生き霊、再降臨ーーーーー"宵闇の中、白き花は散るー"(後夜)
「…………ハッ!!」
目を覚ました瞬間、鼻をついたのは湿った木と埃の匂い。
そこは、古びた見知らぬ部屋だった。
身体が妙に重い。
息が浅く、喉がカラカラに渇いている。
ふと
隣に温もりを感じ、
まさか……
と思ってそっと見ると、
「すぅ………すぅ………」
と、
穏やかに寝息を立て、
一糸纏わぬ姿で寝ている夕顔がいた。
「ちくしょうまたこれかよ!!」
また、やってしまったらしいーー
ただ、今回はいつもと少し違っていた。
いつもなら、朝の雀がチュンチュン鳴いてるのに──
蝋燭一本の灯りが頼りの室内。
外は、息を呑むような漆黒の闇だった。
電気も街灯もない平安の夜は、
現代では考えられないほど暗い。
雨の音が、いつの間にか止んでいた。
外からは虫の声も風の音さえもしない。
世界そのものが、呼吸を止めてしまったようだった。
俺はゆっくりと起き上がった。
だが、体が重い。違う、重いんじゃない。
自分の体なのに、まるで誰かのものみたいな感覚。
手を動かしても、足を動かしても、
どこか一拍遅れてついてくるような、
薄い膜越しの感覚がある。
(……なんだよ、これ)
脳が現実を処理しきれてない。
隣で眠る夕顔の寝顔をもう一度見る。
(本当に……俺、やったのか?)
でも、記憶がない。
触れたはずの感触も、交わした言葉も、
すべてが霧に包まれたように思い出せない。
「…源氏様…?」
夕顔が目を覚まし、微笑んだ。
その笑顔に、なんかホッとして、泣きそうになる。
「夕顔たん、俺ーーー」
ギィィ……と、古い木が軋むような音が、どこからか聞こえた。
部屋の戸は閉まっている。
風も、ない。
じゃあ今の音は――
(……何か、来た…?)
俺は、息をのんだ。
そのときだった。
「………………源氏の……君……」
背筋が凍った。
声がした。
だが、それは――夕顔の声じゃない。
もっと、低く、ねっとりと絡みつくような、女の声。
そして、その声には――怨念があった。
「何故じゃ………なぜその女と交合うたのじゃ……?」
ズリッ
何かが、床の上を引きずるような音がした。
「……許さぬ………あの女ーーー」
フッ…と
蝋燭が、突然消えた。
次の瞬間、部屋は闇に沈む。
(まずい……これはまずい!!)
叫ぼうとしたそのとき、
夕顔の体がぴくんと跳ねた。
「う……うぅ……やめて……やめて……っ!!」
もがくように身をよじる。
汗なのか、涙なのか、頬を伝っている。
「やめろ……夕顔から離れろ…!」
声にならない叫び。
体が動かない。
まるで何かに無理矢理体を縛りつけられているようなーー
──ズズ……ズズズ……
黒い影のような者の細くて長い腕が、
夕顔の首を絞める。
やばいやばいやばいやばい…!!
「やめ、てくれ…!」
俺はなんとか手を伸ばそうとするが、体が動かない。
「う……ぐ……っ……」
なぜだ、なぜ俺は動けない
くそっ、助けたいのに……!
「……これで分かったであろう…?運命に抗うことはかなわぬ…」
あの“声”が、再び頭の奥に響いた。
お前は誰なんだよ!!
「…げんじ、さま…たす、け…」
夕顔が、震える手をこちらに伸ばしたー
その瞬間。
ドクン。
夕顔の目が一度大きく見開かれた。
こちらに伸ばした手が、だらりと垂れる。
瞳から、光が…消えていた。
──しん……と、世界が静まる。
風も、音も、気配も、すべてが止まった。
まるで、最初から何もなかったみたいに。
そして。
「……夕顔?」
嘘だろーーー?
ゆっくりと、手を伸ばして彼女の頬に触れる。
でも。
冷たい。
あまりにも、冷たかった。
──後夜、完。
え…?この話ってホラーでしたっけ…?
ギャグハーレムじゃなかったの…?
てか夕顔たん、本当に死んじゃったのッ…!?
次回、またしてもシリアスなのか!?それともギャグが復活するのか!?
誰にもわからない!筆者にもわからないッ!!
とにかく、見届けてくれッッ!!!