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近くの彼女は遠い人  作者: へーまる
第1章 僕と高校生
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読書の金曜日?

高校の一番東側の三階に位置している図書室は、僕たちが授業を受けている教室三組分の広さがある。細かくコーナー分けされた本棚は全部で三十棚ほどある。比較的大きなこの空間は図書室というよりかは小さな本屋のような印象を持つことができる。


「小林くんは普段本とか読むの?」


高校生活の始めの一週間終えた飯田さんは、大きな図書室の入口を通ってすぐ左側にあるカウンターで、返却された本の整理をしながらそう言った。


「たまに小説読むくらいかなー。漫画とかは読まないね。飯田さんは?」


「私は少女漫画よく読むよー!面白いから読んでみてよ」


「少女漫画はちょっと…」


入学してからの一週間で身体測定や授業のオリエンテーションを一通り終えた僕たちは、高校入学後初めての金曜日を迎えていた。


月曜日と金曜日が活動日の図書係にとって、今日が初めての活動日ということになる。初めての活動時間だった今日の昼休みは、これから図書係の業務を行う僕たちに、仕事内容などの説明のみで終わった。つまり、金曜日の放課後。つまりこの時間が本格的な図書係デビューということになる。


「それにしても人来ないね」


「私も中学の時、一回も図書室なんて行ったことなかったなー」


中学生が図書室を利用するのは、基本的に授業で使う教材を借りに行ったりする程度で、読書を目的に図書室を利用する人は滅多にいなかったように思う。


僕の中学のクラスメイトに、気になっている子が図書室を利用するのを見て、毎日のように理由をつけて通っていた男子がいた。その女子生徒はきっと男子生徒の好意に気づいていたと思う。それでも偶然を装って「また会ったね」と声をかけていた女子生徒はその男子生徒よりも少し大人だったと思う。


なぜこの出来事をこんなに詳しく知っているかというと、僕が読書を目的に図書室を利用していた数少ない生徒だったためである。


結局彼らは、卒業式の日に晴れて恋人同士になったわけで、図書室ドリームも捨てたものじゃないと当時の僕は感じていた。


「そいえば小林くん、ほとんど毎日野村さんと一緒に帰ってるでしょ〜」


「なんで知ってるの」


「二人とも帰るの早いから、いつも教室の窓から見えるんだよ」


「僕たち帰るの早いんだ」


「それでそれで!何か進展はあったの?」


ほとんど毎日帰路を共にしている野村さんはもちろんだが、隣の席の飯田さんとも会話をする時間は多く、この一週間でかなり親睦は深まった。だけどまさか、こんなことを言い出すとは考えもしなかった。


「飯田さんが考えるようなことはなにもないよ!」


「ふふっ声大きいよ小林くん」


「あっごめん…からかわないでよ」


「ごめんごめん。いいなぁ〜二人とも家が近いから一緒に帰れて」


確かにこの一週間、飯田さんが僕と野村さん以外の誰かと話しているところはほとんど見ていない。


飯田さんのような子なら誰とでも仲良くできる気がするし、逆に飯田さんと仲良くしたいと思っている人がいるかもしれないが、本人が望んでいないかもしれないので、余計なお節介はやめておこう。


━━━━━━━例えばこんな人とか…


「おっ小林ちゃんと仕事してるじゃんか!」


「ほんとに来たのか」


「な、なんのことだよ!図書館に本以外の目的で来るやついるのか?あ、飯田さんもいたのか」


「こんにちは武藤くん」


「俺の名前知ってるのか?!」


「小林くんがよく話してるよ」


「小林ーー!俺のことちゃんと友達だと思ってくれてるのか」


「そりゃ友達だろ」







僕と武藤は火曜日の食堂で初めて会話を交わした。食堂の一番端に二人席があり、他に空いている席がなかった僕はそこに座った。


そんな僕が、注文したカレーライスを食べようとした瞬間に彼が話しかけてきた。


「同じクラスの小林か?」


「そうだよ。えーと…ごめんまだ名前覚えてなくて」


「俺は武藤だよ!武藤大志(むとうたいし)!悪いんだけどそこ座ってもいいかな。どこも空いてなくて」


「もちろん」


それから今日に至るまで、彼は暇さえあれば僕に話しかけに来ている。バスケ部への入部を決めているらしく、僕も一度誘われたが丁寧にお断りした。運動は好きだが、部活のように何かに縛られてやる運動は好きではない。幸い彼は、「じゃあまた自主練付き合ってくれ」とだけ言ってすぐに諦めてくれた。


たまにテンションが高くて、ついていけない時があるが悪いやつではないと思う。多分。


そんな彼が昨日の帰り際の教室で


「飯田さんかわいいよなあ。話してみたいな」


と突然つぶやいた。僕は、僕と飯田さんが金曜日の放課後に図書係の仕事で図書室にいることを伝えた。


「暇だったら行く」


と彼は言って少しクールに見せていたが、内心とてもドキドキしていたのだろう。そして今日も図書室までの道をワクワクしながら歩いていたのだろうと思った。







「武藤なんか借りていく?せっかく来たんだし飯田さんがやってくれるよ」


「私?!そこは小林くんじゃないの?」


「僕ちょっとトイレ」


僕は図書室がある三階の、一番反対側にあるトイレに向かった。


「お、おい!小林逃げるなよ〜!」


「武藤くん何借りるの?」


「え、あ、じゃあこれで…」


そういって武藤は今月のおすすめコーナーに置いてあった一冊を手に取り、飯田さんに渡した。


トイレから戻っていた僕は、途中の廊下で帰るところだった武藤とすれ違い、変な気を遣うなと怒られたが武藤の顔はこれでもかというくらいニヤついていた。

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