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近くの彼女は遠い人  作者: へーまる
第1章 僕と高校生
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お互い様でしょ

こんな家族いいよね

スーパーカワセミの前で野村さんと分かれた僕は家までの道を一人歩いていた。野村さんとは、これからも用がない時は一緒に帰る約束をした。そういえば慎介はどこに住んでいるのだろう。まあ、いいか。明日聞こう。


見慣れた門を通り抜け、ドアノブを回して家に入るところで後ろから声をかけられた。


「おかえり優斗高校どうだった?」


「ただいま母さん。楽しかったよ友達もできた」


「もうお友達ができたの!良かったじゃない」


「今日は入学祝いでお刺身たくさん買ってきたわよ」


仕事帰りの母がちょうど同じタイミングで帰ってきた。


そういえば今日はお昼までって言ってたっけ。


着替えなどを済ませ、リビングのソファーに腰掛けた僕は慎介が同じ高校に来ていたことを母に話した。


「あーお母さん、知ってたのよ〜。昨日、慎介君のお母さんから慎介君が一人でこっちに戻ってくるって聞いてね。それで高校聞いたら優斗と同じだからびっくりしちゃって。サプライズで黙ってたのよ〜」


「朝いきなり声かけられてびっくりしたよ」


久しぶりの友人と会話したのは母も同じで、終始すごく嬉しそうに話しながら、母は買ってきた食品などを冷蔵庫に入れていた。


「あ、お醤油買ってくるの忘れちゃったわ。優斗スーパーで買ってきてくれない?」


「あーうんわかった」


正直面倒だが、歩いて数分のスーパーに醤油を買いに行くことすら渋っていたら、将来本当に一歩も家から出ないような人間になってしまう可能性があるので、ここは母の言う通りに動くことにした。


高校の制服から部屋着に着替えていた僕は、そのまま薄緑色のカーディガンを羽織って家を出た。


夕食の献立をスーパーで決めてその材料を買ってくる際、決まって必要不可欠な何かを買い忘れる。この現象にも、そろそろ名前をつけるべきなのではないかと、くだらないことを考えていたら、スーパーまでの数分の道はあっという間に過ぎていた。


スーパーカワセミは普通のスーパーにしては珍しく、二階建ての造りになっている。一階は主に食料品売り場になっていて、二階はフードコートやゲームセンターがあり、その反対側には特設のイベントコーナーのようなものがある。月に数回の頻度で、そこまで知名度のないゆるキャラによる握手会や撮影会がひらかれる。これが案外かわいかったりする。イベントがない日は基本的に静かな空間になるが、それでも週末になると家族連れやカップルでフードコートやゲームセンターは賑わっている。


今日は二階には用がないので、入口の自動ドアを通って一階の食料品売り場に真っ直ぐ進んだ。


醤油やみりんなどの調味料が置かれているコーナーにたどり着いたところで、同じくそのコーナーで調味料を選んでいた女性と目が合った。


「あっ…」


女性は何かに気がついたかのように僕の方をじっと見ていた。どこかで会ったことがある人なのか、あるいは僕がそこをどいてほしそうに見えたのかはわからないが、いずれにしても僕に何かを言いたいということには間違いなさそうだ。


「小林君…?」


再び発せられた自分の名を呼ぶその声は、記憶に新しかった。


「飯田さん?」


薄い桜色のワンピースに、それに合わせた薄めのメイク。下ろされた綺麗な黒髪は、少し華奢な肩の下まで流れていた。


僕がすぐに気がつかなかったのは、高校で会った彼女は眼鏡をかけていたからだろう。そんな雰囲気の違う彼女に、僕は大人の女性という印象を持った。


「良かった!名前覚えててくれたんだ」


「それはもちろん。家反対って言ってなかったっけ?」


「そうなんだけどね。ここのスーパーがこの辺りで一番安いんだよね。ちょっと遠いけどね」


「偉いね。こんなところまで買い物しに来るなんて」


「お互い様でしょ」


彼女はクスりと笑いながらそう言った。


高校からスーパーカワセミまでは普通に歩いても二十分ほどかかる。道の途中には急な坂もあるのでそれを往復するだけでもかなりの運動になる。それに加えて帰りは買ったものを持って帰らなければならない。


「かなり距離があるけどよく来るの?」


「そうだね。お母さん忙しいから基本的には毎週来てるよ」


僕も家が近いのでかなりの頻度でこのスーパーのお世話になっている。なので、もしかしたら彼女とは何度も会ったことがあるのかもしれない。


「もしかしたらこれまでも会ったことあるのかもね」


まるで僕の心が見られているかのように彼女は少し顔を崩しながらそう言った。


「じゃあ私は行くね。また明日ね小林君」


「あっ待って。」


咄嗟に僕は彼女を呼び止めた。


「飯田さんの下の名前なんていうの?」


反射で出た言葉に自分で少し驚きながら返事を待つ。


「渚(なぎさ)だよ。飯田渚。」


彼女にピッタリな名前だと思った。


「優斗だよ」


「優斗君。いい名前だね!」


青春という言葉が似合う僕たちの何気ない会話は最終的に僕が少し頬を赤くして終わることとなった。彼女がもう一度またねと手を振って去っていき、その後ろ姿が消えたタイミングで僕も出口に向かっていった。


彼女の名前を聞けたことに満足していた僕は、そこで醤油を買いに来たという本来の目的を思い出し、僕は再び調味料コーナーに戻った。


無事に家に着いた僕は醤油を母に渡し、そのまま自分の部屋に戻った。


僕はそのままベッドに寝転がり、今日一日のことを思い出していた。


想像していたよりも色々と内容が濃かった入学初日は、かなり疲労が溜まっていたようで、気づくとそのまま眠ってしまっていた。


夕食前に母に起こされ、いつの間にか帰宅していた父と妹と共にいつもより少し豪華な夕食を食べた。明日の準備をしてお風呂を済ませた僕は夕方に昼寝を挟んだにもかかわらず、日付が回る頃には眠りについていた。


とても長く感じた僕の高校初日はこうして終わった。

長い一日を終えた優斗がこれからどんな高校生活を送るのか一緒に見守っていきましょう。

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