証明
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それは十年くらい前の出来事。小学生の私は一人で登校中だった。ゴーストタウンと化した町を歩いていると、ふと視界の端に異様なものが映った。
「大丈夫!?」
一人の老人が、まるで力尽きたかのように道端に倒れていた。私は駆け寄り、声をかけた。
「おお……また気を失っとったわい」
慌ててスマートフォンを取り出した。両親が「何かあったときのために」と持たせてくれたものだった。震える指で119を押し、耳に当てる。
必死に状況を伝えようとしたが、説明は辿々しかった。それでも救急隊の人は落ち着いていて、周囲に見える建物の情報を聞き取り、どうにか居場所を特定してもらえた。
「もうすぐ救急車が来るよ!」
「もう大丈夫じゃ。お前さん学校に行く途中じゃろ?」
おじいさんは、私の口が開きっぱなしのランドセルを見つめていた。
「一緒にいるよ! 心配だもの」
「……そうか」
二人で偶然見つけた古びたベンチに座り、並んで座った。後から聞いたけれど、この人は何度も外で倒れていたらしい。もう長くはないと、本人も悟っていた。
「長生きはしてみるもんだ。こんなに親切な子供に出会えるなんて」
けれど、そんな先の短さも感じさせないほどに、朗らかな笑みを浮かべてくれた。
「言い過ぎだよ」
「言い過ぎなもんか。儂は嫁に先立たれ、息子夫婦と孫も全員事故で亡くしたんじゃ」
「!!」
しばらく静寂が流れた。やがて、おじいさんはそっと顔を上げ、空を仰いで呟き始めた。
「孤独な死に損ないだったが……」
おじいさんはゆっくりと私の方へ顔を向けた。そっと手を伸ばし、私の頭を撫でる。
「ありがとうな、生かしてくれて。生まれてきてくれて」
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今そんな記憶が蘇った。何かが息を吹き返すかのように。
「私は、特別になれるん……ですよね? 誰かから生きてほしいと願ってもらえる人間になれますよね?」
涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、必死に問いかけた。
「ああ。僕にはそれを否定する確たる証拠は何もない」
再び目と目が合う。二人の間で言葉では表せないものが、重なった気がした。
「ゆえに証明終了だ。君が、君たちが特別ではないことの証明はできない」
それは本当に証明だったのだろうか。感情的で、経験に基づく主観的もので、体を成していない気がした。でも……私にとっては何よりも美しく、何よりも輝かしい証明だった。
だから立ち上がってしまった。そして、間の抜けたような拍手をパチ、パチと打ち鳴らした。手を叩いたのは私だけ。でもそんなことは関係ない。だって私は特別なのだから。




