表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/19

第三章:青の証明


次の日も、その次の日も、アオイの視線は教室のどこか、廊下の向こう、人の隙間を彷徨っていた。

誰かが見ている。けれど、その「誰か」が敵か味方かもわからない。

疑心暗鬼な毎日——それでも、あの手紙の「味方」の文字が、ずっと胸に残っている。

ただのいたずらかもしれない。罠かもしれない。証拠は何もない。けれど、

誰かが“空の色”を知っているなら——それだけで、繋がりたいと願ってしまう。


(私を見てる“誰か”が、本当に敵じゃないなら……)


そんなある放課後。図書館での自習を終えたアオイが廊下に出ると、

窓辺に寄りかかるようにして立つ女生徒が目に入った。

西日に照らされて、制服の名札がほのかに赤く光っている——けれど、彼女はまるで気づいていない様子だった。


(……名札、エラー?)


顔立ちは整いすぎていて、まるで造られたようだった。

光の加減のせいだろうか、肌の透明感がどこか無機質にも見える。

彼女はアオイに気づくと、小さく笑った。

一瞬、時が止まったような感覚。


「こんにちは、アオイさん」


「え……私の名前……?」


「うん。知ってる。あの日の朝、名札にエラーが出たでしょ?」


「……なんで、それを」


「名札はね、いつも中央のシステムに繋がってて、異常が起きるとすぐに“統制側”に記録されるようになってるの。先生たちはもちろん、いわゆる“監視者”にも通知が行く仕組み」


「……監視?」


「うん、今の学校も社会も、全部そう。ちゃんと見張られてる。でも、それだけじゃない。わたしたち、“カラフル”にも、そういうエラー通知が届くようにしてあるの。裏ルートだけどね」


「……“カラフル”?」


「あなたが“本当の空”を見たって報告を聞いたとき、すぐに動いた。あなたを一人にしないようにって」


「……じゃあ、私、今……」


「見られてる。でも、私たちも見てる。守るために」


その声には、機械的な印象とは裏腹に、微かだけれど確かな意志が宿っていた。

アオイは制服の胸元を押さえる。赤い表示はもうない。けれど、消えたのは表面だけで——あの日からずっと、何かに記録され、見られている。


少女がそっと手を差し出す。


「私はミナ。アオイ、あなたに会いたかった」


名前を呼ばれて、アオイは戸惑いながらもその手を取った。

冷たい。けれど、不思議と心が落ち着く。


「私たちは、この世界の“嘘”を正したいだけなの」


「“嘘”って……?」


「あなたが見た空の色。それが、始まり」


そのとき、不意に窓の外——

朱に染まった夕空が、ほんの一瞬だけ、“青く”揺らめいた。

アオイは息を呑む。ミナの目が、同じものを見ていたことを告げていた。


だが次の瞬間、廊下の奥から硬質な靴音が響き、ミナの表情が引き締まる。


「……ここじゃ、もう話せない。続きが知りたかったら、明日の放課後、旧校舎の音楽室に来て」


それだけを言い残し、ミナは踵を返した。

すれ違いざま、アオイは彼女の名札から、出席番号の表示が一瞬エラーを起こし——そして、音もなく消えていくのを見た。


(……今、消えた?)


名札のエラーを、自在に操作できる存在。

不思議と怖さよりも、確かさを感じていた。

そして夕暮れの音楽室で、世界の秘密に触れる扉が、静かに開こうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