに、困るとBさんはパニックを起こしかけている。そして、もし何かあったらどうしてくれるのよと怒る。
いや、カルテも回ってこない調剤薬局で怒られても……新しい主治医もBさんのことをよく知らないから仕方がないけれど、ちゃんと説明をしてあげてほしかった。
わたしはBさんをなだめて、新しい先生もBさんのためを思って処方内容を変更したと思うので服薬してみましょうよ、それで前の薬がよかったなら改めて新しい先生に申し出たらどうでしょうかと説得する。Bさんはしぶしぶ承知された。この時点で医師も薬剤師もBさん自身の味方をしてくれないと思ったに違いない。
3つめ、勤務終了後に帰宅しようとしたら、Bさんから電話があった。新しい薬を飲んだら、逆にしんどいという。その薬は副作用に身体のだるさはあったから、でも普段からおおげさに訴えるBさんだし(←わたしの誤算)というわけで、夕食後までまだ時間があるので、身体を休めて様子を見てくださいと言った。わかりました、とBさん。
(※体中に蕁麻疹が出た、意識が朦朧とするなど緊急性の高い場合は、もちろん救急車を呼んですぐに病院に来てくださいといいます)
4つめ、翌朝一番に電話があった。やっぱりしんどいのが続きますとBさんからの電話。めまいふらつき、皮膚症状、胃腸関連の不調なし、などの確認をしたうえで、わたしはもうちょっと様子を見て、それから再度受診をするように言いました。
「もうちょっとってどのぐらいなの、わたしは昨日からしんどいのに」
と怒るBさん。おお、怒れるなら元気だな、声もいつも以上にしっかりしていると思って再度説得する。
「わかりました。では、今日は家にいて、明日にでも病院で診てもらうことにします!」 とBさんは怒った声で電話を切った。
その日の午後、Bさんの家族がBさん用の新しい処方箋を持参された。Bさんは車中で待機中だ。家族によると、あれからBさんがぐったりして動かない。Bさんの指示で救急車で病院に連れて行けというので、その通りにしたという。点滴したら元気になったので、連れて帰ったが薬剤師の対応がひどいというクレームだった。
その対応した薬剤師そのぐらい大丈夫と言ったそうだが、もしものことがあったらどうしてくれるというクレーム。これだが、薬剤師は薬に関してどういう状態でも「絶対大丈夫」とは言わないです。でもBさんがそう受け取ったのは事実。
その家族に対応したのは薬局長だが、強い口調ではなく、言ってきてくれという感じだったそうだ。点滴した医師の見解を問うと、しんどさについては、原因不明。だがBさんの強い希望で元の処方に戻したそうだ。持参した処方箋を見ると確かに戻されている。Bさんの願いはかなった。
気分が悪くなったのは事実で元の薬を飲むと多分元の元気? な状態に戻ったに違いない。ややこしい書き方だが。
結論・以上のことを踏まえてBさんはわたしを今後薬局に出すなと言ったそうだ。Bさんにとってわたしは「患者の気持ちを理解してくれない薬剤師」 になってしまった。う~ん、第一回目の電話でしんどいというだけで、大変だわ、すぐにその薬を飲むのをやめて病院に行ってくださいと言えばよかったのか……そこらあたりは難しいが、Bさんの不安を和らげなかったわたしの対応が悪かったことには違いない。
現在もBさんは毎月処方箋を持って来てくださる。Bさんの服薬指導歴を開くと、そのトップに「藤田対応不可」 とバーンとポップアプで出てくる。同僚の薬剤師もこの場合は仕方ないといって、責められることはなかったがちょっとつらい。
でもBさんには悪いが、Bさんは我を通した人生を通ってるなあと思う。だって毎月来局されるたびに「あの人は調剤室に出さないで」「あの人のせいで救急車に乗って点滴された」「あの人のせいで死にかけた」 っていう。
あの人はわたしのこと、なのがイラクサ。Bさんの頭の中では、わたしはBさんを殺しかけた極悪非道な薬剤師になっている。いや、Bさんに直にすみませんでしたとも言えないからそのままです。Bさんが来局されたらわたしはそっと調剤室の奥でBさんの視界に入らぬよう気遣いをしています。Bさん、元気でね。
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※イラクサというのは、わたし独特の表現で心の中のもやもやを示します。
それをエッセイにしています。300話近くあります……。時間がある人、読んでください。
イラクサのブーケ
https://ncode.syosetu.com/n0147ej/
イラクサの帷子
https://ncode.syosetu.com/n1775fi/
イラクサとドックリーフ
https://ncode.syosetu.com/n0043gn/




