みきわめ
女は、彼が飲んでいる時、店に入ってきた。何気なく振り返った幸助の目と、まともに視線があった。
女はまっすぐ幸助のところに歩みよってきた。
「ここ、空いてるかしら」
「どうぞ」
「いつから飲んでるの」
「君がくるちょっと前さ」
「ずっと、一人?」
「どうして」
「だって、あなたのような素敵な男を、女はほっておかないでしょう」
「生憎、ほったらかしだ」
「私はほっとかないわ」
「それは、どうも」
女がカクテルを注文する様子を、幸助はじっくり観察した。彼の目は、何かの秘密を暴きだそうとでもしているようだった。
先日の夜、街で女に声をかけられた。その時もすばらしく魅惑的な女だった。その気になった彼は、すっかりうかれて、一晩じゅう、彼女と過ごすつもりでいた。ところがいざ、ホテルに彼女を誘おうとしたその時、いきなり物陰から数人の男女が現れたと思うと、
「すみません。これはアンドロイドでして、どこまで気づかれることなく人間を装えるかの実験なのです」
そんな体験があっただけに今、この見知らぬ女に対して彼が、慎重になっていたのもむりはない。
「どうしてそんなに、ジロジロみるの?」
「なんでもない」
「なんでもなくて、そんな犯人を取り調べる、刑事のような目をするのよ」
女もさすがに、彼の執拗な凝視に鼻白みだした様子だった。
それでも幸助はなおも、女の観察をやめることはなかった。みるだけでなく、皮膚をつまんだり、爪の間を調べたり、あげくはスカートの裾をたくしあげる始末に、とうとう女は癇癪を起して、
「なによ、この人!」
女はフンと鼻を背けたきり、荒々しい足取りで離れていった。
「怒らしてしまいましたね」
カウンターの向こうから、店の者が笑顔まじりに言った。
「怒ったふりをしているだけかもしれないよ。アンドロイドにはそれぐらい、わけないだろうから」
「あの人、アンドロイドで?」
「かもしれない。最近はみわけのつかないアンドロイドが、そこらにうようよいるって話だ」
「あんなきれいなアンドロイドなら、袖にすることもなかったでしょうに」
「いやあ、中身は無味乾燥の機械だ。そんなの相手に濡れ場もないだろう」
彼は自分のグラスを飲み干してから、立ち上がった。おもわず、足がふらついた。
「酔いましたか」
幸助は、店の者に気づかれないようにしながら、喉もとの蓋をあけると、バランスを保つ機能を少しアップした。
「大丈夫」
足取りもしっかりして、彼は店の者に手をふった。