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【Interlude】— 感覚の底 —
あの日、祖母の手帳を読んだ夜。 アオイはしばらく眠れず、ベッドの上でじっと天井を見つめていた。
自分のことを、思い返していた。
アオイは、幼い頃から“感じすぎる子”だった。 空や光の加減、風の音の違い、誰かの声のトーン。 でも成長するにつれて、それはだんだん薄れていった。
まるで、何かで上書きされるように。
「空って、青いものだよ」と言われて、そうなんだと思うようになった。
「みんなと同じに見えるはずだ」と信じるようになった。
でも——本当にそうだっただろうか?
(……昔、なにか……あった気がする)
頭の奥が、時々チリチリと痛むことがあった。 色がちらついたり、音が遠くに聞こえたりする瞬間があった。
視界の隅に走るノイズのような、あの“ざらつき”。 それは、今に始まったことじゃない気がした。
思い出せない。 けれど確かに、心のどこかに引っかかっている。
“私の中にも、ずっと前から何か違和感があったんだ。”