転生したら光源氏だった件 〜気がついたら藤壺と朝チュンしてました〜
どうも、牛タンが好きすぎて「転生したら牛タンだった件。」、略して転生牛タン丸です。
この作品は、「現代の光源氏アンチがガチで光源氏に転生してしまったら」というコンセプトで、
源氏物語を(いろんな意味で)ぶっ壊しながらも愛をこめて再構築しています。
ちなみに筆者の源氏物語知識は中学生レベルなので、歴史にお詳しい方はどうか生温か〜く見守ってくださると嬉しいです。
我輩は、モテない童貞大学生である。
名前はまだない。
だったらよかったんだが。
俺の名前はーーー源氏 光である。
ちなみに“げんじ”は名字で、“ひかる”が名前。ここ、試験に出るので注意。
本日はゼミの開講日。
これを聞いた大抵の人が開口一番に言うセリフがこちら。
「えっ、君って“源氏 光”っていうの?」「うわ〜〜!」「やば、まんま“光源氏”じゃん!!笑」
と、やたらとテンションの高い、ケバい女子たちが黄色い声でキャッキャ騒いでいる。
そこに中学高校からの腐れ縁の親友たけしが、
「おいっ!それこいつには禁句だから!」
と、即座に止めに入るが、時すでに遅し。
俺の中の何かがガッと音を立てて崩れた。
『恥の多い生涯を送ってきました』
太宰か。
そう、
先ほども述べたが我輩ははモテない童貞大学生である。
それなのにーーー
それなのに、よりによって――
この名前。
源氏。光。
バカじゃねえの!?!?!?
そもそも俺は――
光源氏という男が、だいっっっ嫌いだ。
⸻
中学の時に読まされた『源氏物語』。
そこにいたのは、女たらしで、年上とできたかと思えば幼女を育てて嫁にして、
挙げ句には親戚の女にまで手を出す、絵に描いたようなクズ男だった。
俺は当時から「モテないけど誠実」を信条に生きてきた。
いやまあ、モテなかったのは“信条”じゃなくて“現実”なんだけどさ。
源氏物語の研究者だった母がつけた、ある意味“本気”のネーミング。
ちなみに、俺の顔は父親似で、まあそこそこ整ってるらしい。
でも性格は陰キャ。モテた試しはない。
そして、俺の父親はーーー
源氏よろしく、
顔はいい。口も達者。女にモテる。
でも、やるだけやって、俺と母親を捨てた。
母は、それでも父を愛していた。
父が光源氏ならーーー
母は…六条御息所ばりに未練タラタラだった。
「光は、あの人にそっくりなのよ」
「本当に……顔だけは…うり二つ…」
泣きながら笑う母の顔が脳裏に浮かぶ。
母はきっと、俺に父親の幻影を見ていたんだ。
⸻
俺は、父親と同じ顔で、
父親の代わりみたいに愛されて育った。
でも。
性格だけは、あんな奴とは違う。
「俺は、女を泣かせる男にならない」
「やるだけやって、やり捨てる男には絶対ならない」
「俺は——一人の女だけを、一生愛して、幸せにする」
それが、
俺が俺でいるための誓いだった。
未だに俺の名前でキャッキャ騒ぐ女どもが、
「ねえねえ、光くんってけっこーイケメンだし、名前光源氏だし、モテるんじゃなーい?」
などと囃し立ててくる。
前述の通りだが、全くモテない。モテた試しなどない。
皆、光源氏の名前をイジるだけイジって、終わりなのだ。
「もういい加減にしてくれ。そのイジりもう飽きてんだよ」
「え〜?でもさ、このゼミに来てるってことはやっぱ興味あるんでしょ?光源氏」
そう。
このゼミは古典文学専攻ーーー
専門は「光源氏」。
その問いに俺はドヤ顔で答えた。
「ああ。それは論文で『源氏物語の倫理的問題について〜現代道徳との対比〜』
ってのを書きたくて。」
まさかの爆弾発言に、ゼミの空気が固まった。
数秒の沈黙の後、
光源氏の研究で国内でも有名なうちのゼミの教授が問うてきた。
「“倫理的問題”って、たとえばどのあたりだ?」
は??
