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生き霊再降臨ーーーーー “揺れる想いと、薄暮の邂逅”(中夜)




夕顔と出会った日の夜。




場面は変わって──光源氏(てか俺)の屋敷。

夕餉の時間。






「ねえ源氏殿?お箸、止まってますわよ?」



葵の上がピシッと正座したまま、優雅に扇子をあおぎながら言う。




口調はいつも通りのお嬢様風だが、その視線は氷のように冷たい。




「……えっ? あ、うん、食べてる食べてる。

超うまい」



慌てて味噌汁(という名の平安汁物)をすする俺。




「ほんとー? じゃあもっといっぱい食べて? 今日、わたしもお料理、がんばったのよ!」




紫の上が満面の笑みで、焦げた焼き魚を差し出してくる。




「おおぉ……そうか、それはえらい……」






俺はぎこちなく微笑みながら、それを口に運んだ。

……うん、頑張ってるのはわかる。わかるけども。

これ、もう焼いた魚というより、魚の炭や、紫たん。






──でも問題はそこじゃない。

気持ちが、ここにない。






頭の中では、さっきの“彼女”──



あの夕顔たんの、雨の中で濡れて微笑んだ姿が、何度も何度も再生されてる。




(……なんであの人、あんな場所に、あんな風に立ってたんだ?)




(どう見ても、訳ありだったろ……俺が関わらなかったら、どうなってたんだ……)




(いや、でも関わったら死ぬんだってば!!!)





「……まったく、なにをぼうっとしておいででして?」






葵の上の声音が、一段階冷える。




「政でお疲れなのかしら? それとも……

まさかまた“どこぞの女”のことでしょうか?」




「へっ!?いやいやいや!まさかそんな……!」





「ふうん? ……どうだか」






扇子の端がピクリと動いた。

この扇子、最近よく俺の顔面にヒットするんだよな……物理的に。





そのとき──




「……ねえ、にいさま。さっきから、ちょっとさみしい顔してるよ?」






紫の上の声がふわっと耳に届いた。




「だれかのこと、考えてるの?」




「…………!!」




思わず箸が止まった。






「え、まじで見抜かれてんの!? いや、でもそんなこと言ってないよな!? 紫の上、エスパー!? もしかして転生者同士!?!?」




「ふふん。おとながナイショにしてること、わかっちゃうのよ?」





ドヤ顔で笑う幼女。

……あざとい。

けど、グサッとくる。




夕顔たんを放っておいたら、原作通りに死ぬかもしれない。



でも、関わったらやっぱり死ぬかもしれない。

今、紫の上と葵の上は無事だけど……

六条の生き霊、また来る気配あるし……






「……くそ、どうすりゃいいんだよ」



つぶやきながら、拳を握りしめた。








そして、数日経った政の帰りーーー




その日も雨が降っていた。




もう、絶対に関わっては駄目だ。

あの家の前を通らないよう、回り道して帰ろう。




そう思って、いつもとは違う道を行こうとしたが、やっぱりどうしてもあの哀しげな表情が頭から離れなくてーーー




「家の前通るだけ!!そっと見るだけだから!!」




と言い訳しながら、足が夕顔の家の方へ向かってしまっていた。





遠くから彼女の家を見るとーーー






いた。



また、雨の降る中、門の前に、


この間、俺があげた傘を差して

なんか泣きそうな顔で

佇んでいる。






「なんでーーー」



こちらに気付くと、


「………よかった。また会えたーーー」




と、

不安で泣きそうな顔だった彼女が、

ふわっと花が咲いたように微笑んだ。




だからその笑顔は反則だってーーー!





「な、何してるの?こんな雨の中」





「………傘。返さなきゃと思って、待ってた。」






この雨の中を…?来るかわからない俺をずっと待ってたのかーー?






「もしかして、ずっと…?」



「…うん。初めて会った日から、ずっと待ってた。」




嘘だろーーー?


「どうして?」



「どうしてでしょうね…

でも、どうしてもまた、会いたかったの…」




そう言って、

俺が貸した傘を差し出してきた。





受け取った手と手が触れる。




ドクン。

俺の心臓が大きな音を立てて鳴り出す。




「…濡れてるわ。…よかったら、あがっていかれますか…?」




「……って、え?いや、それは、その……」




夕顔が、切なく、

まるで捨てられる猫みたいな表情で見つめてくる。




「……ほんの、少しだけでいいの」




ほんの、少しだけ。

──その言葉が、いちばん危ないんだよぉおおお!!!


ダメだ、ほんとにこれ以上関わっちゃーーー




踵を返そうとしたその時。

どこからか声が聞こえた。





「運命の奔流に抗うこと……

露のごとき汝には、叶うまいーーー」





その声は風に紛れて、けれどはっきりと俺の頭に響いた。




次の瞬間、まるで誰かに操られたかのように、体がピクリとも動かなくなる。





そして、

気づいたときには——








俺は、夕顔に口づけていた。





なぜ?いや、違う……誰だ?


今、俺を動かしているのは。


もしかして俺の中の“光源氏”なのか?



本当にこれはーーー“俺”がしてるんじゃないのか?





そんな疑念がよぎった瞬間、

手から、傘が滑り落ちた。




ひっくり返ったそれは、

空を仰ぎ、



傘のないふたりの体に

しとしとと雨が降り積もる。






何も音が聞こえない。

まるで、時が止まったかのような。





濡れた髪が、衣が、体に貼り付き、

冷たさが肌に染みる。




彼女と触れ合っている部分だけが、

温かかった。




なんだこれーーー

まるで夢の中みたいに——曖昧で、現実感がない。






そして、いつものように

記憶はぷつりと、そこで途切れていた。


やってんなあ!主人公ー!!

お前それ、ほんとに自分の意思か!?

それとも……中の人(光源氏)がやってんのか!?


運命の歯車からは逃れられないのかーーー!?

“あの声”の正体とはいったい……!?

次回、いよいよあの人(謎の声)が本格的に動き出す……かも!?


まさかのシリアス展開に作者もびっくり!

え?そろそろハーレムギャグに戻ってもいい?

それ、筆者が一番思ってます。(真顔)

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