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求婚者たち

 忙しく立ち働き――宴の賑わいもいったんの落ち着きを見せた頃。ユキは、家人に勧められるまま、休憩を取ることにした。こっそりと宴会場を出て、洞窟の外に出るとホッと息を吐く。

 

「ああ……疲れたぁー」

 

 岩壁にはりつくと、ひんやりと熱った体に心地よい。……宴は好きだ。皆が楽しんでくれることも嬉しい。

 

(でも……先生が遠く感じて。それはいやだな)

 

 宴会場に居ると、どうしてもソンロウのことを気にしてしまう。向こうは美しい雌狼に侍られて、ユキのことなぞ気にも留めていないようだったけれど。

 胸の奥にむらむらと嫉妬の火が燃え、ユキはぶんぶんと頭を振る。

 

「わかっているじゃないか。先生はおれのことは弟子としか、思ってらっしゃらない……」

 

 そのままでこぼこした岩を上り、岩壁の頂上に出る。広い白狼の森を一望できるそこは、ユキのお気に入りの場所だ。鍛錬で上手くいかなかったり、母が恋しくなったり……泣きたくなると、よくここに来ていた。

 それと……”ここ”を教えてくれた人に、会いたいときも。

 

「よいしょ」

 

 天辺のつるつるした岩に腰を下ろすと、うんと伸びをした。

 紺碧の空を見上げれば、ちらちらと銀色の星が光っている。ユキは、深いため息を吐き――宴の間に求婚してきた同胞たちのことを思い浮かべた。

 

「ユキ様。俺と結婚しませんか」

「いや、俺こそ」

「いいや、俺が!」

 

 酒を注いでまわるユキの手を引いて、彼らは口々に言ってくれた。その殆どがユキと年が近く、ふだん仲良くしている青年たちであったので、「お前ら本当にいいのか!?」とぎょっとしてしまった。

 同時に、その勇気を有難くも思う。

 

(みな、おれが花嫁になれねば、村の存亡に関わると思って。優しい奴らだなあ……)

 

 一生に一人しか愛せない白狼の一族だというのに、みな村の為に身を犠牲にしようとしているのだろう。感服し、自分も彼らの思いに応えねばと思う。


(おれも女々しいことを言ってはいられない。村の為になることを考えなければ……!)


 それに、ユキはもともとおぼつかない身の上だ。

 現族長に娘が生れなかったため、族長となるべく育てられてきたが――もし、ババ様の占いで「養女をとれ」と告げられたなら、後の障りにならぬよう「家を出るように」と言い含められても来たのだ。

 嫁になるくらい、今さらではないか――


「とは言え……」


 たった一人の顔を思い浮かべ、「あいつは例外だ」と眉を顰める。

 

「ユキ殿。この私があなたを妻に貰って差し上げよう」

 

 族長から、わずかに下の席に座った一族の若者――ハクロはユキの着物の裾を踏み、居丈高に言い放った。脇に控えた取り巻きが、くすくすと忍び笑いを漏らし、ユキは「はあ?」と顔をしかめた。


「笑えない冗談だ。何のつもりだよ?」


 裾を払い、きっと睨みつけるとハクロは気障に笑っていた。

 ハクロは白銀の毛並みを持つ美しい狼で、名家の後継ぎらしい優美な出で立ちが、若い雌達の羨望の的であるらしい。ユキとは同年の十八であり、幼い頃から何かと張り合ってきた仲だった。

 小柄なユキが、次期族長であることが気にくわなかったのだろう。奴の取り巻きと共に「雌のようだ」とからかうものだから、何度ユキの仲間たちと力を合わせて取っ組み合いをしたかしれない。

 

(ずっと突っかかられてきたし、善意ってことはなかろう。……おれを娶ってでも、族長の座が欲しいってことか?)

 

 ユキはふんと鼻を鳴らす。

 姑息な奴だ。たとえ形式だけであっても、鼻もちならないハクロの妻にだけはなるものか。

 すかした顔を思い浮かべ、ざっざっと後ろ足で砂をかいていると――「うお」と剽軽な声が聞こえてきた。

 

「おいおい、何をしてんだぁ?」

「せ……先生!」

 

 肩にかかったらしい砂を払い、ソンロウがひょいと上って来た。ユキが居住まいを正すと、すぐ隣にソンロウが座り込む。巨躯から発される熱気に、どきどきと鼓動が激しく打ちだすのを感じていた。

 

(会えた――……)

 

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