そんなもん、わかりきってるだろ。
「……全部ですけど。親父の嫁に手出したとか、幼女を育てて結婚したとか、ヤッた女たち全員泣かせてるとか。挙げ句の果てに生きてんのか死んでんのかわかんねー最後迎えるとかオワコンですよね」
ゼミの皆は、笑いながらドン引きしている。
だが俺は迷わず続けた。
「つか、俺だったらあんなこと絶対しませんから。もし俺が光源氏だったら――」
「紫の上だけを一途に愛して、ちゃんと幸せにします。」キリッ!!!
その瞬間、
ゼミ室の空気が固まった。
そして友人のたけしが苦笑いしながらこう言った。
「……お前ほんとその話だけは熱いよな。誰よりも光源氏アンチのくせに、紫の上ガチ勢っていう…」
ゼミが終わると、俺はいつものように大学の図書館に直行した。
誰かと話す気分でもなかったし、論文の資料も集めたかった。
……という名目で、現実逃避に近い。
さっきのゼミでの発言、やっぱやりすぎだったかな。
「……でも。やっぱ許せないんだよな」
図書館の古典文学コーナーは、いつも薄暗くて静かだった。
なんとなく、“時間が止まった”みたいな雰囲気がある――…てか、俺しかいねぇ。
「さて。アッと驚く論文書いて教授の鼻を明かしてやりますか」
図書館の奥の「貴重文庫」エリア。
そこには、まるで中ボスが出てきそうな木製の書棚の中に、重厚な巻物が並んでいる。
まだ印刷されてない一度読み返しておこうと思っていた源氏物語の原典資料があったはずだ。
「今日はまず最初の藤壺のところから読み返すか
………にしても、親父の嫁に手出すとかマジキモすぎるよな…光源氏マジねえわ」
「確か……ここに、今はもう印刷されてない初期の写本が……あった……!」
俺がふと腕を伸ばした、そのとき。
ドサァァァァァーーーーーーーーーーーーー!!!!
大量の巻物が、雪崩のように崩れ落ちーーー
「は!?嘘だろちょ、誰かーー
痛ぁああ!!」
容赦なく俺の頭を直撃した。
頭がガンガンする……
目の前に、光が、
星が、
飛び交って……
視界が白く、
白く……
霞んでいく……………
そして俺は直感的に感じた。
これはたぶん、死んだ。
──と思った次の瞬間。
ふに。
あれ……?
……なんか、やわらかい?
この感触、なんだ?
なんか懐かしいような、でも触ったことのないような──
超・柔らかくて、やたら気持ちいい。
ん? んん??
これは……もしや乳!?!?!?
「え、ちょ、なにこれ……誰!?
ここどこ!?俺なんかした!?何も覚えてないけど!!?」
冷や汗をかきながら俺はゆっくり顔を上げる。
すると、そこにはーーー
見たこともない絶世の超絶美人が
微笑みながらーーー
裸で俺を抱きしめながら寝ていた。
言わずもがな、俺も裸である。
どうしてこうなった。
ちゅん……ちゅん……
朝の光の中で、
スズメが平和にさえずっている。
「は、これまさか、
朝チュンってやつ………?」
…見たことがないはずなのに、
なぜか俺はこの人を知っている………
この人はーーーーー
嘘だろ…!?
俺の隣にーーー
藤壺が寝ていたーーーーーー
ここまで読んでくださってありがとうございます!
いや〜〜〜〜、転生初日から人妻と朝チュンはさすがに想定外でしたね。
開始5秒でバッドエンドの気配しかしねぇ。
ちなみにこの主人公が抱いてるアンチ光源氏感情は、ほぼ筆者の源氏物語へのガチ感想です。
こんなクズ男がモテる平安時代とか、マジ終わってるゥゥゥーーーッ!!
(※源氏物語ファンの皆さま、どうか石を投げないでください土下座します)
というわけで、
史上最強の源氏物語アンチが送る転生光源氏ライフ、この先どうなっていくのか──
乞うご期待ッ!!
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