異星の客
〈秋となり百足見付けても殺せぬ 涙次〉
【ⅰ】
テオ(谷澤景六)とタイムボム荒磯の漫画、*『着物の星』、幻思社「cure」に連載開始。幻思社が普段、詩を出版してゐる會社だからか、巻頭詩を付けてくれ、と云ふリクエストがあつた。谷澤自身が書いても良かつたのだが、こゝは一つ、じろさん、此井晩秋に執筆をお願ひしてみやう、と云ふ事になつて、此井が書いた物は‐
〈謎〉
謎、謎、謎
漫画の基本となるのは謎である
何故藤見愁庵が
假面を被つてゐるのか
何故杏西友紀利の叔父は
明らかに姿を露はにしないのか
その謎が原動力となり
漫画は進んで行く
『天才バカボン』にすら
謎はある
パパは(その發言から)天才である事
分かり切つてゐるのに何故
莫迦の振りをしてゐるのか
莫迦が天才なのか
天才が莫迦なのか
あの漫画に纏はる大きな問ひだ
『着物の星』、何が星か
讀者は讀む際に
貪欲にならざるを得ない
謎に對し
そのくすんだ空間に對して。
* 当該シリーズ第55~59話參照。
【ⅱ】
さて、今回『着物の星』執筆に際して、アシスタントを務めてくれた、深森くん、家の猫が相当な老猫で、いつ迄生きられさうか、分かれば獸醫師の意見を聞きたい、と云ふ事で、家の近處にある「石田いぬねこ病院」に愛猫を連れて行つた。担当醫は石田玉道と云ふ。
そこで深森くん、不気味な現象に遭遇する。聴診器を愛猫の胸・腹に当てゝ貰つてゐる間、深森くんは周りを見渡してみた。と、眞つ先に目に飛び込んで來たのは、動物の畸形児の入れられた、ホルマリンの壜である。(ブキミな)と深森くん思つたのだが、それよりも不可思議な現象に突き当たる。
ホルマリンに、これ一壜だけ、小間切れ肉が浸かつてゐるのがあつて、そこから(としか思へない)或る聲を聞くのである。「助けてくれ~、蘇生させてくれ~」
【ⅲ】
で、早々に深森くんは愛猫を連れてこの院を出るのだが、程からぬ後に、テオ(谷澤)にこの事を打ち明ける。テオ、としての谷澤は、胸騒ぎを覺えた。それつて、もしかして(獸醫院内での出來事だから、さう思つたのかも知れないが)* 環九朗、通稱カンクローのなれの果てゞはないのか。彼奴なら僕がテオ・ブレイドで小間切れ肉にしてやつた‐ それにしても、魔界に帰る事なく、何故その獸醫院でホルマリン漬けになつてゐるのかゞ不思議ではある。
* 当該シリーズ第27・28話參照。
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〈明日また僕を見付けて下さいとwebの波間に云つてみたりす 平手みき〉
【ⅳ】
で、テオ、わざと(自ら)移動用ケージに入り、じろさんに、その「石田いぬねこ病院」まで連れて行つてくれるやう、頼んだ。不審に思ひながらも、じろさん、テオの云ふ通りにした。テオの考へが当たつてゐるなら、魔界・人間界・冥府・幽冥界(煉獄)に續く、「第五の勢力」が存在する、と云ふ事になる。石田玉道に會つて、その有無をはつきりとさせたい、そんな氣持ちがテオにはあつた。
石田「第五、かだうかは知りませんが、私實は『異星の客』なのです」‐テオ(当たるとも遠からじ、か)‐「この地球に生命があると聞いて、標本採集にでも、と、ふらり立ち寄つたのですが、『生命がある』どころの騒ぎではない。人間は知能が、私たち並みに發達してゐるし、『魔界』と云ふ物も、文化的遺産の一つとして持つてゐる‐」‐テオ「で、その小間切れ肉、だうなさるお積もりですか?」‐「あ、これ... 標本採集の中途で見付けた物です。だうしたらいゝとお考へですか?」‐「あなたの星に持ち帰る、と云ふ事は出來ませんか?」‐「お言葉ですが、私、この地球に骨を埋める積もりでして...」
【ⅴ】
「それなら仕方がない。私たちが引き取る、これで宜しいでせうか」‐石田(と云ふの名の異星人)「だうぞだうぞ」
と云ふ譯で、テオとじろさん、カンクローの標本(肉の小間切れ)を引き取つて來た。「こんな不気味なもの、事務所内には置いておきたくないねー」とじろさん。テオ(ケージの外に出てゐる)「さうねえ。カンテラ兄貴に、焼いて貰はうか」‐「あ、そりやいゝや」
つー事で、カンテラ、「開發センター」敷地内の方丈で、護摩壇にその肉を放り込んだ。「『異星の客』つて云ふから、もつと面倒になるかと思つてゐた‐ 簡單に濟んでよかつた」
と云ふ譯で、カンクローの蘇生は、彼の叶はぬ夢となつた模様。ついでに云ふと、石田玉道は、カンテラ・ファミリーの一員となり、今後起きるであらう「異星人」案件で活躍が期待出來た。そんな譯で‐
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〈蜩を待つともなしや待つてゐる 涙次〉
どんどん増えるなあ、カンテラ一味・笑。お仕舞ひ。